オランダで野良犬がほぼゼロになった理由|世界が注目する動物福祉の最先端モデルを徹底解説
はじめに|「野良犬がいない国」は本当に存在するのか
「野良犬がいない国があると聞いたけど、本当?」
そんな疑問を持ってこの記事にたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
答えはイエス。
オランダはその国のひとつです。
人口約1,800万人のこの小さな西ヨーロッパの国では、約1,000万匹ものペットが人間と共に暮らしています。犬や猫だけでなく、小動物や魚類を含めたこの数字は、国民1人あたり約0.55匹という計算になります。
それほど多くの動物と共存しながら、なぜオランダでは野良犬の数がほぼゼロになったのでしょうか。
この記事では、オランダが「野良犬ゼロ」を達成するまでの歴史的背景、具体的な政策、そして日本が学べる教訓を、データと事実にもとづいて徹底的に解説します。
動物福祉の観点から、単なる美談ではなく、再現可能なモデルとしてオランダの取り組みを紐解いていきます。
現状のデータで見るオランダと日本の差
オランダの動物福祉の現状
オランダでは、国内に野良犬がほぼ存在しないとされています。これは政府の公式な見解であり、動物愛護団体「Dierenbescherming(動物保護協会)」の調査でも裏付けられています。
オランダの主な動物統計(参考:CBS オランダ中央統計局)
| 項目 | データ |
|---|---|
| 総ペット数 | 約1,000万匹 |
| 犬の飼育頭数 | 約130万頭 |
| 猫の飼育頭数 | 約280万頭 |
| 野良犬の推定数 | ほぼ0(公式登録なし) |
| 動物保護シェルターの殺処分率 | 極めて低水準 |
日本の現状との比較
一方、日本の現状を見てみましょう。
環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(令和4年度版)によると、日本では年間に数万匹規模の犬や猫が行政に引き取られ、その一部が殺処分されています。
- 令和4年度 犬の引取数:約1万7千頭
- 令和4年度 犬の殺処分数:約2千頭
- 令和4年度 猫の殺処分数:約1万5千頭(犬よりはるかに多い)
ただし、日本でも殺処分数は年々減少しています。平成21年度と比較すると、犬の殺処分数は約96%減少という大きな改善が見られます。
しかし、オランダのようにほぼゼロという数値にはまだ遠く、野良犬・野良猫の問題も各自治体が課題を抱えています。
この差はどこから来るのか。次の章で詳しく見ていきましょう。
オランダが野良犬ゼロを達成した5つの理由
理由①|19世紀から続く動物保護の歴史と文化
オランダが動物福祉に力を入れ始めたのは、実に19世紀にさかのぼります。
1864年に設立された「Dierenbescherming(動物保護協会)」は、世界最古クラスの動物愛護団体のひとつです。150年以上にわたり、動物の権利を守るための啓発活動、ロビー活動、シェルター運営を続けてきました。
この長い歴史が、オランダ社会の「動物と共に生きる」という文化的土台を形成しました。
動物福祉は「一部の愛好家の趣味」ではなく、国民共通の価値観として根付いているのです。
理由②|国が定めた厳格な動物福祉法
2011年、オランダは「動物福祉法(Wet dieren)」を制定しました。
この法律は非常に厳しく、以下のような内容が含まれています。
- ペットの登録義務化:すべての犬にマイクロチップの埋め込みと登録が義務付けられている
- 繁殖業者への規制:無許可のブリーダーによる繁殖は違法
- 動物への虐待罰則強化:動物虐待には最大3年の懲役刑および高額の罰金
- 野良動物の扱い:捨て犬・捨て猫に対しても飼い主責任が問われる
日本でも動物愛護管理法が改正され(令和元年・令和2年改正)、マイクロチップの装着義務化(令和4年6月から販売業者に義務化)など前進が見られますが、オランダの規制の厳しさとは段差があります。
理由③|TNR(捕獲・不妊化・放獣)を超えた「完全管理」の徹底
野良犬問題の根本的な原因は「繁殖のコントロールができていないこと」です。
オランダでは、シェルターが単なる「収容施設」ではなく、社会インフラとして機能しています。
具体的には:
- 野良犬を見かけた市民がすぐに通報できるホットライン
- 通報後48時間以内のシェルター収容体制
- 収容後のマイクロチップ照合による飼い主への速やかな返還
- 飼い主が見つからない場合の里親マッチングシステムの活用
- 不妊・去勢手術の徹底と費用補助制度
この「捨てられた犬を速やかに保護し、社会に再統合する」という仕組みが、野良犬の数を増やさないために機能しています。
理由④|里親文化と動物福祉教育の普及
オランダでは「ペットショップで買う」よりも「シェルターから引き取る」という文化が根付いています。
実際、オランダ国内の多くのペットショップは犬や猫の販売を行っていません。これは法律による規制と、社会的な圧力の両方によるものです。
学校教育においても動物福祉は重要なテーマとして扱われており、子どもたちが幼いうちから「動物は物ではなく、感情を持つ存在だ」という価値観を学びます。
この教育が世代を超えて継続されることで、「ペットを捨てる」という行動自体が社会的に強く批判される文化が生まれています。
理由⑤|動物福祉党(PvdD)という政治的バックアップ
世界で初めて「動物の権利」を掲げた政党が国会議席を獲得したのもオランダです。
Partij voor de Dieren(動物のための党、通称PvdD) は2006年に国会議席を初めて獲得し、現在でも議会で一定の影響力を持っています。
政治的な後ろ盾があることで、動物福祉政策が単なるNGOの活動にとどまらず、国の法律・予算・行政システムに直接反映されてきました。
これは日本にはない、オランダの大きな特徴です。
よくある疑問にお答えします(Q&A)
Q1. オランダでは本当に野良犬がゼロなのですか?
A. 厳密に言うと「ゼロ」ではなく「ほぼゼロ」が正確です。
隣国からの流入や一時的な迷子犬は存在します。ただし、体制的に「野良犬が群れをなして生活している」という状況は存在しません。シェルターに収容されるまでの時間が非常に短いため、路上で長期間生活する犬は事実上いないとされています。
Q2. オランダ人はみんなペットを飼っているのですか?
A. 全員ではありませんが、ペット飼育率は高く、犬・猫・魚・小動物を含めると国内に約1,000万匹のペットがいます。特に犬は「家族の一員」として扱われることが多く、犬を連れて電車に乗ったり、レストランに入ったりすることも珍しくありません。
Q3. なぜ日本ではオランダのようにできないのですか?
A. 一概には言えませんが、主な要因として以下が考えられます。
- 文化的・歴史的背景の違い:オランダは150年以上の動物保護文化があるが、日本での動物愛護法の整備は比較的歴史が浅い
- 行政システムの違い:日本の動物行政は都道府県・市区町村ごとに分散しており、統一した政策が取りにくい
- シェルター体制の差:日本の動物愛護センターは「処分施設」から「保護・譲渡施設」への転換途中にある自治体も多い
- 繁殖業界の規制の差:日本では2021年の改正でペットショップへの規制が強化されたが、オランダほどの厳格さはまだない
ただし、日本でも急速に改善が進んでいます。次章で詳しく解説します。
Q4. オランダのモデルを日本に取り入れることはできますか?
A. 完全な移植は難しいですが、参考にできる部分は多くあります。特にマイクロチップの普及、里親文化の推進、シェルターの機能強化は、日本でも実施可能な施策です。一部の自治体ではすでに先進的な取り組みが始まっています。
オランダ型動物福祉モデルの具体的な仕組み
ステップ1|マイクロチップによる完全トレーサビリティ
オランダでは犬を飼い始めた段階で、獣医師によるマイクロチップの埋め込みと国家データベースへの登録が義務付けられています。
このシステムにより:
- 迷子犬が保護された際、即座に飼い主が特定できる
- 飼い主責任が明確化され、「捨てた場合にバレる」という抑止力になる
- 不正繁殖業者による無登録の犬の流通を防ぐことができる
日本でも令和4年(2022年)6月から、ブリーダーやペットショップなどの販売業者に対してマイクロチップの装着と登録が義務化されました。しかし、個人間の取引や既存の飼育犬への装着は努力義務にとどまっており、普及率はまだ発展途上です。
ステップ2|シェルターの「譲渡型」への完全移行
オランダのシェルターの最大の特徴は、殺処分をしない方針(No-Kill Policy) を多くの施設が掲げていることです。
シェルターに収容された犬は:
- 健康診断・ワクチン接種
- 行動評価(攻撃性や社会性の確認)
- 里親マッチング(SNSや専用アプリも活用)
- 里親への引き渡しとアフターサポート
という流れで社会復帰を目指します。
公的シェルターだけでなく、民間のレスキュー団体や個人ボランティアによるフォスター(一時預かり)制度も充実しており、シェルター内の過密状態を防いでいます。
ステップ3|繁殖規制による「供給コントロール」
需要(里親希望者)がいても、供給(ペットの数)が多すぎれば問題は解決しません。
オランダでは以下の方法で供給をコントロールしています:
- ブリーダーのライセンス制:無許可の繁殖は違法
- 輸入犬の規制:海外からの犬の輸入に厳格な検疫・規制
- 不妊・去勢手術の推奨と補助:低所得者向けの費用補助も存在
- ペットショップでの犬猫販売禁止:多くの自治体で条例化
この「流通させる数を増やさない」という上流対策が、野良犬問題の根本解決につながっています。
ステップ4|市民参加型の動物福祉文化
行政の制度だけでは限界があります。オランダが成功した最大の要因は、市民ひとりひとりが動物福祉の担い手であるという意識を持っていることです。
具体的には:
- 近所の野良犬を見かけたら通報する(批判ではなく当然の行動として)
- 地域の動物愛護団体にボランティアとして参加する
- SNSで里親募集の情報を積極的にシェアする
- 選挙で動物福祉を重視した候補者・政党に投票する
こうした「草の根」の動きが、法律や制度を下から支えているのです。
オランダモデルのメリットと課題
メリット
1. 動物の苦しみを根本的に減らせる
野良犬として生きることは、犬にとって決して幸せではありません。交通事故、感染症、食糧不足、人間からの暴力——様々なリスクにさらされます。シェルターに収容・保護され、里親家族と共に生活することは、動物の福祉の観点から圧倒的に優れた状態です。
2. 公衆衛生の向上
野良犬は狂犬病(日本では現在清浄国ですが)やレプトスピラ症などの感染症を媒介するリスクがあります。野良犬がいない社会は、人間の健康リスクを低下させます。
3. 人と動物の信頼関係の構築
「犬は怖い存在」ではなく「友好的なパートナー」として認識される社会では、子どもも高齢者も動物と安心して接することができます。これはメンタルヘルスや社会的な絆の形成にもプラスです。
4. 動物福祉産業の発展
シェルターの充実、動物医療の発展、ペット関連サービスの質の向上は、経済的にもポジティブな影響をもたらします。オランダは動物福祉分野で世界をリードする研究・教育機関(ワーゲニンゲン大学など)を有しています。
課題と限界
1. コストがかかる
充実したシェルター体制、行政システム、教育プログラムの維持には多額の費用が必要です。オランダは一人あたりGDPが高く、社会福祉全般に手厚い国です。同じモデルをそのまま途上国や財政的に厳しい地域に適用することは難しいでしょう。
2. 文化変容には時間がかかる
オランダが現在の動物福祉水準を達成するまでに150年以上の歴史があります。短期間で劇的な変化を求めることは現実的ではありません。
3. 「野良猫」問題は別途存在
オランダでも野良猫(Zwerfkatten)の問題は依然として存在しており、犬ほど完全な解決には至っていません。TNR(捕獲・不妊化・放獣)活動が続けられていますが、猫は犬と異なり自由な行動範囲が広く、管理が難しいという側面があります。
実体験レポート|アムステルダムで感じた「動物との共存社会」
ある動物福祉活動家がオランダを訪れた際の話を紹介します(※本記事の取材・構成にあたり寄稿いただいたエピソードです)。
アムステルダムの中央駅を出て、石畳の街を歩いていると、真っ先に気づいたことがありました。
犬がいる。でも、リードに繋がれていて、飼い主と一緒だ。
日本でも公園や住宅街で犬を見かけることはありますが、ここでは犬が「街の一部」として完全に溶け込んでいました。カフェのテラスに飼い主と座る犬、自転車の荷台に乗って街を移動する犬、運河沿いをゆっくり散歩する老夫婦とその大型犬。
そして一度も——本当に一度も——野良犬を見かけませんでした。
現地の動物保護ボランティアに話を聞くと、「野良犬という概念が、もうここにはない」という言葉が返ってきました。
「犬が外にいたら、それは飼い主が近くにいるか、迷子になっているかのどちらかです。迷子犬を見かけたら、誰でも保護して施設に連絡します。それが当たり前のことだから」
その「当たり前」という感覚こそが、150年の動物福祉の積み重ねだと感じました。
オランダモデルを参考にする際の注意点
「オランダ化」を急ぎすぎない
オランダのモデルは確かに優れていますが、それを「明日から日本に導入する」という短絡的な発想は危険です。
法制度、文化、行政システム、経済状況——これらすべてが絡み合ってオランダの現状があります。単に「ペットショップを禁止する」「殺処分をゼロにする」という表面的な政策だけを移植しても、受け皿となるシェルター体制や里親文化が整っていなければ、かえって動物の苦境を増やしかねません。
「殺処分ゼロ」の言葉に注意
日本でも「殺処分ゼロ」を宣言した自治体が増えています。これは大きな前進です。しかし「殺処分ゼロ」の定義には注意が必要です。
環境省の統計では、「引き取った動物の殺処分数がゼロ」という定義が使われています。一方で、行政への引き取りを「断ることで数字を下げる」という方法では、根本的な解決にはなりません。
本当の意味での殺処分ゼロとは、そもそも保護が必要な動物を生み出さない社会を作ることです。
地域差を考慮する
日本国内でも、都市部と農村部では事情が大きく異なります。農村部では野良猫・野良犬の問題が深刻な地域もあり、一律のポリシーでは対応できません。地域の実情に合わせた柔軟なアプローチが求められます。
動物福祉の未来と日本の可能性
世界的な動物福祉の潮流
世界を見渡すと、動物福祉への意識は急速に高まっています。
- EU(欧州連合):2020年に「Farm to Fork Strategy(農場から食卓へ戦略)」を発表し、農場動物の福祉向上を政策の柱に位置づけ
- 英国:2021年に「動物感受性法(Animal Welfare (Sentience) Act)」を成立させ、脊椎動物だけでなくタコなどの頭足類も「感受性を持つ存在」として認定
- アメリカ:カリフォルニア州など一部の州でファクトリーファーミングを規制する法律が相次いで成立
この流れの中で、オランダは「コンパニオンアニマル(ペット)の福祉」においても世界のロールモデルとなっています。
日本の変化の兆し
日本でも、確実に変化は起きています。
- マイクロチップ義務化(2022年):ブリーダー・ペットショップへの義務化が開始
- 動物愛護センターの機能転換:全国で「保護・譲渡センター」への移行が進む
- 企業・自治体によるペット同伴施設の増加:東京都心部を中心に犬同伴可能なカフェ・ショップが増加
- 民間シェルターの充実:NPO・ボランティア団体による保護活動が活発化
- 動物福祉に関するSNS発信の増加:里親募集や保護活動への市民参加が広がる
これらは小さな変化かもしれませんが、確実に積み重なっています。
2030年・2050年に向けたビジョン
環境省は「人と動物が共生できる社会の実現」を目標として掲げています。この目標を実現するために、以下のような施策が今後さらに重要になるでしょう。
- マイクロチップ普及率の向上(現在は全体の30〜40%程度と推定)
- ブリーダー規制の強化(ネット販売の透明化・管理強化)
- 動物福祉教育の学校カリキュラムへの組み込み
- シェルターの全国的なネットワーク化と情報共有
- 動物保護活動への企業CSRの促進
オランダが150年かけて達成したことを、日本はデジタル技術やグローバルな知見を活かして、より短い時間で実現できる可能性があります。
まとめ|オランダが教えてくれること
この記事を通じて、オランダが野良犬ゼロを達成した理由が見えてきたのではないでしょうか。
それは単なる「政策の成功」ではありません。
150年以上にわたる文化の積み重ね、厳格な法整備、充実したシェルター体制、そして市民ひとりひとりの意識の変革—— これらすべてが組み合わさった結果です。
重要なポイントを整理すると:
- オランダには約1,000万匹のペットがいるにも関わらず、野良犬はほぼ存在しない
- その背景には、マイクロチップの義務化・ブリーダー規制・シェルターの充実・教育・政治的後押しという5つの柱がある
- 日本でも改善は進んでいるが、まだ課題が多い
- 「殺処分ゼロ」は表面的な数字ではなく、そもそも保護が必要な動物を生み出さない社会の実現が本質
- オランダのモデルはそのまま移植できないが、参考にできる部分は非常に多い
動物福祉の問題は、動物だけの問題ではありません。人間がどんな社会を作りたいか、という問いでもあります。
動物に優しい社会は、弱者に優しい社会でもある——そう考えると、動物福祉への取り組みは私たち全員に関わるテーマです。
あなたにできることは今日から始められます。
近くの動物愛護センターや保護団体のSNSをフォローする、里親希望を検討してみる、マイクロチップについて獣医師に相談する——どんな小さな一歩でも、確実に社会を変える力になります。
オランダが証明してくれたように、変化は必ず起きます。その変化を、一緒に作っていきましょう。
参考情報
- 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(環境省公式サイト)
- CBS(オランダ中央統計局)Dieren in Nederland(オランダのペット統計)
- Dierenbescherming(オランダ動物保護協会)公式サイト
- 動物の党(Partij voor de Dieren)公式サイト
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」
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最終更新:2026年2月
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