犬の外飼いは虐待になる?法律の規制と私たちができること
はじめに:変わりゆく犬の飼育環境
かつての日本では、犬を外で飼うのは当たり前の光景でした。番犬として庭先に繋がれ、家族を守る役割を担っていた犬たち。しかし時代は大きく変わり、今や犬の外飼いは減少の一途を辿っています。
近年の調査によると、日本国内で外飼いされている犬は全体の約11%、推定約93万頭とされています。これは20年前と比較すると大幅に減少した数字です。
なぜ犬の外飼いは減ってきたのでしょうか。そして現在も外で飼われている犬たちの状況は、法律的にどう位置づけられているのでしょうか。本記事では、犬の外飼いをめぐる現状と法律、そして私たちにできることを詳しく解説します。
犬の外飼いが減少している3つの理由
1. 小型犬の人気上昇
現代の日本では、トイプードル、チワワ、ポメラニアンといった小型犬の人気が高まっています。これらの犬種は体が小さく、体温調節機能も大型犬に比べて弱いため、外飼いには適していません。
小型犬は室内での飼育が基本とされており、この飼育スタイルの変化が外飼い減少の大きな要因となっています。
2. 気候変動による厳しい環境
日本の気候は年々極端化しています。夏は35度を超える猛暑日が続き、冬は氷点下になる地域も少なくありません。
犬は人間のように汗をかいて体温調節することができません。暑さや寒さから身を守る手段が限られているため、屋外での飼育は犬の健康を脅かす大きなリスクとなります。
特に近年の異常気象により、外飼いの犬が熱中症や低体温症になるケースが増加しており、飼い主の意識も変化してきています。
3. 「ペットは家族」という価値観の浸透
最も大きな変化は、ペットに対する人々の意識です。犬は番犬や使役動物ではなく、かけがえのない家族の一員であるという考え方が主流になりました。
家族であれば、暑い日も寒い日も一緒に快適な環境で過ごしたいと考えるのは自然なことです。この価値観の変化が、室内飼育の増加につながっています。
それでも外で飼われている犬たちの現実
減少傾向にあるとはいえ、今なお約93万頭の犬が外で飼われています。しかし、その全てが適切な環境で飼育されているわけではありません。
実際に問題となっているケースには以下のようなものがあります
- 炎天下や極寒の中、十分な日陰や防寒対策のない場所に繋がれている
- 短い鎖で繋がれ、ほとんど動けない状態で長時間放置されている
- 散歩にも連れて行かれず、糞尿が周囲に溜まっている
- 新鮮な水や適切な食事が与えられていない
- 雨風をしのげる適切な犬小屋がない
これらは動物福祉の観点から見て、明らかに問題のある飼育環境です。では、このような状況は法律的にどう扱われるのでしょうか。
犬の外飼いと法律:現在の規制内容
動物愛護管理法による規制
日本には「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)があり、犬を含む愛護動物の取り扱いについて定めています。
この法律の第44条では、動物虐待に対する罰則が明記されています
- みだりに殺したり傷つけた場合: 5年以下の懲役または500万円以下の罰金
- みだりに給餌・給水をやめたり、適切な飼養環境を提供しなかった場合(ネグレクト): 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
外飼いが虐待になる可能性のあるケース
環境省が発表している「飼育改善指導が必要な例」では、以下のような状況が虐待に該当する可能性があるとされています
- 外飼いで鎖につながれるなど行動が制限され、かつ寒暑風雨雪等の厳しい天候から身を守る場所が確保できない状況
- 繋ぎっぱなしで散歩にも連れて行かず、犬の糞が犬の周りに何日分もたまり、糞尿の悪臭がする
- 狭いケージに閉じ込めっぱなしである
- リードが短すぎて、身体を横たえることができない
- 首輪がきつすぎてノドが締めつけられている
現行法の限界:数値基準の不在
しかし現在の法律には大きな問題があります。それは具体的な数値基準が存在しないことです。
例えば「繋ぎっぱなし」とは何時間のことを指すのか、「適切な温度」とは具体的に何度なのか、といった明確な基準がありません。
2021年6月に動物愛護法が改正され、ペットショップやブリーダーなどの事業者に対しては「飼育環境等に関する数値規制」がスタートしました。ケージの広さや従業員一人あたりの飼育頭数などが明確に定められています。
しかし、これは事業者に対する規制であり、一般家庭での飼い主は対象外です。そのため、一般家庭での不適切な外飼いについては、行政や警察が介入しにくい状況が続いています。
地方自治体の条例による規制
動物愛護管理法に加えて、各都道府県や市区町村が独自の条例を定めている場合があります。
例えば大阪府の条例では、犬の飼養者は以下の場合を除き、常に係留(繋いでおく)しておかなければならないと定められています。
- おりに入れて飼養する場合
- 囲い等の障壁の中で飼養する場合
- 人の生命、身体または財産に害を加えるおそれのない場所または方法で訓練・移動・運動させる場合
条例違反には罰則が適用される場合もあり、実際に放し飼いで逮捕されたケースも存在します。
海外では外飼いはどう扱われているのか
日本の動物福祉の水準を考える上で、海外の状況を知ることは重要です。動物愛護先進国では、犬の外飼いについてどのような規制があるのでしょうか。
ドイツ:厳格な飼育基準
動物愛護先進国として知られるドイツでは、犬の飼育に関して非常に細かい法律が定められています。
- 犬小屋の広さや素材について具体的な基準がある
- 散歩や運動の時間、使用するリードの長さについても規定がある
- 長時間犬だけで留守番させることは禁止
- 生後1歳までは室内飼育が義務
さらに2001年に制定された法令では、「犬だけを1日中留守にさせてはいけない」「屋内では日当たりのある部屋で飼わなければならない」といった具体的なルールが明記されています。
スウェーデン:犬の自然な行動を尊重
スウェーデンの法律は、犬の福祉を非常に重視しています。
- 少なくとも1日2回は人が犬の様子を見ること
- 6時間以上、犬だけで置き去りにしてはいけない
- 犬をケージに入れたまま過ごさせてはいけない
- 室内で繋ぎ飼いしてはいけない(屋外でも2時間以上は禁止)
- 動物の自然な行動を損なわずに飼う
- 社会的な接触を必ず与え、犬を満足させること
これらは犬が犬らしく生きることを尊重する、人間でいう「人権尊重」に近い考え方に基づいています。
カナダ:具体的な繋ぎ飼いの制限
カナダでは州によって条例が異なりますが、多くの州で以下のような規制があります。
- 繋ぎ飼いを1時間以上してはいけない
- 犬を繋ぐ鎖などの長さは3m以上ないといけない
- 庭に犬を繋いだ状態で、飲み水がない状態ではいけない
- 買い物の間だけでも、犬を車に残しておいてはいけない
- 暑さ寒さから守るため、できる限り犬は室内に入れること
デンマーク:繋ぎっぱなしの完全禁止
デンマークでは、犬を常に鎖でつなぐことが法律で禁止されています。これは犬の精神的健康を守るための重要な規制です。
これらの海外事例を見ると、日本の動物福祉がまだ発展途上であることが分かります。実際、世界動物保護協会が発表した「世界動物保護指数」において、日本はAからGまでの評価のうちEランクとされており、決して高い評価ではありません。
不適切な外飼いを見つけたらどこに相談すべきか
もし近所で虐待が疑われる外飼いの犬を見かけたら、どこに相談すればよいのでしょうか。
1. 警察への通報
動物虐待は犯罪です。明らかな虐待を目撃した場合は、警察(110番)に通報することができます。
- 犬を殴る、蹴るなどの暴行を目撃した
- 給餌・給水が全くされていない
- 緊急性の高い状況
このような場合は、ためらわずに警察に連絡しましょう。
2. 動物愛護センター・保健所
飼育環境の問題や、虐待かどうか判断が難しい場合は、お住まいの地域の動物愛護センターや保健所に相談できます。
- 厳しい天候の中、適切な保護がされていない
- 長時間繋がれたまま放置されている
- 鳴き声や臭いの問題
各都道府県・市区町村に相談窓口があります。環境省のウェブサイトに「地方自治体動物虐待等通報窓口一覧」が掲載されています。
3. アニマルポリス(地域による)
一部の自治体では、動物虐待専用の通報窓口が設置されています:
- 兵庫県: アニマルポリス・ホットライン
- 大阪府: おおさかアニマルポリス #7122
- 神奈川県: かながわペット110番
お住まいの地域にこのような窓口がある場合は、こちらに連絡するとスムーズです。
通報する際のポイント
効果的な通報のために、以下の情報を整理しておきましょう:
- 場所(住所や目印になる建物)
- 日時
- 具体的な状況(できれば写真や動画)
- 犬の様子(健康状態、行動)
- どのくらいの期間その状態が続いているか
証拠となる写真や動画があると、行政や警察が動きやすくなります。また、一度の通報で改善されない場合は、あきらめずに再度連絡することが重要です。
私の意見:動物愛護法での室内飼い義務化を
ここからは、一個人としての意見を述べさせていただきます。
私は、動物愛護管理法において、犬の室内飼いを義務化すべきだと考えています。少なくとも、外飼いに関する明確な数値基準を設けるべきです。
なぜ室内飼い義務化が必要なのか
1. 犬の健康と福祉のため
現代の気候変動により、屋外環境は犬にとってますます過酷になっています。熱中症や低体温症のリスクは無視できません。
2. 精神的健康の保護
犬は社会的な動物であり、家族との触れ合いを必要とします。外で孤立した状態が続くと、分離不安などの精神的問題を引き起こす可能性があります。
3. 虐待の予防
明確な基準がないことで、「これくらいは大丈夫」という曖昧な判断が横行しています。具体的な基準を設けることで、知らず知らずのうちに虐待となる飼育方法を防ぐことができます。
4. 国際的な動物福祉基準への適合
動物愛護先進国では、すでに犬の福祉に関する明確な基準が設けられています。日本も国際水準に合わせていく必要があります。
提案される数値基準の例
動物愛護団体が提案している基準には、以下のようなものがあります。
外飼いの時間制限
- 繋いでおくのは日中の6時間以内
- 夜間は外飼いを禁止
外飼いを禁止する天候基準
- 気象注意報または警報が発令された場合
- 極度の暑さ(30度以上)
- 極度の寒さ(0度以下)
- 強風、豪雨、豪雪、雹が降っている場合
このような具体的な基準があれば、飼い主も行政も判断しやすくなります。
実現に向けた動き
実際に、このような法改正を求める動きは始まっています。公益社団法人アニマル・ドネーションは、2024年に5,612件の署名を集め、「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」に要望書を提出しました。
2025年の動物愛護管理法改正の議論において、この問題が真剣に検討されることが期待されています。
飼い主として、社会として、私たちにできること
犬を飼っている方へ
もし現在犬を外で飼っているなら、以下のことを検討してみてください。
-
室内飼いへの切り替え 可能であれば、愛犬を家の中に迎え入れることを考えてみましょう。最初は大変かもしれませんが、犬の健康と幸せのためには最良の選択です。
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外飼いを続ける場合の環境改善
- 十分な広さのある犬小屋を用意する
- 夏は日陰と十分な水、冬は防寒対策を徹底する
- 毎日十分な散歩と触れ合いの時間を確保する
- 極端な天候の日は室内に入れる
- 定期的な健康チェックと獣医の診察
-
長時間の繋ぎっぱなしを避ける 犬が自由に動ける広さを確保し、長時間一人で過ごすことのないよう配慮しましょう。
地域社会の一員として
-
声を上げる 動物福祉の改善を求める署名活動や意見募集があれば、積極的に参加しましょう。
-
不適切な飼育を見かけたら通報する 見て見ぬふりをせず、適切な窓口に相談することで、苦しんでいる犬を救えるかもしれません。
-
正しい知識を広める 家族や友人に、犬の適切な飼育方法や動物福祉について話してみましょう。
-
動物愛護団体を支援する 寄付やボランティアを通じて、動物福祉の向上に取り組む団体を支援することもできます。
まとめ:犬の幸せを第一に考える社会へ
犬の外飼いが減少している背景には、小型犬の人気、気候変動、そして「ペットは家族」という価値観の変化がありました。
現在の日本の法律では、明らかな虐待に対しては罰則がありますが、具体的な数値基準がないため、グレーゾーンの飼育環境を改善させることが困難です。
海外の動物愛護先進国では、犬の福祉を守るための具体的で厳格な基準が設けられており、日本もそれに倣う必要があります。
もし不適切な飼育を見かけたら、警察や動物愛護センター、保健所などの適切な窓口に相談しましょう。あなたの一本の電話が、苦しんでいる犬を救うかもしれません。
そして私たち一人ひとりが、動物愛護管理法での室内飼い義務化、または少なくとも外飼いに関する明確な数値基準の導入を支持し、声を上げていくことが大切です。
犬は言葉を話せません。だからこそ、私たち人間が彼らの代わりに声を上げ、すべての犬が幸せに暮らせる社会を作っていく責任があるのです。
参考情報
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律」
- 環境省「地方自治体動物虐待等通報窓口一覧」
- 公益社団法人アニマル・ドネーション「AWGs(Animal Welfare Goals)」
- 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」
犬の外飼いについてお悩みの方、虐待が疑われる状況を目撃された方は、一人で抱え込まず、ぜひ適切な窓口にご相談ください。
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