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コロナ後の犬猫放棄問題——日本の実態と、私たちにできる対策を徹底解説

コロナ後の犬猫放棄問題

 


コロナ禍のペットブームが、静かな「後遺症」を残しています。

2020年〜2021年、外出自粛による「おうち時間」の増加を背景に、日本では犬や猫を新たに飼い始める人が急増しました。ところが、コロナ収束とともに生活が元通りになると、今度は犬猫の放棄・飼育放棄が社会問題として浮かび上がり始めています。

 

この記事では、コロナ後の犬猫放棄問題の実態を、環境省や公的機関のデータをもとに整理します。 感情論だけで終わらせず、なぜこの問題が起きたのか、そして私たちに何ができるのかを、できるだけ具体的に考えていきます。


コロナ禍のペットブームとは何だったのか

 

「おうち時間」がもたらした急激な需要増加

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全体で行動制限が始まりました。 テレワークが普及し、外出の機会が激減した多くの人々が、自宅での孤独や閉塞感を紛らわすために「ペットを飼うこと」に目を向けたのです。

一般社団法人ペットフード協会の調査によると、新規飼育者の数は2019年から2020年にかけて、犬が約14%増加(46万2,000頭)、猫が約16%増加(48万3,000頭) となりました。

わずか1年で、これだけの規模の新たな飼育者が誕生したことになります。

 

ペットショップには長蛇の列、価格は高騰した

需要の急増に伴い、ペットの販売価格も跳ね上がりました。 コロナ前には20〜30万円程度だった人気のトイプードルが、コロナ禍では40万円を超える価格 で取引されるケースも珍しくありませんでした。これはコロナ前の約1.5倍の水準です。

ペットショップには「もっと癒しが欲しい」という衝動的な需要が流れ込み、十分な事前準備なしにペットを迎えてしまった飼い主が、全国に一定数生まれたと考えられています。

 

ブームの”落とし穴”——衝動的な飼育が生む問題

「店ではおとなしかったのに」「臭いが気になる」「想像より世話が大変だった」——。

購入してすぐに保護を求めるケースも増え始めていました。 コロナ収束後、テレワークが終わり職場復帰が進むと、今度は在宅時間の消滅とともにペットへの向き合い方が問われる局面 が来ることになります。


コロナ後に起きた犬猫放棄の実態——日本のデータを読む

 

環境省データで見る引取数の推移

環境省が毎年公表している「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」は、日本の動物福祉の実態を示す最も信頼性の高い公的データです。

令和5年度(2023年度)のデータによれば、犬猫あわせて44,576頭が全国の動物愛護センター等に引き取られています。

近年の引取数は全体として減少傾向にあるものの、コロナ禍で急増した飼育頭数を考慮すると、この数字は油断できないものです。むしろ、「表に出てこない放棄」——近所への遺棄、SNSでの無責任な譲渡、多頭飼育崩壊——という見えない問題が同時に進行していることも見逃せません。

 

犬の飼育登録数にも変化が

犬の飼育には狂犬病予防法により登録義務があります。その登録頭数をみると、2009年度の688万頭をピークに、2022年3月末時点では610万頭まで減少 しています(経済産業省・商業動態統計より)。

飼育頭数そのものが減少しているにもかかわらず、放棄・引取のニュースが絶えないのはなぜか。 それは、ブームで増えた「準備不足の飼育」が、長年かけて積み上げてきた飼育の質を引き下げているからです。

 

多頭飼育崩壊という「見えない問題」

コロナ後の犬猫放棄問題を語るうえで、多頭飼育崩壊 は避けて通れません。

多頭飼育崩壊とは、不妊・去勢手術を行わないまま繁殖が進み、飼い主が管理しきれなくなった状態を指します。経済的困窮、高齢化、精神的疾患などが複合的に重なり、ある日突然「数十頭の猫・犬が劣悪環境で生活している」という状態が発覚するケースが各地で報告されています。

民間の動物愛護団体は、こうしたケースへの対応にも追われており、保護活動の現場は常にキャパシティの限界に近い状態 にあります。


なぜ放棄されるのか——飼育放棄の6つの主な理由

 

飼育放棄は、「無責任な飼い主のせい」と単純に切り捨てることはできません。 その背景には、複合的な事情があることがほとんどです。

 

以下は、動物愛護団体や行政が把握している主な放棄理由です。

  • ① 生活環境の変化 転居・転勤・入院などにより、ペット不可の住居に移らざるを得なくなる
  • ② 経済的困窮 ペットフード代・医療費・ワクチン代などが継続的に払えなくなる(犬1頭あたり年間平均33万円以上かかるとも)
  • ③ テレワーク終了 在宅時間を前提に飼い始めたが、出社復帰で世話ができなくなった
  • ④ 動物アレルギーの発症 同居人や子どもにアレルギーが出てしまった
  • ⑤ 介護・育児との両立困難 高齢の親の介護や育児が始まり、ペットの世話に手が回らなくなった
  • ⑥ 飼い主の高齢・死亡 飼い主が亡くなった、または高齢になり飼育が難しくなった

これらの多くは、飼い始める前に想定できた問題でもあります。 しかし、コロナ禍のような「感情的な衝動」が強く働く状況では、事前の冷静な検討が後回しになってしまいやすいのです。


殺処分の現実——数字の裏にある「命」

 

過去最少を更新しつつも、まだゼロではない

環境省の統計によると、令和5年度(2023年度)の犬猫の殺処分数は9,017頭 (犬:2,118頭、猫:6,899頭)で、過去最少を更新しました。 令和4年度(2022年度)の11,906頭から、約2,889頭の減少です。

数字として見れば、確実に改善しています。 しかし、1日に換算すると約25頭が今も命を失っています。

この事実を、私たちはどう受け止めるべきでしょうか。

 

殺処分数の「減少」の裏にある構造

殺処分数が減っている理由は、単純に「動物が大切にされるようになった」からだけではありません。

実態を見ると、次のような構造的な変化が背景にあります。

  • 行政(保健所・動物愛護センター)が安易な引取を拒否できるようになった(動物愛護管理法改正)
  • 民間の動物愛護団体が引き出しを増やし、行政の代わりに保護・管理を担っている
  • 「殺さないが、譲渡もできない」状態が続いている施設も一部に存在する

つまり、数字の減少が、問題の解決を意味しているわけではない のです。 殺処分数には表れない「劣悪環境での長期収容」や「保護団体の多頭飼育崩壊」は、命の問題として同じ重みを持ちます。

 

猫の殺処分が圧倒的に多い理由

殺処分数の内訳を見ると、猫が全体の約77%を占めています。

その主な理由は、以下の通りです。

  • 猫は登録制度がなく、飼い主不明の個体が多い
  • 繁殖力が高く、1頭の野良猫から短期間で数が増える
  • 子猫(目も開かないような生後間もない個体)の収容が多く、育成が難しい
  • 地域猫活動(TNR:捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)の普及にはまだ地域差がある

殺処分数の8割以上を猫が占め、そのうちの6割が目も開かない子猫であるという現実は、問題の根本が「繁殖コントロール」にあることを示しています。


海外との比較——イギリス・フランス・アメリカの事例から学ぶ

 

コロナ後のペット放棄問題は、日本だけの現象ではありません。

 

イギリス:物価高で飼育放棄が急増

イギリスではコロナ禍で、ペット関連の年間支出が日本円にして約1兆5,000億円と過去最高を記録するほどのブームが起きました。しかし2022年、インフレ率が10%を超えると一転して飼育放棄が急増。王立動物虐待防止協会(RSPCA)によると、2022年7月時点で飼育放棄されたペットの数は前年同期比で24%増加 しました。

日本でも物価高や光熱費の上昇が続いており、経済的理由による放棄が今後増加する可能性は十分にあります。

 

フランス:衝動購入の問題に法律で対処

フランスではロックダウン中に犬の散歩が例外的な外出理由として認められていたこともあり、安易に犬を飼い始める人が急増。規制解除後には飼育放棄が続出しました。

これを受けてフランス上院議会は、ペットショップでの犬・猫の展示販売、インターネットでの直接販売を禁止する法律を可決(2024年施行)。衝動購入を制度的に防ぐ方向へと舵を切りました。

 

アメリカ:ニューヨーク州が「パピーミル禁止」を実現

アメリカでは、コロナ禍に5人に1人がペットを新たに迎えるほどのブームが起きました。その一方で、劣悪な環境で大量繁殖させる悪質なブリーダー(通称:パピーミル)の問題が深刻化。2022年6月、ニューヨーク州では犬・猫・ウサギのペットショップ販売を禁止する「パピーミルパイプライン法」が可決 されています。


行政・自治体の取り組み——法改正と制度の変化

 

動物愛護管理法の改正が意味すること

日本では、動物愛護管理法が繰り返し改正されてきました。 主なポイントは以下の通りです。

  • 2019年改正:ペット販売業者へのマイクロチップ装着の義務化(2022年6月施行)
  • 2019年改正:従業員1人あたりの飼育頭数の上限規制の導入
  • 引取拒否の明確化:飼い主から安易な理由で持ち込まれた場合、行政が引取を断れるようになった
  • 罰則の強化:動物虐待・遺棄に対する罰則が強化された(最大1年以下の懲役または100万円以下の罰金)

マイクロチップの義務化は、遺棄された動物の所有者特定を容易にする点で重要な意味を持ちます。 飼い主が誰であるかが追跡できるようになることで、無責任な遺棄への抑止力になり得ます。

 

自治体ごとの格差という現実

課題のひとつは、自治体間の取り組みに大きな格差があることです。

保護期間を例にとると、北海道旭川市の動物愛護センターでは最低14日間の保護期間が設けられていますが、一部の自治体では5日間という短い設定のところもあります。 この「保護期間の長さ」は、譲渡が成立するかどうかに直接影響します。旭川市が2021年度に犬猫の殺処分数ゼロを記録した背景には、こうした手厚い取り組みがあります。

 

また、都道府県別の殺処分数・率には大きな差があります。 令和5年度(2023年度)のデータでは、犬の殺処分ワースト1は徳島県、猫の殺処分ワーストは福島県・兵庫県・岐阜県が上位に挙がっています。一方、神奈川県は10年以上にわたり犬の殺処分ゼロを達成し続けています。


殺処分ゼロを実現した地域の共通点

 

神奈川県——10年超の「殺処分ゼロ」継続の秘密

神奈川県は、犬について10年以上・猫について9年以上にわたり、殺処分ゼロを達成しています(2022年度時点)。

その背景には、以下のような取り組みがあります。

  • 動物愛護センターと民間ボランティアの密な連携体制
  • 収容動物の積極的なSNS・Web発信による譲渡促進
  • 飼い主への啓発活動の充実(飼育前教育)
  • 収容期間の確保と、譲渡先を粘り強く探す姿勢

 

奈良市——4年連続殺処分ゼロの仕組み

奈良市は2019年から4年連続で犬猫の殺処分ゼロを達成しました(自然死・安楽死を除く)。 その取り組みの柱となったのが、「犬猫サポート寄附金」制度です。

ふるさと納税を通じて返礼品なしの寄付を募り、集まった資金を子猫のミルク・フード・ペットシーツ・薬品の購入や、ボランティアへの支援に充てています。2022年度は2,017件、7,780万円の寄付が集まりました。

 

共通点を整理すると

殺処分ゼロを実現した地域には、以下の共通点が見えます。

  1. 行政と民間が「役割分担」ではなく「協働」している
  2. 情報発信を積極的に行い、譲渡希望者を継続的に増やしている
  3. 財源の確保に創意工夫がある(ふるさと納税・クラウドファンディング等)
  4. 飼育前の啓発教育に力を入れている
  5. 地域猫(TNR)活動との連携がある

これらは、どの自治体でも応用可能なモデルです。 問題は「予算がない」ではなく、「仕組みを作る意志があるかどうか」とも言えます。


私たちにできること——個人でできる5つのアクション

 

行政や保護団体の取り組みを批評するだけでは、問題は変わりません。 私たち一人ひとりが「自分ごと」として動くことが、最終的に犬猫の命を救います。

 

① 飼う前に「10年後」を想像する

犬の平均寿命は約14.8歳、猫は約16歳です(アニコム損害保険調べ)。 ペットを迎えることは、10〜15年以上の責任を引き受けることを意味します。

飼う前に、次の問いに正直に向き合いましょう。

  • 10年後、自分の生活環境はどうなっているか?
  • 月に数万円の飼育費(フード・医療費・トリミング等)を継続的に払えるか?
  • 自分が入院・死亡した場合、引き継いでくれる人がいるか?

「今は大丈夫」だけでなく、未来のリスクシナリオを具体的に想定することが大切です。

 

② ペットショップではなく、保護施設から迎える選択肢を知る

マース ジャパンの調査によると、日本ではペットを迎える先として保護施設・シェルターを検討している人は犬猫ともにわずか2割程度にとどまっています。

保護犬・保護猫は「問題がある動物」ではありません。 過去の環境によって臆病になっていたり、少しのケアが必要だったりすることはありますが、多くの場合、時間をかけて関係を築くことで立派な家族の一員になります。

ペットを迎えることを検討している方は、ぜひ地元の動物愛護センターや保護団体を訪ねてみてください。 ※保護犬・保護猫の探し方については、別記事でも詳しく解説しています。

 

③ 不妊・去勢手術を必ず行う

飼い猫・飼い犬の不妊・去勢手術は、意図しない繁殖を防ぐ最も確実な方法です。

「うちは完全室内飼いだから大丈夫」と思う方も多いですが、逃げ出した場合や多頭飼いの場合には思わぬ繁殖が起こり得ます。また、地域に逃げ出した動物が野良猫・野良犬の増加につながるケースもあります。

手術費用が心配な方には、自治体による助成制度がある場合があります。 お住まいの市区町村の動物愛護担当窓口に問い合わせてみてください。

 

④ 保護活動を金銭・時間・物品で支援する

「ペットを飼う状況ではないが、何かしたい」という方にできることもあります。

  • 動物愛護センターや保護団体への寄付・ふるさと納税
  • ペットフードや消耗品などの物品支援
  • 譲渡会の運営や、一時預かりボランティアとしての時間の提供
  • SNSでの保護犬・保護猫の情報拡散(譲渡先が見つかれば命が救われます)

保護団体1頭あたりの年間費用は約42万円(ワクチン・治療費・人件費・飼料等の合計)とも言われています。 継続的な支援こそが、団体の活動を支えます。

 

⑤ 身近な「多頭飼育崩壊の予兆」に気づいたら行動する

近隣で「異常な数の鳴き声がする」「強烈な臭いがする」「捨てられた動物を複数見かける」といった状況に気づいた場合は、地域の動物愛護センターや行政窓口に相談することをためらわないでください。

早期発見・早期介入が、崩壊を防ぐ最大の鍵です。 多頭飼育崩壊は、飼い主本人も追い詰められているケースが多く、外からのサポートを必要としています。


まとめ

 

コロナ後の犬猫放棄問題は、ペットブームという「明るい話題」の裏側に生まれた、静かで深刻な現実です。

改めてポイントを整理します。

  • コロナ禍で新規飼育者が急増し、準備不足のまま命を迎えた人が増えた
  • 環境省データによれば、2023年度も44,576頭の犬猫が引き取られ、9,017頭が殺処分されている
  • 飼育放棄の背景には、経済・環境・健康・高齢化など複合的な要因がある
  • 殺処分数の減少は「問題の解消」ではなく、民間保護団体が限界に近い状態で支えている現実がある
  • 神奈川県・奈良市など殺処分ゼロを実現した地域には「行政と民間の協働」という共通点がある
  • 飼育前の準備・不妊去勢手術・保護施設からの縁組・寄付・情報拡散など、個人でできることは多い

動物福祉の問題は、「かわいそう」という感情だけでは変わりません。 正しく知り、具体的に動くことが、命をつなぐ最初の一歩です。

あなたがこの記事を読んだことが、一頭の犬猫の未来を変えるきっかけになるかもしれません。 まず今日、地元の動物愛護センターのウェブサイトを一度開いてみてください。


参考資料・出典

  • 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和5年度版)」
  • 環境省「動物愛護管理行政事務提要(令和5年度版)」
  • 一般社団法人ペットフード協会「令和4年全国犬猫飼育実態調査」
  • 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva 統計資料
  • 経済産業省 商業動態統計(ペット・ペット用品販売額)
  • 内閣府「令和元年度 環境問題に関する世論調査」
  • アニコム損害保険「ペットにかける年間支出調査(2023年)」
  • マース ジャパン「飼い主のいないペットの現状把握プロジェクト(2022-2023年)」
  • 王立動物虐待防止協会(RSPCA)2022年報告書

この記事は動物福祉専門ライターが公的機関の統計データをもとに作成しています。最新の統計については、環境省の公式サイトをご確認ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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