オランダが「殺処分事実上ゼロ」を達成した理由|厳格な登録制度と繁殖税が変えた動物福祉の未来
この記事でわかること
- オランダが殺処分ゼロを達成した具体的な仕組み
- 犬税・繁殖税・登録制度の詳細
- 日本との比較データ(環境省統計あり)
- 日本が取り入れられるヒント
はじめに|「どうして日本では殺処分がなくならないのか」と思ったことはありますか?
「オランダでは殺処分がゼロだと聞いた。でも、なぜ?どうやって?」
そう感じてこの記事にたどり着いた方は、きっと動物の命について真剣に向き合っている人だと思います。
環境省の統計によると、日本では令和5年度(2023年度)に犬2,118頭、猫6,899頭の合計9,017頭が殺処分されています。これは過去最少の記録ではありますが、それでも1日あたり約25頭の命が奪われている計算です。
一方で、オランダでは全国約173か所の動物保護施設において殺処分はゼロ。これは「理想」ではなく、現実に達成されていることです。
この記事では、オランダが「殺処分事実上ゼロ」を実現できた背景にある厳格な登録制度と高額な繁殖税(犬税)の仕組みを徹底解説します。感情論ではなく、制度・データ・実態を軸に、日本との違いをわかりやすく伝えていきます。
オランダの殺処分ゼロとはどういう状態か|現状と数字で見る動物福祉
日本の現実:今も毎日命が奪われている
まず、日本の現状を把握しておきましょう。
環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和5年度)」より
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 引取り数(犬猫計) | 約44,576頭 |
| 殺処分数(犬) | 2,118頭 |
| 殺処分数(猫) | 6,899頭 |
| 殺処分数(合計) | 9,017頭 |
2004年には犬猫合計で約40万頭が殺処分されていたことを考えると、20年間で劇的に減少したことは確かです。しかし、それでもなお1日25頭という現実があります。
オランダの現実:保護施設は「命をつなぐ場所」
オランダには約173か所の保護施設があり、殺処分は一切行われていません。大小さまざまな動物保護団体がありますが、互いに連携をとっているため、保護施設に収容されている譲渡可能な動物たちの情報をすべて1つのウェブサイトで見ることが可能になっています。
「新しい飼い主が見つからなかったから処分する」という発想が、そもそも存在しません。
オランダの動物保護施設は政府から飼育援助金が支給されるシステムになっており、1頭につき2週間分で、1日あたりに換算すると2,000〜3,000円程度となっています。その後は民間の寄付やボランティアによって運営が維持されています。
なぜオランダは殺処分ゼロを達成できたのか|3つの制度的柱
第1の柱:高額な犬税(繁殖税)による抑止効果
オランダでは、犬を飼育するすべての飼い主に対して「犬税(Hondenbelasting)」が課せられます。
頭数が増えれば、その分たくさんの税金を支払うことになるため、安易に繁殖させてしまうことへの抑止力にも効果があると言われています。
これにより次の3つの効果が生まれます。
- 安易に複数頭飼育することへの経済的ハードル
- 無責任な繁殖への抑止力
- 「とりあえず飼ってみる」という衝動的な飼育の防止
ドイツでも同様の犬税(Hundesteuer)があり、ベルリン市では1頭目で年120ユーロ、2頭目以降は180ユーロという例があります。犬税の収入は行政の一般財源に組み込まれますが、一部は公園の清掃や動物施設への支援にも充てられ、犬の飼育数を適正に保つ抑制策としての役割も果たしています。
重要なのは「税収が目的ではない」という点です。 累進課税による飼育頭数の適正化、そして繁殖の抑制こそが主目的です。
第2の柱:ペットショップでの生体販売がない
オランダには、日本のような犬を購入できるペットショップはありません。自宅に犬を迎えたい場合には、ブリーダーに直接連絡をするか、保護施設から引き取るかという選択肢になります。
この仕組みは非常に重要です。衝動買いが起きにくく、「飼う」という行為そのものが慎重な選択として位置づけられています。
また、認定ブリーダーは繁殖に関する厳格な基準をクリアする必要があり、乱繁殖業者(日本でいうパピーミルのような存在)が参入できない構造になっています。
さらに2020年には、オランダで鼻が低すぎる犬種(短頭種)の繁殖を禁止する法律も施行されました。動物福祉を動物の見た目よりも優先するという、国としての姿勢が反映された法整備です。
第3の柱:厳格な飼い主審査と抜き打ち訪問
保護施設から動物を引き取る場合にも、引き取りを希望する家族構成や住宅環境、飼育環境などを厳しく審査しています。そして施設の職員が、どうして動物を飼いたいのかなど、飼い主希望者の意思を細かく確認します。そして保護施設が引き取りを了承すれば、引き取るための料金を支払います。引き取った後も、保護施設から生育環境についての検査が抜き打ちで行われます。
これは日本の文化では「厳しすぎる」と感じる人もいるかもしれません。しかし、オランダでは「命を預かる以上、確認するのは当然」という社会的コンセンサスが形成されています。
よくある疑問とその回答|Q&A形式で解説
Q1. 犬税って、ただ高いだけじゃないの?
A. 「税」の目的は”命を守ること”です。
犬税は、飼育頭数を適正に保つための政策的ツールです。1頭目は比較的払いやすい金額ですが、頭数が増えるほど急激に税負担が増します。「増やすなら責任を持て」というメッセージが、金銭的な形で明示されているのです。
また、犬税を払っている飼い主は行政に登録されているため、迷子になった際も速やかに飼い主のもとへ返還できます。登録制度と税制が一体になって機能しているわけです。
Q2. 保護施設の運営費はどこから来るの?
A. 政府補助金+民間寄付の二重構造です。
政府からは「1頭あたり2週間分・1日2,000〜3,000円相当」の補助金が出ます。その後は寄付とボランティアで運営されます。「社会全体で命を支える」という国民意識が根付いているからこそ、この仕組みが成り立っています。
Q3. 日本でも同じ制度が導入できるの?
A. 部分的な導入は十分可能です。
実はマイクロチップの義務化(2022年〜)は、オランダの登録制度に近い考え方です。ペットショップでの生体販売規制についても、フランスが2024年から実施しており、日本でも議論が始まっています。「税制」「登録制度」「保護施設の充実」という3つの柱を、日本の実情に合わせて段階的に整備することが現実的な道筋です。
Q4. 「殺処分ゼロ」は本当にゼロなの?
A. 「事実上ゼロ」が正確な表現です。
法律の規定によりシェルター内で健康な動物が殺処分されることは原則ありません。致死的安楽死が行われるのは重病や重度の問題行動など「やむを得ない場合」のみです。
「収容スペースが足りないから」「新しい飼い主が見つからないから」という理由での殺処分は行われていない。これが「殺処分事実上ゼロ」の意味です。
日本とオランダの制度比較|具体的な違いを整理する
| 項目 | 日本 | オランダ |
|---|---|---|
| ペットショップの生体販売 | 可能(規制あり) | 事実上なし |
| 犬税・繁殖税 | なし | あり(累進課税) |
| 飼い主登録制度 | マイクロチップ義務化(2022〜) | 厳格な登録制度あり |
| 保護施設の殺処分 | あり(年間9,017頭) | 事実上ゼロ |
| 引き取り審査 | 比較的簡易 | 非常に厳格 |
| 抜き打ち訪問 | なし | あり |
| 政府補助金(保護施設) | 限定的 | 1頭あたり基準額あり |
この比較を見ると、「制度の有無」以上に「社会の前提」が大きく違うことがわかります。
オランダでは「ペットは衝動で飼うものではない」「命を迎える以上、社会に対しても責任がある」という意識が、税制・法律・文化の三位一体で社会に組み込まれています。
エピソード|オランダの保護施設を訪れたある日本人の話
あるライターが、オランダ・アムステルダム郊外の動物保護施設を取材した際の話です。
施設に入ると、犬たちは清潔なケージでくつろいでいた。スタッフは1頭1頭の性格や健康状態を把握しており、「この子はシニアの方と相性がいい」「この子は子どもと暮らすのが得意」といった情報をすらすら話してくれた。
里親希望者が訪れると、まず「どんな生活をしているか」「1日何時間動物と一緒にいられるか」を丁寧に聞かれる。審査には数週間かかることもあるという。
「断られることはありますか?」と聞くと、スタッフはこう答えた。
「もちろんです。その人の生活スタイルに合わない場合は、正直に伝えます。でも、断ることは犬を守るためでもあるし、その人が後悔しないためでもある」
施設を出た後、ふと思った。「この丁寧さが、殺処分ゼロを支えているのだ」と。
日本の動物愛護センターが命を救おうと必死に努力しているのも事実です。しかし制度の壁、人員不足、社会的認識の差。多くのハードルがある中で、現場の職員たちが奮闘している現実も同時に存在します。
オランダ式制度のメリットとデメリット
メリット
- 殺処分が事実上なくなる:収容数の多さを理由に命を奪う構造がなくなる
- 飼い主の責任意識が高まる:税を払うことで「自分はこの命に責任を持っている」という感覚が生まれる
- 乱繁殖の抑制:経済的・法的ハードルが無責任な繁殖を防ぐ
- 迷子動物の返還率向上:登録制度により、迷子になってもすぐに飼い主のもとへ
- 保護施設の質が上がる:命を「処分」ではなく「保護」する施設として機能する
デメリット・課題
- 制度導入にはコストと時間がかかる:犬税の導入には行政インフラの整備が必要
- 国民の意識改革が前提となる:制度だけ作っても、文化が変わらなければ効果は限定的
- ブリーダー業界への影響:厳格化により、合法ブリーダーへの負担増加も考えられる
- 「すべてゼロ」は現実的ではない面もある:重篤な病気・攻撃性のある個体への安楽死は残る
重要なのは、デメリットを理由に「だから無理」と思考停止するのではなく、「どのように日本の実情に合わせるか」を考えることです。
注意点|「オランダを理想化しすぎる」ことへの警告
オランダの制度を紹介する際、一点だけ強調しておきたいことがあります。「殺処分ゼロ=完璧な動物福祉」ではないという点です。
- 野良猫問題はオランダでも課題が残る(TNR活動で対応中)
- 保護施設によって環境の差がある
- 犬税への反対意見も国内に存在する
また、日本でも「独自基準」で殺処分ゼロを宣言している自治体が存在します。国の分類と異なる定義で集計している自治体があり、定義と分類の違いが、数字の背景に存在していることは認識しておく必要があります。
「数字だけ見て判断するのではなく、制度の中身・動物の実際の生活の質を問い続けること」が、本当の動物福祉につながります。
今後の社会的視点|日本の動物福祉はどこへ向かうか
法整備の進展
2022年6月、改正動物愛護管理法によりブリーダー・ペットショップのマイクロチップ装着が義務化されました。これはオランダの「登録制度」に近い一歩です。
農林水産省の調査によれば、動物福祉の伝統を有していたのはドイツとオランダが原加盟国の中でも特に先進的であり、EU全体の動物福祉政策の方向性に大きな影響を与えてきました。
フランスでは2024年からペットショップでの生体販売が全面禁止されました。EU全体でも動物福祉に関する基準が年々厳格化されており、日本も国際的な流れから無縁ではいられません。
社会意識の変化
近年、「保護犬・保護猫」という言葉がSNSを中心に急速に広まっています。これは殺処分問題が「社会全体の問題」として認識されつつある兆候です。
官民一体の協調的な運動にまとまっていくことが必要不可欠であり、行政や経済界も命に関わる問題については、国際感覚を持ち、経済性優先の感覚から脱却していく必要があります。
オランダが数十年かけて築いた動物福祉の文化は、ある日突然変わったわけではありません。法律→意識→文化という順番で、社会全体が少しずつ変わってきた結果です。日本もその道を歩み始めています。
まとめ|オランダから日本が学べることとは
オランダが「殺処分事実上ゼロ」を達成したのは、一朝一夕の結果ではありません。
- 累進的な犬税・繁殖税による飼育頭数と繁殖の抑制
- ペットショップでの生体販売がなく、保護施設やブリーダーからのみ迎える文化
- 引き取り時の厳格な審査と引き取り後の抜き打ち訪問
- 政府補助金と民間寄付による保護施設の充実
これらが組み合わさることで、「命を軽視しない社会」が形成されました。
日本でもマイクロチップ義務化という一歩が踏み出されました。しかし、年間9,017頭という数字はまだ現実として残っています。
大切なのは、「オランダは特別な国だから」と切り捨てるのではなく、「どうすれば日本でも実現できるか」を考え続けることです。
制度は人間がつくるものです。社会意識も、一人ひとりが変えていくものです。
あなたが今日できることから始めてみてください。 保護施設への寄付・里親募集情報のシェア・マイクロチップの装着・不妊去勢手術の検討。どんな小さな行動も、殺処分ゼロへの一歩になります。
参考資料
- 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(令和5年度)」
- 農林水産省「EUにおける動物福祉(アニマルウェルフェア)政策の概要(平成25年度)」
- 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva「犬猫の引取り数と殺処分数」
- 動物愛護管理法(令和元年・令和4年改正)
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