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里山問題の解決策と保全~野生動物との共存への道~

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はじめに:失われつつある里山の重要性

 

日本の国土の約4割を占める里山は、森林と人里の中間に位置し、長い歴史の中で人々の暮らしとともに形成されてきた特別な環境です。雑木林、田畑、ため池、草原などが織りなす里山は、単なる自然景観ではなく、食料や木材の供給源として、また多様な生物の生息地として、私たちの生活を支えてきました。

しかし近年、人口減少や高齢化、産業構造の変化により、里山の環境が急速に変化しています。かつて当たり前だった人と自然の調和が崩れ、さまざまな問題が顕在化しています。里山問題の解決は、単に自然保護だけでなく、野生動物との共存、地域の持続可能性、そして私たちの暮らしの質を守ることにつながる重要な課題なのです。

 

 

里山が果たしてきた役割

 

里山は日本人の暮らしと密接に結びついた環境として、多様な機能を担ってきました。

 

生活資源の供給

里山は農林畜産業のフィールドとして、米や野菜、きのこ類などの食料を育み、建築材や燃料となる木材を供給してきました。かつては薪や炭、堆肥など、日常生活に欠かせない資源を得る場所でもありました。

 

 

水源涵養と防災機能

多くの草木が茂る里山では、雨水が時間をかけて土壌に浸透し、地下水として蓄えられます。これにより水源が確保されるだけでなく、集中豪雨時の洪水緩和にも貢献しています。豊かな土壌は、コンクリートの地面と比較してはるかに多くの水を吸収し、台風や大雨による災害から人里を守る重要な役割を果たしています。

 

 

生物多様性の保全

里山は、原生林とも都市部とも異なる独特の生態系を形成しており、多種多様な生物の生息地となってきました。適度な人間活動により維持される半自然環境は、草原性の昆虫、小動物、鳥類など、さまざまな生物にとって重要な生息空間です。

 

 

野生動物との緩衝地帯

里山は、奥山に生息する野生動物と人間の生活圏を分ける緩衝地帯としても機能してきました。定期的に人が出入りし、見通しの良い環境を維持することで、野生動物が人里に接近することを自然に防いできたのです。

 

 

深刻化する里山問題の実態

 

人の手が入らなくなった里山の荒廃

高度経済成長以降、エネルギー革命や生活様式の変化により、里山での人々の営みが急速に減少しました。薪や炭に代わる化石燃料の普及、化学肥料の登場、林業の縮小などにより、里山に立ち入る必要性が失われたのです。

人の手が入らなくなった里山では、生育しきった常緑樹が放置され、伸び放題の葉が空気の流れを遮るようになります。その結果、地面に日光が届かず、新しい草木が生えにくくなり、土壌がもろくなっていきます。かつては人間による適度な間伐や伐採が自然の再生を促していましたが、それが行われなくなることで、里山の環境が急速に悪化しているのです。

 

 

野生動物による被害の増加

里山管理の衰退により、最も深刻化している問題の一つが野生動物による農作物被害です。令和4年度の野生鳥獣による農作物被害額は約156億円にも上り、地域農業に深刻な影響を及ぼしています。

シカやイノシシ、ニホンザル、ハクビシンなどによる被害は年々増加傾向にあります。特にシカは繁殖力が強く、分布地域が拡大し続けており、農作物被害の原因の第1位となっています。また、森林被害面積の約7割をシカが占めるなど、農業だけでなく森林生態系にも深刻な影響を与えています。

野生動物が人里に出没するようになった背景には、緩衝帯としての里山の機能低下があります。本来、野生動物は臆病で人間を避ける習性がありますが、人の気配が薄れた里山を経由して、農地や集落に容易に接近できるようになりました。さらに、耕作放棄地が増加したことで、野生動物にとって身を隠しやすい環境が人里近くに広がってしまったのです。

 

 

生物多様性の危機

環境省と日本自然保護協会の調査によれば、里山や里地に生息する鳥類や蝶類などの個体数が急速に減少しています。スズメやオナガ、国蝶であるオオムラサキなど、かつて身近に見られた種が、絶滅危惧種認定基準以上の減少率を示しているのです。

これらの生物種減少の主原因は里山の荒廃です。農地や草原、湿地などの開けた環境に生息する種が特に影響を受けており、人と自然の関わりによって維持されてきた豊かな生態系が失われつつあります。

 

 

防災機能の低下

里山の環境悪化は、防災面でも深刻な問題を引き起こしています。土壌が悪化すると、台風や大雨の時に水を吸収しにくくなるだけでなく、土砂崩れも起こりやすくなります。地盤がもろくなることで、人里の安全性も脅かされているのです。

 

 

その他の環境問題

人が立ち入らなくなった里山には、産業廃棄物や粗大ゴミなどの不法投棄が横行するリスクも高まっています。また、適切な管理が行われないことで、ナラ枯れやマツ枯れなどの病害が拡大し、里山の不健康化が顕在化しています。

 

 

野生動物との共存という視点

 

里山問題を考える上で重要なのは、野生動物を単なる「害獣」として捉えるのではなく、共存のパートナーとして位置づけることです。

 

 

野生動物出没の真の原因

野生動物が人里に出没するようになった原因は、単に個体数が増えたからではありません。むしろ、集落側に野生動物を誘引する環境が整ってしまったことが大きな要因です。

森林内の小さな食物を探して生活している野生動物にとって、野菜や果樹などの農作物は高栄養で消化率が高く、非常に魅力的な食物資源です。しかも農地に集中して栽培されているため、採食効率が極めて良い理想的な採食場所となっています。

さらに、放置された野菜や稲刈り後のひこばえなど、人間が「被害」と感じない餌が集落内に存在することも、野生動物を引き寄せる要因となっています。加えて、人口減少や高齢化により人の気配が薄れ、繁茂した竹林や雑木林が集落の裏まで迫り、野生動物の接近を容易にしているのです。

 

 

駆除だけでは解決しない理由

多くの地域では野生動物の駆除が行われていますが、駆除だけでは根本的な解決にはなりません。野生動物を引き寄せる環境が改善されなければ、駆除してもまた別の個体が出没するという悪循環に陥ってしまいます。

本来、個体群の保護と管理は一体であるべきです。モニタリングに基づく計画的な個体数調整、生息地管理、被害防除を組み合わせた「ワイルドライフ・マネジメント」という考え方で、順応的に進めることが重要です。

 

 

共存への道筋

野生動物との共存を実現するためには、人と野生動物の生活圏を適切に分け、それぞれが安心して暮らせる環境を整えることが必要です。そのカギとなるのが、緩衝地帯としての里山の再生なのです。

里山を適切に管理し、見通しの良い環境を維持することで、野生動物が人里に接近しにくい状況を作り出すことができます。同時に、奥山の環境を保全し、野生動物が山で十分な食物を得られるようにすることも重要です。

 

 

里山問題の具体的な解決策

 

里山問題を解決し、野生動物との共存を実現するためには、多角的なアプローチが必要です。

 

 

1. 里山の適切な管理と保全活動

 

定期的な間伐・伐採の実施

里山を健康に保つためには、定期的な間伐や伐採が欠かせません。これは自然を破壊するのではなく、むしろ自然の再生を促す重要な活動です。適度に木を伐採することで、地面に日光が届き、多様な植物が育つ環境が整います。

 

緩衝地帯の整備

人里と山林の間に緩衝地帯を設けることが重要です。針葉樹を伐採して広葉樹を植林したり、草刈りを定期的に行ったりすることで、見通しの良い環境を作ります。野生動物はこのような明るく開けた場所を嫌うため、自然と人里への接近を避けるようになります。

 

市民参加型の保全活動

多くの地域で、市民ボランティアによる里山保全活動が活発に行われています。水田や林、草原の管理、調査活動、普及教育活動などの活動事例は年々増加しており、地域住民が主体となった取り組みが広がっています。

 

 

2. 耕作放棄地対策

 

農地の適切な管理

耕作放棄地は野生動物にとって身を隠しやすい環境であり、被害を深刻化させる要因の一つです。農地の受け手を見つけたり、地域で共同管理したりすることで、耕作放棄地の解消を図ることが重要です。

 

環境整備の徹底

放置された野菜や稲刈り後のひこばえなど、野生動物を引き寄せる餌を集落内からなくすことも効果的です。収穫残渣の適切な処理や、家庭菜園の管理徹底など、集落全体で取り組むことが求められます。

 

 

3. 地域ぐるみの獣害対策

 

獣害に強い集落づくり

野生動物対策を行政や狩猟者まかせにするのではなく、地域住民自らが主体的に取り組む「獣害に強い集落づくり」が重要です。まず集落で学習会や集落点検を実施し、住民自身がこれまで気づかなかった集落の弱点や、被害を防ぐための具体的な知識・技術を身につけます。

 

適切な防護柵の設置と維持管理

野生動物の行動特性を踏まえた有効な防護柵を設置することも重要ですが、設置方法が適切でなかったり、設置後の管理が不十分だったりすると、効果が得られません。地域全体で防護柵の設置・維持管理に取り組む体制が必要です。

 

効果的な追い払い活動

特にサルの場合、見てみぬふりをしたり、特定の人しか追い払いをしなかったりすると、サルが人馴れしてしまいます。集落全体で一貫した追い払い活動を行うことが重要です。

 

 

4. 新たな里山活用の仕組みづくり

 

木質資源の循環利用

伐採した木材を薪やペレットストーブなどに利用し、新しいライフスタイルとして楽しみながら里山資源の循環利用を行う取り組みが注目されています。木質バイオマスエネルギーとしての活用も、里山保全の動機づけとなります。

 

エコツーリズムの推進

地域の自然環境や歴史文化などの魅力を観光客に伝えるエコツーリズムは、その価値や大切さへの理解を深め、保全につながる仕組みです。里山の豊かな自然を体験できるプログラムを提供することで、交流人口の拡大と保全活動の持続性確保が期待できます。

 

環境教育の場としての活用

里山を教育のフィールドとして活用する「森のようちえん」などの取り組みが広がっています。地域の里山を保育資源として活用することで、保全・利活用につながるとともに、子どもたちの豊かな感性や創造性、社会性を育むことができます。

 

 

5. 協定・認定制度の活用

 

里山保全協定の締結

多くの都道府県や市町村で、土地所有者と活動団体が協定を締結し、自治体が認定・支援する制度が整備されています。これにより、私有地での保全活動が円滑に進められるようになります。

 

NPO法人や企業との連携

土地所有者に代わってNPO法人や企業が里山を管理する方法も増えています。自治体が認定し支援することで、持続的な管理体制を構築できます。

 

 

6. ICT・テクノロジーの活用

 

センサー技術による監視

野生動物の出没をセンサーで検知し、リアルタイムで情報共有するシステムの導入が進んでいます。早期の対応が可能となり、被害の未然防止に効果を発揮しています。

 

データ分析による科学的管理

野生動物の生息状況や行動パターンをデータで把握し、効果的な対策を立案することが可能になっています。モニタリングに基づく順応的管理が実現しつつあります。

 

 

7. 制度的支援の活用

 

国や自治体の支援制度

鳥獣被害防止特措法に基づき、市町村が被害防止計画を策定し、協議会を作って対策を推進する枠組みがあります。研修や普及、モデル集落育成などのソフト事業にも財政的措置が講じられています。

また、多面的機能支払交付金、中山間地域等直接支払制度、森林・山村多面的機能発揮対策交付金など、様々な支援制度が用意されており、これらを活用することで持続的な活動が可能となります。

 

 

成功事例から学ぶ

 

全国各地で、里山保全と野生動物との共存に向けた様々な取り組みが行われています。

岐阜県七宗町では、針葉樹林を伐採して広葉樹を植林し、人里と山林の間に緩衝地帯を整備する「ふる里・里山再生事業」を実施しています。この取り組みにより、野生鳥獣の農地への出没を減少させ、駆除による殺処分の軽減を図っています。

企業の参画も進んでおり、日立製作所は神奈川県秦野市に「ITエコ実験村」を開設し、地域や大学と協創しながら里山保全活動を展開してきました。ホンダも全国各地で里地里山保全活動を行い、次世代を担う子どもたちに里地里山の魅力を伝える活動に力を注いでいます。

また、各地の自治体では、里山保全に関する条例を制定し、一定の行為を規制したり、保全管理活動を支援したりする取り組みが広がっています。規制措置と保全活動支援措置を組み合わせることで、効果的な保全が実現しています。

 

 

私たちにできること

 

里山問題の解決は、行政や専門家だけでなく、私たち一人ひとりの行動が重要です。

 

地域住民として

地域の里山保全活動に参加したり、集落ぐるみの獣害対策に協力したりすることができます。また、放置された農地や野菜を適切に管理し、野生動物を引き寄せない環境づくりを心がけることも大切です。

 

 

都市住民として

週末などに里山でのボランティア活動に参加することで、保全に貢献できます。また、里山で生産された木材や農産物を積極的に購入することで、里山の経済的価値を高め、保全活動の持続性を支えることができます。

 

 

企業として

CSR活動の一環として里山保全に取り組んだり、社員向けの環境教育の場として里山を活用したりすることができます。また、里山資源を活用した商品開発も、保全につながる重要な取り組みです。

 

 

次世代への継承

子どもたちに里山の豊かな自然を体験させ、その価値を伝えることは、将来の保全活動の担い手を育てることにつながります。環境教育の場として里山を積極的に活用していくことが重要です。

 

 

まとめ:持続可能な未来に向けて

 

里山は、長い歴史の中で人と自然が調和しながら形成してきた、かけがえのない環境です。その荒廃は、生物多様性の喪失、野生動物との軋轢の増大、防災機能の低下など、多方面に深刻な影響を及ぼしています。

しかし、適切な管理と保全活動により、里山の豊かさを取り戻すことは可能です。そして、それは同時に野生動物との共存を実現する道でもあります。人と野生動物それぞれが安心して暮らせる環境を整えることで、持続可能な社会の実現につながるのです。

 

里山問題の解決には、地域住民、行政、企業、NPO、研究機関など、多様な主体が協力し、それぞれの立場でできることに取り組むことが不可欠です。科学的知見に基づく計画的な管理、地域の実情に応じた柔軟な対応、そして長期的視点に立った持続的な取り組みが求められます。

今こそ、人と自然の新しい関係性を構築し、豊かな里山を次世代に引き継いでいく時です。私たち一人ひとりができることから始めることで、野生動物と共存する持続可能な未来を創ることができるのです。

里山の保全は、単なる自然保護ではありません。それは、私たちの暮らしの質を守り、地域の持続可能性を高め、野生動物との調和ある共存を実現するための、総合的な取り組みなのです。美しい里山の風景とそこに息づく豊かな生命、そして野生動物との穏やかな共存関係を、未来へとつなげていきましょう。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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