犬の外飼い禁止と自治体の現状:日本の動物福祉と海外の事例と
はじめに:犬の外飼いについて考える
犬を家族の一員として迎え入れる際、飼育環境について悩む方は少なくありません。特に「外飼い」については、昔ながらの飼育方法として日本で長く行われてきましたが、近年では動物福祉の観点から見直しが求められています。
「犬 外飼い 禁止 自治体」というキーワードで検索される方の多くは、お住まいの地域で外飼いが禁止されているのか、あるいは今後禁止される可能性があるのかを知りたいと考えているでしょう。本記事では、日本における犬の外飼い規制の現状と、海外の事例、そして今後の展望について詳しく解説します。
日本の自治体で外飼い禁止条例はあるのか?
結論から申し上げると、現時点で犬の福祉を目的とした外飼い禁止条例を制定している日本の自治体は存在しません。
多くの自治体では「動物の愛護及び管理に関する条例」を制定していますが、その内容は主に以下のようなものです
- 飼い主の責務に関する規定
- 犬の登録と狂犬病予防注射の義務
- 適切な飼養管理の努力義務
- 迷惑行為の防止
- 危険な犬の飼養規制
これらの条例では、「適切な飼養環境を提供すること」という表現はあっても、明確に「室内飼育を義務付ける」「外飼いを禁止する」という文言は含まれていません。
なぜ外飼い禁止条例がないのか
日本で外飼い禁止条例が制定されていない背景には、いくつかの理由が考えられます。
文化的背景:日本では伝統的に犬を番犬として外で飼育する文化が根付いており、外飼いを「虐待」とみなす社会的コンセンサスがまだ十分に形成されていません。
法的整備の遅れ:動物福祉に関する法整備そのものが、欧米諸国と比較して遅れている現状があります。
実務上の課題:大型犬の飼育環境や、既存の外飼い犬への対応など、規制を導入する際の実務的な課題が多く存在します。
動物愛護法における現状の規定
犬の飼育に関しては、国の法律である「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)が基本となっています。
現行の動物愛護法では、第7条で「動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない」と規定されています。
しかし、この規定は努力義務であり、具体的に「室内飼育」を義務付けるものではありません。
環境省による飼養管理基準
環境省が定める「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」では、以下のような内容が示されています
- 適切な給餌・給水
- 適度な運動の確保
- 疾病の予防等の健康管理
- 適切な飼養環境の確保
ここでも「適切な飼養環境」という表現にとどまり、明確に室内飼育を求めてはいません。ただし、犬の習性や気象条件を考慮した環境整備が求められており、実質的には外飼いの場合でも相当の配慮が必要とされています。
海外における犬の外飼い規制
日本とは対照的に、動物福祉の意識が高い諸外国では、犬の外飼いを法律で禁止または厳しく制限している国が複数存在します。
ドイツの事例
ドイツは世界でも最も動物保護法制が進んでいる国の一つです。「犬の飼育に関する規則」(Tierschutz-Hundeverordnung)では、以下のような規定があります:
- 犬を常時外で飼うことは原則として禁止
- 一時的に屋外で飼育する場合も、適切な犬舎と運動スペースが必須
- 気温が極端に高い・低い場合は屋内への収容義務
- 最低限の接触時間の確保
スイスの事例
スイスの動物保護法では、犬は社会的動物であることを前提に、人間との接触を重視しています。犬を長時間孤立させることは虐待とみなされる可能性があります。
オーストリアの事例
オーストリアでも、犬の鎖つなぎ飼育には厳しい制限があり、事実上、家族と一緒に暮らすことが前提とされています。
アメリカの一部州
アメリカでは州ごとに法律が異なりますが、一部の州や自治体では以下のような規制があります
- 極端な気象条件下での屋外飼育の禁止
- 鎖つなぎ飼育の時間制限
- 適切なシェルターの提供義務
これらの国々では、犬は単なる「所有物」ではなく、感情を持つ生命として、人間との絆を必要とする存在と位置づけられています。そのため、犬を家族の一員として迎え入れ、適切な社会化と心身の健康を保つために室内飼育が推奨、あるいは義務付けられているのです。
なぜ外飼いが動物福祉上問題なのか
外飼いが動物福祉の観点から問題視される理由を、具体的に見ていきましょう。
1. 気象条件による健康被害
日本の気候は四季の変化が激しく、夏は猛暑、冬は厳冬となる地域も多くあります。
夏季のリスク:
- 熱中症の危険性が極めて高い
- 直射日光による体温上昇
- 脱水症状
- 地面からの照り返しによる火傷
冬季のリスク:
- 低体温症
- 凍傷
- 関節炎などの悪化
- 免疫力の低下
特に近年の気候変動により、夏の最高気温は40度近くに達することもあり、外飼いの犬は命の危険にさらされています。
2. 精神的ストレスと社会性の欠如
犬は本来、群れで生活する社会的な動物です。家族と離れて孤独に過ごすことは、犬にとって大きなストレスとなります。
- 分離不安の発症
- 問題行動の増加(無駄吠え、破壊行動など)
- うつ状態
- 攻撃性の増加
外飼いの犬は、家族との接触時間が限られるため、適切な社会化ができず、人間や他の動物との関係構築が困難になることがあります。
3. 健康管理の困難さ
外で飼われている犬は、日々の様子を観察する機会が少なくなりがちです。
- 病気の早期発見が遅れる
- 怪我に気づきにくい
- 食欲の変化を見逃しやすい
- 寄生虫や感染症のリスクが高い
4. 災害時のリスク
地震や台風などの災害時、外飼いの犬は
- 逃げ出して迷子になる可能性が高い
- 避難時の同行が困難
- パニック状態に陥りやすい
「外で飼うくらいなら最初から飼わないで」という考え方
ここで率直に申し上げたいのは、犬を外で飼うくらいなら、最初から飼うべきではないという個人的な考えです。
これは決して感情的な意見ではなく、犬の本質的な特性を理解した上での結論です。
犬は家族の一員
犬は何千年もの間、人間と共に暮らし、人間に寄り添う存在として選択的に繁殖されてきました。彼らは単なる番犬ではなく、人間との絆を求め、家族の一員として生きることを望む動物です。
犬を迎え入れるということは、その生涯にわたって責任を持つということです。その責任には、単に食事や水を与えるだけでなく、精神的な安定と幸福を提供することも含まれます。
飼育環境を整える責任
もし住宅環境や生活スタイルの都合で犬を室内で飼えないのであれば、それは今、犬を飼うタイミングではないということです。
- 室内飼育ができる環境になってから迎え入れる
- 小型犬や中型犬など、室内飼育可能な犬種を選ぶ
- ペット可の住宅に引っ越してから飼う
これらの選択肢を検討することが、真に犬を愛し、責任を持つということではないでしょうか。
次回の動物愛護法改正への期待と課題
動物愛護法は概ね5年ごとに見直しが行われています。前回の改正は2019年に行われ、次回の改正は2024年以降に向けた議論が進められることになります。
外飼い禁止を法改正で議論してほしい
個人的には、次回の動物愛護法改正において、犬の外飼い禁止についても議論の俎上に載せるべきだと強く考えています。
動物福祉の観点から見れば、外飼いは犬の基本的な権利を損なう可能性がある飼育方法です。海外の先進事例も参考にしながら、日本でも犬の室内飼育を原則とする方向での法整備を進めるべきではないでしょうか。
法改正の実現に向けた課題
しかし、実際に法改正を実現するには、いくつかの大きな課題があることも認識しておく必要があります。
1. 移行期間の設定
仮に外飼い禁止が法制化される場合、既に外で飼われている数十万頭の犬への対応が必要です。
必要な措置:
- 十分な移行期間(5年程度)の設定
- 飼い主への啓発活動
- 室内飼育への転換支援
- 経済的支援制度の検討
- どうしても室内飼育が困難な場合の里親探しサポート
急激な法改正は、かえって犬の遺棄や殺処分につながる危険性があります。社会全体の意識改革と並行して、段階的に進める必要があります。
2. 大型犬の飼育問題
特に難しい課題として、大型犬をどうするのかという問題があります。
大型犬は体が大きいため、室内飼育が物理的に困難な場合もあります。マンションやアパートでは、大型犬の飼育自体が禁止されていることも多いでしょう。
考えられる対応
- 大型犬については一定の基準を満たした犬舎での飼育を認める
- ただし、毎日の室内での接触時間を義務付ける
- 適切なシェルター設備の基準を厳格化
- 極端な気象条件下では必ず室内に入れることを義務化
また、秋田犬や土佐犬など、日本の伝統的な大型犬種の保存という観点からも、一律の規制には慎重な検討が必要です。
3. 執行体制の整備
法律を作るだけでなく、それを適切に執行するための体制整備も不可欠です。
- 動物愛護管理センターの人員・予算の拡充
- 動物愛護監視員の増員と権限強化
- 違反事例への対応体制
- 相談窓口の充実
私たちにできること:外飼い禁止に向けて
法律や条例の制定を待つだけでなく、私たち一人ひとりができることがあります。
1. 自治体への働きかけ
もし犬の福祉のために外飼い禁止条例の制定を望むなら、地域の自治体に声を届けることが重要です。
具体的な行動:
- 自治体の動物愛護担当部署への意見提出
- 議会への請願や陳情
- 地域の動物愛護団体への参加
- 署名活動への協力
- パブリックコメントへの積極的な参加
一人の声は小さくても、多くの人が声を上げることで、社会は変わっていきます。個人的にも、もし条例制定に向けた動きがあれば、積極的に参加していきたいと考えています。
2. 周囲への啓発活動
法律や条例がなくても、動物福祉の意識を広めることは可能です。
- 外飼いのリスクについて周囲に伝える
- SNSなどでの情報発信
- 地域での勉強会の開催
- 学校での動物愛護教育への協力
ただし、既に外飼いをしている人を責めるのではなく、一緒により良い飼育環境を考えていく姿勢が大切です。
3. 保護犬の里親になる際の選択
もし新たに犬を迎え入れる際には
- 保護犬を選ぶ(ペットショップでの購入を控える)
- 必ず室内飼育を前提とする
- 終生飼養の覚悟を持つ
- 適切な医療・ケアを提供する
これらを実践することで、動物福祉の向上に貢献できます。
4. 既に外飼いをしている場合の対応
もし現在、やむを得ず外で犬を飼っている場合でも、できる限りの改善は可能です。
改善のステップ
- 少しずつ室内に入れる時間を増やす
- 極端な気象条件の日は必ず室内へ
- 毎日、十分な接触時間を確保する
- 快適な犬舎と運動スペースを整備する
- 定期的な健康チェックを欠かさない
将来的には完全な室内飼育への移行を目指しましょう。
まとめ:動物福祉先進国を目指して
現時点では、日本のどの自治体にも犬の福祉を目的とした外飼い禁止条例は存在しません。しかし、それは外飼いが適切だということを意味するわけではありません。
海外の動物福祉先進国では、犬の外飼いを法律で禁止または厳しく制限しています。それは、犬が人間との絆を必要とする社会的動物であり、その福祉を守ることが人間の責務だという認識に基づいています。
日本でも、次回の動物愛護法改正において、犬の外飼い禁止が真剣に議論されることを強く望みます。もちろん、移行期間の設定や大型犬の扱いなど、解決すべき課題は多くあります。しかし、課題があるからといって議論を先送りにするのではなく、どうすれば実現できるかを建設的に考えていくべきです。
そして何より、外で飼うくらいなら最初から飼わないという選択も、犬への愛情の一つの形です。犬を迎え入れるということは、その犬の一生に責任を持つということ。それには、適切な飼育環境を提供する責任も含まれます。
私たち一人ひとりが動物福祉への意識を高め、行動することで、日本も動物福祉先進国への道を歩み始めることができるはずです。
犬たちが、家族とともに、温かい家の中で幸せに暮らせる社会。それは決して夢物語ではなく、私たちの選択と行動で実現できる未来なのです。
参考情報
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律」
- 環境省「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」
- 各自治体の動物愛護条例
※本記事の内容は2025年11月時点の情報に基づいています。最新の法令や条例については、お住まいの自治体にご確認ください。
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