猫がアセトアミノフェン(市販の解熱鎮痛薬・かぜ薬)を口にした|今すぐやることと、なぜ猫だけ桁違いに危険なのか
アセトアミノフェンを含む薬を猫が口にした可能性があるなら、症状がなくても今すぐ動物病院に電話してください。そして、薬の外箱・PTPシート・添付文書を捨てずに持って行ってください。何がどれだけ入っていたかが、治療の判断をそのまま左右します。
この中毒には解毒薬があります。だからこそ、早く着くほど結果が変わります。この記事では、電話の前に確認しておくこと、伝えるべき情報、自宅でやってはいけないことを順にまとめます。
家で吐かせようとしないでください。中毒が疑われる猫では、獣医師から特に指示された場合を除いて吐かせようとしないこととされています。猫ではオキシドール(過酸化水素水)の催吐効果が乏しく、胃炎・出血性胃炎を起こしやすいため、飲ませてはいけません。
「1錠だけだから」「まだ元気だから」は待つ理由になりません。猫では、血液が酸素を運べなくなる変化が摂取後2〜4時間で立ち上がります。無症状の時間帯にこそ、消化管の除染と解毒薬が効きます。
時間が経っていても、受診をあきらめないでください。猫ではアセトアミノフェンの半減期が延びるため、症状のある猫には摂取からの経過時間にかかわらず解毒薬を投与すべきとされています。「もう手遅れ」と自分で決めないでください。
30秒で判断|どの速さで動くか
| 動き方 | 当てはまるもの |
|---|---|
| 今すぐ受診 電話しながら向かう |
|
| 早めに相談 その日のうちに電話する |
|
これは受診の優先度を決めるための目安で、病名を判断するためのものではありません。どれにも当てはまらなくても、いつもと違うと感じたら電話して構いません。迷っている時間そのものが、動物にとっては待ち時間になります。
この表は受診の速さを決めるためのもので、症状から中毒の重さを判定するためのものではありません。猫の場合、症状が出そろってからでは、消化管の除染で減らせるはずだった量がすでに吸収されています。
まず確認すること
電話する前に、次の6つを手元にそろえてください。すべて分からなくても構いません。分からないこと自体が重要な情報なので、そのまま伝えてください。
- 薬の外箱・PTPシート・添付文書を確保する。捨てないでください。そのまま病院へ持って行きます
- 外箱の「成分・分量」欄を見る。「アセトアミノフェン」の文字と、1錠(1包・1個)あたりが何mgかを控えます
- ほかにどんな成分が入っているかも控える。市販薬は配合剤のことが多く、他の成分が治療方針を変えることがあります
- もともと何錠あって、今何錠残っているかを数える。最大で何錠口にした可能性があるかを見積もります
- 気づいた時刻と、最後に薬が無事だった時刻(または猫が最後に普段どおりだった時刻)を書き留める
- 猫の体重(直近のもので構いません)と年齢、持病、飲んでいる薬
商品名ではなく、成分名で確認してください
「この商品にアセトアミノフェンは入っていますか」という覚え方は、当てになりません。製品の中身は改訂されますし、同じシリーズでも成分が違うことがあります。確実なのは、手元の外箱の「成分・分量」欄で「アセトアミノフェン」という文字そのものを探すことです。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、一般用医薬品のアセトアミノフェン含有製剤を「かぜ薬」と「解熱鎮痛薬」という薬効分類で扱っており、対象には経口剤だけでなく坐剤も含まれています。つまり、家庭の常備薬のうち、かぜ薬と解熱鎮痛薬は飲み薬も座薬も対象になりえます。
医療用の薬でも同じです。PMDAの患者向医薬品ガイドによれば、カロナール錠は製品によって1錠中の含有量が200mg・300mg・500mgと異なります。「1錠」という言い方だけでは量が決まりません。必ず箱で確認してください。
どこから飲んだのかを思い出す
猫は、ナイトテーブルやカウンターに置かれた錠剤、うっかり床に落とした錠剤を飲み込みやすいと、獣医大学の解説にも書かれています。「猫が届く場所に置いた覚えはない」と思っても、落とした1錠を探す価値があります。
床、ソファの下、家具のすき間を確認して、見つからないなら「見つからなかった」とそのまま伝えてください。多頭飼育の場合は、どの猫が口にしたか分からない時点で全頭が受診の対象になります。
すぐ動物病院へ相談すべきサイン
次のどれか一つでも当てはまれば、時間帯にかかわらず動物病院へ電話してください。そして、どれにも当てはまらなくても、口にした可能性があるだけで受診の理由になります。
- アセトアミノフェンを含む薬を口にした、または口にした可能性がある
- 薬が足りない、PTPシートが噛み破られている、落とした薬が見当たらない
- 歯ぐき・舌が茶色っぽい、泥のような色、青紫(チアノーゼ)
- 呼吸が速い・浅い、口を開けて呼吸している
- 顔がふくらんで見える、前足が腫れぼったい(猫のアセトアミノフェン中毒に特徴的な所見として複数の資料に挙げられています)
- ぐったりして動かない、反応が鈍い、脱力、ふらつき
- 尿が赤い・褐色・コーラのような色
- 嘔吐、よだれ、体が冷たい
- 白目や歯ぐきが黄色い(黄疸。肝臓の障害のサインで、大量に飲んだ場合に出やすいとされています)
- 翌日以降に食欲が落ちる、元気がなくなる
- 多頭飼育で、どの猫が飲んだか分からない
- 留守中に薬が荒らされていて、いつ飲んだか分からない
なぜ猫だけ桁違いに危険なのか
「人が飲める薬なのに、なぜ猫だと少しでも危ないのか」という疑問には、はっきりした答えがあります。猫は、この薬を無毒化する仕組みそのものを失っているからです。
解毒を担う遺伝子が、機能を失っている
アセトアミノフェンのような物質を無毒化する経路のひとつに、グルクロン酸抱合があります。これを担う酵素のひとつがUGT1A6です。2000年の研究は、猫の肝臓でこの遺伝子を調べ、機能を失わせる変異を複数見つけ、猫の肝臓にはこの酵素の設計図(mRNA)が検出されないことを示しました。結論は「イエネコにおいてUGT1A6は偽遺伝子である」というものです。
つまり「肝臓が弱いから」ではありません。健康で若い猫でも同じです。2011年の研究は、この欠損が現生のネコ科すべてに共通し、3500万〜1100万年前に固定したと推定しています。背景として、食事の大半を動物質が占める完全肉食であったため、植物由来の毒素に触れる機会が少なかったことが挙げられています。
猫にも硫酸抱合という別の経路はあります。ただし容量が小さく、この経路が飽和すると、シトクロムP450という別の経路から反応性の高い代謝物(NAPQI)が生じます。これがヘモグロビンや赤血球、ときに腎臓の細胞を傷つける本体です。
犬と猫では、中毒が起きる量が一桁違う
獣医学の標準的な資料は、猫では一般に体重1kgあたり40〜50mgの摂取で中毒が起こるとし、10mg/kgで臨床徴候が出たと報告された猫もいるとしています。一方、犬については100mg/kgを超えなければ急性中毒の徴候は認められないとされています。
ここに、人の数字を並べてみてください。PMDAの患者向医薬品ガイドによれば、小児科領域での解熱・鎮痛では1回量が体重1kgあたり10〜15mgとされています。人の子どもで「1回に飲ませる治療量」が、猫では徴候の報告がある量と重なります。
だから「1錠だけ」は安心材料になりません。体重4kgの猫が300mg錠を1錠口にすれば75mg/kg、200mg錠でも50mg/kgで、いずれも中毒が起こるとされる量を超えます。米国の動物中毒管理センターは「猫に安全なアセトアミノフェンの用量は存在しない」と述べています。
「うちの犬は前に飲んでしまったけれど何ともなかった」という経験は、猫にはまったく当てはまりません。閾値が一桁違います。なお、犬でも安全という意味ではなく、犬では肝臓の障害や黄疸が問題になります。
二つの病態が、別の時間軸で進む
猫で起きるのは、胃が荒れるといった話ではありません。血液が酸素を運べなくなる変化(メトヘモグロビン血症)と、肝臓の障害という二つの病態が、それぞれ別のタイミングで進みます。
| 起きること | いつ現れるか | 気づける手がかり |
|---|---|---|
| メトヘモグロビン血症(ヘモグロビンが酸化され、酸素を運べなくなる) | 猫では摂取後2〜4時間で値が上昇し、続いて赤血球にハインツ小体ができる | 歯ぐき・舌が茶色〜泥のような色、青紫。呼吸が速い、脱力、元気消失 |
| 赤血球が壊れることによる尿の変化 | 血中メトヘモグロビンが20%前後のときに最初に現れることがあると報告されている | 尿が赤い・褐色。トイレの砂の色でも気づける |
| 顔や前足のむくみ | 猫の臨床徴候として複数の資料に挙げられている | 顔がふくらんで見える、前足が腫れぼったい |
| 肝臓の障害 | 検査所見としては摂取後24〜36時間で現れるとされる | 食欲不振、元気消失、白目や歯ぐきが黄色い(黄疸) |
この並びが意味することは、はっきりしています。飲んで数時間なんともないことは、安全の証拠になりません。そして、見かけ上落ち着いた翌日に肝臓の障害が表面化することがあります。
獣医療の現場では、白い濾紙の上に患者の血液と正常な血液を1滴ずつ並べて色を比べる簡易な確認が使われることがあります。メトヘモグロビンを多く含む血液はチョコレートのような茶色に見えます。家庭でできるのは、猫が自然に口を開けたときに歯ぐきの色を見て、写真を残しておくところまでです。無理に口をこじ開けないでください。
解毒薬があるということ|だから時間が結果を変える
アセトアミノフェン中毒にはN-アセチルシステイン(NAC)という解毒薬があります。硫黄を含むアミノ酸で、毒性の本体である代謝物と直接結びついて排泄を促し、体内で解毒に使われるグルタチオンのもとにもなります。獣医学の資料は、メトヘモグロビン血症と肝臓の障害の程度を減らしうる薬として位置づけています。
解毒薬がある中毒だということは、受診の意味が大きいということです。資料は「予後は、摂取されたアセトアミノフェンの量と、治療開始までの時間の長さによる」と明記しています。迅速かつ積極的に治療されれば予後は良好とされる一方、重いメトヘモグロビン血症や肝臓の障害まで進んだ動物の予後は、不良から要注意とされています。
そして重要なのが次の点です。猫ではアセトアミノフェンの半減期が延びるため、臨床徴候のある猫には、摂取からの経過時間にかかわらず解毒薬を投与すべきとされています。「もう何時間も経ってしまった」ことは、受診をやめる理由になりません。
なお、投与量や投与の間隔は獣医師が決めることなので、この記事には書きません。「◯時間以内でなければ意味がない」という線引きの根拠も確認できませんでした。判断材料は「何時間経ったか」ではなく「今から何ができるか」です。
今、自宅でできること
ここに書くのは治療ではありません。病院に着くまでに、これ以上悪くしないことと、診察に必要な情報をそろえることが目的です。
- 動物病院へ電話する。最初に「人用のアセトアミノフェンを口にした可能性がある」と伝えてください。夜間・休診日ならこのあとの案内を見てください
- 残っている薬・PTPシート・外箱・添付文書をすべて確保する。捨てずに、そのまま持って行きます
- 外箱の「成分・分量」欄で、アセトアミノフェンが1錠あたり何mgか、ほかに何が入っているかを控える
- もともとの数と残りの数を数え、最大で何錠口にした可能性があるかを見積もる
- 気づいた時刻と、最後に薬が無事だった時刻(または猫が最後に普段どおりだった時刻)を書き留める
- 猫の体重を確認する(直近のもので構いません)
- 猫を静かで暖かい場所に移して安静にさせる。呼吸が苦しそうな猫は、追いかけず、動かしすぎない
- 猫が自然に口を開けたときに、見える範囲で歯ぐきの色を見て写真を撮る(無理にこじ開けないでください)
- 呼吸のようす、体の動き、ふらつきを短い動画で残す
- 嘔吐した場合は、吐いた物の写真を撮る(錠剤の破片が写っていれば診断の助けになります)
- 尿の色に気づいたら記録する(トイレの砂の色も手がかりになります)
- 持病・飲んでいる薬・いつものフードを書き出しておく
- キャリーを準備し、移動中に猫が暴れないよう安全を確保する
- 他の猫や犬が同じ薬に触れていないかを確認し、薬を届かない場所へ片づける
やってはいけないこと
以下は猫を危険にさらすか、受診を遅らせる行為です。ひとつも行わないでください。
- 家で吐かせようとする。中毒が疑われる猫では、獣医師から特に指示された場合を除いて吐かせようとしないこととされています
- オキシドール(過酸化水素水)を飲ませる。猫では催吐の効果が乏しく、胃炎・出血性胃炎を起こしやすいため、使ってはいけません
- 食塩水を飲ませる、指を喉に入れて吐かせる。不適切な方法として明確に否定されています
- 牛乳を飲ませる、油を飲ませる、大量の水を飲ませて「薄める」「中和する」
- 自己判断で活性炭やサプリメントを与える
- 自己判断で人用の胃薬を与える。かつて併用が提案されたシメチジンは、現在は推奨されていません(後述します)
- 人用の鎮痛薬をもう一度与える、別の人用の薬で対処しようとする(危険が重なるだけです)
- 症状が出るまで様子を見る、翌朝まで置く(血液の変化は2〜4時間で立ち上がります)
- 「もう時間が経ったから手遅れ」と自分で決めて受診をやめる
- 「1錠だけだから」「元気そうだから」と、量や見た目で安全を判断する
- 薬の外箱・PTPシート・添付文書を捨てる(成分名と含有量が治療方針を決めます)
- 口を無理にこじ開けて中を見る、喉に手を入れる
- 呼吸が苦しそうな猫を追いかけ回して捕まえる、長時間押さえつける
- 多頭飼育で「飲んだのはこの子だけだろう」と決めつけて、他の猫を受診させない
- この先の解熱や痛みのために、人用のアセトアミノフェンを「次は少量で」使う
かつては、アセトアミノフェン中毒の猫に胃薬のシメチジンを併用する方法が提案されていました。現在は推奨されません。有効性が示されなかったうえ、特に猫では、この薬がメトヘモグロビンの形成を長引かせることが指摘されています。古い解説を引き写した記事が今も残っているので、注意してください。
動物病院へ伝える情報
- 製品名と、外箱の「成分・分量」欄に書かれた成分(アセトアミノフェン単剤か、他の成分との配合剤か)
- 1錠(1包・1個)あたりのアセトアミノフェンのmg数
- 剤形(錠剤・カプセル・顆粒・シロップ・坐薬)。徐放性・持続性と書かれていればその表示も
- 最大で何錠(何包・何個)口にした可能性があるか
- 口にしたと考えられる時刻。分からない場合は「最後に薬が無事だった時刻」と「異変に気づいた時刻」
- 猫の体重、年齢
- 現在の症状と、それが始まった時刻(歯ぐきの色、呼吸の速さ、嘔吐、よだれ、むくみ、尿の色、元気・食欲)
- すでに家庭で行ったこと。何かを飲ませてしまった場合は、そのまま正直に伝えてください(治療の判断が変わります)
- 持病(特に肝臓・腎臓・心臓)と、現在飲んでいる薬・サプリメント
- 多頭飼育かどうか、他の猫も口にした可能性があるか
病院ではどんな処置をするのか
治療の目的は、早期の消化管の除染、メトヘモグロビン血症と肝臓の障害への対応、そして支持療法の三つに整理されています。
早い段階であれば、動物病院で薬を使って吐かせることが有用とされ、そのあとに活性炭が投与されます。アセトアミノフェンは腸と肝臓の間を巡るため、活性炭は繰り返し投与されることがあります。いずれも、家庭でまねをする対象ではありません。
並行して、解毒薬の投与、脱水を防ぐための静脈からの点滴、吐き気止めなどが行われます。呼吸が苦しい場合は酸素が投与され、重症例では酸素を運ぶ力を補うために輸血が行われることもあります。肝臓の数値は、時間をおいて再検査されます。
どの処置がどれだけ必要になるかは、飲んだ量と経過時間、そして猫の状態で変わります。飼い主が事前に決められることではありません。できるのは、パッケージを持って、できるだけ早く着くことです。
この記事が扱っていないこと
この記事は「もう口にしてしまった後、これからの数時間で何をするか」に絞っています。
「猫が痛がっているときに何を使えるのか」「なぜ人用の痛み止めを与えてはいけないのか」「猫の痛みのサインをどう見分けるか」は、別の記事の担当です。猫に痛み止めを自己判断で使ってはいけない理由を扱った記事を、このあとの関連記事に置いています。今この瞬間に薬を飲んでしまった猫がいる場合は、先に電話をしてから読んでください。
夜間・休日でかかりつけの動物病院が閉まっている場合
夜間や休診日にかかりつけの病院が閉まっているときは、近くの夜間・救急動物病院を確認してください。向かう前に必ず電話をしてください。夜間は予約制のところや、受け入れられる状態かどうかがその時々で変わるところがあります。
電話では、「何が起きたか」「いつからか」「猫の年齢と体重」「今の様子」を伝えてください。その場でできることを教えてもらえたり、より適した病院を案内してもらえることがあります。
- 全国の夜間・救急動物病院まとめ(都道府県・市区別)
- 東京23区 都心3区(千代田・中央・港)の夜間・救急動物病院
- 横浜市の夜間・救急動物病院
- 大阪市の夜間・救急動物病院
- 名古屋市の夜間・救急動物病院
- 札幌市の夜間・救急動物病院
- 福岡市の夜間・救急動物病院
- 猫の夜間救急に行くべきか迷った時の判断チェックリスト
- 夜間救急動物病院に連れて行くべき症状の判断基準(犬猫共通)
電話の最初に「人用のアセトアミノフェンを飲んだ可能性がある」と伝えてください。薬の名前と1錠あたりのmg数、飲んだ可能性のある数、猫の体重を手元に用意しておくと、そのまま話が進みます。
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よくある質問
1錠だけでも危ないのですか?
体重で割ると見当がつきます。獣医学の標準的な資料は、猫の中毒が一般に体重1kgあたり40〜50mgで起こるとし、10mg/kgで徴候が出た報告もあるとしています。
アセトアミノフェン300mgの錠剤1錠を体重4kgの猫が口にすれば75mg/kg、200mgの錠剤でも50mg/kgになります。米国の動物中毒管理センターは「猫に安全なアセトアミノフェンの用量は存在しない」としています。「1錠だから」は待つ理由になりません。
どのくらいで症状が出ますか?
猫では、血液が酸素を運べなくなる変化(メトヘモグロビン血症)が摂取後2〜4時間で立ち上がり、続いて赤血球にハインツ小体ができるとされています。
肝臓の障害は、検査所見としては摂取後24〜36時間で現れるとされます。二つの病態が別の時間軸で進むため、数時間なんともないことは安全の証拠になりません。逆に、翌日になって食欲や元気の低下として表面化することがあります。
まだ元気で症状がありません。連れて行く意味はありますか?
あります。無症状の段階でこそ、消化管の除染と解毒薬がいちばん効きます。資料は「予後は摂取量と、治療開始までの時間の長さによる」と明記しています。
迅速かつ積極的に治療されれば予後は良好とされる一方、重いメトヘモグロビン血症や肝臓の障害まで進んだ場合の予後は、不良から要注意とされています。症状が出てから動くのでは、その差が縮みません。
気づいたのが半日後でした。もう手遅れですか?
受診をあきらめないでください。猫ではアセトアミノフェンの半減期が延びるため、症状のある猫には摂取からの経過時間にかかわらず解毒薬を投与すべきとされています。
経過時間が分からない場合も、分からないとそのまま伝えてください。「何時間経ったか」ではなく「今から何ができるか」で判断されます。
「血液がチョコレート色になる」とはどういう意味ですか?
ヘモグロビンが酸化されて酸素を運べなくなった状態(メトヘモグロビン血症)を指します。粘膜(歯ぐき・舌)が茶色から泥のような色に見え、脈が速い、呼吸が速い、脱力、元気消失を伴うとされています。
獣医療では、白い濾紙の上に患者の血液と正常な血液を並べて色を比べる簡易な確認が使われることがあります。家庭でできるのは、猫が自然に口を開けたときに歯ぐきの色を見て写真を残すところまでです。
顔や前足がむくんでいます。関係ありますか?
顔面や足のむくみは、猫のアセトアミノフェン中毒に特徴的な所見として複数の資料に挙げられています。薬を口にした可能性があるなら、むくみは受診のサインになります。
むくみに加えて、呼吸が速い・歯ぐきの色がおかしいという変化があれば、緊急度はさらに上がります。
尿が茶色いのですが、これも症状ですか?
血尿・ヘモグロビン尿は、血中メトヘモグロビンが20%前後のときに最初に現れることがあると報告されています。壊れた赤血球の成分が尿に出ることによるものです。
見かけがまだ元気な段階でも起こりうるので、気づいたらそれ自体が受診の理由になります。トイレの砂の色も手がかりです。
どの市販薬にアセトアミノフェンが入っていますか?
商品名で覚えるのではなく、外箱の「成分・分量」欄で「アセトアミノフェン」の文字を探してください。製品は改訂されますし、同じシリーズでも中身が違うことがあります。
PMDAは一般用医薬品のアセトアミノフェン含有製剤を「かぜ薬」「解熱鎮痛薬」の薬効分類で扱っており、経口剤だけでなく坐剤も含まれます。配合剤が多いので、アセトアミノフェン以外の成分も一緒に控えてください。1錠あたりの量も製品で違います。
そもそもなぜ猫だけこんなに弱いのですか?
フェノール類の解毒を担うUGT1A6という遺伝子が、猫では機能を失った偽遺伝子になっているためです。肝機能の問題ではなく、健康で若い猫でも同じです。
この欠損は現生のネコ科すべてに共通し、3500万〜1100万年前に固定したと推定されています。食事の大半を動物質が占める完全肉食であったため、植物由来の毒素に触れる機会が少なかったことが背景として挙げられています。
犬なら大丈夫ですか?
犬は猫より閾値が高く、100mg/kgを超えなければ急性中毒の徴候は出ないとされています。ただし「安全」という意味ではありません。犬では肝臓の障害や黄疸が問題になり、200mg/kgを超える量ではメトヘモグロビン血症も報告されています。
いずれにせよ、犬で何ともなかった経験を猫に当てはめないでください。中毒が起きる量が一桁違います。
まとめ
- 口にした可能性があるなら、症状がなくても今すぐ電話。外箱・PTPシート・添付文書をそのまま持って行く
- 猫は解毒を担うUGT1A6が機能を失っている。肝臓が弱いのではなく、無毒化の仕組みそのものがない
- 中毒が起きる量は猫で40〜50mg/kg(10mg/kgでの報告もある)、犬で100mg/kg超と一桁違う。「安全な用量は存在しない」とされている
- メトヘモグロビン血症は2〜4時間、肝臓の障害の検査所見は24〜36時間。二つの病態が別の時間軸で進むので、数時間の無症状は安全の証拠にならない
- 解毒薬(N-アセチルシステイン)がある。予後は摂取量と治療開始までの時間で決まるとされ、時間が結果を変える
- 時間が経っていても受診する。猫では半減期が延びるため、症状があれば経過時間にかかわらず解毒薬の対象とされている
- 家では吐かせない。猫ではオキシドールの催吐効果が乏しく、出血性胃炎の危険がある。シメチジンの併用も現在は推奨されない
参考資料
この記事は次の資料を参照して作成しました(2026年9月9日確認)。記載内容は一般的な情報であり、個々の症例の診断・治療に代わるものではありません。判断に迷うときは、自己判断せず動物病院に相談してください。
- Toxicoses From Human Analgesics in Animals(猫での中毒量40〜50mg/kg・10mg/kgでの報告、犬の100mg/kg、症状、解毒薬、シメチジンが推奨されない理由)(Merck Veterinary Manual(MSD獣医マニュアル))
- Poisons(中毒が疑われる猫では指示がない限り吐かせないこと。人用医薬品が猫の中毒の主要な原因であること)(Cornell Feline Health Center, Cornell University College of Veterinary Medicine(コーネル大学猫健康センター))
- Acetaminophen and Cats: A Dangerous Combination(NAPQI、猫に安全な用量は存在しないこと、血中メトヘモグロビン20%前後で現れる血尿、経過時間にかかわらず解毒薬を投与すべきこと)(ASPCA Animal Poison Control Center(Toxicology Brief, 2003年1月・PDF))
- 患者向医薬品ガイド「カロナール錠200/カロナール錠300/カロナール錠500」(1錠あたりの含有量、小児の体重あたり用量)(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA))
- Court MH, Greenblatt DJ. 猫におけるアセトアミノフェンのグルクロン酸抱合欠損の分子遺伝学的基盤:UGT1A6は偽遺伝子である(Pharmacogenetics 2000;10(4):355-369、PMID 10862526)(Europe PMC(抄録))