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オーストラリアのカンガルー殺処分問題|年間150万頭以上が駆除される現実と動物福祉の視点

オーストラリアのカンガルー殺処分問題

 


この記事でわかること

  • オーストラリアでカンガルーが殺処分される理由と規模
  • 政府が定める管理制度の実態と問題点
  • 動物福祉の観点から見た賛否両論
  • 赤ちゃんカンガルーに何が起きているか
  • 日本を含む国際社会が取れるアクション

オーストラリアのシンボルといえば、多くの人がカンガルーを思い浮かべるでしょう。

国章にも描かれ、航空会社のロゴにも使われるこの動物が、毎年100万頭を超える規模で「殺処分」されているという事実を、あなたはご存知でしょうか。

それは単なる残酷さの問題ではありません。 生態系、農業、動物福祉、そして国際商取引が複雑に絡み合う、現代の野生動物管理の縮図でもあります。

 

この記事では、オーストラリアのカンガルー殺処分問題を、感情論だけに流れず、データと現場の声をもとに多角的に掘り下げます。


オーストラリアのカンガルー殺処分とは何か?その規模と背景

 

カンガルーの個体数はどのくらいいるのか

オーストラリア全土に生息するカンガルーの数は、最大で5,000〜6,000万頭にのぼると推定されています。 これはオーストラリアの人口(約2,600万人)の2倍を超える規模です。

特に代表的な4種(アカカンガルー、オオカンガルー、オオハイイロカンガルー、アンティロピンカンガルー)は、絶滅危惧種にはあたらず、生息数も安定しているとされています。

雨量が豊富な年には食料となる草が大量に育つため、個体数は急速に膨れ上がります。 一方で干ばつが来ると、カンガルーは食べ物を求めて人間の生活圏に接近し、農地や道路に出没するようになります。

 

年間何頭が殺処分されているのか

オーストラリアでは、州政府が毎年航空機による調査を行い、生息頭数を推計したうえで「商業狩猟枠(クォータ)」を設定しています。

ニューサウスウェールズ(NSW)州の具体データを見てみましょう。

 

NSW州環境省の報告書によると:

  • 2022年の推定生息数に基づく2023年の狩猟枠:約185万頭
  • 2023年の実際の推定生息数:約963万頭(前年比18.9%減・225万頭減少)
  • 2023年の生息数減少を受けた狩猟枠の修正:約148万頭

さらに全国規模で見ると、2000年から2018年の間に、推定4,400万頭以上のカンガルーが殺されました(年間平均約232万頭)。

この数字は、世界でも類を見ない規模の野生動物商業狩猟といえます。

 

なぜ殺処分が行われるのか——3つの主な理由

オーストラリアがカンガルーの殺処分を続ける理由は、大きく以下の3点に整理できます。

 

① 農業被害の軽減 カンガルーは牛や羊が食べるはずの牧草を食い荒らし、農家に深刻な損害をもたらします。 牧畜業者にとってカンガルーは「家畜の競合相手」であり、「害獣」と見なされています。

 

② 生態系のバランス維持 増えすぎたカンガルーは植生を過度に食べ尽くし、他の在来生物の生存環境を破壊する可能性があります。 かつて天敵であったフクロオオカミ(タスマニアタイガー)は絶滅し、ディンゴも減少しているため、自然界での個体数調整機能が失われています。

 

③ 交通事故の防止 動物が絡む交通事故の約70〜80%がカンガルーによるものとされており、年間多くのドライバーが危険にさらされています。


カンガルー殺処分の実態——夜の荒野で何が起きているか

 

「ハーベスト」と呼ばれる夜間の銃猟

オーストラリアの商業的なカンガルー駆除は、「ハーベスト(Harvest:収穫)」と呼ばれています。 この言葉の響きとは裏腹に、現場は苛烈です。

狩猟はカンガルーの活動が活発な夜間に行われます。 トラックに強力なライトを取り付け、動物を照らして照準を合わせ、ハンターがトラックの上から銃を発射します。 距離は最長で200メートルに及ぶこともあります。

 

オーストラリア政府は「商業目的でのカンガルーの人道的射撃のための国家行動規範」を定め、ハンターは脳を標的に一撃で仕留めるよう義務付けています。

しかし現実はどうでしょうか。

動物福祉団体RSPCAオーストラリアが2002年に政府のために作成した報告書によると、監査対象のカンガルーのうち頭部に銃弾を受けていたのは95.9%でした。

つまり残りの約4%、当時の規模で言えば11万頭以上が、頭部以外を撃たれていたことになります。 負傷したカンガルーは複数の銃弾を受けながらも逃げようとし、顎や眼球、内臓、手足に重傷を負いながらゆっくりと死んでいくケースも報告されています。

 

見過ごされがちな「赤ちゃんカンガルー」の問題

オーストラリアのカンガルー殺処分で、最も語られるべき問題のひとつが子どもの扱いです。

カンガルーはわずか体長2cmほどで生まれ、母親の育児嚢(ポーチ)の中で6ヶ月かけて育ちます。 その後も18ヶ月頃まで母親に依存して生きます。

行動規範には「育児嚢に子どもがいるメスは撃ってはならない」と明記されています。

 

しかし夜間、最長200メートルの距離から、暗闇の中で袋の中に赤ちゃんがいるかどうかを確認することは現実的ではありません。

万が一、子連れのメスを射殺した場合、行動規範は子どもを「頭蓋底への強力な一撃で即座に息の根を止める」よう推奨しています。 飢えや天敵によって長く苦しむよりも早く死なせるためです。

袋から出て自立前の子カンガルーが母を失った場合、餓死か捕食されるまでに最大10日間苦しむことも記録されています。

RSPCAオーストラリアはこの点について「子どもの最も人道的な処分方法を早急に研究する必要がある」と公式に述べており、問題は現在も未解決のままです。


殺処分を支持する立場——「人道的な代替案があるか」という問い

 

生態学者が警告する「駆除しなかった場合のリスク」

カンガルーの殺処分に反対する声は多いですが、生態学者の側からは異なる警告が上がっています。

ニューサウスウェールズ大学の生態学者キャサリン・モーズビー氏は、「駆除を止めることは長期的にはむしろ残酷な行為になる」と述べています。

 

過去の干ばつでは、一部の地域でカンガルーの80〜90%が餓死したという記録があります。 餌を求めて公衆トイレのトイレットペーパーを食べ、道路で倒れて死んでいく個体も確認されています。

カンガルーは雨が多い年には爆発的に増殖しますが、干ばつが来るとその多くが大量死します。 この個体数の急騰と崩壊のサイクルを人為的にコントロールすることが、長期的には動物福祉にも貢献するという考え方です。

オーストラリアでカンガルー管理の第一人者とされるジョージ・ウィルソン氏は、「餓死させることこそ倫理に反する。残酷なのは事態に対して何もしないことだ」とAFP通信の取材に答えています。

 

経済的・産業的な側面

カンガルーの商業狩猟は、オーストラリアにとって一定の経済的役割も担っています。

  • 肉は食用として国内外に流通(スーパーの棚にも並ぶ)
  • 革はスポーツシューズや革製品の素材として利用
  • 関連産業で約4,000人の雇用を創出

ただし近年は状況が変わりつつあります。

ナイキは2021年にカンガルー革サプライヤーとの契約を終了し、2023年にはカンガルー革を使用した製品の製造を中止すると発表しました。 アディダスやプーマにも同様の圧力がかかっており、市場は縮小傾向にあります。


動物福祉の観点からの批判——世界が問う「これは管理か、虐殺か」

 

動物保護団体が指摘する構造的問題

豪州の動物福祉団体アニマルズ・オーストラリア(Animals Australia)や、イタリアのLAVなどの国際的な団体は、オーストラリアのカンガルー殺処分を「商業的利益のための虐殺」と位置付けて批判しています。

 

その主な論点は以下の通りです。

  • 夜間狩猟の構造的問題:視認性が低い環境での狩猟では、「人道的な一撃」は事実上不可能に近い
  • モニタリングの不足:政府監査官による監査は任意かつ不定期で、現場の実態が正確に把握されていない可能性がある
  • 子どもへの対応基準の曖昧さ:ハンターは成獣の人道的狩猟訓練は義務付けられているが、子どもの処分に関する同等の訓練制度がない
  • 「害獣」指定の恣意性:カンガルーが害獣として扱われることへの根本的な疑問

 

「持続可能な利用」という言葉の裏にあるもの

オーストラリア政府はカンガルーの商業狩猟を「持続可能な野生生物管理(Sustainable Wildlife Management)」と表現します。

しかし2023年に発表されたNSW州のデータでは、わずか1年で225万頭、率にして18.9%もの個体数が減少しました。 これを「持続可能」と呼べるかどうか、専門家の間でも意見が分かれています。

オーストラリア・カンガルー協会のニッキー・サタビー会長は、「長年警告してきたが、いくつかの地域では狩猟が続けられており、個体数の急減につながったことは明白」と主張しています。


世界で進む「カンガルー革離れ」と消費者が持つ力

 

スポーツブランドの方針転換

動物福祉の観点からの国際的な圧力は、確実に市場に変化をもたらしています。

  • ナイキ:2021年にカンガルー革サプライヤーとの提携終了、2023年に製品製造中止
  • アディダス:カンガルーの非人道的な狩猟には反対するとし、政府規制の完全遵守を取引先に要求
  • その他ブランド:カンガルー革製品の廃止に向けた段階的な取り組みが進む

一方、日本のスポーツ用品メーカーミズノについては、動物実験の廃止を求める会(JAVA)が長期にわたって使用中止を求めてきた経緯があります。 ミズノは「害獣として駆除されたカンガルーの革を使用しているため、残酷かどうかは判断できない」との立場を示しています。

消費者がどのブランドを選ぶかという行動が、カンガルーの扱われ方に影響を与えているのです。

 

カンガルー革を使った製品を選ばないという選択

日本に住む私たちに直接できることのひとつが、カンガルー革を使用した製品を避けるという消費者行動です。

サッカースパイクや野球グローブなどスポーツ用具には、今もカンガルー革が使われているケースがあります。 購入前に製品の素材を確認し、合成素材や他の代替素材を採用したブランドを選ぶことは、遠く離れたオーストラリアの荒野で起きていることに、確かな影響を与えます。


代替案はあるのか——個体数管理の新しいアプローチ

 

避妊ワクチンによる個体数コントロール

殺処分以外の方法として研究が進んでいるのが、避妊ワクチン(免疫避妊)による個体数管理です。

カンガルーに経口避妊薬を与えたり、避妊ワクチンを接種したりすることで、繁殖を抑制しながら個体数を減少させるアプローチです。

ただし現時点では、大規模な野生環境での実用化にはコストや技術的ハードルが残っており、商業狩猟の完全な代替手段とはなっていません。

 

生息地と農地の境界管理

フェンスや緩衝地帯の設置など、人間の生活圏とカンガルーの生息域を分離する物理的な管理方法も取り組まれています。

これはカンガルーを直接傷つけることなく農業被害を軽減できる方法ですが、膨大な土地面積を持つオーストラリアでは費用対効果の問題もあります。

 

傷ついたカンガルーへの救護活動

カンガルーの保護施設は、オーストラリア国内でここ数年で数十カ所設けられています。

交通事故や狩猟で傷ついた個体、母親を失った孤児の子カンガルーを保護・リハビリして野生に返す取り組みが続いています。 「人間の手で傷つけられ、人間の手で救われる」という皮肉な構図の中で、こうした保護活動は動物福祉の最後の砦として機能しています。


日本はこの問題とどう向き合うべきか

 

日本が関わる接点はどこにあるか

「オーストラリアのカンガルー殺処分は遠い国の話」と思う方もいるかもしれません。 しかし、日本とこの問題の接点は確実に存在します。

  • スポーツ用品:カンガルー革を使ったスパイクやグローブは日本でも流通
  • ペットフード:カンガルー肉はペットフードの原料として一部輸入されている可能性
  • 食肉・加工品:一部の輸入食品や高級食材としてのカンガルー肉

日本の消費者の選択が、オーストラリアの野生動物政策に影響を与える余地は確かにあります。

 

動物福祉先進国から学ぶべきこと

EU諸国や英国では、動物福祉を消費基準に組み込む動きが進んでいます。

日本でも近年、アニマルウェルフェア(動物福祉)への関心は確実に高まっています。 野生動物の管理においても、ただ個体数を減らすことを目標とするのではなく、苦痛を最小化する方法を常に模索するという考え方を社会全体に広げることが重要です。


問題の本質——「管理」と「搾取」の境界線はどこにあるか

 

オーストラリアのカンガルー殺処分問題を突き詰めると、一つの根本的な問いに行き着きます。

「人間は野生動物をどこまで管理してよいのか。そしてその管理はいつ搾取になるのか」

カンガルーの個体数を管理しなければ、大量の餓死が起きる可能性がある。 それは事実です。

しかし現行の方法が「人道的」であるかどうかについては、客観的なデータが示す限り、まだ多くの改善余地があります。

  • 夜間射撃の精度の限界
  • 子どもの処分方法の基準の不明確さ
  • 監査体制の不十分さ
  • 「商業利益」と「個体数管理」の目的の混同

これらは、「管理のための殺処分」を「人道的なもの」と主張するうえで、正面から向き合わなければならない問題です。

動物福祉の観点から見れば、「殺さざるを得ないとしても、苦しみを最小限にする義務がある」というのが国際的なコンセンサスです。

オーストラリア政府がその義務を十分に果たしているかどうか——この問いへの答えは、データを見る限り、まだ「はい」とは言えません。


まとめ:カンガルー殺処分問題が問いかけること

 

この記事で解説してきたことを振り返ります。

  • 規模:オーストラリアでは年間100〜230万頭以上のカンガルーが商業的に殺されており、2000〜2018年の累計は4,400万頭超
  • 制度:州政府が個体数調査に基づく狩猟枠を設定しているが、モニタリング体制に課題がある
  • 方法の問題:夜間射撃では「人道的な一撃」の実現が難しく、子どもへの対応も基準が不明確
  • 賛否の構図:「管理しなければ大量餓死が起きる」という科学者の主張と、「現行方法は虐殺だ」という動物福祉団体の批判が拮抗
  • 消費者の力:カンガルー革製品を避けるという選択が、市場を通じて産業に影響を与えている
  • 代替案:避妊ワクチンや生息地分離など、殺処分に頼らない管理手法の研究が進む

カンガルー殺処分問題は、「動物がかわいそう」という感情だけで語れる問題ではありません。 しかし同時に、「管理に必要だから仕方ない」という言葉で思考を止めてよい問題でもありません。

感情と科学を両方持ち、問い続けること。それが動物福祉の出発点です。


今日から、自分が使うスポーツ用品やペットフードの素材を一度確認してみてください。あなたの選択が、オーストラリアの荒野で生きるカンガルーの未来をわずかでも変える力を持っています。


参考資料・データ出典

  • NSW Department of Planning and Environment「2024 quota report, NSW commercial kangaroo management program」
  • RSPCA Australia「Report on the Humane Shooting of Kangaroos」
  • AFP通信(2023年5月)カンガルー個体数管理に関する専門家コメント
  • 動物実験の廃止を求める会(JAVA)「オーストラリアのカンガルーの虐殺」
  • National Geographic Japan「年間140万頭、豪のカンガルー猟は是か非か」

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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