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動物園の動物はかわいそう?日本と海外の環境格差から考える動物福祉

 

動物園を訪れて感じる違和感

 

週末に家族で動物園に出かけたとき、ふと立ち止まって考えたことはありませんか。狭い檻の中で同じ場所を行ったり来たりする動物たちの姿を見て、「この子たちは幸せなのだろうか」と。

「動物園 かわいそう」というキーワードで検索する人が増えているのは、多くの人がこうした疑問を抱き始めている証拠です。実際、日本の動物園の環境について、動物福祉の観点から問題視する声は年々高まっています。

この記事では、日本の動物園が抱える課題と、海外との比較、そして動物園本来の役割について、深く掘り下げていきます。

 

 

日本の動物園が抱える「狭すぎ問題」

 

象徴的な狭小飼育環境

日本の動物園を訪れると、多くの施設で共通する問題が目に入ります。それは、動物たちが暮らす空間の狭さです。

特に大型動物の飼育環境は深刻です。アフリカゾウは野生では1日に数十キロメートルを移動し、群れで広大なサバンナを歩き回る生き物ですが、日本の多くの動物園では数百平方メートル程度のコンクリート製の運動場に閉じ込められています。

ホッキョクグマも同様です。北極圏で氷の上を何キロも移動し、広大な海を泳ぎ回る彼らが、小さなプールと狭い展示場で一生を過ごす姿は、見る者の心を痛めます。

トラやライオンといった大型肉食動物も、本来なら広大な縄張りを持つ生き物であるにもかかわらず、数十平方メートルの檻の中での生活を強いられています。

 

 

なぜこれほど狭いのか

日本の動物園が狭小な飼育環境になっている背景には、いくつかの要因があります。

まず、日本の都市部では土地が限られており、動物園の拡張が物理的に困難です。多くの動物園は戦後間もない時期に設立され、当時の動物福祉の概念が現在ほど発展していなかった時代の基準で作られています。

また、予算の制約も大きな問題です。飼育環境の改善には莫大な費用がかかりますが、多くの公営動物園は慢性的な予算不足に悩まされています。

さらに、「できるだけ多くの種類の動物を展示したい」という考え方が、限られた敷地を細かく区切る結果につながっています。来園者に多様な動物を見せたいという善意が、皮肉にも個々の動物の生活空間を圧迫しているのです。

 

 

動物たちが示す異常行動のサイン

 

常同行動という警告

狭い飼育環境で暮らす動物たちは、しばしば「常同行動」と呼ばれる異常な行動パターンを示します。

最も典型的なのが、同じルートを延々と往復する「ウロウロ歩き」です。クマやトラが展示場の端から端まで、まるでロボットのように同じ動きを何時間も繰り返す様子を見たことがある人も多いでしょう。

ゾウが首を左右に振り続ける、キリンが舌を出し入れし続ける、オウムが自分の羽をむしり続けるといった行動も、ストレスや欲求不満の表れとされています。

 

 

なぜ異常行動が起きるのか

これらの行動は、野生では決して見られないものです。動物行動学の専門家は、常同行動を「心理的苦痛のサイン」と位置づけています。

狭い空間に閉じ込められ、本能的な行動欲求が満たされない状況が続くと、動物たちは深刻なストレスを抱えます。狩りをする、広い範囲を移動する、複雑な社会的交流を行うといった、種ごとに固有の行動ニーズが満たされないのです。

常同行動は、そうした満たされない欲求を紛らわせるための、いわば「自己刺激行動」だと考えられています。人間で言えば、極度のストレス下で爪を噛んだり、貧乏ゆすりをしたりする行為に近いかもしれません。

動物園を訪れた際、もし動物が同じ動きを繰り返していたら、それは「楽しく動き回っている」のではなく、「心理的に追い詰められている」可能性が高いのです。

 

 

動物園の本来の役割とは

 

批判の中で問われる存在意義

「狭くてかわいそう」「異常行動を起こしている」という批判を受ける中、動物園関係者はしばしば「動物園には重要な役割がある」と主張します。では、動物園の本来の役割とは何なのでしょうか。

 

 

種の保存という使命

現代の動物園が掲げる最も重要な役割の一つが、絶滅危惧種の保護と繁殖です。

野生での生息地破壊や密猟により、多くの動物種が絶滅の危機に瀕しています。動物園は、こうした種を保護し、繁殖させ、いつか野生に戻すための「避難場所」として機能しています。

実際に、トキ、コウノトリ、ライチョウなど、動物園での繁殖プログラムによって絶滅から救われた種も存在します。

 

 

教育と啓発の場

動物園のもう一つの重要な役割は、環境教育です。

実際に生きた動物を間近で見ることで、子どもたちは生命の尊さや自然環境の大切さを学びます。テレビや本では得られない、リアルな体験が人々の環境意識を高めるのです。

また、動物園は野生動物の生態や保全の必要性を伝える場としても機能しています。来園者は、動物たちの現状を知ることで、環境問題への関心を深めることができます。

 

 

研究の拠点

動物園は、動物の行動、生理、繁殖に関する貴重な研究の場でもあります。野生では観察が困難な動物の生態を詳しく調べることで、より効果的な保全策を立てることができます。

 

 

理想と現実のギャップ

ただし、これらの「理想的な役割」と、実際の日本の動物園の現状には大きなギャップがあります。

多くの施設では、種の保存よりも「見世物としての展示」が優先され、教育プログラムも十分とは言えません。研究活動も限定的です。

動物園が本来の役割を果たすためには、まず動物たちに適切な飼育環境を提供することが大前提です。ストレスで異常行動を起こしている動物を展示することが、果たして教育と言えるでしょうか。

 

 

海外との圧倒的な差:ベルリン動物園の衝撃

 

ドイツで見た理想的な動物園

私がドイツのベルリン市内にあるベルリン動物園を訪れたとき、日本の動物園との違いに大きな衝撃を受けました。

最も印象的だったのは、その敷地の広さです。ベルリン動物園の敷地面積は約35ヘクタール。東京の上野動物園が約14ヘクタールですから、その広さの違いが分かるでしょう。

しかし、単に広いだけではありません。各動物の展示エリアが、まるで森の中を歩いているかのような自然環境に作られているのです。

 

 

「森のような」飼育環境

ベルリン動物園では、動物たちが森のような広大な敷地の中で、のびのびと暮らしていました。

クマの展示エリアには本物の木々が生い茂り、小川が流れ、洞穴のような隠れ場所も用意されています。来園者は、野生に近い環境で暮らすクマの自然な行動を観察できます。

ゾウの施設も印象的でした。広々とした草地があり、泥浴びができる池があり、群れで社会的交流ができる空間が確保されています。コンクリートの床ではなく、自然な土の上で暮らせる環境です。

大型肉食動物の展示では、高低差のある地形、隠れられる植栽、獲物を探すような行動を促す仕掛けなど、動物の本能的欲求を満たす工夫が随所に見られました。

 

 

動物福祉を最優先する姿勢

ベルリン動物園を歩いていて感じたのは、「来園者の見やすさ」よりも「動物の生活の質」が優先されているということです。

時には動物が木陰に隠れて見えないこともあります。でも、それでいいのです。動物が「見られたくないときに隠れられる」環境こそが、動物福祉の観点から重要なのです。

日本の多くの動物園では、「お客様にしっかり見せる」ことが優先され、動物たちに隠れる場所さえない展示場も少なくありません。これは動物にとって大きなストレスです。

 

 

ヨーロッパの動物園が進んでいる理由

ヨーロッパ、特にドイツやイギリス、オランダなどでは、動物福祉に関する法律が厳しく、動物園にも高い基準が課されています。

飼育環境が基準を満たさなければ、動物を飼育する許可が取り消されることもあります。そのため、動物園側も継続的に施設改善に投資せざるを得ないのです。

また、市民の動物福祉に対する意識も高く、不適切な飼育をしている動物園は社会的批判を受けます。こうした社会的圧力も、動物園の質向上を後押ししています。

 

 

日本にも希望の光:動物福祉を重視する動物園

 

変化の兆し

日本の動物園の現状は厳しいものですが、近年、動物福祉を重視する動物園も徐々に増えてきています。

 

よこはま動物園ズーラシア

横浜市にあるズーラシアは、「生命の共生・自然との調和」をテーマに掲げ、動物たちの生息環境を可能な限り再現した展示を行っています。

広大な敷地(約53ヘクタール)を活かし、動物たちに十分な空間を提供。気候帯別にゾーン分けされた園内では、動物たちが比較的自然に近い環境で暮らしています。

 

 

旭川市旭山動物園

北海道の旭山動物園は、「行動展示」という革新的なアプローチで注目を集めました。

単に動物を展示するのではなく、動物が本来持っている能力や行動を引き出せる環境を作ることで、動物のストレス軽減と来園者の満足度向上を両立させています。

ペンギンが水中を飛ぶように泳ぐ姿を見られる水中トンネル、アザラシが垂直に泳ぐ姿を見られる円柱水槽など、動物の自然な行動を観察できる工夫が凝らされています。

 

 

天王寺動物園の改革

大阪市の天王寺動物園も、近年「ZOOISM(ズーイズム)」という新しい動物園像を打ち出し、段階的な施設改善を進めています。

従来の檻型展示から、より広く自然に近い環境への転換を図っており、動物福祉への配慮が見られます。

 

 

まだ道半ば

これらの動物園は日本における先進事例ですが、それでも海外の優良動物園と比べると、まだ改善の余地は大きいと言えます。

また、全国には100以上の動物園がありますが、動物福祉を真剣に考えている施設はまだ少数派です。多くの小規模動物園では、予算不足もあり、依然として劣悪な飼育環境が続いています。

 

 

私たちにできること

 

動物園の選び方

私たち来園者ができる最も重要なことは、「どの動物園を支持するか」を選択することです。

動物福祉に配慮した動物園を訪れ、入園料というかたちで支援する。逆に、劣悪な環境の動物園には足を運ばない。こうした消費者としての選択が、動物園の改善を促す圧力になります。

 

 

声を上げる

問題のある飼育環境を見かけたら、動物園に意見を伝えることも大切です。

「あの動物が同じ場所をウロウロしていて心配です」「もっと広い空間が必要ではないでしょうか」といった来園者の声は、動物園にとって無視できないものです。

 

 

動物園以外の選択肢

動物を見たい、学びたいという欲求を満たす方法は、動物園だけではありません。

野生動物を自然の中で観察するエコツーリズム、高品質な動物ドキュメンタリー、VR技術を使った没入型の体験など、動物を檻に閉じ込めずに知る方法は増えています。

特に子どもの教育という観点では、狭い檻の中でストレスを抱えた動物を見せるより、野生での生き生きとした姿を映像で見せる方が、よほど教育効果が高いという意見もあります。

 

 

未来の動物園のあり方

 

動物園は必要か?

「そもそも動物園は必要なのか」という根本的な問いも、真剣に考えるべき時期に来ています。

一部の動物権利活動家は、動物園の全廃を主張しています。どんなに環境を改善しても、野生動物を人間の都合で閉じ込めることは倫理的に許されないという立場です。

一方で、絶滅危惧種の保護という観点から、適切に運営される動物園の必要性を説く専門家もいます。

 

 

「サンクチュアリ型」への転換

今後の動物園のあり方として注目されているのが、「サンクチュアリ(保護区)型」への転換です。

エンターテインメントとしての展示を最小限にし、動物の福祉と種の保存を最優先する施設。一般公開は制限的にし、代わりにオンラインでの情報発信や教育プログラムを充実させる。こうした新しいモデルが、世界的に議論されています。

 

 

少数精鋭の飼育

「たくさんの種を少しずつ」ではなく、「少ない種を適切な環境で」飼育するという方向性も重要です。

限られた予算と敷地なら、無理に多種を展示しようとせず、飼育する種を絞り込み、その種に最適な環境を整える。こうしたアプローチの方が、動物福祉と教育効果の両面で優れているという考え方です。

 

 

まとめ:かわいそうな動物をなくすために

 

「動物園 かわいそう」という言葉で検索したあなたは、動物園で感じた違和感を、正しく受け止めています。

日本の多くの動物園は、狭すぎる飼育環境、ストレスによる異常行動、不十分な動物福祉という深刻な問題を抱えています。ベルリン動物園のような海外の先進事例と比べると、その差は歴然です。

しかし同時に、日本にも動物福祉を真剣に考え、改善に取り組む動物園が現れ始めています。動物園の本来の役割である種の保存、教育、研究を果たすためにも、まず動物たちに適切な環境を提供することが不可欠です。

私たち一人ひとりができることは、動物園を選び、声を上げ、動物福祉という視点を持ち続けることです。

「かわいい」という感情だけでなく、「この子は幸せだろうか」と問い続けること。その問いが、未来の動物園を、そして動物たちの生活を、少しずつ変えていくはずです。

動物園を訪れる際は、ぜひ動物たちの行動を注意深く観察してみてください。そして、彼らが何を必要としているのか、想像してみてください。その小さな気づきが、大きな変化の始まりになるかもしれません。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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