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犬がイチゴジャムのような血の下痢をした|急性出血性下痢症候群(AHDS)で本当に起きていること

突然、イチゴジャムのような赤い水様の下痢が出たら、その時点で動物病院に電話してください。英語の文献では「ラズベリージャムのよう」と表現される、急性出血性下痢症候群(AHDS。以前は出血性胃腸炎=HGEと呼ばれていました)に特徴的な所見です。

この病気の中心にあるのは、出血そのものではありません。腸の中へ水分・血漿タンパク・赤血球が漏れ出て、血管の中の血液が濃くなっていくことです。そのためヘマトクリット(PCV)はしばしば60%を超え、血が出ているのに貧血にはならないという逆のことが起こります。見た目の血の量と、体の中で起きていることの危険度は一致しません。治療の柱は静脈からの輸液で、これは動物病院でしかできません。

「血が出ているから止血と栄養」ではありません。失われているのは血管内の体液で、必要なのは血管に直接入れる輸液です。家庭で水を飲ませて追いつく量ではありません。

人用の下痢止め(ロペラミド/イモジウムなど)を与えないでください。MDR1(ABCB1)遺伝子の変異を持つ犬では、下痢の治療に使う量で神経毒性が起こります。この変異は雑種でも持っていることがあります。

抗菌薬(抗生物質)が出なくても、いいかげんな診療ではありません。敗血症の徴候がない犬では、抗菌薬に効果が認められなかったことが無作為化・プラセボ対照の試験で示されています。詳しくは本文で説明します。

まず確認すること

電話の前に、次のことを確かめてメモしてください。便そのものが最大の情報なので、すべて流してしまう前に写真を撮ってください。

  1. 便の色と性状(真っ赤な水様か、黒いタール状か、粘液が混じるか)。写真を撮る
  2. 血性の下痢が始まった時刻と、それまでの回数・間隔
  3. 嘔吐の有無・回数・内容(あれば吐いた物も写真を撮る)
  4. 元気・食欲・飲水の変化(水を飲もうとするか、飲んでもすぐ吐くか)
  5. 歯ぐきの色(白い/薄いピンク/濃い赤〜レンガ色)。上唇をそっとめくって見る。強く触らない
  6. 呼吸と脈が速くなっていないか、体や耳・足先が冷たくないか
  7. 体重(脱水の評価と輸液量の計算に必要)、犬種、年齢
  8. ワクチンの接種歴(特にパルボ)と最終接種日、駆虫歴
  9. この1週間に食べたもの、拾い食い、フードやおやつの変更
  10. 殺鼠剤・薬・植物・ゴミ・玩具に触れた可能性(数日前まで遡って思い出す。パッケージがあれば持参する)
  11. 同居犬にも同じ症状が出ていないか

「小型犬に多い」は正しいが、小型犬だけの病気ではない

MSD獣医マニュアルは、AHDSでは若い犬(年齢の中央値5歳)と小型犬・トイ犬種が多いとし、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ピンシャー、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・プードル、マルチーズを挙げています。

一方、デンマークの二次診療施設でAHDSが疑われた犬237頭を解析した研究では、体重の中央値は群によって10.2〜17.8kgで、犬種はラブラドール・レトリバー10.9%、雑種8.4%、ミニチュア・シュナウザー5.5%、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル5.0%と、中型犬・大型犬も相当数含まれていました。

つまり「小型犬に多い」は正しく、「小型犬以外は考えなくてよい」は誤りです。ただし、体が小さいほど失われる体液の割合が大きくなるため、超小型犬や子犬では同じ量の下痢でも危険度が上がります。

すぐ動物病院へ相談すべきサイン

イチゴジャムのような下痢が出た、それだけで受診の対象です。そのうえで、次のどれかが加われば、より急ぐ状況になります。

  • イチゴジャム/ラズベリージャムのような、赤い水様の下痢が出た
  • 下痢に加えて嘔吐を繰り返している
  • ぐったりして反応が鈍い、呼びかけへの反応が弱い
  • 歯ぐきが白い・灰色っぽい、または逆に濃い赤〜レンガ色をしている
  • 立てない、ふらつく、震えている
  • 体が冷たい、耳や足先が冷たい
  • 呼吸が速い、心拍が速い
  • 水を飲もうとしない、飲んでもすぐ吐く
  • お腹を触ると痛がる、丸まって動かない
  • 子犬(特にワクチン未接種・接種途中)、超小型犬、高齢犬、持病のある犬(体液の余力が小さく、短時間で危険な状態に入ります)
  • 皮下のあざ・鼻血・黒いタール状の便をともなう(凝固の異常や殺鼠剤中毒の可能性)
  • 同居犬にも同じ時期に同じ症状が出ている(感染性を疑います。必ず病院に伝えてください)

「発症から何時間以内に受診」という時間の目安は、この記事では書きません。AHDSについて時間の閾値を示した一次資料は確認できませんでした。MSD獣医マニュアルが示しているのは「速やかな静脈内輸液」という表現です。時間を書くと、その時間までは待ってよいと読めてしまいます。血性の下痢が出た日のうちに受診してください。夜間なら夜間・救急動物病院に電話してください。

何が起きているのか|出血ではなく「体液が腸に抜ける」病気

AHDSでは、腸の透過性が高まり、水分・血漿タンパク・赤血球が腸管の中へ漏れ出します。血液が体の外に押し出されているというより、血管の中身が腸の内側に移動していく、という理解のほうが実態に近い病態です。

その結果、検査ではふつうと逆のことが起きます。MSD獣医マニュアルは、AHDSの検査所見として「しばしばPCVが60%を超える血液濃縮」と、総血漿タンパクが正常またはわずかに低下する組み合わせを挙げ、「貧血は予想されない」と明記しています。

これが、便に大量の血が出ているように見えるのに、危険なのは出血ではなく循環している血液の量が急速に減っていくことである理由です。数時間で循環不全(低容量性ショック)に至りうるのはこのためで、必要な治療は止血でも栄養でもなく、失われた体液を血管の中に戻す静脈内輸液になります。

適切な治療を行った場合の予後は良好とされ、MSD獣医マニュアルは入院した犬の死亡率を10%未満としています。裏を返せば、治療しなければ死亡のリスクは大きく上がるということです。「その日は安静にして様子をみる」という選択が、そのまま受診の遅れになります。

水をたくさん飲ませておけば脱水は防げる、という考えは成り立ちません。短時間で大量の体液が腸へ失われ、多くの犬は同時に嘔吐しています。口から入れた水は吸収される前に吐き戻されるか、そのまま下痢として出ていきます。しかも意識が落ちてきた犬に水を飲ませると、誤嚥の危険があります。

抗菌薬(抗生物質)は、原則として必要ありません

血便が出たのだから細菌感染で、抗生物質をもらえば治る——これは今の獣医療の考え方とは違います。根拠は、前向きの無作為化・プラセボ対照・盲検試験です。

ミュンヘン大学の小動物内科クリニックで行われた試験では、出血性胃腸炎(当時の呼び名)と診断された犬60頭を、アモキシシリン/クラブラン酸を7日間投与する群と、プラセボ(見た目が同じ偽薬)群に無作為に割り付けました。組み入れの条件は発症3日以内の急性出血性下痢で、抗菌薬をすでに使っていた犬、敗血症の徴候がある犬、血便を起こす他の病気と診断された犬は除外されています。60頭中53頭が試験を完了し、死亡率・脱落率・入院期間・臨床症状の重症度のいずれにも有意な差は認められませんでした。結論は「敗血症の徴候がないこれらの犬では、抗菌薬は転帰や回復までの時間を変えない可能性がある」というものです。

実際の診療のデータも同じ方向を向いています。AHDSが疑われた犬237頭の解析では、62%は抗菌薬なしで治療され、全体の生存退院率は96%でした。2剤を投与された群の生存率は77%と、それ以外の群の97%より低い結果でしたが、これは重症例ほど抗菌薬が使われたという偏りで説明できるため、抗菌薬が害だったとは断定できません。重要なのは、使ったほうが良いという根拠が出ていないという点です。

現在の位置づけは明確です。MSD獣医マニュアルは、AHDSの治療の柱を「速やかな静脈内輸液」とし、注射による抗菌薬は全身性の疾患が懸念される重症例、著明な好中球増多(25×10⁹/Lを超える)、好中球減少、敗血症が疑われる場合に限って推奨されるとしています。

つまり抗菌薬が処方されなかったことは、診療が雑だったサインではありません。主役は輸液と入院管理です。不要な抗菌薬は、薬剤耐性と副作用のリスクを増やします。

netF毒素について|「原因が分かった」とはまだ言えない

近年、クロストリジウム・パーフリンゲンス(ウェルシュ菌)のnetE/netF毒素遺伝子とAHDSの関連が注目されています。犬174頭を対象とした研究では、糞便のリアルタイムPCRでnetE/netF陽性となったのは、AHDS群で26/54(48.1%)、パルボウイルス感染群で0/54(0%)、健康な犬で8/66(12.1%)と有意に異なりました(P<.001)。

ただし、この論文の著者ら自身が「これらの毒素がAHDSの原因(inciting cause)であるかどうかを評価するには、さらなる研究が必要である」と結論しています。原因が確定したわけではありません。実際、同じ研究のAHDS群の中では、毒素遺伝子が陽性か陰性かで、回復までの時間も入院期間も検査値も変わりませんでした。

同じ論文は「抗菌薬投与の判断を、糞便PCRの陽性結果だけに基づいて行うべきではない」とも述べています。「netF陽性だから抗生物質が必要」という理屈は成り立ちません。判断の材料になるのは全身状態であって、便のPCRではありません。

見分けが必要な病気|パルボウイルスと殺鼠剤中毒

血性の下痢は、AHDS以外でも起こります。いずれも家庭では区別できません。ここでは「病院に何を伝えれば区別が進むか」という観点で整理します。

特徴として挙げられていること病院で行われること/伝えること
AHDS(急性出血性下痢症候群)突然の大量の血性下痢。嘔吐・食欲廃絶・元気消失・腹痛をともなう。血液が濃縮し、PCVがしばしば60%を超える血液検査での血液濃縮の確認、静脈内輸液と入院管理
パルボウイルス感染症ワクチン未接種・不完全接種の生後6週〜6か月の犬に多い。感染から通常5〜7日で発症し、24〜48時間のうちに出血性の下痢が現れる。ただし約25%は血便をともなわない糞便中抗原のELISA、血液検査(中等度〜重度の白血球減少)。ワクチン歴と他の犬との接触歴を伝える
抗凝固性殺鼠剤の中毒摂取から通常3〜7日後に症状が出る。脱力、粘膜蒼白、吐血、黒いタール状の便、血便、体腔内への出血による呼吸困難、皮下出血凝固の検査。数日前までの行動範囲と、パッケージがあれば現物を持参する

殺鼠剤の中毒で症状が遅れて出るのには理由があります。ビタミンKの再利用が阻害されて第II・VII・IX・X凝固因子が作れなくなりますが、すでに体内にある凝固因子の半減期が6.2〜16.5時間あるため、在庫が尽きるのは摂取から24〜64時間後になります。「最近は何も変なものを食べていない」という記憶とずれるのは、このためです。数日前の散歩や庭での出来事まで遡って思い出してください。

パルボについては、ワクチンを打っているから大丈夫、という考え方は使えません。接種歴が不完全なことも、ブースターの時期がずれていることもあります。そして何より、パルボでないことはAHDSの安心材料になりません。AHDS自体が数時間で循環不全に至りうる病態です。

このほか、腸に物理的な異常(重積・異物・腫瘍)が隠れていることもあります。だからこそ、画像検査を含めた診察が必要になります。

今、自宅でできること

ここに書くのは治療ではありません。これ以上悪くしないことと、診察に必要な情報をそろえることが目的です。

  1. 便の写真を撮る。実物を持参できるなら、ビニール袋を二重にして持っていく
  2. 血便が出た時刻と、それまでの経過(いつから/何回目か)をメモする
  3. 嘔吐があれば、吐いた物の写真も撮る
  4. 動物病院に電話し、症状を伝えて受診の時間を確認する。時間外なら夜間・救急動物病院に電話してから向かう
  5. 犬を静かで暖かい場所に寝かせ、無理に動かさない
  6. 毛布などをかけて体温が下がらないようにする
  7. 水は自分から飲む分を妨げない。ただし無理に飲ませない。ぐったりして意識がはっきりしないときは、口に何も入れない
  8. 最近与えたフード・おやつ、拾い食いの可能性、届く場所にあった薬・殺鼠剤・観葉植物などを書き出す(パッケージがあれば持参する)
  9. ワクチンの接種歴と駆虫歴を確認しておく
  10. 同居動物がいれば隔離し、便を処理したあとは手洗いと消毒を行う(感染性の可能性があるため)
  11. 移動用のキャリーとペットシーツ、タオルを用意する(移動中に排泄する可能性が高いためです)

やってはいけないこと

以下は犬を危険にさらすか、受診を遅らせる行為です。ひとつも行わないでください。

  • 「1日だけ様子をみよう」「絶食させれば治る」と、家で経過を追う。AHDSは腸から体液が抜けて血液が濃縮する病態なので、家で見ている時間がそのまま受診の遅れになります
  • 人用の下痢止め(ロペラミド/イモジウムなど)を与える(理由はこのあと説明します)
  • 市販の整腸剤・胃薬を自己判断で与える
  • 以前この犬や他の犬に処方された抗生物質・整腸剤の残りを与える
  • 獣医師の指示なしに人用の解熱鎮痛薬を与える
  • 意識がはっきりしない犬の口に、水・スポーツドリンク・経口補水液を流し込む(誤嚥の危険があります)
  • 食欲がないのに無理に食べさせる
  • 自宅で吐かせようとする。オキシドール(過酸化水素水)や食塩水を飲ませる、指を喉に入れるといった方法は、現在はいずれも推奨されません。中毒が疑われる場合も同じです
  • 牛乳・ヨーグルト・油・塩などを「腸をきれいにする」目的で与える
  • お腹をマッサージする、温めすぎる
  • 便や吐いた物をすべて処分してしまう(診断の材料になります)
  • 電話をせずに、いきなり夜間病院へ向かう

人用の下痢止め(ロペラミド)が危険な理由

ワシントン州立大学(WSU)の解説は、ロペラミドについて「下痢の治療に用いる用量で、MDR1変異を持つ犬に神経毒性を起こす」「MDR1変異を持つすべての犬で、この薬は避けるべきである」と明記しています。

MDR1(ABCB1)は、脳へ薬が入るのを防ぐしくみに関わる遺伝子です。この変異を持つ犬では、通常なら脳に入らないはずの薬が中枢に届いてしまいます。同大学が示す変異の保有率は、コリー70%、オーストラリアン・シェパード50%、ミニチュア・オーストラリアン・シェパード50%、ロングヘアード・ウィペット50%、マクナブ30%、シルケン・ウィンドハウンド30%、チヌーク25%、シェットランド・シープドッグ15%、イングリッシュ・シェパード15%、ジャーマン・シェパード10%、牧羊犬系のミックス10%、オールド・イングリッシュ・シープドッグ5%、雑種5%、ボーダー・コリー5%未満です。

つまり雑種でも持っていることがあり、遺伝子検査を受けていなければ飼い主には分かりません。そのうえ、下痢を薬で止めることは、原因(感染・中毒・閉塞)の診断を遅らせます。薬でふたをする場面ではありません。

MDR1(ABCB1)の遺伝子検査を受けたことがあるなら、その結果は病院で必ず伝えてください。他の薬を選ぶときにも判断材料になります。

動物病院へ伝える情報

電話の最初に「イチゴジャムのような血の下痢が出た」と伝えてください。そのうえで、分かる範囲で次を伝えます。

  • 血性の下痢が始まった時刻と、それまでの回数・間隔
  • 便の色と性状(真っ赤な水様か、黒いタール状か、粘液が混じるか)と、便の写真か実物
  • 嘔吐の有無・回数・内容(吐いた物の写真)
  • 元気・食欲・飲水の変化
  • 体重(脱水の評価と輸液量の計算に必要)と犬種・年齢
  • ワクチンの接種歴(特にパルボ)と最終接種日、駆虫歴
  • この1週間に食べたもの、拾い食い、おやつやフードの変更
  • 殺鼠剤・薬・植物・ゴミ・玩具に触れた可能性(数日前まで遡って)
  • 現在服用している薬・サプリメント
  • 同居動物の状況、ドッグラン・トリミング・ペットホテルなど他の犬との接触歴
  • 持病(心臓、腎臓、内分泌疾患など)と、過去に同じようなことがあったか
  • MDR1(ABCB1)の遺伝子検査を受けたことがあれば、その結果
  • すでに家庭で薬や食べ物を与えてしまった場合は、正直に伝える(治療の判断が変わります)

病院での検査と治療

まず身体検査で脱水と循環の状態を評価し、血液検査を行います。ここでPCV(ヘマトクリット)が高く、総タンパクが正常またはわずかに低いという組み合わせが出れば、血液濃縮が起きていることの裏づけになります。血便が出ているのに貧血がないという所見が、診断の手がかりになります。

パルボが否定できない場合は糞便中抗原の検査を行い、白血球の数も確認します。凝固の異常が疑われれば凝固の検査を、腸に物理的な異常が疑われればレントゲンや超音波などの画像検査を行います。

治療の柱は静脈内輸液です。血管の中に失われた体液を戻し、循環を保ちます。あわせて制吐薬や鎮痛薬、状態に応じた栄養管理が行われます。抗菌薬は、重症例や敗血症が疑われる場合に限って使われます。

自宅での絶食については、この記事では是非を論じません。急性の胃腸炎全般について異なる推奨が流通しており、AHDSに限定した比較試験を確認できなかったためです。ここで重要なのは、絶食させて自宅で経過を見ること自体が受診の遅れになるという一点です。食事をどう再開するかは、診察を受けたうえで獣医師に確認してください。

夜間・休日でかかりつけの動物病院が閉まっている場合

夜間や休診日にかかりつけの病院が閉まっているときは、近くの夜間・救急動物病院を確認してください。向かう前に必ず電話をしてください。夜間は予約制のところや、受け入れられる状態かどうかがその時々で変わるところがあります。

電話では、「何が起きたか」「いつからか」「犬の年齢と体重」「今の様子」を伝えてください。その場でできることを教えてもらえたり、より適した病院を案内してもらえることがあります。

電話では「イチゴジャムのような赤い水様の血便が出た」「嘔吐の有無」「今の意識と歯ぐきの色」「体重と犬種」「ワクチン歴」を伝えてください。感染性が否定できないため、来院の方法を指示されることがあります。

移動中に排泄する可能性が高いので、ペットシーツとタオル、二重にしたビニール袋を用意しておいてください。便の実物は診断の材料になります。

あわせて読みたい

よくある質問

イチゴジャムのような下痢が1回出ただけです。様子を見てもいいですか?

受診してください。AHDSでは短時間で腸に体液が抜け、血液が濃縮して循環不全に至りうるためです。

MSD獣医マニュアルはPCVがしばしば60%を超えると記載し、「貧血は予想されない」と明記しています。見た目の血の量と、体の中で起きていることは一致しません。

治療の柱は速やかな静脈内輸液で、これは動物病院でしかできません。その日のうちに電話をして受診してください。夜間なら夜間・救急動物病院に電話してください。

抗生物質を出してもらえませんでした。ちゃんと治療されているのでしょうか?

それが現在の標準的な考え方です。敗血症の徴候がない犬では、無作為化・プラセボ対照・盲検の試験(60頭)で抗菌薬に有益性が認められませんでした。死亡率、入院期間、症状の重さのいずれにも差がありませんでした。

実際の診療のデータでも、AHDSが疑われた237頭のうち62%は抗菌薬なしで治療され、全体の生存退院率は96%でした。MSD獣医マニュアルは、注射の抗菌薬を「重症例・著明な好中球増多・好中球減少・敗血症疑い」に限って推奨しています。

主役は輸液と入院管理です。不要な抗菌薬は、薬剤耐性と副作用のリスクを増やします。

クロストリジウム(netF毒素)が原因だと聞きました。検査して抗生物質で治すべきですか?

netE/netF毒素遺伝子を持つ菌は、AHDSの犬の便から48.1%で検出され、健康な犬の12.1%より有意に高いという結果が出ています(犬174頭、P<.001)。関連があることは確かです。

ただし、この論文の著者ら自身が「これらの毒素が原因かどうかを判断するには、さらなる研究が必要」と結論しています。原因が確定したわけではありません。同じ研究のAHDS群では、毒素遺伝子の陽性・陰性で回復までの時間も入院期間も検査値も変わりませんでした。

同じ論文は「抗菌薬投与の判断を、糞便PCRの陽性結果だけに基づいて行うべきではない」とも述べています。判断の材料になるのは全身状態であって、便のPCRではありません。

人間用の下痢止めを、少量なら飲ませてもいいですか?

与えないでください。ロペラミド(イモジウムなど)は、MDR1(ABCB1)遺伝子変異を持つ犬では、下痢の治療に使う用量で神経毒性を起こします。ワシントン州立大学は「MDR1変異を持つすべての犬で避けるべき」としています。

この変異はコリーで70%、シェットランド・シープドッグで15%、ジャーマン・シェパードで10%、雑種でも5%が持っています。遺伝子検査を受けていなければ、飼い主には分かりません。

さらに、下痢を薬で止めることは、原因(感染・中毒・閉塞)の診断を遅らせます。

パルボウイルスとの違いは、どこで分かりますか?

家庭では見分けられません。病院の糞便抗原検査(ELISA)と血液検査で区別します。パルボでは中等度から重度の白血球減少がみられるのが特徴です。

パルボはワクチン未接種・不完全接種の生後6週〜6か月の犬に多く、強い感染力があります。ただし約25%のパルボは血便をともないません。「血便だからパルボ」「血便がないからパルボではない」とは言えません。

同居犬がいる場合は、感染性を前提に隔離と消毒を行い、来院時に必ず病院へ伝えてください。

殺鼠剤を食べたかもしれませんが、心当たりがありません。

抗凝固性の殺鼠剤では、症状が出るのは摂取から通常3〜7日後です。心当たりの時期がずれるのは、この病態では珍しくありません。すでに体内にある凝固因子の半減期が6.2〜16.5時間あるため、在庫が尽きるのは摂取から24〜64時間後になります。

血便や黒いタール状の便に加えて、粘膜の蒼白、皮下のあざ、吐血、呼吸が苦しいといった所見があれば強く疑われます。数日前までの行動範囲を病院に伝えてください。

パッケージが残っていれば持参してください。商品名で有効成分と必要な治療期間が変わります。自宅で吐かせようとしないでください。時間が経った中毒では意味がないうえ、危険です。

夜中に大量の血便が出ました。朝まで待てますか?

待たないでください。AHDSは数時間のうちに循環している血液の量が減り、ショックに至りうる病態です。特に嘔吐を繰り返している、ぐったりしている、歯ぐきが白い、水も飲めないという場合は急いでください。

まず夜間・救急動物病院に電話し、発症時刻、便の性状、嘔吐、意識、歯ぐきの色、体重、犬種、ワクチン歴を伝えて受け入れを確認します。

便の写真を撮り、可能なら実物を二重の袋に入れて持参してください。移動中に排泄する可能性が高いので、ペットシーツとタオルも用意してください。

まとめ

  • イチゴジャムのような赤い水様の下痢が出たら、その時点で受診の対象。血が出ているのに貧血にはならず、PCVはしばしば60%を超える
  • 危険なのは出血ではなく、腸へ体液が抜けて循環している血液の量が減ること。見た目の血の量と危険度は一致しない
  • 治療の柱は静脈内輸液で、動物病院でしかできない。水を飲ませて追いつく量ではない
  • 敗血症の徴候がない犬では抗菌薬に有益性が認められていない(無作為化・プラセボ対照試験)。処方されなくても不適切な診療ではない
  • netF毒素は関連が示されているだけで、原因が確定したわけではない。論文の著者自身がさらなる研究が必要としている
  • 人用の下痢止め(ロペラミド)を与えない。MDR1変異を持つ犬では下痢の治療用量で神経毒性が起こり、雑種でも変異を持つことがある
  • 「小型犬に多い」は正しいが、小型犬だけの病気ではない。中型犬・大型犬でも起こり、体が小さいほど危険度は上がる

参考資料

この記事は次の資料を参照して作成しました(2026年9月9日確認)。記載内容は一般的な情報であり、個々の症例の診断・治療に代わるものではありません。判断に迷うときは、自己判断せず動物病院に相談してください。

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