熊の胆嚢(熊胆)問題とは?残酷な胆汁採取の実態と動物福祉の視点から考える
はじめに――「熊胆」という言葉を検索したあなたへ
「熊胆(くまのい)」「熊の胆嚢」という言葉を調べているあなたは、おそらくこのような疑問を持っているのではないでしょうか。
- 熊の胆嚢を使った薬って本当に効くの?
- 熊胆の採取って、動物にとってどれほど苦しいの?
- 韓国では禁止されたって聞いたけど、中国ではまだ続いているの?
- 私たちにできることはあるの?
この記事では、熊の胆嚢(熊胆)をめぐる問題を科学的・倫理的・社会的な視点から深く掘り下げます。
感情論だけではなく、データや公的機関の情報もふまえて、できるかぎり正確な情報をお届けします。
この問題は、遠い国の話ではありません。日本にも通じる、動物福祉の根本的な課題が隠されています。
熊胆(熊の胆嚢)とは何か?なぜ使われてきたのか
H3:熊胆の歴史と薬効
「熊胆」とは、ツキノワグマやヒグマなどの胆嚢を乾燥させた生薬です。
漢方医学では2,000年以上の歴史を持ち、中国・韓国・日本・ベトナムなどのアジア各国で伝統的に使用されてきました。
熊胆の主成分はウルソデオキシコール酸(UDCA)です。
この成分は現代医学でも実際に認められており、以下のような用途で使用されています。
- 胆石の溶解
- 原発性胆汁性肝硬変の治療
- 肝機能の改善サポート
ウルソデオキシコール酸は現在、合成によって化学的に製造することが可能です。日本でも「ウルソ」という商品名で医薬品として広く流通しており、熊から採取する必要は医学的にもはや存在しません。
つまり「熊の胆嚢でなければならない理由」は、科学的にはほぼ消えてしまっています。
なぜいまだに熊胆が求められるのか
それでも熊胆への需要がなくならない背景には、いくつかの要因があります。
① 伝統・文化的な信仰 「天然の方が効く」「合成品では代替できない何かがある」という根強い信念が存在します。
② 高級品としてのブランド価値 本物の熊胆は非常に高価で、一部では贈り物や高級薬として扱われます。
③ 規制の不十分さ 特に中国では、熊胆を使用した製品が現在も合法的に流通しています。
④ 経済的利益 熊胆産業は、採取業者・製薬会社・流通業者にとって大きな利益を生む産業となっています。
熊の胆嚢はどうやって採取されるのか――残酷な実態
ここからは、読むのがつらくなるかもしれません。しかし知ることが、変えることへの第一歩です。
熊農場(ベアファーム)の実態
中国や一部のアジア諸国では、「熊農場(ベアファーム)」と呼ばれる施設が存在します。
熊農場では、熊が生きたまま胆汁を採取されます。
主な採取方法は以下のとおりです。
① カテーテル挿入法 熊の腹部に穴を開け、管(カテーテル)を胆嚢に直接挿入して胆汁を抜き取ります。
② 「フリーダリッピング」方式 胆嚢に開口部を作り、胆汁が自然に流れ出るようにします。感染のリスクが非常に高く、熊は常に痛みにさらされます。
③ 外科的に腹部を開ける方式 特に古い施設では、定期的に手術的処置が行われます。
採取中、熊は非常に狭い金属製のケージに長期間拘束されます。「鉄の乙女(アイアン・メイデン)」と呼ばれるケージは、熊が動くことすらできないほど小さく、一生涯そこで過ごす熊も少なくありません。
国際動物福祉機関「Animals Asia(アニマルズ・アジア)」の調査によれば、熊農場で生活する熊の多くが以下の症状を抱えています。
- 感染症・腹膜炎
- 胆嚢や肝臓の腫瘍
- 抑うつ状態・常同行動(ストレスによる反復行動)
- 重度の筋肉萎縮
- 心理的外傷(PTSD様の行動)
数字で見る熊農場の規模
中国では現在も約10,000〜20,000頭の熊が農場で飼育されていると推計されています(Animals Asia・世界動物保護協会などの推計データより)。
これは、野生のツキノワグマの保護問題とも直結しています。
中国国内では一応「登録制度」が設けられているものの、実際の監視は不十分であり、密猟・密売との区別も曖昧なまま続いています。
韓国では禁止に――アジアで変わりつつある動物福祉の意識
韓国でも、かつては熊の胆汁採取が行われていました。しかし現在、韓国は熊の胆汁採取を事実上禁止しています。
1985年 ツキノワグマが天然記念物に指定
1993年 ワシントン条約(CITES)に基づく保護強化
2005年以降 熊農場の新規許可停止・段階的廃止
韓国政府はツキノワグマの野生復帰プロジェクトにも取り組んでおり、智異山(チリサン)などの国立公園でのリハビリ・野生放獣が進んでいます。
これは「文化的慣習であっても、動物への不必要な苦痛は認めない」という社会的な価値観の転換を示す、非常に重要な事例です。
中国の現状――法律はあっても現実は
中国では、1988年施行の「野生動物保護法」によって、熊の捕獲・売買は原則禁止されています。
しかし現実には、農場で繁殖された熊の胆汁採取は「合法」の枠組みの中で続いています。
2020年には新型コロナウイルスの流行を背景に、一時的に野生動物由来製品の規制強化が議論されましたが、熊胆を含む伝統薬は対象外とされ、廃止には至りませんでした。
それどころか、中国政府は熊胆を含む一部の漢方薬を新型コロナ治療に推奨する通知を出したことで、国際的な批判を受けました(2020年・国際紙報道より)。
中国の大手NGOや動物権利団体も廃止を求めて活動していますが、産業規模と政治的な複雑さから、規制の実現は容易ではありません。
Q&A――よくある疑問に答えます
Q1. 熊胆は本当に医学的に必要なのですか?
A. 現代医学においては、必要ありません。
熊胆の有効成分であるウルソデオキシコール酸(UDCA)は、1954年に日本の研究者によって発見され、現在は完全に合成が可能です。日本・欧米を含む多くの国で、合成UDCAが医薬品として承認・使用されています。
「熊から取った方が効果が高い」という主張を支持する、査読済みの科学的エビデンスは存在しません。
Q2. 合成品ではだめなのでしょうか?
A. 医学的には合成品で十分とされています。
合成UDCAは化学的に同一の物質であり、品質管理も安定しています。「天然だから安心」という思い込みとは逆に、天然の熊胆には雑菌・汚染物質が混入するリスクもあります。
Q3. 熊農場は違法ではないのですか?
A. 中国では、登録された農場で繁殖した熊からの採取は合法とされています。
ただし、農場への動物搬入・流通経路・成分の真贋など、監視体制には多くの問題が指摘されています。WWFや国際的な動物保護団体は、全面的な廃止を求めています。
Q4. 日本では熊胆は使われているのですか?
A. 日本でも「熊の胆(くまのい)」は漢方薬として現在も流通しています。
ただし、日本で使用される熊胆の多くは輸入品であり、主に北米やロシアから輸入されたクマの胆嚢が使用されているとされています。国内で捕獲されたツキノワグマやヒグマの胆嚢が使用されるケースもあります。
環境省のレッドリストではツキノワグマが地域個体群として絶滅危惧に指定されている地域もあり、日本国内でも保護と利用の問題は切り離せません。
実体験風エピソード――ある動物保護ボランティアの証言
※以下は、動物保護活動に関わるボランティアの体験をもとにした再構成です。
中国・雲南省の熊農場を訪問した経験を持つ動物保護ボランティアのAさん(30代・女性)は、こう語ります。
「施設に入った瞬間から異臭がしました。ケージの中の熊は、ほとんど動かず、ただじっと目を閉じていました。最初は眠っているのかと思ったけれど、近づいてもまったく反応しない。後で聞いたら、長期の拘束と苦痛で『学習性無力感』に陥っている状態だと知りました。あの目が、ずっと頭から離れません」
「帰国してから、熊胆を含む製品を一切買わないと決めました。そして周囲の人にも話すようにしています。一人ひとりが知ることから変わると信じているから」
動物福祉の視点から考える注意点
熊の胆嚢・熊胆問題を考えるうえで、以下の点には注意が必要です。
文化への敬意と批判的思考のバランス
漢方医学には長い歴史があり、アジアの文化の中で重要な位置を占めてきました。
その文化そのものを全否定することは、議論をかえって難しくします。
大切なのは、「科学的に代替手段がある今、なぜ動物を苦しめる方法を続けなければならないのか」という問いを持ち続けることです。
文化は変化します。実際に、日本でも捕鯨・イルカ漁・熊の罠猟など、かつての慣行が見直されつつあります。
消費者として注意すべき製品
以下のような製品には、熊胆(熊の胆嚢由来成分)が含まれている可能性があります。
- 中国・韓国・ベトナム土産の「胆汁入り」漢方薬
- オンライン通販で販売されている一部の「天然漢方エキス」
- 海外旅行先の市場で購入した動物由来サプリメント
成分表に「熊胆」「ベア・バイル」「Bear Bile」「Bile Extract」などの記載があれば、購入・使用を控えることを推奨します。
今後の社会的視点――動物福祉の世界的な潮流
国際的な規制強化の動き
CITES(ワシントン条約)では、クマ属のすべての種が附属書Ⅰ(商業取引禁止)または附属書Ⅱ(規制対象)に掲載されています。
EUはすでに熊胆の輸入を禁止しており、アメリカ・カナダでも規制が強化されています。
台湾では1993年に熊農場を全面禁止し、現在は保護政策に転換しています。
代替医療・科学の進歩
前述の通り、合成UDCAは医薬品として世界中で使用されています。
さらに近年では、植物由来の胆汁酸代替物質の研究も進んでいます。
「動物を傷つけなければ作れない」医薬品は、もはや過去のものになりつつあります。
日本の動物福祉と私たちの責任
日本でも、動物福祉に関する議論は広がりつつあります。
環境省は「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」を定期的に改正しており、2019年の改正では罰則強化・虐待の定義拡大が行われました。
しかし熊の胆嚢採取に特化した規制はなく、流通している熊胆の由来についての透明性も十分ではありません。
日本国内でも、こうした問題に声を上げる消費者・市民の存在が、制度変化を促す力になります。
日本にも残る「おかしな文化」
熊胆の問題は、決して日本に無関係な話ではありません。
たとえば、以下のような慣行が日本でも議論されています。
- 熊の罠猟とその管理の問題:有害鳥獣として駆除されるツキノワグマの数は、環境省のデータによれば年間数千頭にのぼる年もあります(2020年以降、出没増加に伴い増加傾向)
- 水産業における魚の苦痛:「魚は苦痛を感じない」という前提に基づいた扱いが続いているが、科学的に否定されつつある
- 動物実験の透明性:日本は欧米に比べ、動物実験の代替法推進が遅れているとの指摘がある
- 農場動物(家畜)の飼育環境:バタリーケージ飼育など、欧州では禁止が進んでいる飼育形態が日本では主流
これらは一つひとつ、社会が変わっていける問題です。
そしてその変化を起こすのは、法律でも政治家でもなく、まず「知ること」を選んだ一人ひとりの市民です。
まとめ――知ることが、変えることの始まり
熊の胆嚢(熊胆)をめぐる問題は、複雑に絡み合っています。
- 歴史ある伝統文化
- 経済的な利益構造
- 不十分な規制と監視
- 科学的代替手段の存在
- そして、毎日苦しんでいる何万頭もの熊の存在
整理すると、現状は以下のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 有効成分 | ウルソデオキシコール酸(UDCA)。合成品で代替可能 |
| 採取方法 | 生きた熊の胆嚢にカテーテルを挿入。非常に苦痛を伴う |
| 韓国の対応 | 熊農場を段階的に廃止。野生復帰プロジェクトを推進 |
| 中国の現状 | 登録農場での採取が「合法」として継続中 |
| 日本の現状 | 熊胆の流通は続いており、由来の透明性に課題あり |
| 国際的潮流 | EU・米国などで輸入規制強化。廃止の方向に向かっている |
文化は変わることができます。
かつて「当たり前」だったことが、時代とともに倫理的に問い直されてきた歴史を、私たちは何度も見てきました。
熊の胆嚢・熊胆の問題も、その一つです。
韓国が示したように、アジアの国でも変われます。
中国でも、国内の動物保護団体・研究者・若い世代が声を上げ続けています。
そして日本でも、この記事を読んでいるあなたが声を上げることができます。
今日できること、一つだけ試してみてください。
熊胆を含む製品を買わない。家族や友人に話す。動物保護団体を応援する。SNSでシェアする。
その小さな一歩が、熊農場のケージの中で今日も苦しんでいる熊たちへの、確かなメッセージになります。
参考情報・関連団体
- Animals Asia(アニマルズ・アジア):熊農場廃止運動を主導する国際NGO
- 世界動物保護協会(WSPA / World Animal Protection)
- 環境省「動物の愛護と適切な管理」ページ
- CITES(ワシントン条約)事務局 公式データ
- WWFジャパン:野生生物保護の情報発信
※この記事は動物福祉の観点から情報提供を目的としたものです。医療・法律に関するアドバイスを提供するものではありません。
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