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ツキノワグマは絶滅危惧種なのに危険?ヒグマとの違いと人間との共生を徹底解説

ツキノワグマ 絶滅危惧種

毎年秋になると、テレビやSNSには「クマが人里に出た」「住宅地でクマの目撃情報」というニュースが飛び込んできます。

 

「また出た」「怖い」「駆除して」という声がある一方で、専門家からは「一部の地域では絶滅の危機に瀕している」という警告も出ています。

 

駆除すべき危険な動物なのか、それとも保護すべき絶滅危惧種なのか。

この問いに正面から向き合ったとき、私たちが直面するのは、単純な答えが存在しない複雑な現実です。

 

この記事では、ツキノワグマの絶滅危惧種としての実態ヒグマとの違い、そしてどうすれば人間と共生できるのかを、環境省・自治体のデータをもとに徹底的に解説します。

 

ツキノワグマとは?基本的な特徴を押さえよう

 

見た目と生態

ツキノワグマは、その名の通り胸に三日月型の白い斑紋を持つ黒いクマです。

 

正式名称はニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)。日本の本州と四国に生息する固有の亜種で、30〜50万年前に大陸から渡来したと考えられています。

 

主な特徴は以下のとおりです。

  • 体重:オス成獣で70kg前後、メスで50kg前後(個体差あり、100kgを超えることも)
  • 食性:雑食で、食べ物の大半は植物。ドングリ・ブナの実・山菜・果実などが中心
  • 性格:基本的に臆病で、人の気配を感じると逃げる
  • 行動圏:山麓から標高3,000mの高山帯まで、多様な森林帯を利用
  • 繁殖力:非常に低い。メスは4歳前後から繁殖に参加し、一度に産む子の数は平均約2頭

繁殖率が低いため、一度個体数が減少すると回復に長い時間がかかるという点が保護上の大きな課題になっています。

 

ツキノワグマが絶滅危惧種になっている現実

 

地域ごとに異なる「絶滅の危機」

「ツキノワグマが絶滅危惧種」と聞いて、驚く人は多いかもしれません。

 

実際のところ、日本全体の亜種レベルでは直ちに絶滅の危険が高いわけではありません。しかし地域個体群ごとに見ると、深刻な状況が存在しています

 

環境省のレッドリストでは、以下の地域個体群が「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に指定されています。

 

地域個体群 状況
四国山地 推定生息数16〜26頭(2024年確認値)絶滅危機に瀕している
紀伊半島 1965年の335頭から1999年には180頭まで減少
中国地方西部 孤立した個体群で、1994年以降狩猟禁止
中国地方東部 人工林増加・道路建設などで圧迫
下北半島 2008年時点で推定120〜270頭

 

特に深刻なのが四国の個体群です。

四国のツキノワグマは推定生息数わずか16〜24頭で、2036年の絶滅確率は62%と極めて危機的な状況にあります。

 

日本自然保護協会(NACS-J)が四国自然史科学研究センター、日本クマネットワークと連携して保全活動を進めているものの、30年以上の捕獲禁止措置を続けながらも回復の兆しが見えていない、というのが実情です。

 

なぜ減ったのか?3つの主因

 

①生息地の破壊

食用や毛皮目的の乱獲、駆除などにより生息数は減少しています。加えて、戦後の拡大造林政策による人工林化が長年にわたってツキノワグマの生息環境の質を低下させてきました。

 

②孤立化による遺伝的多様性の喪失

山を分断する道路や開発によって、地域個体群が孤立します。孤立した小さな集団は、近親交配による遺伝的弱体化のリスクを抱え、病気や環境変化に弱くなります。

 

③九州では既に絶滅

九州のツキノワグマ個体群は、1940年代頃に絶滅したと考えられています。島での大型哺乳類の絶滅は自然の力では回復不可能であり、四国もそのリスクに直面しています。

 

 

ツキノワグマとヒグマの違いを正しく理解しよう

 

混同が招く誤解

ニュースで「クマが出た」と報道されるとき、本州・四国のクマはツキノワグマ、北海道のクマはヒグマ(エゾヒグマ)です。この2種は別の種であり、危険性・生態ともに大きく異なります。

 

混同して一括りに「クマは危険」「クマは保護すべき」と議論することが、対策をゆがめる原因にもなっています。

 

基本スペックの違い

 

項目 ツキノワグマ ヒグマ(エゾヒグマ)
生息地 本州・四国の山林 北海道ほぼ全域
体重(オス成獣) 約70kg(最大100kg超) 約150〜250kg(最大400kg超の記録あり)
体色 黒。胸に白い三日月紋 茶褐色〜黒褐色。紋なし
性格・気性 基本的に臆病で逃げる ツキノワグマより気性が荒い傾向
危険な場面 不意の鉢合わせ、子連れの母グマ 上記に加え、食物を守る場面でも攻撃的

 

環境省の資料によると、成獣のヒグマは頭胴長200〜230センチ、体重150〜250キロとされており、2002年に斜里町で捕獲されたオスは体重400キロもあったといいます。

 

危険性の比較

 

ツキノワグマは基本的には臆病で、不意の遭遇や子グマを連れた母グマ、食料が不足した時期に危険性が増します。

ヒグマはより大型で力が強く、捕食行動としてヒトを標的にするケースも歴史的に記録されています(三毛別羆事件など)。

 

ただし、どちらのクマも適切な注意と行動で被害を大幅に減らすことができます

 

出没件数と人身被害の現実——データで見る深刻な状況

 

2023年は過去最悪の記録

 

2023年は北海道と東北を中心にクマ類の大量出没と人身被害が多発し、全国でクマ類による人身被害は197件発生し、被害者218名のうち6名が死亡しており、月別統計のある2006年以降最多となりました。

 

環境省によると、2023年4月から10月までのツキノワグマの出没件数は、2009年度以降で最多となりました。7カ月間の全国出没件数は1万9,192件に及び、10月だけで6,000件近くの出没を記録しました。

 

2025年も状況は改善しておらず、環境省の速報値では被害が続いています。

 

秋に集中する理由

 

ツキノワグマが秋に人里へ降りてくる主な理由は冬眠前の大量摂食行動(過食症)です。

冬眠に向けて体内に脂肪を蓄えるため、ドングリ・ブナ・コナラなどの木の実(堅果類)を大量に食べる必要があります。堅果類が凶作の年は、山での食料が不足するため、人里の農作物や生ゴミを求めて降りてくるリスクが急増します。

2023年の大量出没も、ブナ科の堅果類の大凶作が主因の一つとして環境省は分析しています。

 

人身被害が起きやすい場面

  • 山菜採り・キノコ採り:不意の鉢合わせ
  • 農作業中:クマが食料を守ろうとして攻撃
  • 人家周辺:食料を求めて市街地に侵入
  • 子グマとの遭遇:近くにいる母グマが防衛行動

人身被害の発生場所を見ると、9月・10月には全体の約4割が人家周辺で起きていました。特に秋田県では、9月から11月の3カ月間で山林以外の人の生活圏で起きた人身被害が40件以上に及びました。

 

よくある疑問に答えるQ&A

 

Q1. ツキノワグマは絶滅危惧種なのに、なぜ駆除するの?

 

A. 「絶滅危惧種だから一切手を触れてはいけない」という理解は、現実には当てはまりません。

環境省の方針では、人命の安全確保を最優先としており、人間活動域に侵入して人身被害をもたらす可能性があるクマは捕獲・駆除の対象となります。

ポイントは「絶滅させない範囲で、必要最小限の個体管理を行う」という科学的管理の考え方です。2024年4月、クマ類はニホンジカ・イノシシと同様に「指定管理鳥獣」に指定され、より体系的な管理が可能になりました。

 

Q2. クマに遭遇したらどうすればいい?

 

A. 基本は「騒がず、ゆっくり後退する」です。

  • 大声を出さない(クマが興奮する)
  • 走って逃げない(追いかける本能を刺激する)
  • 目を合わせながら、ゆっくり後退
  • 熊スプレーを携行している場合は、5〜7m以内に近づいたら噴射

子グマがいたら、必ず近くに母グマがいます。その場から静かに離れましょう。

 

Q3. クマよけの鈴やラジオは本当に効果あるの?

 

A. 効果はあります。ただし万能ではありません。

ツキノワグマは基本的に臆病なので、人の存在を事前に知らせることで多くの場合は逃げていきます。熊鈴・ラジオ・笛・話し声など、継続的な音を出すことが有効です。

無音で移動することが最も危険です。特に沢沿いや風の強い日は、クマが人の接近に気づきにくくなります。

 

Q4. 熊スプレーは効果があるの?

 

A. 科学的に有効性が証明されています。

熊スプレーはトウガラシ成分(カプサイシン)を含む忌避スプレーで、クマの鼻や目に噴射することで撃退効果があります。北米での調査では、銃よりも熊スプレーの方が人身被害を防ぐ効果が高いとする研究もあります。

登山や山菜採りをする方は、携行を強くお勧めします。

 

人とツキノワグマが共生するための具体的な方法

 

①個人でできること

 

里山・山林に入る前の準備

  • 熊鈴を必ず携行する
  • 複数人で行動する(単独行動はリスクが高い)
  • 早朝・夕暮れ時は特に注意(クマの活動が活発)
  • 熊スプレーを腰に携行する

生活圏でできること

  • 生ゴミを屋外に放置しない(クマを引き寄せる原因に)
  • 収穫せずに放置した果樹はクマの食料になる——適切に管理する
  • 目撃情報を自治体・警察に速やかに通報する

農家・林業従事者の方へ

  • 電気柵の設置(費用補助制度あり:各都道府県の鳥獣害防止施策を確認)
  • ヤブや茂みを刈り払い、クマが隠れにくい環境を整える
  • 収穫物を屋外に放置しない

 

②地域・行政レベルでの取り組み

 

生息地の保全

ツキノワグマが本来の生息地である奥山で安定して暮らせるよう、針葉樹の人工林を広葉樹林に戻す「針広混交林化」が重要です。ドングリなどの実がなる木が豊かにあれば、クマは人里に降りてくる必要が減ります。

 

ICT・AI技術の活用

近年では、センサーカメラ・GPS発信機・AIによる出没予測システムの開発が進んでいます。クマの行動をリアルタイムで把握することで、事前に住民へ警告を出す取り組みが一部の自治体で始まっています。

 

広域連携の推進

クマは県境を越えて移動します。広島・島根・山口3県が共同で設置した「西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会」のように、都道府県を超えた連携体制が不可欠です。

 

ツキノワグマと共生することのメリット・デメリット

 

共生推進のメリット

 

生態系サービスの維持

ツキノワグマは食物連鎖の上位に位置する「アンブレラ種(傘の役割をする種)」です。クマが豊かに暮らせる森は、他の多くの野生生物にとっても健全な生息地を意味します。

また、クマは種子散布者としても重要な役割を持ちます。ドングリや果実の種を糞として広範囲に散布することで、森の多様性を維持することに貢献しています。

 

観光・地域資源としての価値

一部の地域では、クマを「共存できる野生動物」として位置づけ、エコツーリズムに活用する動きが生まれています。クマが安全に生息できる豊かな森は、それ自体が地域の財産です。

 

共生推進のデメリット・課題

 

人命・農業被害のリスク

共生を推進するにあたって最も重視すべきは、人の命と生活の安全です。個体数の回復に伴い、人間との接触機会が増えれば、被害リスクも高まります。

 

山村部・高齢者への影響

特に高齢化が進む中山間地域では、クマへの恐怖から農業をやめたり、外出を控える人が出ています。精神的・経済的なダメージは無視できません。

 

「慣れたクマ」の問題

人里の食料に慣れてしまったクマ(習慣的出没個体)は、たとえ追い払っても戻ってくる可能性が高く、最終的に駆除せざるを得ないケースもあります。「クマを人を恐れさせる緊張関係の維持」が共生の鍵とも言われています。

 

現場からの声——山村で暮らす人たちの実感

 

秋田県在住のある農家の方は、長年コメと野菜を作りながら山と隣り合わせで暮らしてきました。2023年の秋、はじめて自分の畑に足跡を発見したときの言葉が印象的です。

 

「山に食べるものがなくなれば、そりゃ降りてくる。クマが悪いわけじゃない。でも、私らも怖い。電気柵を張って、できることはやっている」

 

この言葉には、野生動物との共生の本質が凝縮されています。

 

「クマが憎い」でも「クマを守れ」でもなく、現実の中でどう共存するかを考える姿勢。それが今、山村に生きる人々の多くの本音でもあります。

 

一方で、四国の山中でフィールドワークを続ける研究者の話も聞きました。カメラトラップに映る数十頭の姿を一頭一頭把握しながら、「このクマたちが絶滅するときは、四国の森が終わるときだと思っている」と語っていたそうです。

 

ツキノワグマ遭遇時の注意点まとめ

 

絶対にやってはいけないこと

  • 走って逃げる(クマの追跡本能を刺激する)
  • 食べ物を与える、近づく(人慣れを助長する)
  • 背中を向けて逃げる
  • 子グマに触れようとする(母グマが防衛する)
  • 不意に驚かせる(特に沢音が大きい場所や風下での接近)

 

万が一、攻撃された場合

 

専門家の間でも意見が分かれますが、環境省の出没対応マニュアルでは以下のような対応が紹介されています。

  • 熊スプレー:クマが5〜7m以内に近づいたら顔面に向けて噴射
  • 死んだふり:一般的に推奨されていない(有効性に疑問)
  • 声を上げながら抵抗する:一部の専門家が効果的と主張

最善策は、遭遇しないことです。山に入る前の情報収集と準備を怠らないようにしましょう。

 

動物福祉の視点から見る——今後の社会的な方向性

 

「管理」から「共生」へのパラダイムシフト

 

かつてのクマ対策は「有害駆除」が中心でした。しかし近年、日本でも「科学的根拠に基づく個体群管理」と「地域住民の安全確保」を両立させる考え方が浸透してきています。

 

2024年4月にクマ類が指定管理鳥獣に追加されたことで、国の支援を受けながら系統的な管理が可能になりました。これは「殺せばいい」でも「守ればいい」でもなく、データに基づいた科学的管理への移行を意味しています。

 

世界の先進事例に学ぶ

ヨーロッパでは、一度激減したヒグマをルーマニアやスロベニア、フィンランドなどで再導入・保護した事例があります。地域住民への補償制度・ライブカメラによる観察ツーリズム・電気柵の普及支援など、きめ細かい政策の組み合わせで共存を実現しています。

 

日本でも、こうした事例を参考にしながら、地域ごとの実情に即した柔軟な政策設計が求められています。

 

私たちにできること——都市部の市民にも役割がある

 

クマの問題は山村だけの問題ではありません。

日本の森林政策・農業政策・過疎化対策は、都市部の政治的意思決定にかかっています。私たち都市部の市民が、この問題に関心を持ち、声を上げることが、山村と野生動物の未来を支えることにつながります。

 

関連テーマとして、「里山の保全」「放棄農地問題」「ジビエ活用」なども密接に絡み合っています。(関連記事:里山保全と生物多様性を守るために私たちができること)

 

まとめ——「怖い」と「守りたい」の間に答えがある

 

ツキノワグマは、地域によっては絶滅危惧種として保護すべき存在であり、同時に人身被害をもたらす危険性を持つ野生動物でもあります。

 

この二つの事実は矛盾しません。

 

大切なのは、どちらか一方だけを見て感情的に判断するのではなく、データと現場の声の両方に耳を傾け、科学的・倫理的な視点で考え続けることです。

 

ツキノワグマが絶滅危惧種になった背景には、私たちの社会が作り上げてきた森林破壊・農村の過疎化・温暖化があります。人間がつくった問題を、クマだけに押し付けることはできません。

 

一方で、山村で暮らす人々の恐怖と安全は、最優先で守られなければなりません。

 

答えは「共生」の二文字の中にあります。

 

そのためには、まず正しい知識を持つことが第一歩です。この記事が、あなたの思考の入り口になれば、これほど嬉しいことはありません。

 

まず今日できることから始めましょう。 秋の山に出かける予定がある方は、熊スプレーの携行と、最新の出没情報の確認を習慣にしてみてください。そして、地域のクマ対策に関する行政の情報をフォローすることで、あなた自身がこの問題の当事者として関わることができます。

 


参考資料・出典

  • 環境省「クマに関する各種情報・取組」https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/
  • 環境省「クマ類の生息状況、被害状況等について」
  • 日本自然保護協会(NACS-J)「四国のツキノワグマを絶滅から救おう」
  • 日本クマネットワーク(JBN)「2023年度クマ大量出没シンポジウム報告書」(2024年)
  • WWF Japan「日本に生息する2種のクマ、ツキノワグマとヒグマについて」
  • 東京都環境局「東京のツキノワグマ」
  • 山﨑晃司(東京農業大学)「ツキノワグマの基礎的な生態の理解」(環境省資料)
  • 広島県「ツキノワグマ保護管理」https://www.pref.hiroshima.lg.jp/

この記事は環境省・自治体・研究機関の公表データをもとに、動物福祉の観点から執筆しています。最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。

この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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