猫スペースきぶん屋 猫スペースきぶん屋

台湾ドキュメンタリー映画『十二夜』が変えた殺処分ゼロへの道|日本が学べること

台湾 ドキュメンタリー映画『十二夜』と殺処分問題

 

 

この記事を読んでわかること

  • 映画『十二夜』の内容と、台湾社会に与えた衝撃
  • 台湾が「殺処分ゼロ」を法律で定めるまでの経緯
  • 日本の殺処分の現状と最新データ(環境省統計)
  • 台湾の取り組みが示す成果と「その先にある課題」
  • 私たちが今日からできる、動物福祉への具体的な行動

 

はじめに|あなたが「十二夜」を検索した理由

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/zh/a/a9/Poster_of_Taiwanese_Movie_Twelve_Nights.jpg
https://www.travel.taipei/image/419859/?r=1701932403646
 

「台湾に、1本の映画で殺処分ゼロを実現した国がある」

そんな話をどこかで耳にして、このページを開いた方も多いかもしれません。

あるいは、愛犬や愛猫と暮らすなかで、「保護犬ってどこから来るの?」「殺処分って、今も続いているの?」と気になり始めた方もいるでしょう。

 

映画『十二夜』(原題:十二夜 / Twelve Nights)は、そうした問いに対して、言葉ではなく「映像」で答えを突きつける作品です。

 

台湾の公設動物収容所に送られた犬たちが、13日目の収容期限を迎えるまでの12の夜を追ったこのドキュメンタリーは、2013年の公開以来、台湾社会を根底から揺さぶり、法律を変え、政策を動かしました。

 

この記事では、映画の内容から台湾の政策変化、日本の現状、そして「今の私たちに何ができるか」までを、データと事実をもとに深く掘り下げていきます。

 

感情論だけでは終わりません。しかし、感情を動かされることも必要だと、筆者は思っています。

 

映画『十二夜』とは何か|台湾を変えたドキュメンタリーの衝撃

 

作品の概要

 

『十二夜』は、台湾の女性ドキュメンタリー監督・Raye(レイ)さんが制作した作品で、2013年に台湾で公開されました。

 

タイトルの「十二夜(12の夜)」は、収容所に送られた犬たちが安楽死を執行される13日目までの12回の夜を指しています。

 

収容所に連れてこられた犬たちは、収容期限の13日が過ぎると、引き取り手が見つからない限り安楽死処分を受けます。

映画は、その場所に繰り返し足を運びながら、個性を持つ犬一匹一匹の表情・行動・生死をカメラに収めました。

 

セリフもナレーションもほとんどありません。 ただ、犬たちの姿があるだけです。 それが、言葉以上の力を持っていました。

 

興行的・社会的な反響

 

公開後、その反響は想像を超えるものでした。

  • 観客動員数:約23万人(台湾の全人口約2,300万人に対して、約100人に1人が劇場で鑑賞)
  • 興行収入:約6,000万台湾元(約2億1,000万円)
  • 台湾ドキュメンタリー映画史上歴代2位の記録

台湾の立法院では、議員がDVDを片手に「殺処分はやめるべきだ」と訴える場面も報道されました。

映画のキャッチコピーは「領養,不棄養(引き取る、捨てない)」。

この言葉は、台湾社会に保護犬・保護猫という選択肢を広く知らせる、社会運動的なスローガンになりました。

 

台湾の殺処分問題|映画が照らし出したリアル

 

収容所の実態

 

映画公開以前、台湾の公設動物収容所は一般市民がほとんど目にすることのない場所でした。

Raye監督が収容所に通い続けて記録した映像には、こんな場面が映し出されています。

  • 十分な餌を与えられずやせ細った犬たち
  • 劣悪な環境で病気にかかる犬たち
  • 扱いがひどいために死んでいく犬たち
  • バケツに入れられて処分される子犬たち

「目を覆いたくなるシーンばかりだった」とこの映画を鑑賞した方の多くが語ります。

しかし、それは台湾だけの問題ではありませんでした。

 

数字が示す台湾の変化

 

映画公開(2013年)からの台湾の殺処分数の変化は、以下のように記録されています。

 

年度 主な動き
2012年 年間数万頭規模の殺処分が続く
2013年 映画『十二夜』公開。翌年から数字が明確に減少し始める
2015年 台湾政府「2年後に殺処分ゼロ」を発表。動物保護法を改正
2017年 動物収容所での殺処分を法律で全面禁止

 

映画公開の翌年から数字は明らかに下がり始め、5年間で約2割減少しました。

そして2015年、台湾政府は動物保護法を改正し「2年後の殺処分全面廃止」を明言。

 

2017年、台湾は法律によって殺処分を禁止した国となりました。

アジアでこれを実現したのは、インドと台湾だけです。

 

日本の殺処分の現状|最新データで見る実態

 

環境省統計が示すリアル

 

台湾の話を聞いて、「日本はどうなのか?」と気になった方も多いはずです。

環境省が発表している統計データを見てみましょう。

直近の殺処分数の推移(環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」より)

  • 2004年度:犬15万5,870頭+猫23万8,929頭 = 約39万5,000頭
  • 2021年度:犬・猫合わせて14,457頭
  • 2022年度:犬・猫合わせて11,906頭(過去最少を更新)
  • 2023年度:犬・猫合わせて9,017頭(さらに最少を更新)

この約20年で、殺処分数は70分の1以下にまで減少しています。

これは、動物愛護管理法の改正、各自治体の取り組み強化、保護団体・ボランティアの活動が実を結んだ成果です。

 

しかし、まだ毎日約25頭が命を失っている

 

9,017頭という数字を1日に換算すると、1日あたり約25頭

毎日、25頭の犬と猫が処分されている計算になります。

また、引き取られた犬猫のすべてが殺処分されるわけではありませんが、2023年度に全国の動物愛護センター等に引き取られた犬猫は合計44,576頭(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva調べ)にのぼります。

この数字の背景には、飼育放棄・多頭飼育崩壊・無計画な繁殖などの社会問題が複雑に絡み合っています。

 

地域差が大きい日本の実情

 

殺処分数は地域によって大きな差があります。

殺処分が多い傾向にある地域(犬): 四国3県(徳島県・香川県・愛媛県)、長崎県など。

理由は、野犬の多さや気候・地形的な条件が複合的に影響しているとされています(環境省令和4年度統計より)。

 

殺処分ゼロを達成・維持している自治体:

  • 愛知県名古屋市(2016年度以降、犬の殺処分ゼロを維持)
  • 奈良県奈良市(2019年から4年連続で犬猫殺処分ゼロを達成)

こうした先進的な自治体の取り組みが、全国に広がることが今後の課題です。

 

よくある疑問に答える|Q&A

 

Q1. 台湾は「殺処分ゼロ」を達成したのに、なぜ続編映画が作られたの?

 

A. 「法律だけが変わった」という現実があったからです。

2020年に公開された続編『十二夜2』では、Raye監督はこう語っています。

「変わったのは法律だけでした。殺処分ゼロに向けて計画があるとか、予算を割いて人員を配置するとか、そういう具体的な動きはない。むしろ法制化されて、収容所が動物を引き取らなくなる事態が起きました」

 

殺処分が禁止された結果、収容所が「引き取り拒否」をするケースが増加。

行き場を失った野良犬が増え、今度は「野良犬問題」が新たな課題として浮上しました。

続編では、避妊手術の重要性や飼い主の責任など、「収容所の外」にある問題に焦点が当てられています。

 

Q2. 日本でも映画『十二夜』は見られますか?

 

A. YouTubeで全編公開されています(日本語字幕なし)。

Raye監督みずからYouTubeで全編を無料公開しています。

セリフやナレーションがほとんどなく、中国語・英語のテロップが少し入る程度なので、言語の壁なく内容は伝わります。

ただし、非常に衝撃的な映像が含まれているため、視聴の際は心の準備をすることをおすすめします。

 

Q3. 日本で「殺処分ゼロ」は実現できますか?

 

A. 一部の自治体では既に実現しており、全国的には「課題が残る」状況です。

名古屋市や奈良市のように、行政と民間の連携によって実現している自治体は増えています。

ただし、「殺処分ゼロ」の定義には注意が必要です。多くの自治体が「やむを得ない殺処分を除いた実質的なゼロ」として公表しており、治癒の見込みがない病気や攻撃性が高い個体への処分は含まれていない場合があります。

真の意味での動物福祉の実現には、「殺処分ゼロ」という数字だけでなく、収容数そのものを減らす根本的なアプローチが必要です。

 

Q4. 保護犬・保護猫を迎えることは難しいですか?

 

A. 以前に比べてずっとハードルが下がっています。

現在、全国各地で譲渡会が定期的に開催されており、自治体の動物愛護センターや民間の保護団体を通じて保護犬・保護猫を迎えることができます。

手順は大まかに次のとおりです。

  1. 近隣の動物愛護センター・保護団体を探す
  2. 譲渡会・見学会に参加する
  3. トライアル(お試し飼育)を経て正式譲渡
  4. 飼育環境・飼養能力の審査に対応する

自治体によって条件は異なりますが、「ペットショップで買うより難しい」と感じる部分があるとしたら、それは「命に責任を持てるか」を確認するための大切なプロセスです。

 

台湾から学ぶ|殺処分ゼロへの具体的なアプローチ

 

①啓発と社会的合意の形成

 

台湾の変化の出発点は、「映画を見た人が怒り、声を上げた」ことでした。

社会が問題を「自分ごと」として認識しなければ、政策は動きません。

SNSでのシェア、映画や本を通じた情報発信、学校教育への動物福祉の組み込みなど、啓発活動は変化の種まきです。

 

②不妊・去勢手術の普及(TNR活動)

 

野良犬・野良猫の増加を根本から断ち切るには、繁殖を防ぐことが最も効果的です。

台湾では殺処分ゼロ法制化の後、野良犬への不妊手術が国策として進められています。

日本でも、地域猫活動(TNR:捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)が各地で行われており、一部自治体では補助金を出して普及を後押ししています。

 

③保護動物の「迎え入れ」文化の醸成

 

台湾の映画のキャッチコピー「引き取る、捨てない」が示すように、ペットショップで購入するのではなく保護動物を迎える文化が広まることが重要です。

日本でも「保護犬・保護猫を家族に」という動きは着実に広まっています。

保護動物を迎えることを検討している方は、ぜひ当ブログの「保護犬・保護猫の迎え方ガイド」もあわせてご覧ください。

 

④行政との連携・政策提言

 

名古屋市や奈良市が殺処分ゼロを実現できた背景には、行政・保護団体・市民が一体となった連携があります。

自治体への意見提出、議員への政策提言、クラウドファンディングによる資金調達など、市民が政策に関与できる方法は多くあります。

名古屋市では「犬猫サポート寄附金」制度を通じて、2022年度だけで7,780万円もの寄付が集まっています。

 

メリットとデメリット|「殺処分ゼロ」政策の光と影

 

殺処分ゼロ政策のメリット

 

命が守られるのが最も本質的なメリットです。命に値段をつけない社会の実現に近づきます。また、殺処分ゼロを目指すプロセスで、飼い主教育・マイクロチップ普及・不妊手術の啓発など、社会全体の動物福祉意識が向上します。目標が明確になることで、保護団体・ボランティアへの支援の輪も広がりやすくなります。

 

殺処分ゼロ政策の課題・デメリット

 

台湾の事例が示すように、殺処分禁止だけでは問題は解決しません。収容所の「引き取り拒否」問題が起きるリスクがあります。

また、民間の保護団体に引き取りが集中すると、団体自体が「多頭飼育崩壊」に陥る可能性があります。公益財団法人動物環境・福祉協会Evaも「動物愛護団体にも収容キャパや労力の限界がある」と警鐘を鳴らしています。

 

そして最も根本的な課題として、無計画な繁殖・衝動飼い・飼育放棄を減らさない限り、殺処分ゼロは「数字の帳尻合わせ」にすぎなくなるリスクがあります。

 

エピソード|保護犬を迎えた「あの日」のこと

 

ある動物愛護センターのボランティアスタッフ・Aさん(40代・女性)はこう語ります。

「センターに来るたびに、目が合う犬がいました。雑種の中型犬で、毛並みも良くなく、名前もついていなかった。でも、彼はいつも私を見ていた。

 

収容期限が近づいたある日、担当者から『この子の譲渡先が見つかっていない』と言われました。

私はその夜、家族と話し合いました。もう犬はいるし、広い家でもない。でも……

 

映画『十二夜』のことを思い出しました。収容所の犬たちは、誰かに選ばれることを待っている。

翌日、私たちはその犬を迎えに行きました。今は『ムギ』という名前で、毎朝私の足元で寝ています。

あのとき動いていなければ、彼はもういなかったかもしれない。それを思うと、何とも言えない気持ちになります」

 

映画が変えたのは、台湾の法律だけではありません。

一人ひとりの「行動する気持ち」も、映像は動かしてきました。

 

注意点|「感情」だけで行動するのは危険なこともある

 

動物福祉の問題に触れると、感情が先走りやすくなります。

しかし、保護活動・動物の飼育には冷静な判断も必要です。

 

保護犬・保護猫を迎える際の注意点

  • 終生飼養の覚悟を持つ:動物愛護管理法は、飼い主に終生飼養を義務付けています。老齢化した犬猫の介護・医療費も考慮が必要です。
  • 経済的な余裕を確認する:犬猫の年間飼育費は、医療費込みで30〜50万円以上になるケースも少なくありません。
  • 住環境・家族構成を確認する:ペット不可の物件や、アレルギーを持つ家族がいる場合は事前に確認が必要です。
  • 衝動的に「救いたい」と思わない:感情に任せた多頭引き取りは、飼育崩壊につながります。

また、SNSで見かける保護団体すべてが信頼できるとは限りません。費用の透明性があるか・適切なトライアル制度があるか・アフターフォローがあるか、こうした点を確認した上で信頼できる団体を選んでください。

 

今後の社会的視点|動物福祉は「人権」と並ぶ時代へ

 

世界の動き

 

動物福祉の問題は今、国際的な人権・倫理の議論と連動して急速に注目を集めています。

EUでは「動物は感受性を持つ存在」として法的に認め、農場動物・実験動物・ペットへの福祉基準を強化しています。台湾・インドに続き、複数の国・自治体で殺処分廃止・禁止の動きが進行中です。国連食糧農業機関(FAO)も、動物福祉を持続可能な農業の柱の一つに位置づけています。

 

日本の動向

 

日本でも、動物愛護管理法は2019年に改正され、マイクロチップの装着義務化・飼育環境の数値規制など、着実に前進しています。

 

しかし、欧州基準と比較するとまだ課題が多く、「動物福祉後進国」と指摘される部分も残っているのが実情です。

一方で、こうした変化を後押しするのは、常に「市民の声と行動」です。

 

台湾で『十二夜』が社会を変えたように、問題を可視化し、共有し、声を上げることが、制度を動かすエンジンになります。

「今の自分に何ができるか」。その問いを持ち続けることが、動物福祉の未来をつくる第一歩です。

 

まとめ|「12の夜」が教えてくれたこと

 

映画『十二夜』は、13日目の運命を待ち続ける犬たちを通じて、私たちに問いかけています。

「あなたは知っていますか。そして、知ったうえで何をしますか?」

台湾では、1本のドキュメンタリーが社会を動かし、法律を変えました。

しかしその後の現実は、「法律を変えるだけでは足りない」ことも示しています。

 

この記事のポイントをおさらいします。

  • 映画『十二夜』は2013年台湾公開。台湾ドキュメンタリー映画史上歴代2位の興行収入を記録
  • 2017年、台湾は法律で殺処分を全面禁止(アジアではインドと台湾のみ)
  • 日本の殺処分数は減少傾向にあり、2023年度は9,017頭と過去最少を更新(環境省統計)
  • しかし年間1万頭近い犬猫が今も命を失っており、1日換算で約25頭
  • 台湾の「その後」は、法改正後も収容所の引き取り拒否・野良犬増加など新たな課題が生まれていることを示している
  • 根本的な解決には、不妊・去勢手術の普及、飼い主教育、保護文化の醸成が必要

動物福祉の未来は、私たち一人ひとりの「選択」でできています。

保護犬・保護猫を迎える、信頼できる団体に寄付する、SNSで情報をシェアする、自治体に意見を届ける。

できることは、今日から始められます。


まず1つ、行動してみてください。あなたのその選択が、名前のない一頭の命を救うかもしれません。


参考資料

  • 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(令和5年度)
  • 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「犬猫の引取り数と殺処分数」
  • ピースワンコ・ジャパン「2023年度の犬・猫の殺処分数が9,017頭に減少」(2025年4月)
  • Yahoo!ニュース エキスパート 田中美帆「ペット殺処分ゼロを掲げた台湾 契機となったドキュメンタリーの続編が問う新しい課題」

この記事は動物福祉専門ライターによる調査・執筆記事です。最新データは各公的機関の発表をご確認ください。

 

 

古着買取、ヴィーガン食品やペットフードの買い物で支援など皆様にしてもらいたいことをまとめています。
参加しやすいものにぜひ協力してください!

 

 

猫スペースきぶん屋が皆様に協力していただきたいこと一覧

この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

SNS LINK

この著者の記事一覧

関連情報

コメントは受け付けていません。

特集

Instagram でフォロー