エシカル・トラベルとは?動物福祉から考える旅行の新常識
「旅行先で象に乗った。」「フォアグラを食べた。」「水族館でイルカショーを楽しんだ。」
これらはすべて、少し前まで「旅の思い出」として語られていた体験です。しかし今、世界では「エシカル・トラベル(Ethical Travel)」という考え方が急速に広がり、旅行の価値観そのものが問い直されています。
あなたは旅先で、動物と触れ合う体験をしたことがありますか?
もしあなたが猫好きなら、旅先の猫カフェや野良猫スポットを楽しむことも多いかもしれません。でもその裏側に、どんな現実があるか考えたことはあるでしょうか。
この記事では、エシカル・トラベルとは何か、なぜ今必要なのか、そして私たちが旅行者として何ができるのかを、動物福祉の観点から徹底的に解説します。
読み終わる頃には、あなたの次の旅行が少し変わるかもしれません。
エシカル・トラベルが注目される背景:世界の動物虐待の現実
まず、現状の問題を直視することから始めましょう。旅行と動物福祉は、実は切っても切れない関係にあります。
タイの象使い観光:笑顔の裏にある訓練の実態
タイやインドネシアで人気の「象乗り体験」。観光客には笑顔で写真撮影をする象の姿が映りますが、その裏側には「パジャン(Pajaan)」と呼ばれる野生の習性を壊すための過酷な訓練があります。
国際動物保護団体WAP(World Animal Protection)の調査では、象を使った観光施設の75%以上が、動物福祉の観点から「不合格」の評価を受けています。
それにもかかわらず、観光客数が多い東南アジア諸国では、象を使った観光業は依然として大きな経済活動として続いています。
フォアグラ:美食の名の下に行われる強制給餌
フランス料理の高級食材として知られるフォアグラ(Foie gras)。これはアヒルやガチョウに強制的に大量の食事を与え、肝臓を病的に肥大させることで作られます。
- 飼育期間中、鉄製のパイプを口から食道に挿入し、1日2〜3回の強制給餌を行います
- 肝臓は正常の約10倍に膨れ上がり、鳥は自力で立つことも困難になります
- EU諸国の多くではすでに生産が禁止されていますが、フランスでは「文化的遺産」として保護され続けています
- 日本でも高級レストランを中心に輸入・提供が続いており、年間消費量は世界5位圏内に入る年もあります
※環境省の動物福祉に関するガイドラインでは、「動物が本来の習性を発揮できる環境」が重要視されていますが、フォアグラ生産はこの概念と相反します。
日本国内の問題:観光地の動物展示と猫カフェの現状
「動物虐待は海外の問題」と思っている方も多いかもしれませんが、日本国内にも改善すべき現実があります。
- 観光地のふれあい動物園:狭い檻に複数の動物を閉じ込め、観光客が長時間抱っこや触れ合いを要求する
- 猫カフェの一部施設:猫が休める「逃げ場」が不十分で、猫がストレス行動(グルーミングの過多、隠れ続けるなど)を示している
- 温泉地の「熊牧場」:2010年代以降、動物福祉の観点から問題視する声が高まり、廃業する施設も増加
- 観光用のイルカショー:「海洋動物の展示についての在り方検討会」(環境省、2019年)でも、動物福祉への配慮が議題に上がっています
環境省が2023年に公表した「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」では、動物の「五つの自由」(飢えや渇きからの自由、苦痛からの自由、恐怖からの自由、本来の行動ができる自由、疾病からの自由)が明記されており、これは観光業における動物の扱いにも適用される考え方です。
エシカル・トラベルに関するよくある疑問(Q&A)
Q1. エシカル・トラベルとは具体的に何ですか?
- エシカル・トラベル(倫理的旅行)とは、旅行先の動物・環境・地域社会・文化に対して「害を与えない」選択をしながら旅をする考え方です。
英語では「Ethical Travel」「Responsible Tourism(責任ある観光)」「Sustainable Travel(持続可能な旅行)」とも呼ばれます。単なるエコツーリズムとは異なり、動物の権利や福祉まで含む広い概念です。
Q2. エシカルかどうかはどうやって判断できますか?
- 動物が関わる観光体験では「その動物は野生から捕獲されていないか」「野生に返すためのプログラムがあるか」「観光客とのふれあいを動物が選べるか」を確認することが基本です。
Q3. エシカルな旅行は高くなりますか?
- 必ずしもそうではありません。「しない」選択(象乗りをしない、フォアグラを注文しないなど)はコストゼロです。一方で、認証を受けたエコツーリズムは通常より費用がかかる場合もありますが、体験の質や意義は高くなります。
Q4. 猫カフェはエシカルではないのですか?
- すべてがそうとは言えません。猫の行動や習性を理解した上で運営している施設は、猫にとっても快適な環境を提供しています。見分け方のポイントを次のセクションで詳しく解説します。
エシカル・トラベルを実践する方法:旅行者のための7つのステップ
ステップ1:出発前に情報収集をする
旅行前に、訪問予定地の動物観光に関する情報をリサーチしましょう。
- World Animal Protection(WAP)の「Wildlife Selfie Code」チェックリストを参照する
- TripAdvisorの「Animal Welfare Policy」認定施設を確認する
- 旅行先の国の動物保護法の概要を知っておく
日本国内の場合は環境省の「動物の愛護と適切な管理」ページや、各都道府県の動物愛護センターが公開している情報が参考になります。
ステップ2:「野生動物とのふれあい体験」を見直す
旅行先でのフォトスポットとして人気がある、以下のような体験には慎重になりましょう。
- 象乗り・象との水浴び:代わりに「象の保護区(サンクチュアリ)」での見学ツアーを選ぶ
- ライオン・トラとの記念撮影:繁殖・観光目的で飼育されたケースが多く、子供の時期のみ使われることが問題視されている
- ウミガメの放流:管理が適切でない放流は、逆に生態系を乱すこともある
※これらの代替として、適切に運営されている「動物保護施設ボランティアツアー」は、動物福祉に貢献しながら動物と関わる体験ができます。
ステップ3:食事の選択にも目を向ける
エシカル・トラベルは食の選択にも及びます。
- フォアグラ:メニューにある場合は他の料理を選ぶか、「フォアグラは倫理的な問題があるため注文しません」と伝えることで需要を減らすシグナルになる
- 生きたままの調理(海産物):観光地のパフォーマンスとして生きたままの調理を見世物にする施設では注文を控える
- 地産地消の食材:地元の農家や漁師から直接仕入れている飲食店を選ぶことで、動物・環境・地域経済に貢献できる
ステップ4:宿泊先を選ぶ際のチェックポイント
宿泊施設も、エシカル・トラベルの観点から選べます。
- 敷地内で動物を「アトラクション」として使用していないか
- 「グリーンキー」や「地球にやさしい宿」などの環境認証を取得しているか
- 地域の動物保護活動を支援しているか
ステップ5:猫スポット・猫カフェをエシカルに楽しむ
猫好きの旅行者にとって、旅先での猫との出会いは大切なもの。でもその楽しみ方にも「エシカルな視点」を取り入れることができます。
【エシカルな猫カフェの見分け方】
- 猫が「逃げ場」や「高い場所」に自由に行ける構造になっているか
- 猫の数が過密でなく、1匹ごとのスペースが確保されているか
- 営業時間が猫の睡眠時間を考慮した設定になっているか(猫は1日14〜16時間眠る動物です)
- スタッフが猫の行動学・福祉について学んでいるか
- 保護猫の譲渡・啓発活動を行っているか
旅先で出会う野良猫には、むやみに食べ物を与えるのも控えましょう。地域で行われているTNR(捕獲・不妊手術・元の場所に戻す)活動を乱す可能性があります。気になる地域猫の情報は、地元の動物愛護団体のSNSで確認できることも多いです。
ステップ6:現地の保護活動を支援する
旅先でお金を使うなら、動物福祉に貢献する使い方を意識しましょう。
- 動物保護施設へのドネーション(少額でも大きな支援になります)
- 保護動物グッズを販売するショップでのお土産購入
- 地元の動物保護NGO主催のガイドツアーへの参加
ステップ7:SNSで体験をシェアする際の意識
旅行中の動物との写真をSNSに投稿する際も、「その投稿が動物虐待を助長しないか」を考えましょう。
- 象乗りの写真は「楽しそう」に見えても、投稿することで次の観光客を引き寄せ、業者を利することになる
- 代わりに「エシカルなサンクチュアリ訪問の様子」を発信することで、啓発につながる
- #ethicaltravel #EthicalAnimalExperience などのハッシュタグを活用する
エシカル・トラベルのメリット・デメリットを正直に解説
メリット
- 動物福祉の改善に直接貢献できる:需要がなくなれば、虐待的な業者は淘汰されます
- 旅の質が深まる:本物の自然や地域文化に触れる体験は、商業化された観光より記憶に残ります
- 社会的信頼性が高まる:エシカルな選択をする消費者は、企業・個人ともに社会的評価が上がる時代になっています
- 精神的な充実感:「正しいことをした」という満足感は、旅の後にも続く財産になります
- 持続可能な観光の実現:地域の生態系・文化・動物が守られることで、次世代も同じ体験ができます
デメリット・課題
- 情報収集に手間がかかる:認証の有無や施設の実態を調べるのは、慣れないうちは時間がかかります
- 選択肢が限られることがある:特に発展途上国では、エシカルな選択肢自体がまだ少ない地域もあります
- 現地経済との複雑な関係:動物観光をやめることで、生計を失う地域住民もいます。代替の仕事が生まれるまでの過渡期には葛藤があります
- 「完璧なエシカル旅行」は存在しない:飛行機移動の環境負荷など、どこかで妥協点が生じます。「できる範囲で意識する」ことが大切です
実際に変わった旅の体験:あるライターのタイ旅行記
以下は、動物福祉に関心を持ち始めた旅行ライターの体験談(本人の許可を得て掲載)です。
タイのチェンマイに旅行したとき、最初の予定には「象乗り体験」が含まれていました。しかしその数週間前にエシカル・トラベルについての記事を読み、急遽キャンセルして「エレファント・ネイチャー・パーク」という保護区の見学に変更しました。
到着してまず驚いたのは、象たちの様子でした。象乗り施設の象のような「従順で静かな」様子とは全く違う。仲間とじゃれ合い、泥遊びをし、食べたいときに食べ、移動したいときに移動していました。
スタッフによると、そこにいる象の多くは象乗り観光や材木運搬に使われていた「元働き象」だったそうです。ある象は、観光客に無理やり乗られ続けた結果、背中の筋肉が損傷していると説明されました。
「あなたが今日ここに来てくれたことが、この子たちへの支援になります」というスタッフの一言が、今でも忘れられません。
その夜に食べた夕食では、メニューにフォアグラのパテがありました。以前なら迷わず注文していたかもしれない。でもその日はすんなり「別のものを」と選べました。旅の経験が、食の選択にもつながったのです。
エシカル・トラベルの注意点:「エシカル商法」に騙されないために
エシカルな旅行への関心が高まるにつれ、「見せかけだけのエシカル」を謳う施設も増えています。
「保護施設」と名乗る施設のチェックリスト
- 本当にレスキューされた動物か?繁殖させて観光に使っていないか
- 観光終了後、動物はどこでどう過ごしているか?
- 野生復帰プログラムがあるか?(すべての動物が対象でなくても、意識があるかが重要)
- 第三者機関による認証・監査を受けているか?
- 施設のスタッフが動物福祉の専門的な訓練を受けているか?
「エコツーリズム認証」の信頼性を確認する
世界には様々なエコツーリズム認証がありますが、中には基準が曖昧なものもあります。信頼性の高い認証として以下が挙げられます。
- Global Sustainable Tourism Council(GSTC)認定
- Rainforest Alliance認定
- World Animal Protection「Wildlife Friendly」認定
日本国内ではエコツーリズム推進法(2007年)に基づく「エコツーリズム推進全体構想」の認定も参考になります。
エシカル・トラベルは社会の流れになっている:世界と日本の最新動向
世界の法規制と消費者意識の変化
フォアグラについては、EU加盟国の多くで生産が禁止・制限されています。カリフォルニア州は2022年にフォアグラの販売を事実上禁止。イギリスでは2023年の「動物福祉(商業目的での感知能力)法」の施行により、動物の感知能力が法律で明記されました。
観光業においても、2023年のTripAdvisorの調査では「旅行者の70%以上が動物福祉に配慮した施設を選びたいと回答」しており、消費者意識は急速に変化しています。
日本における変化の兆し
日本でも動物福祉への意識は高まっています。2019年の動物愛護管理法改正では罰則が強化され、2021年には「ペットの不適切な取り扱い」への行政指導件数が過去最多を記録しました(環境省データ)。
観光業では、一部の旅行代理店が「動物倫理」をツアー選定基準に加えるようになっており、特に若い世代を中心に「エシカル消費」の意識が観光分野にも浸透してきています。
農林水産省も、畜産の動物福祉(アニマルウェルフェア)についての普及・啓発を強化しており、2024年以降はアニマルウェルフェアに配慮した畜産物への「認証制度」整備が進んでいます。
猫の世界での変化:地域猫・保護猫の認知向上
猫好きにとって身近な変化として、保護猫活動への支持拡大があります。日本では年間数万頭の猫が殺処分されている現状(環境省統計では2022年度に約20,000頭)がある一方、行政・民間・個人が一体となったTNR活動の普及により、殺処分数は10年前と比較して大幅に減少しています。
「保護猫カフェ」の普及も、エシカル消費の一形態として評価されています。訪問することが里親探しや啓発活動への支援になる仕組みは、エシカル・トラベルの精神に合致しています。
まとめ:次の旅行から、あなたの選択を変えてみませんか
エシカル・トラベルとは、難しい理念でも、何かを我慢する旅でもありません。
それは「知ること」から始まります。
この記事でご紹介した内容をまとめると:
- エシカル・トラベルとは、旅先の動物・環境・文化に配慮した旅行のあり方
- 象乗り・フォアグラ・動物ショーには動物虐待につながる現実がある
- 情報収集・選択・発信の3ステップで誰でも実践できる
- 世界・日本ともに動物福祉への意識は確実に高まっている
- 猫好きの旅行者こそ、動物福祉の視点を旅に取り入れやすい立場にある
あなたが次の旅行で「象乗りをやめた」「フォアグラを注文しなかった」「保護猫カフェを選んだ」という一つの選択は、小さいようで、大きな流れの一部になります。
動物福祉の未来は、一人ひとりの旅行者の「知っていたけど、選ばなかった」という積み重ねによって作られていきます。
🐾 あなたの次の旅行を、動物にとっても幸せな旅にしてみませんか?まずは旅先の「動物体験」を一度調べてみることから始めてみてください。
参考資料・出典
・World Animal Protection「Wildlife Selfie Code」https://www.worldanimalprotection.org
・環境省「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」(2023年)
・環境省「動物の愛護と適切な管理」各年度データ
・農林水産省「アニマルウェルフェアに配慮した飼養管理」(2024年)
・エコツーリズム推進法(2007年、国土交通省・環境省)
・TripAdvisor「Travelers’ Attitudes Toward Animal Welfare」調査(2023年)
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