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ドイツ「動物保護—犬に関する命令」2001年施行とは?飼育基準の数値化が世界の動物福祉を変えた理由

ドイツ 2001年「動物保護—犬に関する命令」

 

 

この記事でわかること

  • ドイツが2001年に施行した「犬に関する命令(Tierschutz-Hundeverordnung)」の全容
  • 飼育基準の数値化とは何か、なぜそれが画期的なのか
  • 日本の現状との比較と、私たちにできること
  • 動物福祉先進国の取り組みが示す、未来の犬との暮らし方

 

はじめに:「当たり前」が違う国がある

 

「犬を飼う」という行為に、法律で定められた最低限の広さや運動時間があるとしたら——。

そんなことを初めて聞いた方は、少し驚くかもしれません。

 

日本では、犬の飼育に関してケージの大きさや散歩の回数を数値で義務付ける法律は、現時点では存在しません。

しかしドイツでは、2001年にすでに「動物保護—犬に関する命令(Tierschutz-Hundeverordnung)」を施行し、飼育基準を数値化することで、犬の福祉を法律の力で守る仕組みを整えていました。

 

この記事では、ドイツの2001年命令の内容を丁寧に解説しながら、なぜ「基準の数値化」が動物福祉において重要なのか、そして日本の現状と今後の課題について、データと事実をもとに考えていきます。

 

ドイツの事例を知ることは、単なる海外情報の収集ではありません。 日本で犬と暮らすすべての人にとって、「よい飼い主とは何か」を問い直す鏡になるはずです。

 

ドイツ「動物保護—犬に関する命令」とは何か

 

2001年施行の背景と目的

 

ドイツで「動物保護—犬に関する命令(Tierschutz-Hundeverordnung)」が施行されたのは2001年のことです。

この命令は、ドイツ連邦の動物保護法(Tierschutzgesetz)を根拠として制定されました。 ドイツの動物保護法は1972年に制定され、その後複数回にわたって改正されています。 2001年の犬に関する命令は、この法律に基づく具体的な施行規則として位置づけられています。

 

背景には、1990年代にドイツ国内で問題化した闘犬や、劣悪な環境での大量繁殖(いわゆる「パピーミル」問題)に対する社会的な批判がありました。

 

「動物を苦痛から守る」という理念だけでは不十分であり、飼育環境の最低基準を数値として明示することで、初めて行政が実効性ある指導・監督を行えるという考え方が、この命令の根幹にあります。

 

命令が定めた飼育基準の具体的な数値

 

この命令が画期的だった理由は、飼育基準を「数値化」した点にあります。

 

屋外でのつなぎ飼いに関する規定

  • つなぎ飼いの場合、リードの長さは原則として最低6メートル以上
  • 屋外犬舎の面積は、体高の2倍×4倍以上を確保すること
  • 屋根、防風・防水構造、十分な断熱を備えた犬舎を用意すること

社会化・運動に関する規定

  • 成犬は1日最低2回の自由な運動の機会を与えること
  • 犬は社会的な動物であり、孤立した状態での長期飼育を禁ずること

繁殖・訓練に関する規定

  • 繁殖業者は一定の専門知識の証明が義務付けられた
  • 訓練において犬に苦痛や恐怖を与える手法の使用を禁止

これらの数値は、「だいたいこのくらい」という目安ではありません。 法律に基づく最低基準であり、これを下回る飼育は違法となります。

 

現状の問題:日本の飼育基準との比較データ

 

日本における動物福祉の現状

 

日本でも動物の福祉を守るための法律として「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」が存在します。 この法律は1973年に制定され、2019年に大きな改正が行われました。

 

しかし、飼育環境に関する数値基準という観点で見ると、日本とドイツのあいだには大きな差があります。

環境省が公表している「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」には、適切な飼養環境について「動物が自然な姿勢で立ち上がり、方向転換できる広さ」などの記述はありますが、具体的な面積の数値は明示されていません。

 

日本における犬の飼育に関する主なデータ

  • 一般社団法人ペットフード協会の調査(2022年)によると、日本の犬の飼育頭数は約705万頭
  • 動物の虐待・遺棄に関する通報件数は増加傾向にあり、環境省の統計では年間数千件規模
  • 殺処分数は年々減少しているものの、2022年度でも犬・猫合わせて約17,000頭が殺処分されている(環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」より)

これらの数字は、法律の整備だけで問題が解決するわけではないことを示しています。 しかし、飼育基準の数値化が「入口」としての抑止効果を持つことは、ドイツの事例から学べるはずです。

 

「つなぎ飼い」問題に見る基準の不在

 

日本では、犬のつなぎ飼いを明確に禁止する法律は現時点では存在しません。

一方、ドイツでは2001年命令によってつなぎ飼いの条件が厳格に定められており、恒常的なつなぎ飼いは事実上禁止に近い運用となっています。

 

動物福祉の観点からは、長時間のつなぎ飼いは犬に深刻なストレスを与えることがわかっています。 犬はもともと群れで生きる社会的動物であり、孤立と運動不足は行動問題(攻撃性・過剰な吠え・自傷行為など)の原因にもなります。

 

よくある疑問:Q&A形式で解説

 

Q1. ドイツの命令は本当に守られているの?

 

A. 連邦州の獣医官が定期的に監査を行う仕組みがあります。

ドイツでは各連邦州に動物保護を担当する獣医官(Veterinäramt)が配置されており、繁殖業者や大規模飼育施設への定期的な立入検査が制度として機能しています。 市民が疑わしい飼育環境を通報できる窓口も整備されており、行政と市民が連携する形で動物福祉が守られています。

 

日本でも2019年の動物愛護管理法改正で立入検査の権限強化が盛り込まれましたが、専任獣医官の人員や検査頻度において差があることは否定できません。

 

Q2. 飼育基準を数値化することのデメリットはないの?

 

A. 「数値を満たせばよい」という発想が広まるリスクがあります。

数値基準の明示は透明性と執行可能性を高めますが、一方で「最低基準をクリアしていればよい」という考え方が定着するリスクもあります。

 

動物福祉は最低限の数値を満たすことではなく、動物が本来の行動欲求を発揮できる「Five Freedoms(五つの自由)」を保障することが理想です。

数値化はあくまで「出発点」であり、その上に飼い主の意識や文化的な動物観が伴ってこそ、真の動物福祉が実現します。

 

Q3. 日本でも同様の数値基準が導入される可能性はある?

 

A. 議論は進んでいますが、課題も多い状況です。

環境省の中央環境審議会では、OIE(世界動物保健機関)が定めるガイドラインなどの国際基準を参照しながら、飼育環境の基準強化に向けた議論が継続されています。 一部の自治体では独自の条例で飼育環境に関するガイドラインを設けているケースもあります。

EU(欧州連合)は動物福祉の基準を国際貿易条件と結びつける方向性を打ち出しており、日本もこの流れに無縁ではいられません。

 

実践パート:ドイツ基準から学ぶ、今日からできる飼育環境の見直し

 

ステップ1:生活スペースの見直し

 

犬が自由に動ける空間を確保することは、健康・精神衛生の両面から不可欠です。

 

目安として意識したい点

  • クレートやケージは「犬が立ち上がり、方向転換できるサイズ」を最低条件に
  • 長時間のケージ閉じ込めは避け、自由に動ける時間を確保する
  • 屋外飼育の場合は、風雨・直射日光を避けられる犬舎を設置する

ドイツの基準では体高の2倍×4倍以上の犬舎面積が求められています。 たとえば体高40cmの中型犬であれば、最低でも0.8m×1.6m=1.28㎡の犬舎が必要です。 この数値を「一つの参考指標」として活用することができます。

 

ステップ2:運動・社会化の習慣化

 

犬の動物福祉において、運動と社会化は飼育空間と並ぶ重要な柱です。

 

実践できること

  • 1日2回以上の散歩を習慣に(ドイツ命令も「1日最低2回の自由な運動」を義務付けている)
  • 散歩は「トイレのためだけ」にしない——においを嗅がせる、探索させるなど犬の本能的行動を満たす
  • ドッグランや他の犬との交流機会をできる範囲で設ける

 

ステップ3:繁殖・購入する際の見極め

 

ドイツでは繁殖業者への知識証明義務が課されています。 日本でも、購入・譲渡を検討する際に以下を確認することが、動物福祉の観点から重要です。

 

確認すべきポイント

  • 繁殖場・保護施設の飼育環境を実際に見ることができるか
  • 親犬の健康状態や飼育状況を開示しているか
  • 生後56日(約8週間)を過ぎた子犬かどうか(日本の法律でも56日規制が適用されている)

 

メリット・デメリット:飼育基準数値化の両面を見る

 

数値化のメリット

 

1. 行政による実効的な監督が可能になる

数値がなければ「適切な飼育」の判断は担当者の主観に依存します。 客観的な数値があることで、違反の認定と行政指導が迅速かつ公平に行えます。

 

2. 飼い主への明確なガイドラインになる

「何が最低限必要か」を知ることは、飼い主の安心にもつながります。 特に初めて犬を飼う方にとって、数値化された基準は非常にわかりやすい指針です。

 

3. 動物への配慮が「文化」になる

法律として明文化されることで、社会全体として「これが最低限のマナーだ」という共通認識が育ちます。 ドイツで動物福祉の考え方が国民文化として定着している背景に、法律の存在があることは間違いありません。

 

数値化のデメリット・注意点

 

1. 最低基準が「理想」として誤解されるリスク

数値をクリアすることが目的化し、「法律上問題ない=動物に優しい」と混同されることがあります。 数値はあくまでフロア(底の基準)であり、天井ではありません。

 

2. 状況の多様性に対応しにくい

犬の品種、年齢、健康状態によって必要な環境は異なります。 一律の数値では対応しきれないケースも生じます。

 

3. 執行体制が整っていないと機能しない

法律をつくることと、それを運用することは別の問題です。 日本でも、動物虐待の通報があっても対応が遅れるケースが報告されており、制度と執行体制の両輪が必要です。

 

エピソード:「基準があることで救われた犬たち」

 

ドイツ在住経験を持つある動物福祉支援者の話をご紹介します(プライバシー保護のため仮名・一部改変)。


Aさんがドイツに渡ったのは2010年代のこと。 ある日、近所の家で犬が長時間にわたって吠え続けているのを耳にしました。

「日本だったら、私はきっと我慢していたと思います」とAさんは言います。

ドイツでは近隣住民が動物福祉の問題を所管の獣医局(Veterinäramt)に通報する仕組みが整っており、Aさんも勧められるままに連絡しました。

 

数日後、担当の獣医官が訪問し、飼育環境が2001年命令の基準を下回っていることが確認されました。 飼い主には改善命令が出され、犬の飼育環境は数週間のうちに改善されたといいます。

 

「数値があることで、『これは基準以下だ』という判断が誰にでもできる。感情論ではなく、事実として問題を指摘できるんです」とAさんは振り返ります。


このエピソードが示すのは、飼育基準の数値化が「通報する側」にも「行政の判断」にも客観的な根拠を与えるという実際的な効果です。 動物福祉は個人の善意だけに頼るのではなく、制度という仕組みが支えてこそ持続可能なものになります。


 

注意点:ドイツの制度を「そのまま輸入」することの限界

 

ドイツの制度は優れていますが、日本にそのまま適用することには慎重であるべきです。

 

文化的・社会的背景の違いを理解する

ドイツでは動物保護が憲法(基本法)に明記されており(2002年改正により第20a条に「動物の保護」が国家目標として追加)、動物を権利を持つ存在として扱う文化的土台があります。 日本においても動物愛護の気運は高まっていますが、制度設計にはその地域の文化・慣習・社会資源を考慮する必要があります。

 

執行体制の整備が前提

法律の数値化は執行体制なしには機能しません。 日本では動物行政を担う人員が各自治体で大きく異なり、専任の獣医官を置く自治体は限られています。 基準の数値化と並行して、執行体制の強化が不可欠です。

 

ペット産業との利害調整

日本のペット産業は年間5,000億円規模とも言われる大きなマーケットです。 飼育基準の強化はペットショップやブリーダーの営業に影響を与えるため、経済的利害との調整が政策上の課題になります。 ただし、この「難しさ」が議論を止める理由にはなりません。

 

今後の社会的視点:動物福祉の国際的潮流と日本の立ち位置

 

EUが示す方向性:動物福祉と経済のリンク

 

EUは動物福祉に関する新たな基準フレームワークの策定に向けた動きを加速させています。 特に注目すべきは、動物福祉基準を国際貿易条件に組み込む動向です。

 

EU向けに輸出する農畜産物や動物関連商品について、EU基準に準拠した動物福祉が求められる可能性が高まっており、これは日本の農業・畜産業・ペット産業にとっても無関係ではありません。

 

OIE(WOAH)が定めるガイドライン

 

OIE(現WOAH:世界動物保健機関)は、動物福祉に関する国際基準として「動物福祉のためのガイドライン」を策定しており、コンパニオンアニマル(伴侶動物)の飼育に関する項目も含まれています。

 

日本はWOAHの加盟国であり、この国際基準を参照することは日本の動物福祉政策の方向性を考えるうえで重要な指針となります。

 

ドイツ憲法への動物保護明記が示す意味

 

2002年、ドイツは基本法(憲法に相当)の第20a条を改正し、「動物の保護」を国家目標として明記しました。

これは単なるシンボルではありません。 憲法に動物保護を明記することで、すべての法律の制定・改正・解釈において動物福祉が常に考慮されるべき価値として位置づけられます。 2001年の「動物保護—犬に関する命令」は、このような価値観の積み重ねの上に生まれた制度です。

 

日本でも、動物が「もの」ではなく「感情を持つ生命」として法的に扱われる方向性を、社会全体で考える時期に来ているのかもしれません。

 

日本の動物愛護管理法の改正の流れ

 

日本では2019年の動物愛護管理法改正によって以下の強化が図られました。

  • 動物虐待の罰則強化(懲役5年以下・罰金500万円以下)
  • マイクロチップ装着の義務化(ブリーダー・ペットショップ対象)
  • 8週齢規制(生後56日以内の販売禁止)の完全施行

これらは評価できる前進ですが、飼育環境の具体的な数値基準については次回以降の改正課題として残されています。

動物福祉先進国との差を埋めるためには、「五つの自由(Five Freedoms)」を基礎に置いた飼育基準の数値化が、次の重要なステップになるでしょう。

 

まとめ:「数値」が動物と人間の関係を変える

 

ドイツが2001年に施行した「動物保護—犬に関する命令(Tierschutz-Hundeverordnung)」は、飼育基準の数値化という手法で、犬の福祉を感情論ではなく法的事実として保護する仕組みをつくりました。

この記事を通じて見えてきたことを振り返ります。

  • ドイツの2001年命令は動物保護法を根拠とし、犬舎面積・運動機会・繁殖基準などを具体的な数値で規定した
  • 数値化により行政の実効的な監督が可能になり、市民の通報と行政の改善命令という仕組みが機能した
  • 日本では同様の飼育基準の数値化は現時点では未整備であり、執行体制を含めた課題が残る
  • ドイツ制度の直接輸入より、日本の文化・社会資源に合った形での制度設計が重要
  • EUやWOAHの国際的な動向が日本の動物福祉政策にも影響を与えつつある

犬は「もの」ではなく、感情を持ち、苦痛を感じる存在です。 その事実は、日本でもドイツでも変わりません。

動物福祉の未来は、制度と文化の両方が変わることで開けていきます。 そしてその変化は、私たち一人ひとりが「基準を知り、問い、行動すること」から始まります。


今日からできることは一つ——まずは自分の犬の飼育環境をドイツの基準と照らし合わせ、見直してみてください。そしてこの記事を、同じように犬を愛する誰かにシェアしてください。社会は、一人ひとりの意識が変わることで動きます。


参考情報

  • ドイツ連邦動物保護法(Tierschutzgesetz)
  • Tierschutz-Hundeverordnung(2001年施行)
  • 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律」
  • 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和4年度)」
  • 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査(2022年)」
  • WOAH(旧OIE)動物福祉ガイドライン
  • EU動物福祉フレームワーク関連文書

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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