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動物福祉 日本の現状:私たちが知るべき真実と未来への一歩

動物福祉 日本の現状

 

 

はじめに

 

あなたは「動物福祉」という言葉を聞いたことがありますか?ペットを飼っている方でも、この言葉の本当の意味や、日本の現状について詳しく知っている人は多くありません。実は、日本の動物福祉に対する意識は、世界的に見ると大きく遅れているのが現実です。

 

この記事では、動物福祉とは何か、日本の現状、そしてなぜ私たちの意識が遅れているのかについて、11年間保護猫活動に携わってきた経験と、これから始める平飼い卵養鶏場の取り組みを通じて、深く掘り下げていきます。

 

 

動物福祉とは何か

 

動物福祉(Animal Welfare)とは、人間の管理下にある動物が、心身ともに健康で、本来の習性を発揮でき、苦痛やストレスから解放された状態で生活できることを指します。

 

動物福祉の5つの自由

国際的に認められている動物福祉の基準として「5つの自由(Five Freedoms)」があります。

  1. 飢えと渇きからの自由:新鮮な水と健康を維持するための食事が与えられること
  2. 不快からの自由:適切な環境が提供されること(避難所や快適な休息場所を含む)
  3. 痛み、怪我、病気からの自由:予防または迅速な診断と治療が行われること
  4. 正常な行動を表現する自由:十分なスペース、適切な施設、同種の仲間との交流があること
  5. 恐怖や苦悩からの自由:精神的苦痛を避ける状況と扱いが保証されること

これらの基準は、ペット、家畜、実験動物、野生動物など、すべての動物に適用されるべきものです。しかし、日本ではこれらの基準が十分に守られていない現状があります。

 

 

日本の動物福祉のランキング:世界から見た位置づけ

 

国際的な動物保護団体が発表する動物福祉ランキングにおいて、日本の順位は決して高くありません。

 

世界動物保護協会(World Animal Protection)の評価

世界動物保護協会が発表している「動物保護指数(Animal Protection Index)」では、各国の動物福祉に関する法律や政策を評価しています。この評価において、日本はG7諸国の中でも最下位レベルに位置づけられています。

具体的には以下のような点が問題視されています。

  • 畜産動物の飼育基準が不十分:工場型畜産における動物の苦痛に対する規制が緩い
  • 動物実験に関する規制の弱さ:代替手段の推進が不十分
  • ペット産業の規制不足:繁殖業者やペットショップに対する監視体制が弱い
  • 動物虐待に対する罰則の軽さ:他の先進国と比較して刑罰が軽い

 

ヨーロッパ諸国との比較

ヨーロッパでは、動物福祉に関する法整備が進んでいます。例えば、ドイツでは憲法で動物の権利が保障され、スイスでは動物の尊厳が法的に認められています。イギリスでは早くから動物福祉法が制定され、動物の5つの自由が法律に明記されています。

 

一方、日本では2019年に動物愛護管理法が改正され、動物虐待の罰則が強化されましたが、それでも欧米諸国と比べると不十分な点が多く残されています。

 

 

なぜ日本は動物福祉に対する意識が遅れているのか

 

日本の動物福祉意識が遅れている理由は、複雑に絡み合っていますが、主に以下の要因が考えられます。

 

1. 文化的背景と動物観の違い

日本には古来より動物を愛でる文化がある一方で、動物を「権利を持つ存在」として捉える考え方は、欧米ほど浸透していません。動物は「かわいがる対象」ではあっても、「福祉を保障すべき存在」という認識が薄いのです。

 

 

2. 経済優先の産業構造

畜産業やペット産業において、動物福祉よりも経済効率が優先される傾向があります。特に日本の畜産業は、狭い国土で効率的に生産することが求められ、動物の生活環境よりも生産性が重視されてきました。

 

 

3. 教育の不足

学校教育において、動物福祉についての教育がほとんど行われていません。子どもたちが動物の権利や適切な飼育環境について学ぶ機会が限られているため、大人になっても動物福祉に対する意識が低いままになってしまいます。

 

 

4. 法整備の遅れ

動物愛護管理法はあるものの、具体的な飼育基準や罰則が不十分です。また、法律があっても、それを実際に取り締まる体制や人員が不足しているため、違反行為が野放しになっているケースも少なくありません。

 

 

知らないことが広がらない一番の理由

 

動物福祉の問題が日本で広がらない最大の理由は、「知らない」ということです。多くの人々は、動物たちが実際にどのような環境で育てられ、どのような扱いを受けているのかを知りません。

 

 

畜産動物の現実:見えない苦しみ

スーパーで肉や卵を購入するとき、それらがどのように生産されたのかを考える人は少ないでしょう。しかし、その裏側には、私たちが想像もしないような厳しい現実があります。

 

バタリーケージの問題

日本で流通している卵の約90%以上は、「バタリーケージ」と呼ばれる狭いケージの中で飼育された鶏から生産されています。バタリーケージとは、A4サイズ程度の狭いケージに鶏を閉じ込め、効率的に卵を生産するシステムです。

このケージの中で、鶏たちは以下のような状態を強いられています。

  • 羽を広げることもできないほど狭い空間
  • 一生涯、土の上を歩くことができない
  • 砂浴びや止まり木での休息など、本来の習性を発揮できない
  • 過密飼育によるストレスから、仲間をつつく異常行動が発生
  • くちばしを切断される(つつき合いを防ぐため)

EUでは2012年から従来型のバタリーケージが禁止されています。アメリカの一部の州でも段階的に禁止が進んでいます。しかし、日本ではこの問題に対する認識が低く、規制もほとんど進んでいません。

 

 

豚や牛の飼育環境

豚も同様に、妊娠期間中は身動きが取れないほど狭い「妊娠ストール」に閉じ込められることが一般的です。牛も、狭い牛舎の中で一生を過ごすことが多く、草を食べて自由に歩き回るという本来の生活とはかけ離れた環境に置かれています。

 

これらの動物たちは、私たちの食卓に並ぶために、苦痛とストレスに満ちた生活を強いられているのです。しかし、これらの現実は一般の消費者の目に触れることがほとんどありません。

 

 

ペット産業の闇:子犬・子猫の知られざる現実

ペットショップで可愛らしく展示されている子犬や子猫たち。しかし、その裏側には深刻な問題が隠されています。

 

パピーミル(子犬工場)とキトンミル(子猫工場)

日本には、利益優先で犬や猫を大量繁殖させる「パピーミル」「キトンミル」と呼ばれる悪質な繁殖業者が存在します。これらの施設では、以下のような状況が報告されています。

  • 狭いケージに閉じ込められた母犬・母猫が、繰り返し妊娠・出産させられる
  • 適切な獣医療や衛生管理がされない不潔な環境
  • 繁殖能力がなくなった個体は遺棄されたり、殺処分されたりする
  • 生まれた子犬・子猫は、社会化期に母親や兄弟と引き離される

これらの環境で生まれた子犬・子猫は、心身に問題を抱えていることが多く、飼い始めてから問題行動に悩まされる飼い主も少なくありません。

 

 

早期の親子分離の問題

日本では、生後8週齢未満の犬猫の販売が2021年の法改正でようやく禁止されましたが、それまでは生後45日程度で親から引き離され、販売されることが一般的でした。早期に親や兄弟から引き離された子犬・子猫は、社会性を学ぶ機会を失い、将来的に問題行動を起こしやすくなります。

 

こうした現実も、多くの消費者は知らないまま、ペットショップでペットを購入しているのです。

 

 

11年間の保護猫活動から見えてきたこと

 

私は11年前から保護猫の取り組みを続けてきました。活動を始めた当初、「保護猫」という存在自体を知らない人がほとんどでした。

 

 

始めた当初の状況

活動を始めた頃、ペットを飼いたいと思った人の大半は、迷うことなくペットショップに向かっていました。「猫を飼う=ペットショップで買う」という選択肢しか持っていなかったのです。

 

保護猫の存在を説明すると、「そんな活動があるんですね」「知りませんでした」という反応がほとんどでした。また、保護猫に対して「問題がある猫」「人に懐かない猫」といった誤解を持っている人も多くいました。

 

 

認知の広がりと変化

しかし、地道な活動と情報発信を続けることで、少しずつ状況が変わってきました。SNSの普及も大きな追い風となり、保護猫の存在や、ペットショップの裏側にある問題が、より多くの人に知られるようになってきました。

 

最近では、「ペットを飼うなら保護犬・保護猫を」という選択をする人が確実に増えてきています。芸能人やインフルエンサーが保護猫を迎えたことを公表するケースも増え、保護猫を飼うことが「当たり前の選択肢の一つ」として認識されるようになってきました。

 

 

「知る」ことの力

この11年間の経験から、私が強く実感したのは、「知る」ことの力です。人々は、知らないから選択肢を持てないだけで、知れば行動を変える人は多いということです。

 

保護猫の存在を知り、ペットショップの裏側にある問題を知ることで、人々の選択は変わりました。同じことが、畜産動物の福祉についても言えるのではないでしょうか。

 

 

平飼い卵への挑戦:新たな一歩

 

保護猫活動を通じて「知ること」の重要性を実感した私は、今後、平飼い卵の養鶏場を事業として始めることを決めました。

 

 

なぜ平飼い卵なのか

前述したように、日本の卵の大半はバタリーケージで飼育された鶏から生産されています。私は、この現状を多くの人に知ってもらい、平飼い卵という選択肢があることを広めたいと考えています。

 

平飼いとは、鶏を地面で自由に動き回れる環境で飼育する方法です。平飼いの環境では、鶏たちは以下のような生活を送ることができます。

  • 広い空間を自由に歩き回れる
  • 土の上を歩き、土や砂で砂浴びができる
  • 止まり木で休むことができる
  • 産卵のための静かな巣箱が用意されている
  • 自然光を浴び、外の空気を吸うことができる

これは、バタリーケージの環境とは全く異なり、鶏の本来の習性を尊重した飼育方法です。

 

 

事業を通じた啓発活動

私の目標は、単に平飼い卵を生産・販売することだけではありません。この事業を通じて、バタリーケージの問題を多くの人に知ってもらい、平飼い卵のニーズを高めることが最大の目的です。

具体的には以下のような取り組みを考えています。

  1. 養鶏場の見学受け入れ:実際に平飼いの環境を見てもらい、鶏たちの生活を知ってもらう
  2. 情報発信:SNSやブログを通じて、バタリーケージと平飼いの違いを伝える
  3. 教育活動:学校や地域コミュニティで、動物福祉や食の選択について考える機会を提供する
  4. 美味しい卵の提供:平飼い卵は、味も栄養価も優れていることを実感してもらう

 

ニーズの創出が変化を生む

保護猫活動で学んだように、人々が「知る」ことで選択肢が生まれ、その選択が積み重なることで社会が変わります。平飼い卵を選ぶ人が増えれば、市場のニーズが変わり、生産者も変わらざるを得なくなります。

 

現在、平飼い卵は一般的な卵よりも価格が高いため、「贅沢品」と思われがちです。しかし、それは単に生産コストの問題だけでなく、バタリーケージの卵が「動物福祉のコストを無視している」からこその低価格だとも言えます。

 

消費者一人ひとりが、少し高くても動物福祉に配慮した卵を選ぶようになれば、生産量が増え、価格も下がり、より多くの人が手に取りやすくなるという好循環が生まれます。

 

 

私たち一人ひとりにできること

 

動物福祉の向上は、政府や企業だけの責任ではありません。私たち消費者一人ひとりの選択が、大きな力になります。

 

1. 知ること

まず、動物たちが置かれている現状を知ることから始めましょう。食べ物や製品がどのように作られているのか、その背景に目を向けることが第一歩です。

  • 畜産動物の飼育環境について調べる
  • ペットショップの裏側にある問題を学ぶ
  • 動物実験や動物園の動物たちの状況を知る

 

2. 選ぶこと

知った上で、自分の価値観に基づいた選択をしましょう。

  • 平飼い卵やアニマルウェルフェア認証を受けた畜産品を選ぶ
  • ペットを迎えるなら、保護犬・保護猫を検討する
  • 動物実験をしていない化粧品や製品を選ぶ
  • 動物の福祉に配慮した施設を応援する

 

3. 伝えること

あなたが知ったこと、選んだことを、周りの人に伝えましょう。SNSでシェアする、友人や家族と話す、子どもたちに教える。小さな一歩が、大きな変化につながります。

 

 

4. 声を上げること

企業や政府に対して、消費者の声を届けることも重要です。

  • 動物福祉に配慮した商品の取り扱いを求める
  • 動物福祉に関する法律の強化を求める署名活動に参加する
  • 地域の議員に動物福祉の重要性を訴える

 

未来への希望

 

日本の動物福祉の現状は厳しいものですが、変化の兆しも見えています。

若い世代を中心に、エシカル消費(倫理的消費)への関心が高まっています。環境問題と同様に、動物福祉も重要な社会課題として認識され始めています。

 

企業の中にも、動物福祉に配慮した商品開発や調達方針を打ち出すところが増えてきました。大手コンビニチェーンやスーパーマーケットでも、平飼い卵やアニマルウェルフェア認証の畜産品の取り扱いが少しずつ増えています。

また、メディアでも動物福祉の問題が取り上げられる機会が増え、社会的な関心が高まっています。

 

 

まとめ

 

動物福祉は、単なる動物愛護の問題ではありません。それは、私たちの社会がどのような価値観を持ち、どのような未来を目指すのかという、より大きな問いに関わる問題です。

日本の動物福祉の現状は、世界的に見て遅れていることは事実です。しかし、それは私たち一人ひとりが「知らない」ことが大きな原因になっています。

 

保護猫活動を通じて、「知る」ことが人々の選択を変え、社会を変える力になることを、私は実感してきました。同じように、畜産動物の飼育環境やペット産業の問題についても、多くの人に知ってもらうことで、確実に変化を起こすことができると信じています。

 

私が始める平飼い卵の養鶏場は、その小さな一歩です。バタリーケージの問題を知ってもらい、平飼い卵という選択肢があることを広め、動物福祉に配慮した消費のニーズを高めていきたいと考えています。

 

あなたも、今日から始めることができます。まずは知ること。そして、自分にできる小さな選択を積み重ねていくこと。その一つひとつが、日本の動物福祉の未来を、より良いものに変えていく力になるのです。

 

私たちの選択が、動物たちの未来を変える。そして、それは同時に、私たち人間の社会をも、より思いやりのある、持続可能なものへと変えていくことにつながるのです。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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