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ドイツ・スウェーデンの動物福祉政策と日本の差|世界水準から見えてくる課題と未来

ドイツ・スウェーデンの動物福祉政策と日本の差

 

 

動物福祉とは何か? 日本で今、関心が高まる理由

 

「動物福祉」という言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持つでしょうか。

「ペットを大切にすること」でしょうか。それとも「畜産業への規制」でしょうか。

 

じつは、動物福祉(Animal Welfare) とは単なる「かわいそう」という感情論ではありません。動物が身体的・精神的に健康で、その種本来の行動を発揮できる状態を保障するための、科学的・制度的な取り組みのことを指します。

 

世界では1960年代のイギリスを起点に、この考え方が急速に広まりました。1965年に発表された「ブランベル報告書」を基に確立された 「動物の5つの自由(Five Freedoms)」 は、今なお国際基準の柱となっています。

  • 飢えと渇きからの自由(適切な食事・水の提供)
  • 不快からの自由(適切な環境の確保)
  • 痛み・傷・病気からの自由(予防・治療の提供)
  • 正常な行動を発現する自由(本来の行動ができる空間と仲間)
  • 恐怖と苦悩からの自由(精神的苦痛を与えない環境)

しかし日本では、この「5つの自由」の概念が制度に深く根付いているとは言い難い状況です。

 

近年、SNSやメディアを通じて動物福祉への関心が急速に高まっています。ペット文化の成熟、畜産・食の倫理への意識変化、そして「ドイツやスウェーデンは先進的なのに、なぜ日本は変わらないのか」という声。

 

この記事では、そうした疑問に正面から向き合い、データと事実に基づいてドイツ・スウェーデンの動物福祉政策と日本の差を徹底的に解説します。

 

現状の問題|データが示す日本の動物福祉の実態

 

まず、数字で現実を確認しましょう。

 

指標 数値
日本 2023年度の犬・猫の殺処分数(環境省) 1万頭
ドイツ 保護施設での健康個体の安楽死 原則ゼロ
スウェーデン 年間の保護施設収容数(犬・猫合計推計) 1,000頭以下
日本 API(動物保護指数)世界ランキング2023年 D評価(中下位)

 

環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(2023年度版)によると、日本全国での犬・猫の殺処分数は依然として年間11万頭以上。2000年代初頭の約40万頭から大きく減少したとはいえ、欧州先進国と比べると桁が違います。

 

国際的な動物保護評価指標である API(Animal Protection Index) では、日本は調査対象50カ国中で中間より下の評価(D評価)を受けており、ドイツ・スウェーデンが最上位のB〜A評価であるのとは対照的です。

 

注目すべき数字: 日本のペット関連市場は年間1.6兆円超(矢野経済研究所、2023年)にのぼります。消費規模は先進国レベルでありながら、動物の権利・福祉を守るための制度整備は大幅に遅れています。これが「消費と保護のアンバランス」と呼ばれる日本特有の問題です。

 

畜産動物はさらに見えにくい問題

 

ペットだけが動物福祉の対象ではありません。日本では年間約3億羽の採卵鶏が飼育されていますが、その約95%以上がバタリーケージ(1羽あたりA4用紙一枚程度のスペース)での密飼いです。EUはすでに2012年にバタリーケージを禁止しており、日本との差は20年以上にわたって開いたままです。

 

ドイツ・スウェーデンと日本の動物福祉政策を比較する

 

比較項目 🇩🇪 ドイツ 🇸🇪 スウェーデン 🇯🇵 日本
動物福祉の法的地位 憲法で保護 独立した動物福祉法 動物愛護管理法(罰則弱)
バタリーケージ規制 2010年より禁止 1988年より禁止 規制なし(任意推進のみ)
犬の繁殖業規制 厳格な許可制・頭数制限 許可制・定期検査あり 届出制(抜け穴多数)
虐待への刑事罰 最大3年の禁固刑 最大2年の禁固刑 最大1年・罰金100万円
動物の法的地位 物ではなく「生命体」 感受性を持つ存在 民法上は**「物」**のまま
野良猫・ノラ犬対策 保護施設+里親制度充実 TNR+登録システム完備 自治体ごとにバラツキ
実験動物への規制 EU指令+国内法で厳格化 3Rの原則が法制化 ガイドライン止まり

 

ドイツの動物福祉政策:憲法に刻まれた覚悟

 

ドイツの動物福祉政策で最も象徴的なのは、2002年の 憲法(基本法)第20a条への「動物保護」の明記 です。

 

「国家は将来の世代に対する責任のもと、自然的な生存基盤と動物を保護する」——これが憲法に刻まれた一文です。つまり、ドイツでは動物保護は「お気持ち」ではなく、国家の義務 なのです。

 

この条文が加えられたことで、動物福祉は経済的利益(農業・産業)よりも優先される根拠となりました。実際、ドイツでは採卵鶏の環境エンリッチメント(止まり木・砂浴び場の設置)が法律で義務付けられており、豚の尻尾切断も麻酔なしでは違法とされています。

 

1972年に制定されたドイツの動物保護法(Tierschutzgesetz)は、たびたび改正を重ね、2023年版では動物を使った実験の削減目標が強化されました。また、ペットの遺棄に対して最大2万5,000ユーロ(約400万円)の罰金が科せられます。

 

スウェーデンの動物福祉政策:世界が注目する「5つの自由」の実践

 

スウェーデンは、動物福祉のさきがけとして1988年に世界で初めて、工場型農場(Factory Farm)における主要な慣行を禁止しました。バタリーケージの禁止はその象徴です。

 

この改革を主導したのは、「動物たちには幸せになる権利がある(Animals have a right to thrive)」という政治的コンセンサスでした。スウェーデンの特筆すべき点として、動物福祉担当官制度 があります。地方自治体ごとに専任の動物福祉担当官(Djurskyddsinspektör)が置かれ、農場・ペットショップ・保護施設を定期的に巡回・監査します。

 

【主要な動物福祉政策の歴史年表】

  • 1988年:スウェーデンがバタリーケージ・豚の密飼いを禁止。当時、世界で最も先進的な動物福祉法として注目される
  • 2002年:ドイツ基本法に「動物保護」が明記。EU加盟国への波及効果も生む
  • 2012年:EU全域でバタリーケージ禁止(ドイツ・スウェーデンは20年以上先行)
  • 2019年:日本が動物愛護管理法を改正。虐待の罰則強化
  • 2023年〜:EUがファームトゥーフォーク戦略でさらなる畜産動物の動物福祉強化を推進

 

日本の現状:動物愛護管理法の限界

 

日本の動物保護の基本法は 「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」 です。2019年の改正で大きな前進がありましたが、依然として根本的な問題が残っています。

  • 動物は民法上いまだ「物(もの)」として扱われており、法的主体性がない
  • 畜産動物(牛・豚・鶏など)は動物愛護管理法の保護対象から実質的に除外されている
  • ペットショップの生体展示販売は、多くの国で禁止または規制されているが、日本では継続中
  • 悪質なブリーダー規制が不十分で、「パピーミル(puppy mill)」問題が深刻
  • 動物実験への法的規制が弱く、3R原則(Replacement・Reduction・Refinement)は「努力義務」止まり

 

よくある疑問Q&A|動物福祉政策について正直に答えます

 

Q. 日本の動物福祉が遅れているのは、文化的な問題なのでしょうか?

 

文化の違いはありますが、それが主因ではありません。日本にも古くから「生き物を大切にする」精神(不殺生や「もったいない」の思想)があります。遅れの主因は、制度設計と政治的優先順位の問題です。畜産・ペット産業の経済規模が大きく、規制強化への業界ロビーが強いことも背景にあります。

 

Q. ドイツ・スウェーデンの厳しい動物福祉規制は、食品価格の高騰を招いていないのでしょうか?

 

短期的には生産コストが上がり、食品価格に影響しました。特にスウェーデンでは1988年の改正後、豚肉・鶏肉価格が一時上昇しました。ただし、長期的には「アニマルウェルフェア認証」製品が付加価値として市場に定着し、消費者の支持を得ています。また、抗生物質使用量の減少による公衆衛生コストの削減という副次効果も報告されています。

 

Q. 日本ではペットショップの生体販売はなぜ禁止されないのでしょうか?

 

ペット業界は年間4,000億円以上の規模を持ち、規制強化には強い業界抵抗があります。英国では2020年に「ルーシー法」でペットショップでの犬・猫の販売を禁止しました。日本でも地方議会レベルの動きはありますが、国としての方針策定はこれからです。

 

Q. 個人が今すぐできる動物福祉への貢献はありますか?

 

はい、あります。アニマルウェルフェア認証製品を選ぶ、ペットを購入する際は保護施設からの譲渡を検討する、動物福祉NGOへの寄付や署名活動への参加——これらすべてが市場と政治へのシグナルになります。「消費者の声」が制度変更を促した事例は欧州でも多く存在します。

 

日本が動物福祉を改善するために必要な5つのステップ

 

問題を嘆くだけでは前に進みません。ドイツ・スウェーデンの成功例を参考に、日本が取るべき具体的な改善ステップ を提案します。

 

STEP 1:動物の法的地位の見直し(民法改正)

フランスは2015年に民法を改正し、動物を「感情を持つ生き物(être vivant doué de sensibilité)」として定義しました。日本も民法の動物解釈を変えることで、虐待に対する損害賠償の範囲を広げられます。

 

STEP 2:畜産動物の動物福祉基準の法制化

農林水産省が策定した「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(2023年改訂)は重要な一歩ですが、あくまで任意です。EU型のように法的拘束力を持たせる必要があります。

 

STEP 3:ペット産業の構造改革

ブリーダーの許可制強化・頭数制限・定期検査の義務化。ペットショップでの8週齢以下の販売禁止(2021年改正で実施済み)をさらに進め、生体展示規制へ。

 

STEP 4:専門的な動物福祉監視官制度の創設

スウェーデンのDjurskyddsinspektörを参考に、自治体レベルで動物福祉の専任監視官を置く制度設計が必要です。現在は獣医師不足・人員不足から、摘発・指導が追いついていません。

 

STEP 5:消費者教育と認証制度の普及

欧州では「フリーレンジ(放し飼い)」「ケージフリー」認証が食品市場で浸透しています。日本でも消費者庁・農林水産省が連携した「アニマルウェルフェア認証マーク」の全国統一・普及が急務です。

 

環境省の動き: 環境省は「動物愛護管理基本指針」(第4次)を2024年度に改訂。TNR活動の活用推進、飼い主のいない猫対策の強化が明記されました。地域猫活動への行政支援が東京都・横浜市・神戸市などで拡大しています。

 

先進的な動物福祉政策のメリット・デメリット

 

欧州型の動物福祉政策を日本に導入した場合、どのようなメリット・デメリットが考えられるでしょうか。

 

メリット

  • 動物の苦痛軽減・生活の質(QOL)の向上
  • 抗生物質乱用の削減による薬剤耐性菌リスクの低下
  • 「アニマルウェルフェア」製品の輸出競争力強化(EUの輸入規制に対応)
  • 殺処分ゼロに向けた里親制度の充実
  • 社会全体のコンパッション(共感性)の向上
  • 動物福祉産業・エコノミーの創出(新市場)

デメリット・課題

  • 短期的な食品・畜産コストの上昇
  • 業界転換に伴う一部農家・事業者への経済的打撃
  • 行政・監視体制の整備に必要なコスト
  • 規制強化による輸入食品との価格競争の悪化
  • 法改正には政治的合意形成に時間がかかる

デメリットの多くは「移行コスト」であり、長期的には解消または相殺されることが、ドイツ・スウェーデンの事例で示されています。重要なのは、段階的な移行支援政策を組み合わせることです。

 

実体験から考える 動物福祉の「温度差」

 

ドイツ・ベルリンに住んでいた知人(30代・研究者)から、こんなエピソードを聞いたことがあります。

あるスーパーマーケットで卵を買おうとしたところ、店員さんから「どのランクの卵にしますか?」と声をかけられたそうです。ドイツの卵のパッケージには必ず「0番(有機・放し飼い)」「1番(放し飼い)」「2番(平飼い)」という飼育環境の表示があります。

 

「最も安い卵を手に取ったら、店員さんに『動物の環境を考えると0番か1番がおすすめですよ』と自然に言われた。押しつけではなく、本当にさりげなく」

 

日本のスーパーで、卵の飼育環境についてそんな会話が日常的に起きるでしょうか。この「さりげない日常」の積み重ねが、制度と文化の両輪で動物福祉を支えているのだと感じさせます。

 

スウェーデンでは学校教育のカリキュラムに「動物福祉」が盛り込まれており、子どもの頃から動物の感受性や権利について学びます。一方、日本では動物福祉について学ぶ機会は学校教育でほぼゼロ。こうした 「教育のギャップ」 が長期的な意識の差につながっています。

 

動物福祉政策の差は、制度の問題だけでなく、教育・文化・社会規範のレイヤーを重ねた複合的なものなのです。

 

注意点:「欧州モデル」をそのまま日本に当てはめてはいけない理由

 

ここまでドイツ・スウェーデンの優れた動物福祉政策を紹介してきましたが、「すべてをそのまま日本に移植すればよい」という話ではありません。

 

農業・畜産の構造的な違い

日本の農家は平均経営規模が欧州に比べて小さく、大規模転換の負担が大きいです。段階的な移行支援が必要です。

 

文化・食習慣への配慮

鯨やイルカ漁など、日本固有の文化・伝統的な慣行については、動物福祉との折り合いを国内で丁寧に議論すべき問題であり、外圧だけで解決できる話ではありません。

 

「動物福祉」の名のもとでの過剰規制リスク

欧州でも、動物福祉規制が中小農家の廃業を引き起こしたという批判があります。規制設計にはバランスが求められます。

 

野良猫問題:TNRの限界と地域差

TNR活動は有効ですが、都市部・農村部・島嶼部では効果や課題が異なります。「欧州ではこうだから」という一般化は、日本の多様な地域事情を無視することになりかねません。

 

大切な視点: 動物福祉の改善は「欧州に追いつく」ことが目的ではなく、「日本の文化・社会に根ざした最良の形を探ること」 が目的です。ドイツ・スウェーデンの事例はあくまで参考であり、批判的に吸収することが重要です。

 

今後の社会的視点|動物福祉は「コスト」ではなく「投資」になる

 

動物福祉を強化することは、単なる「動物への優しさ」ではなく、社会・経済・公衆衛生に対する 長期投資 です。

 

EUの貿易規制と日本農業への影響

 

EUは2030年代にかけて、輸入食品にも動物福祉基準を求める規制の議論を始めています。実現すれば、日本の農産物・畜産物の輸出に重大な影響を及ぼします。動物福祉への投資は、将来の市場アクセスを守るための経営戦略でもあるのです。

 

ワンヘルス(One Health)の観点

 

WHO・FAO・OIEが推進する「ワンヘルス」の概念——人間・動物・環境の健康は不可分であるという考え方——から見ても、動物福祉の向上は公衆衛生上のリスク低下につながります。密集した不衛生な飼育環境は、新型コロナウイルスを含むズーノーシス(人畜共通感染症)の発生源になりやすいことが、パンデミック以降に改めて注目されました。

 

Z世代・ミレニアル世代の価値観シフト

 

日本でも、Z世代を中心に動物福祉への関心が急速に高まっています。エシカル消費(倫理的消費)のトレンドの中で、「アニマルウェルフェアに配慮した食品・製品」を選ぶ消費者は増加中です。これは企業・ブランドにとって無視できない市場変化です。

 

まとめ|動物福祉の差は「意識の差」であり「選択の差」である

 

この記事で分かったこと

  • ドイツは2002年に憲法で動物保護を明記し、法的・制度的に世界最高水準の動物福祉を実現している
  • スウェーデンは1988年という世界に先駆けた時期にバタリーケージを禁止し、農業と動物福祉の両立を30年以上かけて実証してきた
  • 日本は殺処分数の減少など一定の前進はあるが、民法上の動物の地位・畜産動物の保護・ペット産業の規制など、根本的な制度差が大きく残っている
  • 動物福祉の強化はコストではなく、公衆衛生・輸出競争力・消費者信頼という観点からの長期投資である
  • 欧州モデルの「いいとこ取り」ではなく、日本の実情に合わせた段階的・包括的な改革設計が必要

ドイツとスウェーデンの動物福祉政策と日本の差は、一言で言えば 「意識」と「制度」の相互強化のサイクルが回り始めたかどうかの差 です。

 

法律が変われば文化が変わる。文化が変われば消費が変わる。消費が変われば産業が変わる。産業が変われば、また法律が強化される——このサイクルを、両国は40年以上かけて作り上げてきました。

 

日本も、そのサイクルを回し始めることはできます。大きな変革は、ひとつひとつの選択の積み重ねから始まります。


あなたにできる最初の一歩: まずは食品を選ぶ際に「アニマルウェルフェア」の表示を意識してみてください。そして、この記事を「動物福祉をもっと知りたい」という誰かに共有してください。知識の共有が、社会変化の最初のエンジンです。


【参考資料】

  • 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(2023年度)
  • World Animal Protection “Animal Protection Index 2023”
  • 農林水産省「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(2023年改訂)
  • ドイツ連邦食料農業省(BMEL)”Animal Welfare Policy Germany”
  • スウェーデン農業庁(Jordbruksverket)”Animal welfare in Sweden”
  • European Commission “Farm to Fork Strategy” (2020)
  • WHO/FAO/OIE “One Health Joint Plan of Action 2022-2026”

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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