イギリスの犬猫飼育放棄が急増——物価高が引き起こすシェルター経営難の深刻な実態
「愛しているから、手放さなければならない」——今、イギリスでは何万匹もの犬や猫が、こんな理由でシェルターへと送られています。
はじめに:あなたが気になっているのは、きっとこういうことですよね
「イギリスで犬や猫の飼育放棄が増えているって本当?」 「物価高がペットのシェルターにどんな影響を与えているの?」 「動物福祉の現場は今、どんな状況なの?」
そんな疑問を持ってこの記事にたどり着いたあなたへ。
この記事では、イギリスで今まさに進行中の「犬猫の飼育放棄急増」と「シェルター経営難」について、公的機関のデータや現場の声をもとに、丁寧に解説していきます。
感情論だけではなく、数字と事実で現状を整理しながら、私たちに何ができるのかまでを考えていきます。
ぜひ最後まで読んでみてください。
データが示すイギリスの犬猫飼育放棄の現状
コスト・オブ・リビング・クライシスとは何か
「コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)」。
これは2021年以降、イギリスで深刻化している物価上昇と実質賃金の低下が重なった社会問題のことです。エネルギー価格の急騰、食料品費の上昇、住居費の高騰——これらが同時に家計を直撃しました。
その影響は、人間だけでなくペットにまで及んでいます。
飼育放棄の件数は急増している
以下のデータを見てください。
- RSPCAの報告(2022年):ペット放棄件数が前年比 24%増加
- スコティッシュSPCA(2023年):シェルターへの動物受け入れ数が 25%増加、そのうち約75%が緊急の獣医治療を必要とした状態だった
- スコティッシュSPCA(2023年):飼育放棄を検討して連絡してきた人の 43%が「金銭的理由」 を挙げた
- PDSA・PAWレポート(2023年):物価高を受けて、ペット飼育者の 約1%(14万人相当) がペットを手放すと回答
- 2023年の調査:同年、イギリスの犬オーナーの 5人に1人が犬を手放した
これは単なる統計ではありません。14万匹のペットの後ろには、14万通りの「やむを得ない別れ」があるということです。
ペットを手放すきっかけは「お金」が最多
ペットを手放す理由として、最も多く挙げられているのが「費用」です。Dogs Trustや Cats Protectionなどの主要団体が一致してこの傾向を確認しています。
具体的には次のような状況が報告されています。
- 獣医費が払えない
- ペットフード代が家計を圧迫している
- ペット保険を解約せざるを得なくなった
- 職場復帰でペットの世話ができなくなった(コロナ禍に飼い始めたケース)
2023年に獣医費が 前年比17%上昇 したというデータも存在します。これは消費者物価全体の上昇率をはるかに上回るペースです。
シェルターが直面している「二重の危機」
受け入れ数の増加 × 里親希望者の減少
シェルターが今直面している問題は、単純に「預かる動物が増えた」ということではありません。
受け入れ数が増える一方で、里親になろうとする人も減っているという、二重の圧力にさらされているのです。
PDSAのデータによると、物価高の影響で 72%のペットオーナーが「今後新しいペットを迎える予定がない」 と回答しています。これはシェルターにとって致命的な状況です。動物が入ってくる一方で、出て行かない。当然、収容数は限界に近づきます。
シェルターの運営コストも上昇している
シェルター自体も、物価高の直撃を受けています。
- エネルギー代の高騰(暖房・照明・医療機器の電力)
- ペットフード代の値上がり
- 獣医費の上昇(受け入れ動物の多くが治療を必要とした状態で来る)
- スタッフ・ボランティアの疲弊(バーンアウトの増加)
イングランドだけで推定 1,000以上 のシェルター・レスキューセンターが存在すると言われていますが、その多くが寄付金と善意で運営される小規模な非営利団体です。
寄付者自身も生活が苦しくなれば、当然寄付を削ります。PDSAの調査では、物価高のために 11%のペットオーナーが寄付を減らしたまたは停止した と回答しています。
シェルターで起きている「健康な命が消える」現実
最もつらいデータがあります。
イギリスのシェルターでは、毎日21頭の健康な犬が殺処分されているという推計値があります。これはシェルターが意図して行っているのではなく、収容スペースの限界と資金不足によってやむを得ず行われている場合が多いとされています。
この事実は、飼育放棄と物価高の問題が「感情論」ではなく、命に直結する社会問題であることを示しています。
よくある疑問にお答えします(Q&A)
Q1. イギリスは動物福祉に厳しい国では?なぜこんな問題が起きているの?
A. 法律と現実の間には、常にギャップがあります。
イギリスは確かに動物福祉の先進国です。2006年に制定された「動物福祉法(Animal Welfare Act)」は、飼い主に動物の五つの自由(適切な食事・環境・健康・正常な行動・苦痛からの自由)を保障する義務を課しています。
しかし法律があっても、経済的に追い詰められた飼い主が全員その義務を果たせるわけではありません。「飼えなくなった」という状況は、犯罪ではなく、多くの場合が悲劇です。
Q2. シェルターに預けることは「無責任」なの?
A. 必ずしもそうとは言えません。
確かに一部には「衝動的な購入・安易な飼育放棄」もあります。しかし多くのケースでは、シェルターへの相談・引き渡しは、飼い主が最後の手段として選んだ「動物のための選択」でもあります。
問題は個人の責任だけに帰するのではなく、社会的なセーフティネットが機能しているかどうかで見る必要があります。
Q3. 日本とイギリスの状況は似ているの?
A. 課題の構造は似ています。
日本でも環境省のデータによれば、犬・猫の引き取り数・殺処分数は減少傾向にあるものの、物価上昇の影響でペット飼育に関するリスクは高まっています。イギリスの事例は、日本が「今後どうなり得るか」を示す重要な参照点になります。
日本のペット飼育と動物福祉の現状については、関連記事でも詳しく解説しています。
Q4. シェルターを支援するには何をすればいい?
A. 選択肢は複数あります。
- 寄付(金銭・物品)
- ボランティア活動
- フォスタリング(一時預かり)
- シェルターから里親として迎える
- SNSでの情報拡散
特に「フォスタリング(一時預かり)」は、シェルターの収容スペースを空けるうえで大きな助けになります。
シェルターを救うために今できること——実践ガイド
ステップ1:まず「現状を知る」ことから始める
支援の第一歩は、正確な情報を持つことです。
- RSPCA(英国王立動物虐待防止協会):イギリス最大の動物福祉団体。年次報告書や支援方法を公開
- Cats Protection:年間16万6,000匹以上の猫を支援
- Dogs Trust:「犬を殺処分しない」ポリシーで知られるイギリス最大の犬チャリティー
- Scottish SPCA:スコットランドを拠点に、ペット支援・食料バンク連携などを実施
これらの団体のウェブサイトを定期的にチェックするだけでも、現状への理解は深まります。
ステップ2:支援の「形」を選ぶ
支援にはさまざまな形があります。自分の状況に合ったものを選びましょう。
【金銭的支援が難しい場合】
- SNSでのシェア・情報拡散
- シェルターでのボランティア(清掃・散歩・社会化)
- 物品寄付(ペットフード・毛布・おもちゃなど)
【時間的余裕がある場合】
- フォスタリング(一時預かりボランティア)
- トランスポートボランティア(里親宅へ動物を届ける)
【経済的に余裕がある場合】
- 月額定期寄付(シェルターにとって最も安定した収入源)
- スポンサーシップ(特定の動物の世話費を負担)
ステップ3:「里親になる」という選択を検討する
もしペットを迎える予定があるなら、まずシェルターへ。
- 犬の里親費用:約100〜300ポンド(ブリーダーから購入する場合の10〜20%程度)
- 費用の中に:ワクチン接種・不妊去勢手術・マイクロチップが含まれていることが多い
- シェルター平均在所期間:犬は93日、猫は67日
里親になることは、命を救うだけでなく、シェルターの運営コストを削減し、次の動物のためのスペースを作ることにもつながります。
シェルター支援のメリットと、見落としがちなデメリット
メリット
① 命を直接救える シェルターへの支援は、抽象的な「社会貢献」ではなく、目の前の命に直結します。
② 動物福祉の意識が社会全体に広がる 支援活動やSNSでの発信は、動物福祉の重要性を周囲に伝える効果もあります。
③ フォスタリングは自分自身にも豊かさをもたらす 一時預かりをした人の多くが「自分の生活が豊かになった」と語っています。里親探しを手伝いながら、動物と過ごす時間は精神的にも大きな支えになります。
④ 根本的な社会問題への働きかけになる 個人の支援が積み重なることで、政策立案者へのプレッシャーにもなります。イギリスでは動物福祉議会グループ(APDAWG)などが政府への働きかけを続けています。
デメリット・注意点
① フォスタリングは「情が移る」ことがある 一時預かりをした動物をそのまま里親として迎える「フォスター・フェイル」は珍しくありません。これは必ずしもネガティブではありませんが、事前に家族でよく話し合っておく必要があります。
② シェルターごとに方針や条件が異なる 里親になる条件(住居形態・家族構成・先住動物の有無)はシェルターによって大きく異なります。問い合わせる前に、ウェブサイトで確認しておきましょう。
③ 支援団体の「見極め」が必要なことも 残念ながら、一部には運営の透明性が低い団体も存在します。寄付をする際は、年次報告書や財務情報が公開されている団体を選ぶことをおすすめします。
現場から届いた声——ある一頭の犬の物語
スコットランドのアバディーンにあるシェルターに、6歳の犬「ベントリー」が連れてこられたのは、ある冬の朝のことでした。
ベントリーはラブラドール・ミックスで、穏やかな性格の子でした。飼い主の家族は彼をこよなく愛していましたが、皮膚病とアレルギーを抱えたベントリーの治療費が、物価高の中でどうしても払えなくなってしまったのです。
「手放したくない。でも、このままでは苦しませてしまう」
飼い主家族はそう言いながら、涙をこらえてシェルターのスタッフに引き渡しました。これはスコティッシュSPCAが公式に発表した実例です。
その後、ベントリーは治療を受け、新しい家族のもとへ旅立ちました。
これは「ハッピーエンド」の話です。しかし現実には、すべての動物にこの結末が用意されているわけではありません。
——「飼育放棄」という言葉の冷たさの裏に、どれほど多くの涙があるか。この話を通じて、改めて感じてほしいのです。
支援する前に知っておきたい注意点
感情だけで動かない
動物の写真や動画を見て「今すぐ助けたい!」と思う気持ちは、とても大切です。
しかし衝動的な行動は、時に状況を悪化させることもあります。
- 里親希望は慎重に:「かわいそうだから」だけで迎えると、後に飼育放棄につながるリスクがあります
- 寄付先は調べてから:SNSで拡散される支援依頼の中には、詐欺的なものも存在します
- ボランティアは継続が大切:単発でなく、定期的な関わりがシェルターの助けになります
「問題の根っこ」を見失わない
飼育放棄を「無責任な飼い主の問題」と断罪するだけでは、何も変わりません。
大切なのは、なぜ追い詰められる飼い主が増えているのかを社会として問い続けることです。
経済的に苦しい人がペットを飼うべきではない、という議論は一見もっともらしく聞こえます。しかしペットは人々の孤独を和らげ、精神的健康を支える存在でもあります。「お金がある人だけがペットを飼える社会」は、本当に動物にとって良い社会でしょうか?
これは複雑な問いです。しかし、その複雑さを丁寧に考えることが、動物福祉の議論に参加することだと思います。
動物福祉の未来——社会はどこへ向かうのか
イギリスの先進的な取り組みに学ぶ
危機の中でも、イギリスでは注目すべき動きが生まれています。
① フードバンクとの連携 スコティッシュSPCAは、スコットランド国内71か所のフードバンクにペットフードを提供し、月に400人以上の飼い主を支援しています。「人間への支援」と「動物への支援」を切り離さない、この視点は画期的です。
エジンバラ・ドッグ&キャット・ホームのCEOは、「ペットが危機にある場所には、人間も危機にある」という言葉を残しています。83か所のフードバンクを通じて3,500匹以上の犬猫を支援するこの取り組みは、動物福祉と社会福祉を結びつける新しいモデルとして注目されています。
② 獣医費支援プログラム 一部のシェルターや動物福祉団体が、経済的に苦しい飼い主への「獣医費補助」を始めています。「動物を手放す前に、まず相談を」という窓口を設けることで、シェルターへの飼育放棄そのものを未然に防ぐ試みです。ある団体では、収入の92%が獣医費に充てられながらも、この支援を続けています。
③ 政府による獣医業界調査 イギリス政府は2024年、獣医業界の費用構造についての調査を開始しました。治療費の高騰が飼育放棄の一因となっているとの認識から、業界全体への規制的アプローチを検討しています。
④ APDAWG(動物福祉議会グループ) 議会内に設置されたこのグループは、犬・猫の福祉に関する政策立案に影響を与えるための活動を続けています。160人以上が参加する議会横断的なグループとして、動物福祉が政治の場でも本格的に議論されるようになってきていることを示しています。
日本への示唆
日本でも、ペット業界の規制強化(2020年改正動物愛護法)や、自治体による引き取り数の削減努力が続いています。
しかし物価高、少子高齢化、単身世帯の増加——これらの社会変化は、今後日本でも「飼えなくなる飼い主」を増加させる可能性があります。
イギリスの事例から学べることは多くあります。「起きてから対処する」のではなく、「起きる前に備える」社会システムを今から考えることが必要です。
動物福祉は「社会の鏡」である
動物がどう扱われているかは、その社会の成熟度を映し出します。
経済的に苦しい時代だからこそ、最も弱い立場にある命——声を上げられない動物たち——をどう守るかが問われています。
これは遠い国の話ではありません。今、イギリスで起きていることは、近い将来、私たちの社会にも起きうることです。
まとめ:知ることが、最初の一歩
この記事でお伝えしてきたことを、改めて整理します。
- イギリスでは物価高(コスト・オブ・リビング・クライシス)により、犬猫の飼育放棄件数が急増している(RSPCA比24%増、スコティッシュSPCA比25%増)
- シェルターは「預かる動物の増加」と「里親希望者の減少」という二重の危機に直面している
- シェルター自体も運営コスト上昇・寄付金減少に苦しんでおり、健康な動物が命を落とすという現実がある
- 飼育放棄は個人の無責任だけでなく、社会的・経済的背景が大きく影響している
- イギリスでは、フードバンク連携・獣医費支援・政府調査など、根本的な解決を目指す取り組みも始まっている
動物福祉は、「かわいそう」という感情だけでは変わりません。 正確な知識を持ち、できることから行動することが、最も力のある支援です。
まずは今日、信頼できる動物福祉団体のウェブサイトを一つ開いてみてください。 それが、何万匹もの犬や猫の未来を変える一歩になるかもしれません。
参考情報・データ出典
- PDSA Animal Wellbeing (PAW) Report 2023・2024(英国ペット福祉調査)
- RSPCA Annual Report 2022
- Scottish SPCA 公式発表(2023年・2024年)
- Hepper / PangoVet / Dogster 統計記事(2025〜2026年版)
- Wunderdog Magazine “The State of UK Dog Rescue in 2023”
- UK Parliament Research Briefing: Rising Cost of Living (2023)
この記事は動物福祉の普及・啓発を目的として作成されています。データは記事執筆時点の情報に基づいており、最新情報は各団体の公式サイトをご確認ください。
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