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サーカス動物禁止が日本で進まない理由―世界の潮流と私たちにできること

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はじめに―なぜ今、サーカスの動物使用が問題なのか

 

華やかなスポットライト、観客の歓声、そして芸を披露する動物たち。サーカスといえば、多くの人が子どもの頃に抱いたワクワクする思い出があるかもしれません。しかし近年、世界中でサーカスにおける動物使用を禁止する動きが加速しています。

 

一方で、日本ではこの問題についての議論がまだ十分に深まっているとは言えません。なぜ日本ではサーカスの動物使用禁止が進まないのでしょうか。そして、私たち一人ひとりがこの問題にどう向き合うべきなのでしょうか。

 

この記事では、サーカスにおける動物使用の実態、世界各国の取り組み、そして日本が直面している課題について詳しく解説します。

 

 

サーカスにおける動物の扱い―華やかな舞台裏の現実

 

調教という名の虐待

サーカスで動物たちが披露する芸は、決して自然な行動ではありません。ゾウが逆立ちをする、トラが火の輪をくぐる、クマが二足歩行で歩く―これらはすべて、長期間にわたる「調教」によって習得させられた行動です。

 

問題は、この調教の過程にあります。多くの動物福祉団体が指摘しているように、サーカスでの調教には身体的な痛みや心理的なストレスを伴う方法が用いられることがあります。鞭、電気棒、食事制限、隔離などが調教の手段として使われてきた歴史があり、現在でもこうした方法が完全になくなったとは言えません。

 

動物たちは本能に反する行動を強制され、拒否すれば罰を受ける。これは「調教」という言葉で美化されていますが、実質的には虐待と呼ぶべき行為ではないでしょうか。

 

 

不適切な飼育環境

サーカスは巡業を基本としているため、動物たちは狭い檻やトレーラーの中で長時間を過ごすことになります。本来、広大な自然の中で暮らすべき野生動物が、体を十分に動かすこともできない狭い空間に閉じ込められている状況は、動物福祉の観点から深刻な問題です。

 

ゾウは1日に最大80キロメートルも移動する動物ですが、サーカスの檻の中ではほとんど動くことができません。ライオンやトラも同様に、本来の生息地では広大なテリトリーを持つ動物たちです。こうした動物たちが、移動可能な小さな檻の中で一生の大半を過ごすことは、明らかに彼らの生態に反しています。

 

 

心理的ストレスと異常行動

不適切な飼育環境と過酷な調教は、動物たちに深刻な心理的ストレスを与えます。その結果、野生では見られない異常行動が現れることがあります。

 

同じ場所を行ったり来たりする常同行動、自傷行為、無気力状態など、これらはすべて動物が極度のストレス下にあることを示すサインです。サーカスの動物たちにこうした行動が見られることは、専門家によって繰り返し報告されています。

 

 

世界のサーカス動物禁止の動き―進む法規制

 

ヨーロッパ諸国の先進的な取り組み

ヨーロッパでは、動物福祉への意識の高まりとともに、サーカスでの野生動物使用を禁止する国が急増しています。

オーストリアは2005年に野生動物の使用を禁止し、その後ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデンなど、多くの国々が続きました。

 

イギリスでは2020年に野生動物法が成立し、サーカスでの野生動物使用が全面的に禁止されました。フランスも2021年に、サーカスでの野生動物使用を段階的に禁止する法律を可決しています。

 

 

アジア・南米での進展

動物使用禁止の動きはヨーロッパだけではありません。シンガポール、インド、イランなどアジアの国々でも禁止措置が取られています。南米ではボリビア、ペルー、コロンビア、パラグアイなどが野生動物の使用を禁止しました。

 

特にインドでは、ゾウやクマなど特定の動物種をサーカスで使用することが法律で禁止されており、違反者には罰則が科されます。

 

 

アメリカの州レベルでの取り組み

アメリカでは連邦レベルでの包括的な禁止はまだ実現していませんが、ハワイ州、ニュージャージー州、カリフォルニア州など、複数の州で野生動物の使用が禁止されています。また、多くの都市が独自の条例で規制を設けています。

 

世界最大のサーカス団の一つだったリングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカスは、社会的な批判の高まりを受けて2017年に閉鎖しました。これは、動物を使わないサーカスへの転換が世界的な潮流であることを象徴する出来事でした。

 

 

日本でサーカス動物禁止が進まない理由

 

法規制の遅れ

日本には動物愛護管理法がありますが、サーカスでの動物使用を直接規制する条項はありません。現行法では、動物の「適正な取扱い」が求められていますが、その基準は曖昧で、サーカスにおける調教方法や飼育環境についての具体的な規制がほとんど存在しないのが実情です。

 

動物園や水族館については一定の基準がありますが、移動を伴うサーカスについては十分な監視体制も確立されていません。

 

動物福祉への認識の低さ

日本では、動物福祉に関する教育や啓発活動が他の先進国に比べて遅れています。多くの人々が、サーカスの動物たちがどのような環境で飼育され、どのように調教されているかについて、詳しい情報を持っていません。

 

「動物たちは芸をすることが好きなのだろう」「調教師が愛情を持って接しているから大丈夫だろう」といった誤解も根強く残っています。しかし実際には、野生動物が自発的に人間の娯楽のために芸をすることはありません。

 

 

伝統や文化としての認識

一部では、サーカスが長い歴史を持つ伝統的な娯楽であるという認識があり、それを規制することへの抵抗感があります。しかし、伝統や文化であっても、動物福祉の観点から見直すべきものは見直す必要があります。

 

世界各国でサーカスの動物使用が禁止されているのは、伝統や文化よりも動物の権利と福祉を優先すべきだという価値観の変化を反映しています。

 

 

経済的な側面

サーカス業界にとって、動物は大きな集客力を持つ存在です。特に子ども連れの家族にとって、動物のショーは魅力的なコンテンツとされてきました。そのため、業界側からは動物使用の禁止に対する強い反対があります。

 

しかし、カナダのシルク・ドゥ・ソレイユに代表されるように、動物を使わずに高い芸術性と娯楽性を両立させたサーカスは世界的に成功しています。動物を使わないことがビジネスの終わりを意味するわけではないのです。

 

 

動物を娯楽として扱う問題の本質

 

観客がいる限り続く問題

サーカスの動物使用問題は、需要と供給の関係で成り立っています。動物を使ったショーを見に行く人がいる限り、この問題は続きます。

 

「一度くらい見てみたい」「子どもが喜ぶから」という理由で動物サーカスに足を運ぶことは、この産業を存続させることに直接つながります。私たち消費者一人ひとりの選択が、動物たちの運命を左右しているのです。

 

 

娯楽のための動物利用の倫理

根本的な問いは、人間の娯楽のために動物を利用することの倫理性です。動物たちは、人間に楽しみを提供するために存在しているわけではありません。彼らには彼ら自身の生活があり、本来の生態に沿った生き方をする権利があります。

 

現代社会では、動物を「物」として扱うのではなく、感情や痛みを持つ「生命」として尊重する考え方が主流になりつつあります。この観点から見れば、人間の娯楽のために動物に苦痛を与えることは正当化できません。

 

 

教育的な影響

子どもたちにとって、サーカスで動物を見ることがどのような教育的影響を与えるかも考える必要があります。サーカスで見る動物の姿は、その動物の本来の生態とは全く異なります。

 

芸をする動物を見て楽しむことを通じて、子どもたちは「動物は人間を楽しませるために存在する」という誤ったメッセージを受け取る可能性があります。これは、動物への共感や尊重の心を育てる上で、望ましい教育とは言えません。

 

 

私たちにできること―今日から始められるアクション

 

情報を得て、考える

まず大切なのは、サーカスにおける動物使用の実態について正確な情報を得ることです。動物福祉団体のウェブサイトや報告書、ドキュメンタリー映画などを通じて、動物たちが置かれている状況について学びましょう。

知ることが、行動を変える第一歩です。

 

 

動物を使ったショーに行かない

最も直接的な行動は、動物を使ったサーカスやショーに行かないという選択です。自分の娯楽のために動物が苦しむことを望まないという意思表示を、消費行動を通じて示すことができます。

 

もし家族や友人が動物サーカスに行こうと誘ってきたら、その問題点を優しく説明し、代わりに動物を使わないエンターテイメントを提案してみましょう。

 

 

周囲に伝える

この問題について何も知らない人は、決して動物に無関心だから知らないわけではありません。単に情報が届いていないだけなのです。

 

SNSでの情報共有、家族や友人との会話、地域のコミュニティでの啓発活動など、あなたができる方法で情報を広めていきましょう。一人ひとりの小さな行動が、社会全体の意識を変える大きな力になります。

 

 

代替案を支持する

動物を使わないサーカスやエンターテイメントを積極的に支持しましょう。シルク・ドゥ・ソレイユのような人間のパフォーマンスに特化したサーカスは、動物を一切使わずに世界中で成功しています。

 

こうした代替案が経済的に成功すれば、業界全体が動物を使わない方向へシフトする動機付けになります。

 

 

政治的な働きかけ

地方自治体や国会議員に対して、サーカスでの動物使用を規制する法律の制定を求める声を上げることも重要です。オンライン署名活動に参加する、議員に手紙を書く、公聴会で意見を述べるなど、民主主義のプロセスを通じて変化を求めることができます。

 

世界中で法規制が進んでいる事実を示しながら、日本でも同様の措置を取るべきだと訴えましょう。

 

 

教育の場での議論

学校や地域の教育の場で、動物福祉について考える機会を作ることも大切です。子どもたちが動物の権利や福祉について学び、考える機会を持つことで、将来的により思いやりのある社会を築くことができます。

 

 

動物に優しい社会へ―私たちが目指すべき未来

 

もう動物を娯楽として扱うのをやめる時

21世紀の現代において、私たちには動物との関係を見直す責任があります。科学的な研究により、多くの動物が複雑な感情を持ち、痛みや苦しみを感じることが明らかになっています。

 

人間の一時的な楽しみのために、感覚を持つ生命を苦しめることは、もはや倫理的に正当化できない時代になりました。動物を娯楽として扱う慣習は、過去の遺物として終わらせるべきです。

 

 

意識の変化が生み出す社会的変革

社会の変化は、一人ひとりの意識の変化から始まります。この記事を読んだあなたが、サーカスの動物使用について考え、行動を変えることで、その影響は周囲に広がっていきます。

 

友人に話す、家族と議論する、SNSで情報をシェアする―こうした小さな行動の積み重ねが、やがて社会全体の価値観を変える大きなうねりとなります。

 

 

情報が届かなければ変わらない現実

動物に対して何も思わない人がいるわけではありません。ただ、情報が届いていないだけなのです。多くの人は、サーカスの舞台裏で何が起きているかを知りません。

 

だからこそ、情報を持つ私たちには、それを広める責任があります。声を上げなければ、何も変わりません。しかし、一人ひとりが声を上げ始めれば、やがてそれは社会を動かす力になります。

 

 

動物と共生する新しい社会のビジョン

動物を娯楽として利用しない社会とは、動物を尊重し、共生する社会です。それは、動物の本来の生態を守り、彼らが自然な環境で生きられるよう努める社会でもあります。

 

サーカスから動物をなくすことは、終わりではなく始まりです。それは、人間と動物のより良い関係を築くための第一歩なのです。

 

 

まとめ―今、行動を起こす時

 

サーカスにおける動物使用は、調教という名の虐待、不適切な飼育環境、そして動物の尊厳を無視した扱いという深刻な問題を抱えています。世界中の多くの国々がこの問題を認識し、法的な規制を進めていますが、日本ではまだ十分な対応が取られていません。

 

しかし、変化は可能です。それも、今日から、あなたから始めることができます。

動物を使ったショーに行かない選択をする。周囲の人々に情報を伝える。政治的な働きかけをする。こうした一つひとつの行動が、やがて日本の社会を変え、動物たちの苦しみを終わらせる力になります。

 

もう動物を娯楽として扱うのはやめる時です。この記事を読んだあなたから、その変化を始めていきましょう。動物たちは、私たちの声を待っています。

 


参考情報

動物福祉についてさらに学びたい方は、以下のような団体の情報を参考にしてください。

  • 公益財団法人日本動物愛護協会
  • 公益社団法人日本動物福祉協会
  • NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)
  • 認定NPO法人アニマルライツセンター

国際的な動物福祉団体の情報も参考になります。

  • World Animal Protection
  • PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)
  • The Humane Society International

サーカスの動物使用問題について、正確な情報を得て、考え、行動することが、動物に優しい社会を実現する鍵となります。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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