台湾の動物愛護法改正が示すもの|アジアで最も進んだ繁殖業者規制の全貌
「台湾の動物愛護法」が世界から注目される理由
「台湾の動物愛護法って、日本と何が違うの?」
「なぜ台湾はアジアで先駆けて殺処分ゼロを実現できたの?」
こうした疑問を持つ方は多いはずです。
台湾は1998年に動物保護法を制定し、その後も数回にわたって改正を重ねてきました。 特に2017年の改正は、アジアの動物福祉史上において画期的な転換点となりました。
この改正により、台湾は「殺処分ゼロ」を法律で明記したアジアで2番目の地域となり(インドに次ぐ)、繁殖業者への規制も大幅に強化されました。
本記事では、台湾の動物愛護法改正の具体的な内容・背景・課題・そして日本への示唆を、データと事実を交えながら徹底解説します。 この1記事を読めば、台湾の動物福祉政策の全体像がわかります。
台湾の動物保護法改正前の現状と問題――数字が物語る課題
改正前の殺処分の実態
台湾動物保護法が大幅改正される以前、台湾の公営動物収容所では毎年大量の犬猫が殺処分されていました。
行政院農業委員会(現:農業部)のデータによれば、公営収容所における殺処分数の推移は次のとおりです。
- 2012年度:安楽死と収容所内死亡の合計が高水準で推移
- 2014年度:ドキュメンタリー映画『十二夜』の翌年から数字が減少に転じる
- 2007〜2016年の10年間で、殺処分率が74.57%から12.38%へ劇的に低下
- 同期間の譲渡率は13.45%から74.86%へ上昇
特に2013年に公開されたドキュメンタリー映画『十二夜(Twelve Nights)』が社会に大きな衝撃を与えました。
映画『十二夜』は、公設の動物収容所で13日目の期限を過ぎた犬たちが安楽死に向かう姿を記録した作品。台湾のドキュメンタリー映画史上歴代2位となる興行収入6,000万台湾元(約2億1,000万円)を記録しました。
この映画が台湾の国会(立法院)に与えた影響は絶大で、議員たちがDVDを片手に「殺処分はかわいそうだ」と訴える光景が見られるほどになりました。 2015年には政府が「2年後に殺処分ゼロ」を発表。 そして映画公開から4年後の2017年、ついに法改正が実現したのです。
繁殖業者の野放し状態が生んだ問題
殺処分問題と並んで深刻だったのが、繁殖業者(ブリーダー)への規制の甘さです。
台湾は1998年から動物保護法があったものの、当初は繁殖業者・販売業者への管理基準が不明確で、悪質な過密繁殖や遺棄が後を絶ちませんでした。
問題の根本には次のような構造がありました。
- マイクロチップの装着が義務化されていても、社会的な実行が追いついていない状況
- 繁殖業者の許可・管理体制が不十分で、無許可業者が存在
- 過剰繁殖された子犬・子猫が売れ残り、遺棄・放棄につながる悪循環
- ペット購入後の飼育放棄が後を絶たず、野良犬・野良猫問題が深刻化
2020年時点で台湾全土ではおよそ250万頭のペットが飼育されているにもかかわらず、その根本的な供給源である繁殖業者の管理が曖昧なままでは問題は解決しません。 この認識が、2017年改正の大きな柱となりました。
よくある疑問と回答(Q&A)――台湾の動物愛護法を正しく理解するために
Q1. 台湾の動物保護法はいつ制定されたの?
台湾の「動物保護法」は1998年に制定されました(一部資料では1999年成立と表記)。 日本の動物愛護管理法(1973年制定)と比較しても、制定当初から強い内容・実効力を持つとして、動物福祉関係者から評価されてきました。 以降、複数回の改正が行われています。
Q2. 2017年の改正で何が変わったの?
2017年の改正で最も注目されるのは「殺処分ゼロ(ノーキル政策)」の法制化です。 それまでも減少傾向にあった殺処分数が、法律によって完全禁止されました。 アジアでこれを法律で定めているのは、インドと台湾のみです。
また繁殖業者に対する規制の強化、マイクロチップの管理強化、動物虐待への厳しい罰則なども盛り込まれました。
Q3. 台湾と日本の動物愛護法はどう違うの?
日本では2019年に動物愛護管理法が改正され、マイクロチップ装着の義務化(販売業者対象)や、ブリーダーへの数値規制(1人当たりの飼育頭数上限など)が導入されました。 しかし「殺処分ゼロ」は法律で定められておらず、環境省の目標値として示されている段階です。
台湾が殺処分を法的に禁止したことと比較すると、日本の制度は段階的な整備途上といえます。
Q4. 「殺処分ゼロ」は本当に達成できているの?
2017年の法改正により公営シェルターでの安楽死は禁止されましたが、問題が完全に解決されたわけではありません。 シェルターの過密状態が深刻化し、「破裂寸前のぎゅうぎゅう詰めの檻」という批判も出ました。
台湾には野良犬が約16万頭(農業部データ)いるとされており、シェルターの最大収容数(約7,614匹)をはるかに上回る規模です。 法制化の成果とその後の課題は、切り離して論じる必要があります。
台湾・動物保護法の主な規定内容――繁殖業者規制を中心に
繁殖業者(ブリーダー)に対する主な規制
台湾の動物保護法では、「寵物繁殖場(ペット繁殖場)」の管理について以下のような規定が設けられています。
- 繁殖場の開設・運営には許可証の取得が必要
- 許可を受けていない業者からの仕入れ禁止(販売業者に対する規制)
- マイクロチップの装着が完了していない動物の売買・譲渡禁止
- 繁殖場の設備・環境・専任人員の基準遵守義務
- 違反した場合、4万〜20万台湾元(約18万〜90万円相当)の罰金、さらに違反3回で許可取り消し
飼い主・一般市民への義務
台湾の動物保護法は、繁殖業者だけでなく飼い主にも具体的な義務を課しています。
- 適切で清潔な食事・24時間充足した水の提供義務
- 安全・清潔・換気・照明・温度が適切な生活環境の確保
- ケージ飼育の場合、十分な運動スペースと体を伸ばせる空間の確保
- 繋ぎ飼いの場合、十分な長さのリードと適切な首輪の使用
- ペットの遺棄(棄養)禁止。違反は3万〜15万台湾元の罰金
マイクロチップ制度の強化
台湾では犬に対するマイクロチップ装着と登録制度が動物保護法制定当初から条文化されていました。 さらに2025年から猫のマイクロチップ装着・ペット登録も義務化され、違反者には3,000〜15,000台湾元(約1.5万〜7.5万円)の過料が科されます(農業部・フォーカス台湾2025年12月発表)。
これにより出生から販売・飼育まで、ペットに関するデータが一元化されるシステムが整備されています。
動物虐待への罰則
台湾の動物保護法では、動物を虐待する行為・傷害を与える行為に対して厳しい罰則を定めています。
- 何人も、動物への嫌がらせ・虐待・傷害行為を禁止(第6条)
- 悪質な虐待に対しては刑事罰の適用も
- 動物検査員が繁殖場・販売場所・展示場所などへの立入調査が可能
- 立入検査への妨害・拒否も違反行為として処罰対象
台湾モデルのメリット・デメリット――成果と残る課題
メリット:目覚ましい成果
- 殺処分率が2007年の74.57%から2016年には12.38%へ、10年間で激減
- 譲渡率が13.45%から74.86%へと劇的に上昇
- 社会全体の動物福祉意識が高まり、保護犬猫の里親文化が根付いた
- マイクロチップによるデータベース一元化で、ペットの追跡・管理が改善
- 繁殖業者への許可制・罰則が業界の淘汰・浄化を促進
デメリット・残る課題
- 殺処分ゼロ法施行後、シェルターの過密状態が深刻化(34施設の最大収容数7,614匹に対し野良犬だけで16万頭以上)
- 野良犬・野良猫の数が依然として多く、生態系ホットスポットへの侵入問題も発生
- シェルターの財源・人員が不足しており、動物の生活の質が低下している施設も
- マイクロチップ未装着の飼い主が多く、制度の実効性に課題
- 「変わったのは法律だけ」という批判も一部に存在し、具体的な予算・人員配置が追いついていない問題
映画『十二夜』の監督は続編制作の理由について「殺処分ゼロから、私たちがすべき課題へともう一度目を向けさせる責任がある」と語っています。法律の改正は出発点に過ぎず、継続的な制度設計と社会的合意が必要です。
台湾の現場から:保護活動家が語る「法律改正後」の実態
台湾で動物保護活動を行うNPO「ACT for Animals」の徐氏は、台北観光局のインタビューで現状についてこう語っています。
「以前の台湾では、外見が損なわれた動物を引き取りたがりませんでした。でも今は、そういった動物の境遇への理解と共感が深まってきました」
同団体は、ケージ飼育ではなく芝生のある屋外スペースで動物が自然に過ごせる「保護区モデル」を実践。 ヨーロッパや北米、日本の運営方法から最良のものを取り入れたとしています。
一方で、課題も率直に語ります。 「殺処分ゼロ政策後、施設が圧迫されリソースは限界に達しています。敷地不足のため、ほとんどの動物をケージで飼育せざるを得ない施設が多い」と。
また、台湾初の動物虐待防止協会(TSPCA)の設立者・姜怡如氏と姜怡帆氏の姉妹は、カナダのバンクーバーで育ち、帰国後に台湾にSPCAがないことへの衝撃から活動を始めました。 彼女たちは台北市内の学校で動物愛護の教育プログラムを提供し、ある学校では100名以上の教師が参加する成果を上げています。
こうした草の根の活動と法制度の整備が合わさることで、台湾の動物福祉は確実に前進してきました。 法律の改正は、社会変革の始まりに過ぎないのです。
台湾モデルを参考にする際の注意点
「殺処分ゼロ」は目的ではなく手段
「殺処分ゼロ」という言葉だけが一人歩きすると、本来の目的である「動物の生きる環境の質の向上」から焦点がズレる危険があります。
台湾では殺処分ゼロを達成した後に「一生シェルターに閉じ込められた犬が増えた」という批判が実際に起きました。 数字上のゼロが、生活の質のゼロを意味してはなりません。
法律改正単独では解決しない
台湾の経験が示すのは、法律改正だけでは不十分だということです。
- 十分な予算配分(シェルター整備・人員確保)
- 不妊・去勢手術の普及(野良動物数の根本的削減)
- 飼い主教育の徹底(遺棄・虐待の防止)
- 市民・ボランティアの参加促進(譲渡率向上)
これらが法律と一体で機能して初めて、動物福祉の実質的な向上が実現します。
各国の事情に応じた制度設計が必要
台湾の繁殖業者規制や罰則の内容は参考になりますが、そのまま他国に移植できるわけではありません。 各国の産業構造・文化・行政体制に合わせた制度設計が必要です。
ただし、以下の三本柱はどの地域でも有効な原則といえます。
- 具体的な罰則と許可制度
- マイクロチップを活用したトレーサビリティ
- 社会教育との連携
アジアの動物福祉の流れ――台湾から世界へ広がる潮流
アジアにおける動物福祉の現在地
「アジア=動物福祉後進地域」というイメージはもはや過去のものになりつつあります。
台湾が2017年に殺処分ゼロを法制化したことは、アジアの動物福祉政策に明確な転換点をもたらしました。 現在、韓国も動物保護法の強化を進め、シンガポールやタイでも動物虐待への罰則が厳しくなっています。
特に繁殖業者規制については、欧米先進国が先行していますが、アジアの中では台湾が最も包括的な規制体系を持つ地域の一つとなっています。
日本への示唆:次の法改正に向けて
日本では2019年改正で一定の前進がありましたが、動物福祉の専門家や市民団体からは引き続き課題が指摘されています。
- 「殺処分ゼロ」の法的明文化(現在は目標値どまり)
- ブリーダーへの数値規制の完全施行(段階的施行が続いている)
- 畜産動物への動物福祉規定の明確化(日本では現在ほぼ無規定)
- 野生動物のペット飼養規制の強化(WWFジャパンも提言)
台湾のケースが示すように、社会的機運の高まりと具体的な法制度の整備が連動することが変化のカギです。 映画一本が国の動物福祉政策を変えた台湾の事例は、日本においても「市民の声が制度を変える」可能性を示しています。
アニマルウェルフェア(動物福祉)の国際基準
世界動物衛生機関(WOAH、旧OIE)が提唱する「動物福祉の5つの自由」は、国際的な基準として広く認められています。
- 飢えと渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・傷・病気からの自由
- 正常な行動を表現する自由
- 恐怖と苦悩からの自由
台湾の動物保護法の条文(第5条)には、飼い主が遵守すべき飼育基準として、この考え方に沿った具体的な内容が列挙されています。 単なる虐待禁止にとどまらず、「積極的に良い環境を提供する義務」を法的に課している点が、同法の先進性を示しています。
まとめ――台湾の動物愛護法が問いかけること
台湾は1998年の動物保護法制定から約20年をかけて、アジアで最も進んだ動物福祉の法制度の一つを構築してきました。
2017年改正の最大のインパクトは「殺処分ゼロ」の法制化ですが、それ以上に重要なのは、繁殖業者への厳格な規制とマイクロチップを活用したトレーサビリティ強化により、問題の「源流」に手をつけた点です。
台湾の経験から私たちが学べることをまとめると、次の3点に集約されます。
- 社会的な機運(市民の声・メディア・NGO)が法改正の原動力になる
- 法改正は出発点であり、予算・教育・実施体制が伴わなければ実質的な効果は生まれない
- 繁殖業者規制こそが「問題の源流」を断つ鍵であり、厳格な許可制・罰則・マイクロチップ管理が有効
日本でも動物愛護法改正の議論は続いています。 台湾の成功と失敗の両方から学び、「すべての動物が尊厳をもって生きられる社会」の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考えてみてください。
まずはあなたが今できること――保護犬・保護猫の里親になることを検討する、信頼できるブリーダーから迎える際には許可証の確認をする、そして動物福祉に関する法改正を求める市民活動を支持する。これらの小さな行動が、日本の動物福祉を前進させる力になります。
参考情報
- 台湾 農業部 動物保護法(行政院農業委員会主管法規)
- フォーカス台湾(中央社):猫へのマイクロチップ装着義務付けに関する報道(2025年12月)
- 世界愛犬聯盟(WDA):台湾の野良犬政策に関する調査報告
- 地球生物会議ALIVE:台湾の動物保護法(翻訳版)
- 環境省:動物愛護管理法の改正概要(2019年・2021年施行)
※本記事は公的機関・主要メディアの情報をもとに作成しています。法律の具体的な適用については、最新の公式情報をご確認ください。
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