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ハラール 日本 対応|現状から認証制度・動物福祉まで徹底解説

ハラール 日本 対応

 

 

訪日外国人数が回復・増加の一途をたどる現在、「ハラール対応」は日本の飲食業・観光業・食品製造業にとって避けて通れないテーマになりつつあります。イスラム教の戒律に基づく食の規定「ハラール」への対応は、単なるビジネスチャンスの拡大にとどまらず、文化的多様性への敬意や食の倫理とも深く結びついています。しかし日本国内では、ハラール認証の仕組みや対応の実態について、まだ十分な理解が広まっているとは言えません。本記事では、日本におけるハラール対応の現状から認証制度の仕組み、と畜・動物福祉との関係、さらに国際的な議論と今後の課題まで、体系的に解説していきます。

 

日本におけるハラール対応の現状

 

日本を訪れるムスリム旅行者数は、新型コロナウイルス感染症による一時的な落ち込みを経て、急速に回復しています。観光庁のデータによれば、インドネシア・マレーシア・中東諸国などムスリム人口の多い地域からの訪日客は増加傾向にあり、世界全体で約20億人とも言われるムスリム人口を背景に、ハラール市場の規模は今後もさらなる拡大が見込まれています。

 

こうした背景から、日本国内でのハラール対応は徐々に広がっています。大手コンビニエンスストアやスーパーマーケットでのハラール食品の取り扱いが増え、観光地のレストランやホテルではハラールメニューの提供が一般化しつつあります。羽田・成田・関西・中部などの主要空港にはハラール対応のレストランが設置され、モスク(礼拝所)やお祈りルームの整備も進んでいます。

 

一方で、課題も少なくありません。日本の食文化には豚由来の成分(豚肉・豚骨・ラード)やアルコールが広く使用されており、これらはハラールの観点からは「ハラーム(禁止)」に該当します。出汁文化を持つ日本料理は、かつおぶし・昆布など豚やアルコールを使わない素材も多く使われますが、調味料・タレ・加工食品のなかには豚由来成分やみりん・料理酒などのアルコール成分が含まれているものも多く、対応には専門的な知識が必要です。

 

また、地方都市ではハラール対応の飲食店そのものが少なく、地方旅行を希望するムスリム旅行者にとって食事の確保が大きなハードルになっているという実態もあります。「ノーポーク・ノーラード(豚・豚脂不使用)」という表示が見られることもありますが、これは厳密なハラール認証とは異なり、アルコールの有無や調理器具の共用問題が考慮されていない場合もあります。ムスリムの信仰の深さや出身国によってどこまでの対応を求めるかは異なりますが、正確な情報提供こそが最も重要だという認識が広まりつつあります。

 

認証制度の仕組み

 

ハラール認証とは、イスラム法(シャリーア)の規定に基づいて、食品・飲料・化粧品・医薬品・サービスなどがハラールの要件を満たしていることを第三者機関が証明する制度です。日本ではこの制度がどのように機能しているのか、その仕組みを詳しく見ていきましょう。

 

ハラール認証機関の役割

 

ハラール認証は、各国のハラール認証機関(HCB: Halal Certification Body)によって行われます。認証機関は申請を受けた企業や施設に対して、原材料・製造工程・保管・輸送・調理器具・従業員の管理方法などを審査し、すべてがハラールの基準を満たしていると判断した場合に認証を付与します。

 

日本国内にはいくつかのハラール認証機関が存在しており、代表的なものとして「日本ハラール協会(JAHA)」「日本イスラム文化センター(JICC)」「MUI Japan(インドネシア・ウラマー協議会日本事務局)」などが挙げられます。これらの機関は、インドネシアのMUI(ウラマー協議会)やマレーシアのJAKIM(イスラム開発局)など、世界的に権威のある認証機関との相互認証関係を結んでいる場合もあり、どの機関の認証を取得するかは輸出先や顧客層によって戦略的に選ぶ必要があります。

 

認証取得のプロセス

 

ハラール認証を取得するための一般的な流れは以下のとおりです。まず、申請企業が認証機関に申請書と必要書類(原材料リスト・製造フローチャート・施設の平面図など)を提出します。次に、認証機関の審査員が工場や厨房に立入り調査を行い、実際の製造・調理環境がハラールの要件を満たしているかを確認します。審査をクリアした場合、認証が発行されますが、認証は通常1〜2年の有効期限があり、更新時には再審査が必要です。

 

費用面では、認証機関や認証対象の規模によって異なりますが、数万円から数十万円程度の費用がかかるケースが多く、中小企業や個人飲食店にとってはコスト面が導入の障壁になることもあります。

 

認証なしの「ムスリムフレンドリー」という選択肢

 

正式なハラール認証の取得が難しい場合、「ムスリムフレンドリー」という対応方法もあります。これは認証は持たないものの、豚肉・豚由来成分・アルコールを使用しない料理を提供し、その旨を明示するアプローチです。厳格なハラールを求めるムスリムには対応しきれない場合もありますが、ライトなハラール観を持つムスリム旅行者にとっては十分に価値ある選択肢となり得ます。観光庁もムスリムフレンドリーな対応を促進するガイドラインを公開しており、食材表示の透明性・お祈りスペースの提供・ラマダンへの配慮などが推奨されています。

 

と畜(屠畜)と動物福祉の関係

 

ハラール対応の中核にあるのが、食肉のと畜(屠畜)方法です。この問題は動物福祉の観点から国内外で重要な議論を呼んでいます。

 

ハラールと畜の要件

 

イスラム法に基づくと畜方法は「ダビーハ(ズィバーハ)」と呼ばれ、いくつかの厳格な要件があります。第一に、と畜を行う者はムスリム(または啓典の民)でなければなりません。第二に、と畜の際に「ビスミッラー(神の御名において)」と唱えることが義務付けられています。第三に、鋭利な刃物で頸動脈・頸静脈・気管・食道を一刀で切断し、血液を完全に排出することが求められます。

 

これらの要件の背景には、「できる限り苦痛を少なくして命をいただく」というイスラムの動物倫理があります。鋭利な刃物を使うこと、素早く切断すること、血液を抜き取ることはすべて、動物への苦痛を最小限にするための実践として位置づけられています。

 

スタニング(気絶処置)をめぐる議論

 

現代の動物福祉の観点から特に問題となるのが、と畜前のスタニング(気絶処置)の是非です。スタニングとは、電気・ガス・空気圧などを用いて動物を一時的に意識不明の状態にする処置で、苦痛を軽減する目的で行われます。

 

EUや日本の食肉衛生規制では、スタニングを前提とした一般的なと畜が標準とされています。日本の食品衛生法に基づく食肉処理においても、と畜場法の規定のもとでスタニングを伴う方法が主流です。ここでハラールと畜を行う際の問題が生じます。伝統的なイスラム法学の見解では、スタニングを行うことで動物が死亡した場合はハラールとならないとされており、スタニングを伴うと畜に対して否定的な立場をとるイスラム法学者も少なくありません。

 

一方で、マレーシアのJAKIMや一部のハラール認証機関は、「リバーシブル・スタニング(可逆的気絶処置)」、すなわち動物が確実に蘇生可能な低電流スタニングを条件付きで認めるという立場をとっています。これはと畜後に動物が確実に死亡することを前提に、苦痛の軽減と宗教的要件の両立を図ろうとする現実的なアプローチです。

 

日本国内でのハラールと畜においても、この問題への対応は認証機関によって異なります。スタニングなしのと畜を認める機関もあれば、リバーシブル・スタニングを前提とする機関もあり、認証基準の統一化が課題となっています。

 

日本のと畜場におけるハラール対応の実態

 

日本国内でハラールと畜が行われているケースは、まだ非常に限られています。北海道・群馬・埼玉・大阪などの一部のと畜場がハラール認証を取得しており、国内産のハラール牛肉・鶏肉の生産が行われています。ただし規模は小さく、国内のムスリムや訪日旅行者向けの需要を十分に賄える状況には至っていません。多くのハラール認証食肉は現在も輸入品に依存しており、オーストラリア・ニュージーランド・ブラジルなどからの輸入ハラール食肉が市場の大部分を占めています。

 

国際的な議論

 

ハラール対応をめぐる国際的な議論は、食の安全・宗教的自由・動物福祉・貿易など多くの領域にまたがっています。

 

EU vs. 宗教的屠殺をめぐる法的対立

 

欧州では、スタニングなしの宗教的屠殺(ハラールおよびユダヤ教のコシェル)をめぐる法的論争が長年続いています。ベルギー・デンマーク・スウェーデン・フィンランドなどでは、スタニングなしの屠殺を事実上禁止する法律が施行されており、ムスリムとユダヤ教のコミュニティから宗教的自由の侵害だという強い反発を受けています。2020年には欧州司法裁判所(CJEU)が、EU加盟国がスタニングなしの宗教的屠殺を禁止することは合法との判断を示しましたが、これに対してイスラム・ユダヤ両コミュニティの団体が抗議声明を出すなど、問題は収束していません。

 

世界のハラール市場と標準化の課題

 

世界のハラール食品市場規模は2兆ドルを超えると推計されており、今後もムスリム人口の増加とともに成長が続くと予測されています。この巨大市場をめぐり、各国のハラール認証機関が独自の基準で認証を行っているため、基準の不統一が国際貿易の障壁になるという指摘があります。

 

OIC(イスラム協力機構)やGIFT(グローバル・イスラム・ファイナンス・タスクフォース)などの国際機関はハラール基準の統一化に向けた取り組みを進めていますが、各国の文化的・法的背景の違いから、完全な統一には至っていないのが現状です。日本の食品企業が海外のハラール市場に参入する際も、輸出先ごとに求められる認証機関や基準が異なるため、複数の認証を取得しなければならないケースも珍しくありません。

 

「エシカル・ハラール」の台頭

 

近年注目されているのが、「エシカル・ハラール」という概念です。これは、と畜方法だけでなく、動物の飼育段階からの環境・飼料・ストレスの管理など、動物の生涯全体にわたる福祉を考慮したハラール生産のあり方を指します。ニュージーランドやオーストラリアでは、こうした飼育段階の動物福祉基準をハラール認証に組み込む取り組みが始まっており、環境意識の高い消費者やムスリム層から支持を集めています。日本においても、こうした「倫理的な食」の概念はSDGs(持続可能な開発目標)や動物福祉への関心の高まりとともに受け入れられる素地があり、今後のハラール対応のあり方に影響を与えていくことが予想されます。

 

今後の課題

 

日本のハラール対応がさらに成熟していくためには、解決すべき課題がいくつかあります。

 

認証基準の整理と信頼性の向上

 

現在、日本国内には複数のハラール認証機関が存在し、それぞれの審査基準や厳格さにばらつきがあります。消費者や取引先にとって、どの認証機関の証明書が信頼できるのかがわかりにくいという問題があります。業界横断的な基準の整備や、認証機関同士の連携強化が急務です。また、認証機関自体の透明性・公正性を確保するための第三者評価の仕組みも必要とされています。

 

中小事業者へのサポート

 

ハラール認証の取得は費用・手続きの面で中小企業や個人経営の飲食店にとってハードルが高く、地方の観光業者が対応に踏み切れないケースも多くあります。自治体や観光協会によるコンサルティング支援・費用補助・情報提供の充実が求められます。また、認証取得の簡略化・デジタル化も検討の余地があるでしょう。

 

食育と社会的理解の促進

 

ハラール対応が普及するためには、一般市民・飲食業従事者・行政担当者のハラールに関する正確な理解が不可欠です。「豚を食べない宗教」という表面的な認識にとどまらず、その背景にあるイスラムの食の倫理や、動物福祉との関係性まで理解を深めることが、より質の高い対応につながります。学校教育・観光業研修・食品業界向けセミナーなど、多層的な啓発活動が必要です。

 

動物福祉との整合性

 

先述のスタニング問題に象徴されるように、ハラールと畜と現代の動物福祉基準の整合性をどう図るかは、国内外で引き続き重要なテーマです。宗教的要件を尊重しながら、動物への苦痛をできる限り軽減するための技術的・法的な解決策を模索することが求められます。この問題は宗教界・動物福祉の専門家・食肉業界・行政が協力して取り組むべき課題であり、一方的な規制強化や宗教的価値観の否定ではなく、対話を通じた合意形成が重要です。

 

食品表示と情報のデジタル化

 

ムスリム旅行者がスマートフォンで手軽にハラール対応店舗や食品情報を確認できる環境の整備も急がれます。すでにいくつかのアプリやウェブサービスが日本のハラール情報を提供していますが、情報の精度・更新頻度・多言語対応にはまだ課題があります。QRコードによる原材料の詳細表示や、ハラール認証の有無を一目で確認できるデジタル表示の普及が、ムスリム旅行者の利便性を大きく向上させるでしょう。

 

まとめ

 

日本におけるハラール対応は、訪日ムスリム旅行者の増加や世界のハラール市場の拡大を背景に、今や重要な社会的・経済的テーマとなっています。認証制度の整備・と畜と動物福祉の問題・国際的な基準の不統一・中小事業者の対応負担など、課題は多岐にわたりますが、それらは同時に日本が世界に向けて食の多様性への理解と誠実さを示す機会でもあります。

 

ハラールとは単なる「食べてよいもの・ダメなもの」の区分ではなく、命に感謝し、動物を大切にし、清潔で公正な生産を目指すという、深い倫理的思想に根ざした概念です。日本社会がこの思想と向き合い、対話を重ねていくことが、より豊かで包摂的な食文化の実現につながっていくのではないでしょうか。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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