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EU「動物福祉戦略2030」

 

 

はじめに|あなたが今感じている「違和感」は正しい

 

スーパーで並ぶ肉や卵を手に取るとき、こんな疑問を感じたことはないでしょうか。

「この鶏は、どんな場所で育てられたのだろう?」 「安いお肉って、動物にとって幸せな環境から来ているのかな?」

その感覚は、決して的外れではありません。

 

2023年、EU(欧州連合)は「動物福祉戦略2030(EU Animal Welfare Strategy 2030)」を正式に発表しました。これは、農場動物の飼育基準を根本から見直す、歴史的な政策転換です。

 

この記事では、EU動物福祉戦略2030の中身を丁寧に解説しながら、なぜ今この動きが世界的に重要なのか、そして私たちの食生活や日本の畜産業にどんな影響があるのかを、データや公的機関の情報をもとに深掘りしていきます。

 

「動物福祉」という言葉が気になり始めた方にも、すでに関心の高い方にも、この記事だけで全体像が把握できる構成を目指しました。ぜひ最後までお読みください。

 

EU「動物福祉戦略2030」とは何か?その全体像

 

戦略が生まれた背景

 

EU動物福祉戦略2030は、欧州委員会(European Commission)が2023年に発表した包括的な政策パッケージです。

 

この戦略の根底にあるのは、2019年に始まった「ファーム・トゥ・フォーク(Farm to Fork)戦略」——つまり農場から食卓までのサプライチェーン全体を持続可能にしようという大きなビジョンです。

 

動物福祉はその重要な柱のひとつとして位置づけられており、「動物は感覚を持つ存在(sentient beings)である」という認識を法的・政策的に明文化することを目指しています。

 

EUでは2009年のリスボン条約で動物の感受性が条約に明記されましたが、現行の飼育基準は1990年代に制定されたものが多く、科学的知見の進歩や社会の意識変化に追いついていないとされていました。

 

戦略の主な柱と具体的な内容

 

EU動物福祉戦略2030の主要な施策は以下の通りです。

  • ケージフリー(cage-free)の推進:バタリーケージ(密閉型ケージ)の段階的廃止
  • 輸送中の動物の保護強化:長距離輸送の制限と管理基準の厳格化
  • と畜(屠殺)時の苦痛軽減:スタニング(気絶処置)の義務化範囲の拡大
  • 水産養殖動物の福祉基準の新設:これまで見落とされてきた魚介類への配慮
  • 第三国輸入品への基準適用:EU域外からの輸入食品にも同等の福祉基準を求める動き

中でも注目すべきは「ケージフリー政策」です。現在EUで飼育される採卵鶏の約半数は依然としてケージ飼育ですが、2030年までにこれを廃止する方向で法整備が進められています。

 

欧州食品安全機関(EFSA)の調査では、ケージ飼育の鶏は骨折リスクが高く、自然行動(砂浴び・止まり木利用など)が著しく制限されることが科学的に示されています。この科学的根拠が、規制強化の大きな後押しとなっています。

 

現状の問題|農場動物を取り巻く「見えない苦しみ」

 

数字で見る農場動物の現実

 

動物福祉の問題を語るとき、感情だけでは前に進めません。まずデータと事実を確認しましょう。

 

EU全体での農場動物飼育数(年間):

  • 採卵鶏:約44億羽
  • ブロイラー(食肉鶏):約70億羽
  • 豚:約2億5千万頭

(出典:Eurostat, 2022年データ)

 

これだけ膨大な数の動物が、どのような環境で育てられているかは、消費者にはほとんど見えていません。

 

EUの調査機関Eurobarometerが2023年に実施した調査では、EU市民の94%が「農場動物の福祉状態を改善すべき」と回答しています。市民の意識は変化しているにもかかわらず、実際の飼育環境との乖離が問題視されています。

 

日本の現状との比較

 

日本では、農林水産省が「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」を策定しており、各畜種ごとのガイドラインが存在します。しかし、これらは法的拘束力を持たない任意基準です。

 

農林水産省の調査(2022年)によれば、日本の採卵鶏のケージ飼育率は約90%以上とされており、EU平均を大きく上回っています。欧州と比較すると、日本の動物福祉行政はまだ発展途上にあると言わざるを得ません。

 

一方で、日本国内でも変化の兆しはあります。消費者庁の消費者意識調査(2022年度)では、食品購入時に「動物の飼育環境を気にする」と答えた消費者が徐々に増加しており、企業側の対応も一部で始まっています。

 

よくある疑問に答える|EU動物福祉戦略2030 Q&A

 

Q1. EU動物福祉戦略2030は、日本には関係ないのでは?

 

A. いいえ、日本にも確実に影響が出てきます。

EUは世界最大の食品輸入市場のひとつです。EUがアニマルウェルフェア基準を輸入品にも適用する動きを見せていることは、日本の食品輸出業者にとって無視できない問題です。

 

また、グローバルなサプライチェーンを持つ企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から動物福祉に取り組む圧力が高まっています。すでにイオンやイトーヨーカドーなど大手小売業者がケージフリー卵の導入を表明しており、日本の市場でも変化が起きています。

 

Q2. 「動物福祉」と「動物愛護」は何が違うの?

 

A. 目的と対象範囲が異なります。

 

項目 動物愛護 動物福祉(アニマルウェルフェア)
主な対象 ペット・野生動物 農場動物・実験動物を含む全動物
アプローチ 感情的・倫理的保護 科学的・制度的な「5つの自由」の保障
法的根拠 動物愛護管理法(日本) EU基本条約・各種規制

 

「5つの自由」とは、1960年代にイギリスで提唱された動物福祉の基本概念で、①飢えと渇きからの自由、②不快からの自由、③痛み・傷・病気からの自由、④正常な行動を表現する自由、⑤恐怖と苦悩からの自由を指します。

 

Q3. 動物福祉に配慮すると、食品価格は上がるの?

 

A. 短期的には上昇する可能性がありますが、長期的には別の議論があります。

ケージフリー卵への移行コストに関するオランダ・ワーゲニンゲン大学の試算では、生産コストが15〜25%上昇するとされています。ただし、集約的飼育がもたらす環境負荷(温室効果ガス排出、水質汚染など)の外部コストを含めれば、動物福祉配慮型農業のコストは相対的に小さいという見方もあります。

 

実践パート|消費者としてできる具体的な行動

 

ステップ1:ラベルを読む習慣をつける

 

動物福祉に配慮した食品選びの第一歩は、パッケージの表示を確認することです。

 

チェックすべきポイント:

  • 「平飼い卵」「ケージフリー」の表記
  • 「有機JAS認証」マーク(有機畜産物には一定の飼育基準が設けられています)
  • 「アニマルウェルフェア認証」ラベル(NPO法人 畜産動物を守る会などが認証)

農林水産省のウェブサイトでは、有機JASに関する基準と認証機関の一覧が公開されており、認証の信頼性を確認することができます。

 

ステップ2:購買行動でメッセージを送る

 

消費者の購買行動は、企業の方針を動かす力を持っています。

国内外の企業が動物福祉方針を公表している場合、その進捗を確認し、積極的に支持することも一つの行動です。また、企業の公式SNSやカスタマーサポートに意見を届けることも有効です。

 

実際に、欧米では「[投資家行動](Investor Action on Factory Farming)」と呼ばれる動きがあり、機関投資家が企業の動物福祉方針を投資判断の基準に含めるようになっています。

 

ステップ3:情報を広める

 

動物福祉の問題は、まだ多くの人にとって「知らない話」です。

この記事を友人・家族とシェアしたり、SNSで発信したりすることで、社会全体の意識を少しずつ変えていくことができます。変化は一人の意識から始まります。

 

メリット・デメリット|動物福祉基準の強化がもたらすもの

 

メリット

 

動物にとって:

  • ストレスや苦痛の軽減
  • 自然行動の発現(群れ行動・採食行動など)が可能になる
  • 疾病リスクの低減(過密飼育による感染症拡大の抑制)

人間にとって:

  • 高品質・高栄養価の食品(平飼い卵はオメガ3脂肪酸が高いという研究も)
  • 人獣共通感染症(ズーノーシス)のリスク低減
  • 食への信頼感・透明性の向上

環境にとって:

  • 集約的農業からの転換による土壌・水質の改善
  • 生物多様性の保全

 

デメリット・課題

  • 移行コストの問題:施設改修や飼育密度の変更には大きなコストがかかり、特に中小規模農家への影響が懸念されます
  • 国際競争力の変化:高い基準を持つ国が、低コストの輸入品と競争するうえで不利になる可能性
  • モニタリングの難しさ:広大なサプライチェーン全体で基準を守られているかを確認する体制の構築が必要
  • 消費者の購買行動との乖離:「動物福祉は大切」と思いながらも、価格優先で購買する「意識・行動ギャップ」

これらの課題を直視した上で、段階的かつ現実的な移行を設計することが、政策の成否を分けると言えます。

 

実体験エピソード|ある農家の変化

 

岐阜県の畜産農家・田中さん(仮名)は、2年前まで採卵鶏を完全なケージ飼育で行っていました。

 

「経営を維持するために、効率を最優先していました。鶏の気持ちを考える余裕なんてなかった」と彼は振り返ります。

転機は、大手スーパーからの「ケージフリー卵の仕入れを優先したい」という申し入れでした。最初は「コストが合わない」と難色を示していた田中さんですが、消費者の声を直接聞く機会を経て、少しずつ気持ちが変化していきました。

 

「平飼いに切り替えてから、鶏たちの動きが明らかに違う。砂浴びをしたり、走り回ったり。最初は正直、驚きました」

生産コストは上がりましたが、高付加価値卵として直販チャネルを開拓することで経営を安定させることができたと言います。「消費者が変われば、農家も変われる。私がその証拠かもしれない」という田中さんの言葉が、動物福祉の変化を象徴しています。

 

注意点|動物福祉に関する「誤解」と「落とし穴」

 

「オーガニック=動物福祉」とは限らない

 

有機認証は農薬・抗生物質の不使用を中心とした基準であり、飼育密度や行動発現の保障を直接的に意味しているわけではありません。有機認証を取得していても、動物福祉の観点では必ずしも優れているとは言えないケースがあります。

 

認証ラベルの内容を確認し、何が保証されているのかを具体的に把握することが重要です。

 

「動物福祉=脱肉食」ではない

 

動物福祉の向上は、畜産物を食べることをやめることとイコールではありません。飼育環境の改善・人道的な管理の実施・透明性の確保といった取り組みは、畜産業を続けながらでも実現できます。

 

「動物を食べること自体が悪い」という議論とは別のレイヤーで、「どのように育て、どのように扱うか」という実践的な問いに向き合うことが動物福祉の本質です。

 

ウォッシュ(見せかけ)に注意する

 

「アニマルウェルフェア配慮」を謳いながら、実態が伴っていない企業・製品も存在します。これは「ウェルフェアウォッシング」と呼ばれ、消費者の信頼を損なう問題として国際的に警戒されています。

 

信頼性の高い第三者認証(国際的にはBWF認証、国内では各NPOの認証など)を参考にしながら、情報を批判的に読む習慣が大切です。

 

今後の社会的視点|動物福祉は「倫理」から「ビジネス標準」へ

 

世界的な規制の潮流

 

EU動物福祉戦略2030は、孤立した動きではありません。

  • イギリス:EUからの離脱後も独自の動物福祉法改正を推進中
  • カナダ・オーストラリア:ケージフリー卵の市場シェアが急速に拡大
  • アメリカ(カリフォルニア州):Prop 12(ケージフリー義務化条例)が2023年より施行

また、国連食糧農業機関(FAO)も2023年に「責任ある畜産業のための動物福祉ガイドライン」を更新し、動物福祉を持続可能な食料システムの核心に位置づけています。

 

投資・金融領域における動物福祉

 

ESG投資の文脈において、動物福祉は環境(E)・社会(S)の両方に関わるマテリアリティ(重要課題)として認識されはじめています。

 

ブルームバーグの分析によれば、動物福祉への取り組みが明確な企業は、消費者ブランド評価・従業員エンゲージメント・規制リスクの観点で優位性があるとされています。

 

日本でも、東京証券取引所が推進するコーポレートガバナンス改革の中で、サプライチェーンにおける社会的責任がより問われるようになっており、動物福祉は企業戦略において無視できない領域になりつつあります。

 

テクノロジーと動物福祉の融合

 

動物福祉の実現に、テクノロジーも一役買っています。

  • AIカメラ監視:鶏舎内の動物行動をリアルタイムで分析し、ストレス兆候を早期検知
  • 精密農業(Precision Livestock Farming):個体ごとの健康データを管理し、過密飼育を防ぐ
  • 培養肉・代替タンパク:動物を育てる必要のない食肉の研究開発

これらの技術は、動物福祉を「コスト」ではなく「スマートな農業経営」として再定義する可能性を持っています。

 

まとめ|EU動物福祉戦略2030が示す「食の未来」

 

EU動物福祉戦略2030は、農場動物の飼育基準の抜本的見直しを促す歴史的な政策です。

この記事で見てきたように、その影響はEU内だけにとどまらず、グローバルなサプライチェーン・投資・貿易を通じて日本を含む世界全体に波及してきています。

 

重要なのは、この変化が「動物がかわいそうだから」という感情論だけで動いているのではなく、科学的根拠・経済的合理性・社会的要請という三つの力が重なって生まれた潮流だという点です。

 

私たちひとりひとりが食卓で行う選択——どの卵を手に取るか、どの企業の製品を支持するか——は、その流れの一部を形成しています。

 

動物福祉の向上は、動物のためだけでなく、食の安全、環境保全、そして人間社会の持続可能性にもつながっています。


今日、スーパーで食品を選ぶとき、ひとつだけラベルを見てみてください。その一秒が、動物福祉の未来を少しだけ変えます。


 

 

本記事の情報は執筆時点(2026年)のものです。最新の政策情報は欧州委員会(European Commission)公式サイトおよび農林水産省の公式情報をご確認ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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