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西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会とは?広島・島根・山口3県が挑む「共存」の最前線

 

西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会

 

 

この記事でわかること

  • 西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会が設立された背景と目的
  • ツキノワグマが「絶滅危惧」から「生息拡大」へと変わった驚きの実態
  • 3県が連携して取り組む具体的な保護管理の仕組みと方法
  • 山でクマに遭遇したときの正しい対処法
  • 動物福祉の視点から見た「人とクマの共存」の未来

 

はじめに|あなたが「西中国山地 クマ」で検索したワケ

 

「広島でクマが出た」「山口の山でクマに遭遇した」「島根のクマ問題が深刻だと聞いた」——そんな話題を耳にして、このページにたどり着いた方は多いのではないでしょうか。

 

あるいは、登山やキャンプが好きで、西中国山地を訪れる前に安全情報を調べている方もいるかもしれません。

 

もしくは、クマの保護管理や動物福祉に関心を持っている研究者や行政関係者の方が、公的機関の取り組みを調べているケースもあるでしょう。

 

どのような理由であれ、この記事では「西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会」について、公的機関のデータをもとに詳しく・わかりやすく解説します。

 

単なる「危険情報」ではありません。クマの生態、保護管理の歴史、そして「人と野生動物が共存する社会」の現在地まで、この記事一本で完結できるよう構成しました。 

 

西中国山地のツキノワグマが「絶滅危惧」だった時代

 

かつては絶滅寸前だった西中国地域個体群

 

西中国山地に生息するツキノワグマは、日本の中でも特殊な位置づけを持っています。

広島県・島根県・山口県にまたがるこの山岳地帯のクマ群は、「西中国地域個体群」と呼ばれ、他の地域に生息するクマとは遺伝的に孤立した集団です。

 

1994年(平成6年)、環境省はこの個体群への狩猟を全面禁止しました。個体数が急減し、絶滅の危機に瀕していたためです。同省のレッドデータブック(2014年版)においても、「絶滅のおそれのある地域個体群」として掲載されています。

 

当時の状況を想像してみてください。長年にわたる開発、生息地の縮小、そして狩猟圧によって、西中国山地のツキノワグマは静かに数を減らしていきました。このまま手を打たなければ、次の世代には「西中国山地にはかつてクマがいた」と語られるだけになっていたかもしれません。

 

驚きの逆転:分布域は1.6倍に拡大

 

ところが、2020年(令和2年)に3県で実施した第5回個体数推定調査では、状況が一変していました。

  • 分布面積:1999年の第1回調査(約5,000km²)から約1.6倍に拡大
  • 推定生息数:767〜1,946頭(中央値は非公表、調査はカメラトラップ225台を使用)
  • 目撃情報:島根県では隠岐を除く県全域、広島県では瀬戸内海側を除く地域、山口県では県西部の海沿いを除く地域で確認

(出典:島根県「第二種特定鳥獣(ツキノワグマ)管理計画」令和4年3月)

 

これは保護管理の成果であり、同時に新たな課題の始まりでもありました。

クマが増え、生息域を広げたことで、農耕地や人家周辺への出没が増加。農作物被害や人身事故のリスクが現実のものとなったのです。

 

西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会とは何か

 

3県が「一体」で動く理由

 

クマは県境などという人間の線引きを知りません。

 

西中国山地という一つの山系に生きる個体群を管理するには、広島・島根・山口の3県が足並みをそろえる必要があります。そこで2004年(平成16年)、3県および関係機関によって設立されたのが、「西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会」です。

 

この協議会は単なる情報共有の場ではありません。計画の推進を評価し、関係者間の合意を形成し、各県行政に助言を行う「評価・合意形成機関」として機能しています。

 

協議会の構成メンバーと役割

 

協議会は以下のメンバーで構成されています。

  • 3県の行政機関(広島県・島根県・山口県の担当部局)
  • 専門家(生態学・野生動物管理の研究者)
  • 関係団体(農業者団体、林業者団体など)

また、協議会の下部組織として「科学部会」が設置されており、ツキノワグマの生態調査・生息環境調査の手法や結果評価など、技術的な側面からの助言を行っています。

 

事務局は3県が順番で担当し、年度初めや協議事項が生じた場合には担当者会議が随時開催されます。

 

保護管理計画の歴史

 

3県によるツキノワグマの保護管理は、協議会設立よりも前から始まっていました。

  • 1993年〜:広島・島根・山口が順次「ツキノワグマ保護管理計画」を策定(全国的にも早期の取り組みとして評価)
  • 2004年:西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会を設立
  • 2006年:第2期計画策定
  • 2011年:第3期計画策定
  • 2016年:第4期計画(第一種特定鳥獣保護計画)策定。「ゾーニング管理」の考え方を初めて導入
  • 2022年〜2027年:現行の第5期計画(第二種特定鳥獣管理計画)

 

現在の計画は令和4年4月1日から令和9年3月31日までの5年計画で、「ゾーニング管理」「個体群管理」「被害防止対策」「生息環境管理」「錯誤捕獲の予防と対策」「普及啓発」の6つの目標を柱としています。

(出典:島根県公式サイト「ツキノワグマの保護管理」)

 

よくある疑問に答えます|Q&A形式で解説

 

Q1. ツキノワグマは危険な動物ですか?

 

A. 本来、ツキノワグマは非常に臆病な動物です。通常は人間の存在に気づくと自ら遠ざかります。

問題が起きるのは主に2つのケースです。

  • 食べ物を求めて集落に下りてきたとき:柿・栗・果樹・養蜂の蜜・農作物などを狙う
  • 突然の遭遇時:自身や子グマを守るため攻撃することがある(特に早朝・夕方)

クマは目があまり良くない一方、耳と嗅覚は非常に優れています。だからこそ「クマ鈴」や「ラジオ」などで音を出して存在を知らせることが有効なのです。

 

Q2. なぜ西中国山地のクマは特別扱いされているのですか?

 

A. 先述のとおり、西中国地域個体群は他の地域から遺伝的に孤立しているためです。

もし絶滅してしまえば、「西中国山地のクマ」という生物学的ユニットそのものが消滅します。日本の生物多様性の観点から、この個体群の保全は非常に重要です。

環境省もこの個体群の重要性を認め、1994年から狩猟を全面禁止にしています。

 

Q3. クマが増えすぎて困っているのでは?

 

A. これは非常に重要な問いです。

確かに、生息数・分布域ともに拡大しています。農作物への被害(特に養蜂の蜜桶、柿、栗、梨、リンゴなど)や人身事故のリスクは現実の問題です。

 

一方で、「増えすぎ=すべて駆除」とはなりません。協議会が採用している「ゾーニング管理」とは、地域を「保護区域」「管理区域」「排除区域」などに区分し、場所に応じた対応をとる考え方です。

クマが安定して生息すべき奥山ではその存在を守り、人の生活域に繰り返し出没する個体には捕獲対応を取る——この「すみ分け」の実現が目標です。

 

Q4. 「錯誤捕獲」って何ですか?

 

A. イノシシやシカを捕まえるために設置したわなに、ツキノワグマが誤ってかかってしまうことを「錯誤捕獲」と言います。

 

意図せずクマを捕獲した場合、その個体を放すか(放獣)、それとも処分するかは状況によって異なります。3県の放獣率は第3期計画期間をピークに減少傾向にあり、この点が現在の課題のひとつとなっています。

錯誤捕獲を予防するための技術的な対策も、協議会の重要な議題のひとつです。

 

協議会が実施する具体的な保護管理の取り組み

 

①ゾーニング管理|場所によって対応を変える

 

西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会の中核となる考え方が「ゾーニング管理」です。

山地全体を一律に扱うのではなく、以下のようにエリアを区分して管理します。

  • 保護重点地区:クマが安定して繁殖できる奥山エリア。捕獲は原則禁止
  • 管理地区:クマの生息は認めつつ、農業被害・人身被害の防止対策を実施
  • 排除地区:人の生活域に近く、繰り返し出没する個体を有害捕獲の対象とするエリア

この区分は固定ではなく、モニタリングデータをもとに定期的に見直されます。

 

②個体群モニタリング|225台のカメラトラップで実態把握

 

クマの保護管理において「どこに何頭いるか」を知ることは、すべての施策の土台となります。

2020年の調査では、3県に225台のカメラトラップを設置し、生息密度と推定生息数を算出しました。また、ヘアトラップを使ったDNA分析、糞分析、痕跡調査なども組み合わせ、精度の高い個体数把握を目指しています。

このデータが毎年更新され、科学部会で評価・検討されたうえで、翌年度の管理方針に反映されます。

 

③被害防止対策|クマを「呼び寄せない」環境づくり

 

農作物被害や人身事故を防ぐには、クマを捕まえるだけでは不十分です。

「そもそもクマが集落に来ない環境を作る」ことが根本対策です。協議会が推進する主な被害防止対策は以下のとおりです。

  • 廃果・残飯・残渣の適切な処理(クマの誘引源をなくす)
  • 電気柵の設置と適切な維持管理
  • 放置果樹(柿・栗など)の早期収穫または伐採
  • 集落周辺の見通しを良くするための草刈り・下草刈り
  • 蜂の巣の撤去
  • 車庫・物置の扉を常時閉める

これらは「クマを撃退する」のではなく、「クマが来たくないと思う環境を作る」発想に基づいています。

 

④普及啓発|小学生からの教育で意識を育てる

広島県では、主に小学校を対象に専門家を派遣する「クマ学習会」を実施しています。

ツキノワグマの生態・特性についての正しい知識を子どもたちに伝えることで、将来にわたって「クマと共存できる地域づくり」の担い手を育てることが目的です。

 

「クマ=怖い、悪い動物」という一面的な認識ではなく、「クマは生態系の重要な一員であり、正しく知ることで被害は防げる」という考え方を地域全体に広げる取り組みです。

 

保護管理のメリットとデメリット|バランスよく理解する

 

メリット

  • 生物多様性の保全:絶滅危惧だった西中国地域個体群が回復・安定
  • 科学的な根拠に基づく管理:感情論でなく、データとモニタリングに基づいた意思決定
  • 3県の広域連携:個体群の分布域全体を一括管理することで、効果的な施策を実現
  • 住民の安全向上:被害防止対策の普及で農業被害・人身事故のリスクを低減
  • 教育効果:地域住民の野生動物リテラシーの向上

 

デメリット・課題

  • 人的・財政的コストの大きさ:モニタリング調査・学習会・電気柵整備など、継続的な予算と人手が必要
  • 農業被害の完全解消は困難:電気柵などの対策をしても一定の被害は避けられない
  • 放獣率の低下:錯誤捕獲個体の放獣に必要な技術・体制が十分でない県もある
  • 生息域拡大への対応:分布域が拡大しているため、従来の「奥山管理」だけでは対応しきれない場面も増加
  • 住民感情との折り合い:被害を受けた農家・住民からは「もっと厳しく対応を」という声も根強い

 

現場からの声|西中国山地で生きるということ

 

ここで一つの実体験風のエピソードを紹介します。

 

島根県西部の山間集落に暮らす農家のAさん(60代・仮名)は、毎年秋になると養蜂場の蜜桶を心配するようになりました。

 

「クマはすごく賢い。電気柵を設置してから2年は来なかったのに、3年目には柵の弱い部分を見つけて侵入してきた。イタチごっこみたいなもんだ」

 

でもAさんは、こうも言います。

「昔はクマなんてほとんど見なかった。絶滅しかけてたって聞いた時は、なんとなくさびしい気持ちになった。今は多すぎて困ってるけど、いなくなってしまうのもおかしい。共存って言葉は簡単だけど、実際は難しいよ」

 

このAさんの言葉に、西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会が取り組む問題の本質があります。

「いなくなれ」でも「増やせ」でもなく、「ともに生きる形を探す」こと。それは一朝一夕では実現しない、長期的な社会的プロジェクトです。

 

クマに遭遇したときの正しい対処法|知識が命を守る

 

西中国山地に登山・キャンプ・山菜採りなどで入る方は、必ず以下の知識を持っておきましょう。

  

遭遇を防ぐために

  • クマ鈴・ラジオなどを携帯し、音を出して自分の存在を知らせる
  • 早朝・夕方はクマの活動が活発なため、この時間帯の山林立ち入りには特に注意
  • キノコ採りなど、登山道から外れた場所では遭遇リスクが高まる
  • 複数人で行動し、単独行動は避ける

 

遭遇してしまったとき

  1. 距離が十分にある場合:背を向けずに、ゆっくりと後ずさりして立ち去る。走って逃げると追いかけてくる本能が刺激される
  2. 距離が近い場合:大声を出したり急激な動作をしたりしない。落ち着いて距離をとる
  3. 攻撃されそうになった場合:両腕で顔・頭を覆い、うつ伏せになってダメージを最小限に。クマは一撃の後すぐに逃げることが多いとされている

クマを目撃した際は、最寄りの市町や県農林水産事務所に必ず連絡してください。

(出典:広島県公式サイト「野生鳥獣の保護管理ポータル」)

 

注意点|「クマ=悪者」という思い込みを疑おう

 

西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会の取り組みを理解するうえで、いくつかの重要な注意点があります。

 

クマは「害獣」ではなく「野生動物」

 

日本では「有害鳥獣」という言葉が使われることがあります。しかしツキノワグマは本来、人間の農業や生活に敵意を持っているわけではありません。

 

食べ物を求めて動き回る本能に従って行動しているだけです。「クマが悪い」のではなく、「クマが来やすい環境を人間が作ってしまっている」ケースが多い、という認識が必要です。

 

捕獲=解決ではない

 

問題個体を捕獲・駆除すれば一時的に人的被害は減るかもしれません。しかし、誘引源(放置果樹・廃棄農産物など)が残っている限り、別のクマが同じエリアに入ってきます。

 

根本的な解決策は「クマが来たくない環境づくり」です。協議会が普及啓発に力を入れているのは、この長期的視点があるからです。

 

H3|SNS・口コミ情報に注意

 

クマの目撃情報や被害情報がSNSで拡散されることがありますが、不正確な情報も混じっています。最新・正確な情報は、各県の公式サイトやリリースで確認しましょう。

 

動物福祉の未来|「共存」はどこへ向かうのか

 

2025年度の最新動向:捕獲数が大幅減少

 

2025年度(令和7年度)の西中国山地におけるツキノワグマの捕獲数は、2024年度から大幅に減少し、過去5年で最も少ない水準となりました。前年度比でおよそ4分の1の水準です。

 

これはこれまでの対策の効果と、山の食べ物(ブナ・ミズナラの実など)の豊作が複合的に影響したとみられます。

一方で、東北地方では依然としてクマによる被害が相次いでいます。西中国山地でも「一時的な減少で油断はできない」という声が地元専門家から上がっています。

(出典:中国新聞デジタル、2026年2月16日報道)

 

動物福祉の潮流:「殺さずに管理する」時代へ

 

世界的に見ると、野生動物の管理において「人道的な方法」を重視する動物福祉の考え方が主流になりつつあります。

日本でも、環境省が策定する「鳥獣保護管理法」の枠組みのなかで、科学的根拠に基づく管理と動物福祉のバランスが問われるようになってきました。

 

西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会の取り組みは、まさにこの時代の先端にあります。「増えすぎたから全部駆除」でも「可哀想だから全部保護」でもなく、データとモニタリングに基づいて継続的に方針を更新し続ける——この柔軟で科学的なアプローチが、日本における野生動物管理の新しいスタンダードになっていくでしょう。

 

地域コミュニティの役割が増している

政府・行政機関の取り組みだけでなく、地域住民・農家・登山者・ハンター・研究者・NPOが連携して「クマとの共存」を考える時代になっています。

 

「クマが怖い」「農業を守りたい」「生態系を壊したくない」——それぞれの立場が正直に向き合い、対話を重ねることで、より良い保護管理の形が生まれます。

 

 

まとめ|「知ること」が共存の第一歩

 

この記事では、西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会について、設立の背景から具体的な取り組み、今後の展望まで詳しく解説しました。

ポイントを整理します。

  • 西中国地域のツキノワグマは、かつて絶滅危惧に指定されていた孤立個体群
  • 広島・島根・山口の3県が2004年に協議会を設立し、20年以上にわたって連携管理を続けている
  • 現在の第5期計画(2022〜2027年)では、ゾーニング管理・個体群モニタリング・被害防止・普及啓発の6つの柱を推進
  • 2025年度の捕獲数は大幅減少したが、専門家は継続的な注意と対策の重要性を強調
  • 「クマを排除する」のではなく「クマと共存できる環境を作る」という思想が、この保護管理の核心にある

 

クマに対して「怖い」「危険だ」と感じることは自然な反応です。でも、「知る」ことで恐怖は適切なリスク管理に変わります。

 

そして「知る」ことが、野生動物と人間が共に生きる社会を作る最初の一歩です。

ぜひ、あなたが暮らす地域のクマ情報や野生動物保護の取り組みを、今日から一度調べてみてください。 あなたの地域が「共存」の主役になれるかもしれません。

 


参考資料・出典:

  • 広島県「野生鳥獣の保護管理ポータルサイト」
  • 島根県「第二種特定鳥獣(ツキノワグマ)管理計画」令和4年3月
  • 山口県「ツキノワグマによる被害を防ぐために」(自然保護課)
  • 環境省「中大型哺乳類分布調査」
  • 西中国山地ツキノワグマ保護管理対策協議会 啓発リーフレット
  • 中国新聞デジタル 2026年2月16日報道

この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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