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なぜ日本のアニマルウェルフェアは遅れているのか?その理由と私たちにできること

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はじめに:日本の動物福祉の現状

 

近年、世界中でアニマルウェルフェア(動物福祉)への関心が高まっています。しかし、日本はこの分野において先進国の中で大きく遅れをとっているのが現実です。本記事では、日本のアニマルウェルフェアがなぜ遅れているのか、その根本的な理由を探り、私たち一人ひとりにできることについて考えていきます。

 

 

アニマルウェルフェアとは何か

 

アニマルウェルフェアとは、動物が心身ともに健康で、幸福な状態で生活できることを目指す考え方です。単に動物を虐待しないというだけでなく、動物本来の行動ができる環境を提供し、苦痛やストレスから解放された状態を保つことを意味します。

具体的には以下の「5つの自由」が国際的な基準として認識されています。

  1. 飢えと渇きからの自由
  2. 不快からの自由
  3. 痛み、傷、病気からの自由
  4. 正常な行動を表現する自由
  5. 恐怖や苦悩からの自由

これらの基準は、畜産動物、実験動物、ペット、動物園の動物など、人間が関わるすべての動物に適用されるべきものとされています。

 

 

衝撃の事実:日本は動物福祉ランキング最下位

 

世界動物保護協会(World Animal Protection)が発表した動物保護指数(Animal Protection Index)において、日本は先進国の中で最下位クラスの評価を受けています。この調査は、各国の動物福祉に関する法律、政策、実施状況などを総合的に評価したものです。

 

具体的には、日本はG7(主要7カ国)の中で唯一、最低ランクの評価を受けており、畜産動物の福祉、実験動物の保護、野生動物の取り扱いなど、ほぼすべての分野で改善の必要性が指摘されています。

 

この結果は、経済大国としての日本の地位と比較すると、非常に対照的です。技術や経済では世界をリードする日本が、なぜ動物福祉においてはこれほど遅れているのでしょうか。

 

 

ヨーロッパと日本:動物に対する意識の違い

 

ヨーロッパの先進的な取り組み

ヨーロッパ諸国は、動物福祉において世界をリードしています。EU(欧州連合)では、1997年のアムステルダム条約で動物を「感覚を持つ存在」として認め、法的保護の対象としました。

具体的な取り組みとしては以下のようなものがあります。

  • 養鶏のケージ飼育禁止:EU全体でバタリーケージ(狭いケージに鶏を閉じ込める飼育方法)が禁止の方向で進んでいます
  • 動物実験の規制:化粧品の動物実験が完全に禁止されています
  • 毛皮農場の廃止:イギリス、オーストリア、オランダなど多くの国で毛皮農場が禁止されています
  • フォアグラ生産の規制:強制給餌による生産方法が問題視され、一部の国では禁止されています

 

日本の現状との対比

 

一方、日本では以下のような状況が続いています。

  • 畜産動物の福祉基準が曖昧:法的拘束力のある明確な基準が存在しません
  • 狭いケージ飼育が一般的:採卵鶏の90%以上がバタリーケージで飼育されています
  • 動物実験の透明性が低い:実験動物の使用数や方法についての情報公開が不十分です
  • ペット産業の規制が緩い:生体販売やブリーダーの規制が不十分で、動物の福祉が守られていません

 

なぜ日本のアニマルウェルフェアは遅れているのか

 

1. 文化的・歴史的背景

日本では、動物を「資源」や「所有物」として見る傾向が強く、動物を「感覚を持つ存在」として尊重する意識が育ちにくい環境がありました。また、戦後の高度経済成長期には、効率と生産性が最優先され、動物福祉への配慮は後回しにされてきました。

 

仏教の影響で殺生を避ける文化があった一方で、近代化の過程でそうした倫理観が薄れ、経済合理性が優先される社会構造が形成されました。

 

 

2. 教育と情報の不足

日本の教育現場では、動物福祉について体系的に学ぶ機会がほとんどありません。多くの人々が、自分たちが消費する肉や卵、乳製品がどのように生産されているのかを知らないまま暮らしています。

 

メディアも動物福祉の問題を積極的に取り上げることが少なく、消費者が情報に触れる機会が限られています。その結果、問題意識を持つきっかけ自体が少ないのが現状です。

 

 

3. 行政の政策の遅れ

日本の動物愛護管理法は、主にペットや愛玩動物を対象としており、畜産動物や実験動物に対する具体的な保護規定が不十分です。また、法律があっても罰則が軽く、実効性に欠けるという問題もあります。

行政が動物福祉政策を優先順位の低い課題として扱ってきたことも、改善が進まない大きな要因となっています。

 

 

4. 産業界の抵抗

畜産業界や関連産業は、動物福祉基準の向上が生産コストの増加につながることを懸念しています。現在の大量生産・低価格販売のビジネスモデルを維持したいという思いが、改革への抵抗として現れています。

 

特に日本の畜産業は、狭い国土で効率的に生産することを追求してきたため、動物福祉を優先する欧米型のシステムへの転換に大きなハードルがあります。

 

 

5. 消費者の意識と行動

そして最も重要な要因が、消費者の意識の低さです。多くの日本の消費者は、価格を最優先に商品を選び、その商品がどのように生産されたかを気にかけることがありません。

 

消費者が安い商品を求める限り、そこに動物福祉を優先する会社は現れません。これは市場経済の原理として避けられない事実です。企業は消費者のニーズに応えて商品を開発・販売します。消費者が安さだけを求めれば、企業はコスト削減を最優先し、動物福祉は犠牲にされます。

 

 

行政の遅れは消費者意識の遅れの反映

 

「なぜ政府はもっと厳しい規制を作らないのか」という疑問を持つ方もいるでしょう。しかし、行政の政策が遅れているのは、消費者の意識が遅れているからです。

民主主義社会において、政策は国民の意識と要望を反映します。動物福祉に対する国民の関心が低く、政治的な優先課題として認識されていなければ、政治家や行政も積極的に取り組む理由がありません。

 

欧米諸国で動物福祉政策が進んでいるのは、消費者や市民が声を上げ、企業や政府に変革を求めてきた結果です。選挙の争点になり、メディアで議論され、企業が消費者の価値観に応えようと動いた結果、法整備が進んできたのです。

日本でも、消費者一人ひとりが意識を変え、行動を起こすことで、企業や行政を動かす力になります。

 

 

私たちにできること:今日から始められるアクション

 

では、私たち個人には何ができるのでしょうか。大きな社会変革は一朝一夕には実現しませんが、少しずつの変化がいつか大きく世の中を変えます。以下、今日から実践できる具体的なアクションをご紹介します。

 

 

1. 毛皮製品を買わない

毛皮(リアルファー)の生産は、動物に多大な苦痛を与えます。狭いケージで飼育され、電気ショックやガスで殺処分される動物たちの実態は、国際的にも強く批判されています。

 

現在は、本物と見分けがつかないほど高品質なフェイクファーが数多く販売されています。毛皮製品を選ばないという選択は、誰にでもできる第一歩です。多くのファッションブランドも、動物福祉への配慮から毛皮の使用を廃止する動きを見せています。

 

 

2. フォアグラ、フカヒレ、象牙などを避ける

これらの製品は、国際的に倫理的問題が指摘されています。

  • フォアグラ:ガチョウやアヒルに強制的に餌を詰め込んで肝臓を肥大させる生産方法が残酷として批判されています
  • フカヒレ:サメのヒレだけを切り取って海に捨てる「フィニング」という方法が問題視されており、サメの個体数減少にもつながっています
  • 象牙:密猟により多くのゾウが殺され、絶滅の危機に瀕しています

これらの製品を購入しない、贈らない、受け取らないという姿勢を持つことが重要です。特別な日の食事でこれらを避けることは、動物福祉への小さくても確実な貢献になります。

 

 

3. 平飼い卵を選ぶ

経済的に余裕があるときには、平飼い卵(放し飼いで育てられた鶏の卵)を選ぶことをお勧めします。

日本の採卵鶏の約90%以上が、A4用紙よりも狭いケージの中で一生を過ごしています。羽を広げることも、砂浴びをすることも、巣を作ることもできません。このような飼育方法は、鶏に大きなストレスを与えます。

 

平飼い卵は通常の卵より高価ですが、その差額は鶏がより良い環境で生活するためのコストです。毎回でなくても、できる範囲で選ぶことが、畜産業界に「動物福祉に配慮した生産へのニーズがある」というメッセージを送ることになります。

 

 

4. アニマルウェルフェア認証製品を探す

最近では、「アニマルウェルフェア認証」を受けた製品も少しずつ増えています。買い物の際に、こうした認証マークを探す習慣をつけましょう。

 

消費者が認証製品を選ぶことで、企業は認証取得へのインセンティブを得ます。需要が増えれば、より多くの企業が動物福祉に配慮した生産方法に切り替えるでしょう。

 

 

5. 情報を得て、周りの人と共有する

まずは自分自身が動物福祉について学びましょう。書籍、ドキュメンタリー、信頼できるウェブサイトなどから情報を得て、現状を理解することが大切です。

 

そして、家族や友人と話題にしてみてください。押し付けがましくならない範囲で、知ったことをシェアするだけで、周囲の意識も少しずつ変わっていきます。

 

 

6. SNSで声を上げる

企業や政治家は、消費者や有権者の声に敏感です。SNSで動物福祉について投稿したり、動物福祉に取り組む企業を応援したり、問題のある企業に改善を求めたりすることも有効です。

一人の声は小さくても、多くの人が声を上げれば、それは無視できない力になります。

 

 

7. 署名活動や市民運動に参加する

動物福祉の改善を求める署名活動やキャンペーンが行われていることがあります。オンラインで簡単に参加できるものも多いので、賛同できる活動があれば参加してみましょう。

また、地域の動物保護団体のイベントやボランティアに参加することも、社会を変える一助となります。

 

 

8. 動物性食品の消費を減らす

動物福祉の観点から、肉や乳製品の消費を減らすことも一つの選択肢です。完全に菜食にならなくても、週に数回「ミートフリーデー」を設けるだけでも、動物福祉への貢献になります。

植物性の代替食品も増えており、健康や環境にも良い影響があるとされています。

 

 

完璧主義は不要:できることから始めよう

 

ここまで読んで、「そんなに多くのことは無理」と感じた方もいるかもしれません。しかし、すべてを完璧に実践する必要はありません。

大切なのは、自分のできる範囲で、できることから始めることです。毛皮を買わないだけでも、フォアグラを避けるだけでも、たまに平飼い卵を選ぶだけでも、それは確実に意味のある行動です。

 

一人ひとりの小さな選択が積み重なれば、市場は変わります。市場が変われば、企業が変わります。企業が変われば、行政も動きます。そして社会全体の意識が変わっていくのです。

 

 

海外の成功事例:消費者の力で変わった社会

 

実際に、消費者の意識と行動が社会を大きく変えた例は数多くあります。

イギリスでは、消費者の動物福祉への関心の高まりを受けて、大手スーパーマーケットチェーンが次々とケージフリー卵(ケージ飼育ではない卵)への切り替えを表明しました。その結果、国全体の畜産業が変革を迫られ、現在ではケージフリー卵が主流になりつつあります。

 

また、化粧品の動物実験についても、消費者の反対運動が功を奏し、EUでは完全禁止が実現しました。これは市民団体だけでなく、一般消費者が動物実験をしていないブランドを選ぶという行動を起こした結果です。

 

ファッション業界では、消費者の声を受けて、グッチ、プラダ、バーバリー、シャネルなど数多くの高級ブランドが毛皮の使用を廃止しました。これらの企業は、毛皮を使わないことが現代の消費者の価値観に合致すると判断したのです。

日本でも同様の変化を起こすことは十分に可能です。鍵を握るのは、私たち消費者一人ひとりの意識と行動なのです。

 

 

企業と行政への期待

 

消費者の努力だけでなく、企業や行政の責任も重要です。

企業には、短期的な利益だけでなく、長期的な視点で持続可能で倫理的なビジネスモデルを構築することが求められます。動物福祉に配慮した生産方法は、最初はコストがかかるかもしれませんが、ブランド価値の向上や、将来的な規制への対応、消費者からの信頼獲得につながります。

 

行政には、国際水準に合わせた動物福祉法の整備と、その実効性のある運用が求められます。明確な基準を設け、違反に対する適切な罰則を設けることで、業界全体の底上げが可能になります。

 

しかし、繰り返しになりますが、企業や行政を動かす最大の力は消費者の意識と行動です。私たちが声を上げ、選択を変えることで、社会全体の変革が始まるのです。

 

 

未来への希望:変化は確実に起きている

 

悲観的な現状を述べてきましたが、希望もあります。日本でも少しずつ変化の兆しが見え始めています。

  • 一部の企業がケージフリー卵への移行を表明
  • 動物福祉に配慮した畜産製品を扱う店舗の増加
  • 若い世代を中心に動物福祉への関心の高まり
  • メディアでの取り上げが徐々に増加
  • 動物保護団体の活動の活発化

これらの変化は、消費者の意識が少しずつ変わってきていることの表れです。まだ道のりは長いですが、確実に前進しています。

 

 

まとめ:一人ひとりの選択が未来を作る

 

日本のアニマルウェルフェアが遅れている理由は、文化的背景、教育不足、行政の遅れ、産業界の抵抗、そして何より消費者意識の低さにあります。

しかし、これは決して変えられない運命ではありません。私たち一人ひとりの意識と行動が、社会を変える力を持っています。

  • 毛皮製品を買わない
  • フォアグラ、フカヒレ、象牙を避ける
  • 余裕があるときは平飼い卵を選ぶ
  • 情報を得て、周りと共有する
  • できる範囲で動物性食品を減らす

 

これらの小さな行動一つひとつが、市場を変え、企業を変え、行政を変え、そして社会全体を変えていきます。

少しずつの変化がいつか大きく世の中を変える。この言葉を信じて、今日からできることを始めてみませんか。

完璧である必要はありません。自分のペースで、自分にできることから始めればいいのです。あなたの選択が、動物たちのより良い未来につながり、そして人間と動物が共生できる優しい社会の実現に貢献するのです。

 

動物たちには声がありません。だからこそ、私たち人間が彼らの代わりに声を上げ、行動を起こす必要があるのです。今日からあなたも、動物福祉を考える一人になりませんか。

 


参考情報:

  • 世界動物保護協会(World Animal Protection)
  • 日本動物福祉協会
  • アニマルライツセンター
  • 農林水産省「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方」

 

※この記事は、動物福祉の現状について広く知ってもらい、一人でも多くの方に考えるきっかけを提供することを目的としています。

  

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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