競馬禁止の国は存在するのか?動物福祉の観点から世界の競馬規制を徹底解説
はじめに:「競馬禁止の国」に関心が集まる理由
近年、「競馬禁止の国」というキーワードで検索する人が増えています。その背景には、動物福祉(アニマルウェルフェア)への社会的関心の高まりがあります。SNSで競馬中の落馬事故や引退馬の殺処分に関する投稿が拡散されるたびに、「そもそも競馬は許容されるべき産業なのか」という議論が活発になっています。
この記事では、競馬を法的に禁止または厳しく制限している国があるのかどうかを調査しながら、競馬が抱える問題点、世界各地で進む規制の変化、そして私たち一人ひとりにできることを詳しく解説します。競馬ファンの方も、動物福祉に関心のある方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
競馬禁止の国は存在するのか?
結論からいえば、「競馬そのものを法律で全面禁止している国」は、現時点では多くはありません。しかし、宗教上・文化上・法律上の理由から競馬が事実上存在しない国、あるいは厳しく制限されている国は複数存在します。
イスラム圏の国々
競馬が存在しない、あるいはごく限定的な国として最初に挙げられるのはイスラム圏の一部の国々です。イスラム教では賭博(ギャンブル)は厳格に禁じられており(ハラーム)、それゆえに馬券販売を伴う競馬は宗教法(シャリーア)の観点から認められない場合があります。
ただし、ここで重要な区別があります。競馬という「スポーツ・文化」と、競馬「賭博」は別物です。馬術や馬のレースそのものはイスラム文化圏でも古くから存在しており、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイワールドカップのように、馬券なしで世界最高賞金額を誇るレースを開催する国もあります。ドバイでは競馬はあっても馬券販売はなく、つまり「ギャンブルとしての競馬は禁止」という形です。
サウジアラビアも同様で、近年はサウジカップなど国際的な競馬イベントを開催するようになりましたが、馬券販売はなく、賭博としての競馬は禁止されています。イランやイラクでは国内の競馬産業はほぼ存在しないか、非常に限定的です。
北朝鮮・一部の権威主義国家
北朝鮮では、平壌競馬場が一時期存在し、外国人向けに公開されることもありましたが、その規模は極めて小さく、一般市民が競馬を楽しむような環境は整っていません。競馬産業として機能しているとは言い難い状況です。
動物福祉を理由とした禁止・制限の動き
宗教や政治体制ではなく、純粋に「動物福祉」を理由として競馬を制限しようとする動きが、民主主義国家の中でも出てきています。これが最も注目すべき世界的潮流です。
オーストラリア、イギリス、アメリカ、フランスなどの競馬大国でも、動物保護団体が競馬の廃止や大幅な規制強化を求めるキャンペーンを展開しています。また、一部の地方・州レベルでは競馬場の閉鎖や特定のレース形式の禁止が実現しています。
競馬の問題点を正面から考える
競馬禁止を求める声の根拠となっているのは、主に以下のような問題点です。これらは競馬産業が長年向き合ってきた、しかし十分に解決されていない課題です。
1. 馬の死亡・安楽死(殺処分)問題
競馬における最も深刻な問題のひとつが、レース中や調教中の骨折・落馬による死亡、そして「安楽死」と表現される殺処分です。
競走馬はその身体的特性上、骨折が致命的になりやすい動物です。馬の体重は500kg前後にのぼる一方、足の骨は非常に細く、複雑骨折を起こした場合には外科的治療が困難なことが多く、苦痛を長引かせないために安楽死という選択がとられます。
アメリカ競馬安全局(HISA)のデータによれば、アメリカでは年間数百頭の競走馬がレース中または調教中に死亡しています。特に2019年のサンタアニタパーク競馬場では短期間に30頭以上の馬が死亡し、大きな社会問題となりました。
引退後の馬についても深刻な問題があります。競走馬としてのキャリアを終えた馬の多くは、乗馬クラブへの転用、繁殖、または食肉処理場への売却という運命をたどります。日本でも年間数千頭の馬が食肉として処分されているとされており、馬の命のサイクルに対する社会的な関心が高まっています。
2. レース中の骨折・落馬事故
競馬は騎手にとっても非常に危険なスポーツです。時速60〜70kmで走る馬から落馬した際の衝撃は計り知れず、騎手の重傷・死亡事故も後を絶ちません。しかし動物福祉の観点では、むしろ「意思決定に参加できない馬が危険にさらされる」ことが問題視されます。
馬はレースに「自ら志願」することができません。訓練と強制によってレースに出走させられる馬が、骨折や死亡のリスクを負わされることの倫理的問題は、近年ますます大きく議論されるようになっています。
3. ムチ(鞭)の使用
競馬において騎手が馬を鞭打つことは、世界の多くの競馬国で今も認められています。鞭はもともと馬の方向を制御する目的があるとされますが、実際には馬を走らせるための刺激として使用されることが多く、動物虐待に当たるのではないかという批判があります。
この問題に最も積極的に対応しているのがオーストラリアです。2024年、オーストラリア競馬の最高峰であるメルボルンカップを主催するビクトリア競馬クラブ(VRC)は、パドック内でのムチ使用禁止を含む福祉改善策を発表しました。また、ノルウェーでは競馬でのムチ使用を実質的に禁止しており、スウェーデンでもムチ使用回数の厳格な制限が設けられています。
アイルランドや英国でもムチ使用回数の上限が設定されていますが、動物保護団体は「回数の制限ではなく完全禁止を」と求めており、規制強化の圧力は今後も続くと見られます。
4. 過度な繁殖と品種改良の問題
競走馬の世界では、より速い馬を生み出すための品種改良が何世代にもわたって続けられてきました。その結果、現代のサラブレッドは爆発的な瞬発力を持つ一方で、非常に骨折しやすく、消化器系の疾患を起こしやすい「脆弱な肉体」を持つようになったと指摘されています。
また、強い種牡馬に繁殖が集中する構造により、毎年数多くの馬が生産される一方、競走馬として活躍できる馬は一部にすぎず、多くの馬が早期に淘汰される現実があります。
5. 賭博依存症・社会問題
これは馬の問題ではなく人間側の問題ですが、競馬が賭博産業と不可分である以上、ギャンブル依存症や家庭崩壊、自己破産などの社会問題と無縁ではありません。競馬禁止を訴える人々の中には、動物福祉とともにギャンブル依存症問題を理由に挙げる人も少なくありません。
動物福祉の観点から何が変わってきたのか
上記のような問題が広く認識されるようになった結果、世界各地で競馬産業のあり方を変えようとする動きが具体的に進んでいます。
ノルウェー・スウェーデンの先進的取り組み
北欧諸国、特にノルウェーとスウェーデンは動物福祉への意識が世界的に見ても高い国々です。ノルウェーでは競馬でのムチの使用が事実上禁止されており、馬への物理的な刺激を最小化する方向で規制が進んでいます。スウェーデンも同様に厳格なルールを持ち、馬が「できる限り自然な状態で」競技に参加できるよう配慮する姿勢が見られます。
オーストラリアの構造的な変革
競馬大国であるオーストラリアでは、2019年以降に「グレイハウンドレース(競犬)」をめぐる動物虐待スキャンダルが明らかになり、競馬産業全体への批判的な目が強まりました。ニューサウスウェールズ州では一時的にグレイハウンドレースの禁止が決定されるなど(後に撤回)、動物を使ったスポーツへの規制の流れが生まれています。
競馬においても引退馬の追跡制度(引退後の行方を産業全体で把握・管理する仕組み)の整備が進んでおり、馬の「生涯福祉」に責任を持つ方向に転換しようとする取り組みが見られます。
アメリカの連邦レベルの規制強化
アメリカでは2020年に「ホーレス・ローガン法(Horse Racing Integrity and Safety Act)」が成立し、2022年から施行されました。この法律により、競馬安全局(HISA)が全米統一のアンチドーピング規制と安全基準を管理するようになりました。それまでは州ごとにバラバラだった規制が統一されたことで、馬の安全確保に向けた取り組みが強化されています。
日本の現状と課題
日本では、JRA(日本中央競馬会)や地方競馬が年間多数のレースを開催し、馬券売上は世界最大規模を誇ります。しかし引退馬の問題については、長らく「ブラックボックス」状態でした。近年はNPO法人などによる引退馬支援活動が活発になり、「#引退馬支援」といったSNSムーブメントも広がっています。
JRAも引退馬の行方を追うためのデータベース整備や、乗馬転用を支援する補助金制度を導入しはじめていますが、動物保護団体からは「まだ不十分」という声も上がっており、制度の充実が引き続き求められています。
欧州の法的枠組みの強化
EUでは動物福祉に関する法整備が進んでおり、2023年以降に公表された動物福祉戦略の中で、スポーツや娯楽に使用される動物への保護基準の見直しが検討されています。競馬を直接禁止するものではありませんが、使用される馬の生活環境・医療ケア・引退後の扱いについて厳格な基準を設ける方向性は、競馬産業にも影響を与えるとみられています。
競馬を「禁止」すれば問題は解決するのか?
ここで重要な視点として、「競馬を禁止すれば馬は幸せになるのか」という問いがあります。
競馬産業が担っている経済的役割は大きく、競走馬の生産・育成・調教・獣医療などに関わる人々の雇用、牧場を維持するための農地管理、地方経済への貢献など、単純に禁止すれば解決するという話ではありません。
また、競馬が禁止された場合、競走馬の需要が急減することで馬の生産頭数が激減し、馬という動物そのものの存在が文化から切り離されるリスクもあります。長年にわたる品種改良によって誕生したサラブレッドは、競馬のために作られた動物であり、産業なしに大量の馬を養うことは現実的ではありません。
このような複雑な現実を踏まえると、「禁止か継続か」というゼロサムの二項対立ではなく、「どうすれば馬が最大限に守られる仕組みを競馬産業の中に作れるか」という方向での議論が、より現実的かつ建設的といえるでしょう。
私たちにできること
最後に、競馬産業の外にいる一般の人々として何ができるかを考えてみましょう。
1. 知ること・関心を持つこと
まず大切なのは、競馬産業の現実を知ることです。競馬を楽しむ際に「馬たちはその後どうなるのか」という関心を持つだけで、社会的な圧力は変わります。引退馬問題、繁殖頭数、ムチ使用の現状などについて調べてみることが第一歩です。
2. 引退馬支援団体への寄付・ボランティア
日本国内にも、引退競走馬を引き取って余生を過ごさせる施設や、乗馬転用を支援するNPO法人が存在します。こうした団体への寄付や、馬の里親プログラムへの参加は、具体的な変化につながります。
3. 声を上げること・署名活動への参加
動物保護団体が進める署名活動や、競馬規制に関する政治的プロセスへの参加(パブリックコメントの提出など)は、産業や行政の行動変容を促す力になります。
4. メディア・報道への働きかけ
競馬報道が「馬券の予想」に偏らず、馬の福祉についてもバランスよく伝えられるよう、SNSでの情報発信やメディアへのフィードバックも効果的です。
5. 消費者としての選択
競馬を楽しむ人は、動物福祉への取り組みが進んでいる競馬場や団体を積極的に支持することができます。馬の福祉への投資を惜しまない運営者を選ぶという「消費者としての投票」は、産業全体の基準を底上げする力を持っています。
まとめ:「禁止」より「変革」の時代へ
「競馬禁止の国」を検索している多くの方は、おそらく競馬の残酷な側面に疑問を抱いたことがきっかけではないかと思います。世界を見渡せば、競馬を全面禁止している国は少ないものの、宗教的・文化的理由から馬券を伴う競馬が存在しない国や地域は複数あります。
そして今、世界的な動物福祉の高まりを受けて、競馬産業は「変革の圧力」にさらされています。ムチ廃止、引退馬の追跡管理、アンチドーピング規制の統一、レースの安全基準強化――これらの変化は、まだ不完全ではありますが、確実に進んでいます。
競馬が「馬も人も幸せになれる形」へと変わっていくために、私たち一人ひとりの関心と行動が、産業の変革を後押しする力になります。「競馬禁止の国」を探すのではなく、「馬が大切にされる競馬」を世界中で実現する方向へ、社会全体で動いていけることを願っています。
この記事は動物福祉・競馬規制に関する公開情報をもとに作成しています。最新の規制状況については各国の公的機関や競馬統括団体の情報を参照してください。
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