アメリカの犬猫殺処分数の実態|日本と比較して見えてくる動物福祉の課題と希望
「アメリカ=動物先進国」は本当にそうなのか?
「アメリカは動物愛護の先進国だ」と聞いたことがある方も多いでしょう。
たしかに、動物福祉の法律整備や保護施設(シェルター)のネットワークは世界トップクラスです。しかし、「アメリカ 犬猫 殺処分数」を調べると、その数字に驚く方が少なくありません。
2023年、アメリカのシェルターでは犬だけで35万9,000頭以上が安楽死(殺処分)されました。猫を合わせると、合計で約69万頭という数字になります。 (出典:Shelter Animals Count「2023 Annual Analysis」)
一方で日本はどうでしょうか。環境省のデータによれば、令和5年度(2023年度)の日本の犬猫の殺処分数は約9,017頭。アメリカと比較すると数十倍以上の差があります。
しかし、この数字を単純に比較するのは危険です。なぜなら、人口規模も、シェルターへの収容数も、社会的背景もまったく異なるからです。
この記事では、「アメリカ 犬猫 殺処分数」の実態を正しいデータとともに深掘りし、日本との比較を通じて、動物福祉の未来に向けて私たちが何をできるかを一緒に考えていきます。
アメリカの犬猫殺処分数——最新データが示す現実
Shelter Animals Countが示す2023年の統計
アメリカでシェルターに関するデータを収集・分析している非営利団体「Shelter Animals Count(SAC)」は、毎年全米のシェルター・レスキュー団体から情報を集め、年次報告書を発行しています。
2023年のデータから主要な数字を整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 2023年のデータ |
|---|---|
| シェルター・レスキューへの入所数(犬猫合計) | 約650万頭 |
| うち犬 | 約320万頭 |
| うち猫 | 約330万頭 |
| 安楽死(殺処分)数合計 | 約69万頭 |
| うち犬の安楽死数 | 約35万9,000頭(5年で最多) |
| うち猫の安楽死数 | 約33万頭 |
| 譲渡・返還など生存で退所した数 | 約601万頭 |
出典:Shelter Animals Count「2023 Annual Analysis」
注目すべきポイント:2023年、犬の殺処分数が猫を初めて上回った
従来、シェルターで最も「危険な状況」にさらされていたのは猫でした。猫は繁殖力が高く、野良猫が多いため、収容数も殺処分数も犬より多い傾向が長く続いていました。
しかし2023年、その状況が逆転しました。犬の安楽死数(35万9,000頭)が猫(33万頭)を初めて上回ったのです。これは2016年以来、約7年ぶりのことです。
SACのエグゼクティブディレクター、ステファニー・ファイラー氏はこう述べています。「どこを見ても、保護施設は危機的な状況にあります。動物が入ってくる速さが、出ていく速さについていかないのです。」
背景には、新型コロナウイルスのパンデミック期間中(2020〜2021年)に急増した「コロナペット」の問題があります。在宅勤務中に犬や猫を迎えた家庭が多かった一方、社会が正常化するにつれて飼い主が手放すケースが増加し、シェルターへの収容数が急増しました。
シェルターの収容数は2021年1月以来、合計で約90万頭も増加しており、施設のキャパシティを大きく超える状態が続いています。
日本との比較——数字の「見かけ」に惑わされないために
日本の殺処分数の最新データ
環境省が公表した令和5年度(2023年4月〜2024年3月)のデータによれば、日本の犬猫の殺処分数は約9,017頭でした。内訳は犬が2,118頭、猫が6,899頭です。前年比で約2,889頭の減少となり、過去最少を更新しています。
この数字だけを見ると「日本はアメリカよりはるかに少ない」と感じるでしょう。しかし、ここには重要な前提があります。
単純比較が危険な理由——「収容数に対する割合」で見る
動物愛護団体ピースワンコ・ジャパンが指摘しているように、両国の比較は収容数のスケールを無視できません。
- アメリカ: シェルター収容数 約320万頭(犬)→ 殺処分 約35万9,000頭 = 約11.2%
- 日本: 保護施設への犬の引き取り数 約2.2万頭 → 殺処分 約2,434頭 = 約10.9%(2022年度)
実は、収容数に対する殺処分の割合は、アメリカも日本もほぼ同じ「約11%」という計算になります。 (出典:ピースワンコ・ジャパン、Shelter Animals Count 2023 Annual Analysis)
つまり、「日本の殺処分数が少ない」のは、そもそもシェルターへの収容数自体が圧倒的に少ないからでもあります。日本では行政が引き取りを抑制する方向に動いており、民間の保護団体が代わりに保護するケースも増えています。それが「殺処分数の減少」に見えている側面もあるのです。
公益財団法人動物環境・福祉協会Evaも指摘しているように、「手放しで喜べることではない」のが現状です。殺処分の根本的な問題——乱繁殖、衝動買い、多頭飼育崩壊、地域の野良猫問題——は依然として解決されていません。
よくある疑問にお答えします(Q&A形式)
Q1. アメリカはなぜ殺処分数がこんなに多いのですか?
A. 主な理由は、シェルターへの流入数が多すぎてキャパシティが追いつかないことです。特に2020〜2021年のコロナ禍での「衝動的なペット取得」の反動で、収容数が急増しています。加えて、アメリカでは各州・各郡が独立した動物管理政策を持つため、対応にバラつきがあることも要因のひとつです。
Q2. 「ノーキルシェルター」とは何ですか?
A. 安楽死を原則行わないシェルターのことです。2024年のデータによれば、アメリカには4,000以上のシェルターがあり、そのうち52%がノーキルまたはローキル(低殺処分率)に移行しています。2016年時点では24%だったため、大きく前進しています。ノーキルシェルターでは、回復の見込みがない重篤な傷病や、人への攻撃性が高い動物のみ安楽死の対象とするケースが多いです。
Q3. 日本の殺処分と「安楽死」は同じですか?
A. 概念と方法に違いがあります。アメリカのシェルターでは基本的に麻酔後の注射による安楽死が行われており、苦痛を与えない手法が主流です。日本では従来、炭酸ガスによる窒息死が多く行われてきましたが、環境省の指導により改善が進んでいます。ただし「殺処分」「安楽死」の定義は国・自治体によって異なるため、単純な国際比較には注意が必要です。
Q4. 日本でも「殺処分ゼロ」の自治体があるというのは本当ですか?
A. 本当ですが、注意が必要です。「殺処分ゼロ」の定義が自治体によって異なり、東京都のように「致死処分」という独自の分類を設けているケースもあります。また、愛護センターへの引き取り数を減らすことで数字を下げているケースもあり、「見かけのゼロ」が問題視されることもあります。神奈川県や奈良市など、実質的に殺処分ゼロを長期にわたって達成している自治体も存在し、民間との協働が鍵になっています。
私たちが今日からできること——具体的な行動5選
数字を知ることは第一歩です。しかし、動物福祉の向上には、一人ひとりの具体的な行動が積み重なることが不可欠です。以下に、実践しやすい行動を紹介します。
① 保護犬・保護猫を迎える(アダプション)
最もダイレクトに殺処分数の削減につながる行動です。アメリカではシェルターからの引き取り(アダプション)が文化として根付いており、2023年には約480万頭の犬猫が新しい家族の元へ旅立っています。
日本でも「保護犬・保護猫」という言葉が広まり、自治体の動物愛護センターや民間の保護団体から迎える人が増えています。迎える際は、動物愛護センターのサイトや里親マッチングサービスを活用しましょう。
② 不妊・去勢手術の徹底
殺処分問題の根本原因のひとつは「意図しない繁殖」です。アメリカでは、TNR(Trap-Neuter-Return:捕獲・不妊手術・地域返還)プログラムが各地で実施されており、野良猫の個体数管理に成果を上げています。
日本でも、自治体が野良猫の不妊・去勢手術に助成金を出す制度が増えており、積極的に活用することが重要です。
③ 信頼できる団体への寄付・ボランティア
アメリカの代表的な動物保護団体には、全米人道協会(HSUS)、米国動物虐待防止協会(ASPCA)、Best Friends Animal Societyなどがあります。日本では各地域の保護団体などへの支援が殺処分削減に直結します。
④ SNSでの情報拡散
保護団体が発信する譲渡情報や啓発コンテンツをSNSでシェアするだけでも、命が繋がることがあります。ただし、内容をよく確認し、不確かな情報を広めないよう注意することが大切です。
⑤ ペットの購入前に「迎える責任」を考える
衝動買いや流行に乗ったペット購入は、後に飼育放棄につながるリスクがあります。動物を迎える前に、終生飼養の覚悟と、医療費・食費・住環境・将来の変化への備えを十分に検討することが求められます。日本の動物愛護管理法でも「終生飼養」は義務として定められています。
アメリカのシェルターシステム——日本が学べること・反面教師にすべきこと
日本が参考にできるアメリカの取り組み
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ノーキルシェルターの拡充: 収容動物を原則的に殺処分しない施設が全体の半数以上に。収容動物にはトリミングや医療ケアを提供し、譲渡促進を最優先にしている。
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TNRプログラムの全国展開: 野良猫問題への科学的なアプローチ。日本でも各自治体での導入が進んでいるが、まだ地域差が大きい。
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データの透明性: Shelter Animals CountのようなNGOが全米のデータを一元管理・公表しており、政策立案に活かされている。日本では環境省が年次データを公表しているが、より詳細なリアルタイムデータの活用が課題。
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民間と行政の協働モデル: 公的シェルターとボランティア・NGOが連携し、限られたリソースを最大活用している。
アメリカの課題——反面教師として
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コロナ禍の反動: 安易なペット取得が後の大量放棄につながった事例は、日本でも教訓にすべき。衝動的な取得を抑制する啓発が重要。
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州・地域間の格差: 政策や施設の質が州によって大きく異なり、地方ではいまだ劣悪なシェルター環境が残っているケースも。統一的な基準づくりが課題。
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純血種ブリーダーへの規制の難しさ: 「パピーミル(劣悪な環境での大量繁殖施設)」問題は依然として深刻で、規制と消費者教育の両面からのアプローチが求められている。
現場から聞こえた声——シェルターで起きていること
アメリカのカリフォルニア州でシェルターボランティアを経験した日本人女性・Mさん(30代)は、こう振り返ります。
「シェルターに入ったとき、最初に感じたのは〈音〉でした。数百頭の犬が吠え、猫が鳴いている。スタッフは一人ひとりの動物に名前をつけ、SNSで里親を探していました。でも毎週、スペースが足りなくなる。職員の方が泣きながら判断を下す日もありました。」
一方、日本国内のある動物愛護センター(関東地方)でボランティアをしている男性・Tさん(40代)はこう話します。
「今の日本のセンターは20年前と全然違います。職員さんが本当に真剣に譲渡に向き合っている。ただ、民間の保護団体に頼りすぎている面もあって、保護団体の方々が本当に疲弊しています。資金も人手も足りない。」
これらの声は、統計の背後にある「現実の重さ」を教えてくれます。数字はゼロになっても、一頭ひとりの命と向き合う人々の努力なしには成立しません。
データを読む際の注意点——数字の「罠」に気をつけて
「殺処分ゼロ」の定義に統一基準はない
先述の通り、「殺処分ゼロ」の定義は国・自治体・団体によって異なります。東京都の事例のように、「致死処分」という分類を別に設けることで、見た目上の「殺処分ゼロ」を実現しているケースもあります。
数字を見るときは「どの範囲を殺処分とカウントしているのか」「引き取り自体を減らすことで数字を下げていないか」を必ず確認するようにしましょう。
国際比較には文化的・制度的背景の理解が必要
アメリカと日本では、そもそも「シェルターに収容される動物の数」が桁違いに異なります。また、アメリカでは安楽死(Euthanasia)という語が医学的な意味での苦痛なき死を指し、日本の「殺処分」とは文化的なニュアンスが異なります。単純な数字の比較だけで「アメリカは残酷」「日本は成功」と判断することは、問題の本質を見誤る危険があります。
殺処分数の減少が「問題解決」を意味するわけではない
公益財団法人動物環境・福祉協会Evaが指摘するように、殺処分数が減っている背景には「センターへの引き取りを断ることで、民間保護団体への負担が増大している」という問題が潜んでいます。保護団体の多頭飼育崩壊、資金不足、人員不足——こうした「見えない問題」も同時に注視する必要があります。
動物福祉の未来——社会全体で変わりつつある潮流
アメリカの変化:ノーキル運動の前進
2016年にノーキルシェルターが全体の24%だったのが、2024年には52%まで増加しています。これは、市民の意識変化、寄付の増加、SNSによる情報拡散、そして政策立案者の意識改革が組み合わさった成果です。
Best Friends Animal Societyは「2025年までにアメリカ全土でノーキルを実現する」という目標を掲げており、各地での取り組みが加速しています。
日本の動向:動物愛護管理法の改正と社会の変化
日本では、2019年に動物愛護管理法が大幅改正されました。主な変更点として以下が盛り込まれています。
- マイクロチップ装着の義務化(販売業者)
- 繁殖制限に関する基準強化
- 適正飼養の徹底
これにより、無計画な繁殖の抑制や、飼い主の責任意識の向上が期待されています。環境省は今後もデータに基づいた政策改善を進める方針を示しており、地方自治体・民間団体との連携強化も続いています。
動物福祉を「社会インフラ」として考える時代へ
先進的な動物愛護国(ドイツ、スウェーデン、オランダなど)に共通するのは、動物福祉を「社会インフラ」として捉えていることです。シェルターは単なる収容施設ではなく、地域コミュニティの一部として機能しており、教育・福祉・環境政策と連動しています。
日本でも、保護犬・保護猫と人のマッチングプラットフォームの整備、ペット同伴可能な住宅の増加、動物福祉教育の学校への導入など、少しずつ変化が起きています。アメリカの経験から学びながら、日本独自の文化・制度に合ったモデルを構築していくことが求められています。
まとめ——数字の向こうにある「一頭の命」を見つめて
この記事では、「アメリカ 犬猫 殺処分数」を中心に、以下のポイントを整理してきました。
- 現状: 2023年、アメリカのシェルターで犬猫合わせて約69万頭が安楽死。初めて犬の殺処分数が猫を上回った。
- 背景: コロナ禍のペットブームの反動による収容数の急増が主因。シェルターの収容キャパを大きく超える状況が続く。
- 日本との比較: 絶対数は日本が少ないが、収容数に対する殺処分割合はほぼ同率(約11%)。単純比較には注意が必要。
- 変化の兆し: アメリカではノーキルシェルターが過半数に。日本でも動物愛護法改正や民間団体の活躍で殺処分数が減少傾向。
- 私たちにできること: アダプション(保護犬・保護猫を迎える)、不妊・去勢手術の徹底、支援、情報拡散、そして責任ある飼育。
「アメリカ 犬猫 殺処分数」という検索からここに来たあなたは、きっとこの問題を他人事にしたくないと思っているはずです。
一頭の犬や猫の命が救われるかどうかは、社会全体の意識と行動によって決まります。そしてその「社会」は、あなた自身の選択から始まります。
まずは、あなたの地域の動物愛護センターや保護団体のサイトを訪れてみてください。そこには、あなたとの出会いを待っている命がいるかもしれません。
参考データ・出典
- Shelter Animals Count「2023 Annual Analysis」(https://www.shelteranimalscount.org)
- 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和5年度)」
- ピースワンコ・ジャパン「殺処分が多い国ランキングとは?日本の現状や犬を救う方法を解説!」
- 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「犬猫の引取り数と殺処分数」
- 国立国会図書館「諸外国における犬猫殺処分をめぐる状況」(2014年)
- USA Today「More dogs euthanized than cats in 2023」(2024年2月)
※本記事の情報は2026年2月時点のものです。最新のデータは各公的機関のウェブサイトでご確認ください。
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