生活費危機が犬猫を追い詰める——コスト・オブ・リビング・クライシスと飼育放棄の真実
はじめに——「飼えなくなった」という言葉の重さ
「生活が苦しくなって、もう飼えなくなった」
動物保護施設のスタッフが最近、この言葉を聞く頻度が急増しています。
コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)は、食費・光熱費・住居費の高騰として語られることが多いですが、その影響はひとりの人間だけにとどまりません。
家族の一員として暮らす犬や猫も、この危機のしわ寄せを受けています。
この記事では、生活費危機と犬猫の飼育放棄という問題を、世界と日本の両方のデータをもとに深掘りします。
- 世界では今、何が起きているのか
- 日本の飼育放棄の現状は
- ペットを手放さないために、今できることは何か
感情論だけでなく、データと事実にもとづいて丁寧に解説していきます。
この記事を読み終えたとき、あなたは「知っていてよかった」と思えるはずです。
生活費危機とペット放棄の現状——世界で何が起きているか
欧米で急増する「経済的理由」による返還・放棄
2022年以降、欧米の動物保護施設(シェルター)では、経済的な理由を挙げてペットを返還・放棄するケースが急増しています。
イギリス
英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)は、2023年のレポートで以下を報告しています。
- ペット放棄件数が前年比で約20〜30%増加
- 「生活費の上昇」を理由に挙げるオーナーが急増
- 動物保護施設の収容数が過去最多水準に
さらに非営利団体「Dogs Trust」は、2023〜2024年にかけて「ペットフードバンク(犬猫用の食料無料配給)」の利用者が急増したと報告。飼育放棄の前段階として、ペットの食事さえ賄えない家庭が増えている現実が浮かび上がります。
アメリカ
米国動物保護協会(ASPCA)の調査によると、2023年には:
- シェルターへの引き渡し件数が増加傾向
- 「住居問題・家賃上昇」「ペット不可物件への引っ越し」が放棄理由の上位に
- ペット医療費の高騰が、安楽死選択の増加につながっているという報告も
オーストラリア
RSPCA Australiaのデータでは、インフレが加速した2022〜2023年にかけてシェルター収容数が増加。特に犬の引き渡し件数が顕著に増えており、「新型コロナ禍のペットブームの反動」と「生活費危機の複合要因」と分析されています。
なぜ生活費危機がペット放棄に直結するのか
生活費が上がると、ペット関連のコストが家計を直撃します。
- ペットフードの値上がり:原材料費・物流費の高騰により、ドッグフード・キャットフードも値上がり
- 動物病院代の増加:人件費・医薬品費・機器コストの上昇が診療費に反映
- 住居費の上昇:ペット可物件は家賃が高く、コスト削減のためペット不可物件に移ることを選ぶ家庭も
- エネルギーコスト:特に冬場、ペットの保温のための暖房費が負担に
これらが複合的に重なることで、「飼い続けたくても飼えない」という状況が生まれています。
日本の飼育放棄——データが示すリアル
環境省データが示す引き取り件数の推移
日本では環境省が毎年「犬・猫の引取り・処分等の状況」を公表しています。
2023年度のデータでは:
| 区分 | 引き取り数 |
|---|---|
| 犬(全国合計) | 約28,000頭 |
| 猫(全国合計) | 約72,000頭 |
数字だけ見ると「以前より減った」と感じるかもしれません。確かに、ピーク時(2000年代前半)と比べると引き取り数は大幅に減少しています。
しかし重要なのは、減少傾向の中でも「経済的理由」による引き渡しが下げ止まっているという点です。
自治体の窓口担当者によると、「お金がかかりすぎて維持できない」「引っ越しせざるを得ず、新居がペット不可だった」という相談は、物価高騰が本格化した2022年以降、増えているといいます。
日本のコスト・オブ・リビング・クライシスとペット飼育
日本では2022年以降、エネルギー価格・食料価格の上昇が家計を直撃しました。
総務省の消費者物価指数(CPI)によると、2023年の食料品価格は前年比で約8〜9%上昇。これはペットフードにも直接影響します。
また、一般社団法人ペットフード協会の調査(2023年)では:
- 犬の飼育にかかる年間費用は平均約33万円
- 猫の飼育にかかる年間費用は平均約16万円
- 医療費を含めると、大型犬では年間50万円超になるケースも
月収が下がった、あるいは固定費が上がった家庭にとって、この金額は決して小さくありません。
日本特有の問題:賃貸住宅とペット可物件の壁
日本では賃貸市場における「ペット不可物件」の多さも、飼育放棄の一因です。
国土交通省の調査によると、賃貸物件のうちペット可物件は全体の約10〜15%程度とされています。
生活費危機を受けて家賃の安い物件への引っ越しを検討した際、「ペット可物件が見つからない」「ペット可にすると家賃がさらに高くなる」という板挟みに陥る飼い主が多く存在します。
これは欧米でも共通の問題ですが、日本では特に賃貸市場の構造が飼育放棄のリスクを高めています。
よくある疑問とその回答(Q&A形式)
Q1. 経済的に苦しくなったら、すぐにペットを手放すべきですか?
A. 手放すのはあくまでも最終手段です。
まず、自治体やNPO・NGOの支援制度を確認してください。
ペットフードの無料配布、一時預かり、医療費補助を行っている団体が増えています。また、かかりつけの獣医師に相談することで、治療の優先順位を整理し、コストを抑えた選択肢を提示してもらえることもあります。
Q2. どうしても飼えなくなった場合、どうすればいいですか?
A. 行政への引き渡しより、里親探しを先に検討してください。
行政(保健所・動物愛護センター)への引き渡しは最終手段です。
まず以下を検討してください:
- 信頼できる知人・家族への一時預かり依頼
- NPO・動物保護団体への相談(里親マッチング)
- SNSやペット里親サイトでの里親募集(掲載は慎重に)
また、一部の自治体では「緊急一時預かり制度」を設けているところもあります。
Q3. ペット保険は生活費危機対策になりますか?
A. 加入していれば医療費の急増リスクを軽減できます。
ただし、保険料自体が家計負担になる場合は、加入よりも「動物病院との事前相談」「かかりつけ医との良好な関係構築」が現実的な対応策になることもあります。
Q4. 「ペットを飼える経済力がなければ飼うな」という意見についてどう思いますか?
A. それは問題の半分しか見ていません。
確かに「飼う前の見通し」は重要です。しかし生活費危機は、もともと余裕のあった家庭にも突然降りかかります。「飼い始めた時点では問題なかった」というケースも多いのです。
大切なのは、事後的な責任論ではなく、危機に陥った時に相談できる仕組みをつくることです。
今すぐできること——飼育放棄を防ぐ具体的な方法
STEP1|家計とペット費用を「見える化」する
まず現状を把握することが大切です。
- 月ごとのペット関連費用(食費・医療費・トリミング等)を記録
- 優先順位をつける(生命維持に関わるものを最優先)
- 削減できる項目を洗い出す(例:おやつ・トリミング頻度など)
STEP2|支援制度・団体を探す
以下のような支援が活用できます:
- 自治体の動物愛護センター:相談窓口として機能している場合あり
- NPO・動物保護団体:フードバンク、医療費支援、里親マッチングなど
- ペットフードメーカーの支援プログラム:一部メーカーが困窮家庭への支援を実施
- 獣医師会の低所得者向け相談:地域によって異なるが、相談できる場合あり
STEP3|専門家に早めに相談する
経済的に苦しくなったと感じたら、問題が深刻になる前に相談することが鍵です。
「まだ大丈夫」と思っているうちに手を打つことで、選択肢が広がります。かかりつけの獣医師、動物保護団体のスタッフ、自治体の動物愛護担当者など、相談先は複数あります。
STEP4|里親探しが必要になった場合の手順
どうしても手放さなければならない場合は、以下の手順で:
- まず知人・家族に声をかける
- NPO・保護団体に相談する(引き受けてもらえる場合あり)
- 里親マッチングサービスを活用(ペットのおうち、ハグー等)
- 行政への引き渡しは最終手段として
飼育継続のメリット・デメリット(経済的苦境下で考える)
飼育継続のメリット
- ペットとの絆・精神的なつながりが維持される
- 飼い主のメンタルヘルスへのプラス効果(孤独感軽減など)
- ペットにとって慣れた環境で生活できる安心感
飼育継続のデメリット(リスク)
- 十分な医療ケアが受けられなくなるリスク
- 飼い主のストレス増大によるペットへの影響
- 無理をした結果、最終的に緊急の放棄につながる可能性
里親譲渡のメリット
- 新しい家庭でより良いケアを受けられる可能性
- 飼い主の経済的・精神的負担の解消
里親譲渡のデメリット
- 環境変化によるペットのストレス
- 信頼できる里親を見つけるまでの時間と労力
- 感情的な喪失感
注意点——支援を探すときに気をつけること
SNSでの里親募集には慎重に
SNSを通じた里親募集は手軽ですが、ペット転売・動物虐待のリスクもあります。
- 里親希望者の身元確認を必ず行う
- 譲渡契約書を作成する
- 譲渡後も定期的な近況報告を求める
信頼できるNPOや団体を通じた譲渡を強くおすすめします。
「無料で引き取る」業者には要注意
「無料で引き取ります」という業者の中には、その後ペットを劣悪な環境に置いたり、転売したりするケースがあります。引き取り先の実績・評判を必ず確認してください。
行政への引き渡しは「殺処分」の可能性がある
日本では殺処分数は減少していますが、ゼロではありません。行政に引き渡すことが、場合によってはペットの命を危険にさらすことも理解しておく必要があります。
今後の社会的視点——動物福祉の流れと生活費危機
欧米では「ペット貧困支援」が制度化されつつある
イギリスでは、生活費危機を受けてペットフードバンクが全国に広がり、一部自治体が公式に支援プログラムを設けています。
アメリカでも、低所得者向けの無料・低価格ペット医療クリニック(スポーター制度)が普及しており、「ペットを飼える経済力」の格差を埋める取り組みが進んでいます。
日本における課題と可能性
日本では動物福祉の観点から、2022年に動物愛護管理法が改正されました。しかし経済的困難を抱える飼い主への直接的な支援制度はまだ整備途上です。
今後必要なのは:
- 自治体レベルでのペット医療費補助制度
- ペット可・低家賃物件の整備促進(住宅政策との連携)
- 動物保護団体への安定的な公的資金援助
- 「困ったら相談できる」窓口の周知徹底
動物福祉は「余裕のある人のもの」ではありません。経済的な背景にかかわらず、すべての動物が適切なケアを受けられる社会をつくることが、真の動物福祉といえます。
「コンパニオンアニマル貧困」という新しい概念
欧米の動物福祉研究者の間では、「Companion Animal Poverty(コンパニオンアニマル貧困)」という概念が注目されています。これは、人間の経済的貧困が直接ペットの福祉を侵害する構造を指す言葉です。
生活費危機は、単なる家計の問題ではなく、動物福祉の危機でもある——この認識が、政策立案者・支援団体・社会全体で共有されることが求められています。
まとめ——「手放す前に、一度だけ相談してみてください」
この記事で見てきたように、コスト・オブ・リビング・クライシス(生活費危機)は、犬や猫の飼育放棄という形で動物福祉に深刻な影響を与えています。
世界では:
- イギリス・アメリカ・オーストラリアでシェルター収容数が増加
- 「経済的理由」による放棄が急増
日本では:
- 環境省データによる引き取り件数は年間10万頭超
- 物価高騰・賃貸事情が飼育放棄のリスクを高めている
でも、できることはあります:
- 費用の見える化と優先順位の整理
- 支援制度・NPOの活用
- 獣医師・専門家への早期相談
飼い主が「もう無理だ」と感じる前に、選択肢を知っていること——それが動物の命を守る第一歩です。
経済的に苦しい状況にある飼い主の方が、この記事を読んで「もう少し、一緒にいられるかもしれない」と思ってもらえたなら、この記事を書いた意味があります。
👉 まずは地域の動物愛護センターやNPOに、一度だけ相談してみてください。相談することに、費用はかかりません。あなたとあなたのペットの未来を守るために、一歩を踏み出してみましょう。
本記事は公開情報・各種公的統計をもとに作成しています。個別のご相談については、お住まいの自治体の動物愛護担当窓口または動物保護団体にお問い合わせください。
古着買取、ヴィーガン食品やペットフードの買い物で支援など皆様にしてもらいたいことをまとめています。
参加しやすいものにぜひ協力してください!
関連情報
