猫が何度も吐いて水も飲めない|単発の嘔吐との違いと、受診を決める材料
短い時間に何度も吐いている、あるいは水を飲んでも吐いてしまう・飲もうとしないという状態は、体が水分と電解質を失い続けているのに、それを補う経路が閉じているということです。自宅では取り返せません。動物病院に電話してください。
この記事は「あと何時間なら待てるか」には答えません。猫の嘔吐について、家庭で待ってよい時間を示した一次資料は見つかりませんでした。代わりに、回数・経過・組み合わせで受診を決める材料と、電話で伝えるべきこと、自宅でやってはいけないことをまとめます。
Merck Veterinary Manualは、1日に1〜2回を超える頻度で起きる嘔吐を、獣医師による詳しい診察が必要な状態としています。血液・腹痛・元気消失・脱水・衰弱・発熱・体重減少をともなう嘔吐も同じです。
「吐く」と「尿が出ない」が重なっているときは、消化器ではなく泌尿器の緊急を疑ってください。特にオス猫では尿道閉塞が便秘や胃腸炎と取り違えられ、受診が遅れることがあります。
家庭での自己判断の絶食・絶水は勧められません。猫は食べない状態が続くこと自体がリスクになる動物です。絶食や絶水の指示は、診察した獣医師が出すものです。
まず確認すること
動物病院に電話する前に、次をそろえてください。全部わからなくても構いません。「何回吐いたか」より「どの間隔で吐いているか」のほうが、緊急度を判断する材料になります。
- 吐いた時刻の一覧(「今日3回」ではなく「14時、14時40分、15時20分」のように)。間隔が縮まっているかどうかを見ます
- いつから吐き始めたか(発症時刻)
- 吐いたものの見た目(未消化の食べ物/黄色や緑の液体/泡/透明な液/血が混じる/黒い粒/便のようなもの)。片づける前に写真を撮る
- 水を飲めているか。飲んで吐いているのか、まったく飲もうとしないのか
- 最後に食べた時刻・内容・量と、いつもと違うものを食べていないか
- 最後に排尿した時刻と量、最後に排便した時刻と便の状態
- 誤食の心当たり(紐・糸・リボン・ビニール・輪ゴム・ヘアゴム・おもちゃ・観葉植物・人の薬・洗剤など)とその時刻
- 今の体重と最近の体重変化、年齢、持病、飲ませている薬
「吐いた」に見える動きは、ひとつではない
飼い主が「吐いた」と表現する現象には、嘔吐・吐出・咳が混ざっています。Merck Veterinary Manualは、嘔吐が努力と腹筋の収縮をともなうのに対し、吐出(regurgitation)はそれらを必要としない受動的な動きだと区別しています。
どちらなのかは獣医師が考えることで、家庭で見分ける必要はありません。ただ、吐く直前の様子を動画で撮っておくと、鑑別の材料になります。よだれ、口をペチャペチャさせる、お腹が波打つように動く——こうした前兆があったかどうかが手がかりです。
何も出ないのに吐こうとする動作を繰り返す(空えずき)場合も、そのまま伝えてください。「吐いていない」ではなく「吐こうとしているのに出ない」という情報です。
すぐ動物病院へ相談すべきサイン
次のどれか一つでも当てはまるなら、夜間・休日であってもその時点で動物病院に電話してください。
- 短い時間に何度も吐く、または吐こうとするしぐさを繰り返す
- 水を飲もうとしない、あるいは飲んでもすぐ吐く(自宅では水分を保てない状態です)
- 何も出ないのに吐こうとする動作を繰り返す(空えずき)
- ぐったりして動かない、隠れて出てこない、呼びかけへの反応が鈍い
- 吐いたものに血が混じる(鮮血、またはコーヒーかす様の黒い粒)。または黒くタール状の便が出る
- 吐いたものが便のようなにおいがする、便のような色をしている
- 口の中や肛門から紐・糸・リボン・ビニールが見えている(引っ張らないでください)
- 紐・糸・ビニール・輪ゴム・ヘアゴム・おもちゃ・観葉植物・薬・洗剤などを口にした可能性がある
- お腹を触ると嫌がる、丸まってじっとしている、抱こうとすると鳴く(腹痛のサイン)
- トイレに何度も行くのに尿が出ない、いきむ、陰部をしきりに舐める、鳴きながらトイレに入る(特にオス猫)
- 呼吸が速い・苦しそう、口を開けて呼吸している、歯茎や舌の色が白い・紫っぽい
- 体が冷たい、震えている、立てない、ふらつく、けいれん、意識がもうろうとしている
- 最近、水をよく飲む・尿量が多い状態が続いていた(腎臓病や糖尿病が背景にあることがあります)
- 食欲がない状態がすでに続いていた、または体重が減ってきていた
- 子猫・高齢猫・持病のある猫(腎臓病・糖尿病・甲状腺・心臓など)が繰り返し吐いている
とくに「繰り返す嘔吐+水も飲めない」「嘔吐+尿が出ない」は、待つ前提で考える状態ではありません。
「吐く」と「尿が出ない」が重なったら、泌尿器の緊急を疑う
猫では、この組み合わせを独立して扱う理由があります。オス猫の尿道閉塞は、嘔吐や元気消失として現れることがあるからです。
Angell Animal Medical Center(MSPCA-Angell)は、尿道閉塞の初期症状が便秘などと似て見えるため、飼い主が事態を軽く見て受診が遅れてしまうことがあると指摘しています。そして無治療のまま24時間以上が経つと猫は急速に悪化し、嘔吐・元気消失・意識の鈍り・起き上がれないといった全身の症状を示すようになり、死亡のリスクがあるため緊急の治療を要するとしています。
つまり、「吐いている」と「トイレに何度も行くのに尿が出ない」が同時に起きているとき、それは胃腸の話ではないかもしれません。トイレでいきんでいる猫は受診の対象と考えてください。尿道が細いオス猫でとくに起こりやすいとされていますが、メス猫だから除外できるという意味ではありません。
「吐いている+尿が出ない」は、消化器の記事ではなく泌尿器の緊急として扱ってください。電話のときは「吐いていること」と「尿が出ていないこと」を必ず両方伝えてください。
尿が出ていない猫に、便秘だと考えて浣腸やお腹のマッサージを試さないでください。取り違えたまま時間が過ぎます。
繰り返す嘔吐の背景にあるもの|原因を家庭で決めない
Merck Veterinary Manualは、猫の嘔吐の原因として、消化器の病気のほかに腎不全または肝不全、膵炎、神経系の疾患、毒物、咬毒、内部寄生虫、感染、炎症、薬剤、異物の摂取、食物アレルギー、腫瘍を挙げています。繰り返す嘔吐は、消化器の一時的な不調とは限らず、全身の病気の最初の症状であることがあります。
だからこの記事では、吐いたものの見た目から原因を言い当てる書き方をしません。内容物は「病院に伝えるべき情報」であって、家庭で診断名を決めるための材料ではありません。
消化管の閉塞
Merck Veterinary Manualは「消化管閉塞は緊急として扱うべき」と明記しています。症状は閉塞の場所と経過によって変わり、食欲不振・吐出・嘔吐・下痢・元気消失・ショックが起こりえます。閉塞が腸の奥のほうにあると、かえって嘔吐が目立たないこともあります。
猫では紐・糸・リボンなどの線状異物が問題になります。一端が舌の付け根などに引っかかったまま、腸の動きでもう一端が先へ送られると、腸が手繰り寄せられて異物が腸の壁を切り裂き、穴が開くことがあります。
口や肛門から紐が見えていても、絶対に引っ張らないでください。Merck Veterinary Manualは、口の中の線状異物は組織に食い込んでいる場合に引っ張ると穿孔を起こしうるため、取り出そうとして決して引いてはならないと明記しています。切ろうともしないでください。家庭でできるのは、そのままの状態ですぐ動物病院へ行くことだけです。移動中に猫自身が引っ張らないよう気をつけてください。
膵炎|猫では嘔吐が目立たないことがある
犬の重症の膵炎では食欲不振・嘔吐・脱力・腹痛・脱水・下痢が多くみられますが、猫では症状がさらに非特異的になります。食欲不振・元気消失・脱水・体重減少・低体温・嘔吐・黄疸・発熱・腹痛が報告されており、軽症では無症状か、漠然とした不調しか出ないこともあるとされています。
したがって「吐いていないから膵炎ではない」とも「吐いているから胃腸炎だ」とも言えません。猫の不調を症状の並びだけで振り分けるのは難しい、と考えておいてください。
全身の病気が「吐くだけ」に見えることがある
腎臓の病気、糖尿病、甲状腺の病気、中毒、感染、腫瘍——初期には「吐く」「食べない」「元気がない」としか見えないものがあります。未診断だった糖尿病の猫が、吐いて食べないことをきっかけに初めて見つかることもあります。
最近になって水をよく飲む・尿量が多い状態が続いていたなら、それも電話で伝えてください。嘔吐と結びつかないように思える情報が、鑑別を変えることがあります。
「猫はよく吐く動物だから」で片づけない
Merck Veterinary Manualの飼い主向け解説は、毛玉を吐くことが頻回である場合や、繰り返し吐いている場合は獣医師に相談すべきで、毛玉より深刻な原因があり得ると述べています。
「うちの子はいつも吐くから」という前提が、受診を遅らせる最大の理由になります。いつもと同じかどうかではなく、今日どれだけの間隔で吐いているかで判断してください。
今、自宅でできること
ここに書くのは治療ではありません。病院に着くまでに、これ以上悪くしないことと、診察に必要な情報をそろえることが目的です。
- 動物病院に電話する。吐いた回数と間隔、最後に吐いた時刻、水を飲めているか、尿が出ているかを伝えて指示を仰ぐ。夜間・休診日ならこのあとの案内を見てください
- 静かで暖かい場所へ移し、安静にできるようにする。無理に抱き上げたり追いかけたりしない
- 吐いた時刻を実際の時刻で記録する。間隔が縮まっているかどうかが緊急度の材料になります
- 吐いたものを片づける前に写真を撮る。可能ならビニール袋や容器に取っておき、受診時に持参する
- 吐く直前の様子を動画で撮る(前兆の有無、腹筋の動き、咳との違いがわかります)
- 最後に食べた時刻と内容、最後に水を飲んだ時刻、最後に排尿・排便した時刻を思い出してメモする
- 口を無理にこじ開けず、見える範囲だけ確認する。紐や糸が見えても引っ張らない
- 誤食の可能性があるものは、パッケージ・残り・現物を保存して持参する(成分表示が重要です)
- 床や家具のまわりを見て、かじられたおもちゃ・観葉植物・薬のシート・紐類がないか探し、写真を撮る
- 多頭飼育なら、他の猫も吐いていないか確認する(中毒や感染の手がかりになります)
- キャリーにタオルとペットシーツを敷いて準備する(移動中も吐く可能性があります)
以上はすべて「受診までの安全確保と情報整理」です。食事や水をどうするかは、状態を聞いた獣医師の指示に従ってください。
やってはいけないこと
以下は猫を危険にさらすか、受診を遅らせる行為です。ひとつも行わないでください。
- 家で吐かせる。オキシドール(過酸化水素水)や食塩水を飲ませる、指を喉に入れる——いずれも危険で、行わないでください。すでに繰り返し吐いている猫にさらに吐かせることに、安全な根拠はありません
- 口や肛門から見えている紐・糸・ビニールを引っ張る、切ろうとする。組織に食い込んでいる場合、引っ張ると穿孔を起こしうると明記されています
- 喉や口の奥に手や指を入れる。危険です
- 獣医師の指示なしに、人用の吐き気止め・胃薬・整腸剤・鎮痛剤を与える。与えないでください。原因が特定できていない段階で症状だけ抑えると、閉塞や尿道閉塞の発見が遅れます
- ぐったりして意識がはっきりしない猫に、水や食べ物を口から与える(誤嚥の危険があります)
- 無理に水を飲ませる、シリンジで水を押し込む。吐いている猫では誤嚥のリスクがあり、勧められません
- 自己判断で絶食・絶水を続ける。猫は食べない状態が続くこと自体が危険で、判断は獣医師に委ねてください
- 牛乳・油・塩・砂糖水などを「解毒」のつもりで飲ませる。効果はなく、危険です
- 自己判断で市販の皮下点滴・輸液を行う
- 「いつも吐く子だから」「毛玉だから」を理由に受診を先送りする
- 吐いたものを全部片づけてしまい、獣医師が見られる材料をなくす
- 尿が出ていないのに「便秘だろう」と浣腸やマッサージを試す。尿道閉塞を見落とします
- 皮膚をつまんで戻るから脱水していない、と判断する。2024年のAAHA輸液療法ガイドラインは、皮膚のつまみを含む脱水評価の手法を「経験則的」と位置づけ、高齢や腎臓病の猫では皮膚の弾性が落ちて所見が不正確になるとしています。家庭での脱水判定を「大丈夫の根拠」に使わないでください
「吐いたらまず24時間絶食させる」という説明を見かけることがあります。この記事では勧めません。飼い主向けに絶食を勧める記述がある一方で、2022年のISFM(国際猫医学会)コンセンサスは、猫について食事が止まってから3日を超えないうちに栄養介入を行うべきで、介入の遅れは猫の悪化を招くとしており、方向性が食い違っています。繰り返す嘔吐に対する家庭での絶食の効果を示す研究も確認できませんでした。まして「水も飲めない・飲んでも吐く」は、絶食で解決する話ではありません。
動物病院へ伝える情報
電話の時点で伝えられると、到着後の対応が速くなります。メモを見ながらで構いません。
- 吐いた回数と、それぞれの時刻(「今日◯回」より時刻の一覧が役に立ちます)
- いつから吐き始めたか。間隔が縮まっているか、広がっているか
- 吐いたものの内容と見た目(未消化の食べ物/黄色や緑の液体/泡/透明な液/血が混じる/黒い粒/便のようなもの)。写真があれば見せる
- 水を飲めているか。飲んで吐いているのか、まったく飲もうとしないのか
- 最後に食べた時刻・内容・量。いつもと違うものを食べていないか
- 最後に排尿した時刻と量。最後に排便した時刻と便の状態(下痢・黒色便・血便の有無)
- トイレでいきむ、頻繁にトイレに行く、陰部を舐めるなどの様子があるか(とくにオス猫)
- 元気・意識の状態、呼吸の様子、体温(測れる状況なら)
- 誤食の可能性(紐・糸・ビニール・輪ゴム・おもちゃ・観葉植物・人の薬・洗剤など)と、その心当たりの時刻
- 誤食が疑われる物のパッケージ・成分表示・残った現物(持参できるもの)
- 現在の体重と、最近の体重変化
- 持病(腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症・心臓病・炎症性腸疾患など)と、飲ませている薬・サプリメントの名前と量
- 最近の生活の変化(フード変更・引っ越し・新入り・工事など)
- 多頭飼育の場合、他の猫にも同じ症状が出ていないか
- 自宅で行ったことは、隠さず正確に伝える。何かを飲ませた、薬を与えたという情報は、治療の判断を変えます
- ワクチン・駆虫の履歴、室内飼いか外に出るか
夜間・休日でかかりつけの動物病院が閉まっている場合
夜間や休診日にかかりつけの病院が閉まっているときは、近くの夜間・救急動物病院を確認してください。向かう前に必ず電話をしてください。夜間は予約制のところや、受け入れられる状態かどうかがその時々で変わるところがあります。
電話では、「何が起きたか」「いつからか」「猫の年齢と体重」「今の様子」を伝えてください。その場でできることを教えてもらえたり、より適した病院を案内してもらえることがあります。
- 全国の夜間・救急動物病院まとめ(都道府県・市区別)
- 東京23区 都心3区(千代田・中央・港)の夜間・救急動物病院
- 横浜市の夜間・救急動物病院
- 大阪市の夜間・救急動物病院
- 名古屋市の夜間・救急動物病院
- 札幌市の夜間・救急動物病院
- 福岡市の夜間・救急動物病院
- 猫の夜間救急に行くべきか迷った時の判断チェックリスト
- 夜間救急動物病院に連れて行くべき症状の判断基準(犬猫共通)
電話の最初に「短い時間に何度も吐いていて、水も飲めない」と伝えてください。尿が出ていない場合は、それも同じ一言のなかで伝えてください。判断が変わります。
移動中も吐く可能性があります。キャリーにタオルとペットシーツを敷いておくと、車内でも状態を確認しやすくなります。
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よくある質問
一度吐いただけのときと、何度も吐くときでは何が違いますか?
単発の嘔吐は、食べすぎ・早食い・毛玉など一時的な原因のことがあります。短い時間に繰り返す嘔吐は、体が水分と電解質を失い続けている状態です。
Merck Veterinary Manualは1日に1〜2回を超える頻度の嘔吐を、獣医師による詳しい診察が必要な状態としています。とくに「繰り返す+水も飲めない」は、失った分を補う経路が絶たれている点で決定的に違います。回数だけでなく、間隔が縮まっているか、元気・食欲・排尿がどうかを合わせて見てください。
水を飲むとすぐ吐いてしまいます。飲ませ続けたほうがいいですか?
無理に飲ませないでください。吐いている猫にシリンジなどで押し込むと、誤嚥のリスクがあります。
飲んでも吐くということは、自宅で水分を補えないということで、それ自体が受診の理由です。自己判断で絶水を続けるのも避けてください。動物病院に電話して、いつから飲めていないかを伝えてください。
何時間くらい待ってから病院に行けばいいですか?
「何時間まで待ってよい」を示した一次資料は見つかりませんでした。この記事では時間ではなく、症状で判断します。
短い時間に繰り返し吐く、水も飲めない、ぐったりしている、血を吐く、便のようなものを吐く、尿が出ない——これらは待つ前提で考える状態ではありません。とくにオス猫で嘔吐と尿が出ないことが重なっているときは、尿道閉塞という別の緊急を疑います。無治療で24時間以上が経つと急速に悪化するとされています。
迷った時点で、まず動物病院に電話して状況を伝えてください。
吐いたものの色や中身で原因はわかりますか?
手がかりにはなりますが、内容物だけで原因は決められません。急性の胃炎でも、胆汁・食物・泡・血液(鮮血、または消化されて黒っぽくなったもの)・草や異物などが混じりえます。
血が混じる、黒くタール状の便が出る、全身の状態が悪い、異物や毒物に触れた可能性がある——これらは精査の対象とされています。片づける前に写真を撮り、可能なら現物を持参してください。それがいちばん役に立ちます。内容物から自己診断して受診を遅らせないでください。
吐いたら絶食させたほうがいいと聞きましたが?
家庭での自己判断の絶食は勧めません。猫は食べない状態が続くこと自体がリスクになる動物です。
2022年のISFMコンセンサスは、食事が止まってから3日を超えないうちに栄養介入を行うべきとし、介入の遅れが猫の悪化を招くとしています。飼い主向けに24時間の絶食を勧める記述も存在しますが方向性が食い違っており、繰り返す嘔吐に対する家庭での絶食の効果を示す研究も確認できませんでした。絶食・絶水の指示は、診察して原因の見当がついた獣医師が出すものです。
口から紐が出ています。引っ張ってもいいですか?
引っ張らないでください。切ろうともしないでください。組織に食い込んでいる場合、引っ張ると腸に穴が開きうるとMerck Veterinary Manualが明記しています。
見えている部分の反対側が、腸の奥まで達していることがあります。そのままの状態ですぐ動物病院へ向かってください。移動中に猫が自分で引っ張らないよう注意してください。
皮膚をつまむと戻ります。脱水していないということですか?
そうとは言えません。2024年のAAHA輸液療法ガイドラインは、皮膚のつまみを含む脱水評価の手法を「経験則的」と位置づけ、高齢や腎臓病の猫では加齢にともなう皮膚の弾性低下で所見が不正確になるとしています。
家庭で脱水の程度を判定することはできません。これを様子見の根拠に使わないでください。判断の材料は、吐く間隔・飲水ができているか・元気・排尿の有無です。
吐いている以外は元気そうに見えます。それでも病院に行くべきですか?
猫は不調を隠すため、見た目の元気さは判断材料として弱くなります。膵炎のように、猫では食欲不振・元気消失・脱水が前に出て嘔吐が目立たないこともあれば、逆に嘔吐だけが出ることもあります。
腎臓の病気、糖尿病、中毒、消化管閉塞など、初期は「吐くだけ」に見える重い病気があります。繰り返しているなら、元気に見えても相談してください。
まとめ
- 1日に1〜2回を超える頻度の嘔吐は、獣医師による詳しい診察が必要とされている。血液・腹痛・元気消失・脱水・衰弱・発熱・体重減少をともなう嘔吐も同じ
- 「あと何時間待てるか」を示した一次資料は見つからなかった。時間ではなく、吐く間隔・飲水・元気・排尿で判断する
- 「吐く+尿が出ない」は泌尿器の緊急を疑う。とくにオス猫の尿道閉塞は便秘や胃腸炎と取り違えられ、受診が遅れる
- 紐・糸が見えても引っ張らない、切らない。組織に食い込んでいると穿孔を起こしうる。そのまま受診する
- 家庭での自己判断の絶食・絶水は勧められない。猫は食べない状態が続くこと自体がリスク。指示は獣医師が出す
- 吐いたものの見た目だけで原因は決められない。写真を撮り、現物を持参して、判断は診察に委ねる
- 皮膚をつまむ脱水チェックを「大丈夫の根拠」にしない。家庭では脱水の程度を判定できない
参考資料
この記事は次の資料を参照して作成しました(2026年9月9日確認)。記載内容は一般的な情報であり、個々の症例の診断・治療に代わるものではありません。判断に迷うときは、自己判断せず動物病院に相談してください。
- Vomiting in Cats(飼い主版:受診が必要な嘔吐の頻度と随伴症状)(Merck Veterinary Manual)
- Gastrointestinal Obstruction in Small Animals(消化管閉塞・線状異物を引っ張ってはならない理由)(Merck Veterinary Manual)
- Urethral Obstruction in Cats(猫の尿道閉塞:便秘との取り違えと全身症状)(MSPCA-Angell(Angell Animal Medical Center, Boston))
- Pancreatitis in Dogs and Cats(猫の膵炎は症状が非特異的であること)(Merck Veterinary Manual(Jörg M. Steiner, Texas A&M University, DACVIM-SAIM))
- 2022 ISFM Consensus Guidelines on Management of the Inappetent Hospitalised Cat(J Feline Med Surg. 2022;24(7):614-640)(International Society of Feline Medicine(Canadian Veterinary Medical Association 掲載PDF))