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スイスのブリーダーが実践する「予約注文出産」とは?日本の動物福祉が変わる未来を考える

スイスのブリーダー 予約出産

 

 

はじめに――「生まれる命」に責任を持てるか?

 

あなたは、ペットショップのショーケースの中で、小さな子犬や子猫が孤独そうに座っている光景を見たことがあるでしょうか。

かわいい。でも、どこか切ない。

その子がそこにいる理由は、「売れるかもしれないから、とりあえず生ませた」という構造から来ていることが少なくありません。

 

一方、遠くヨーロッパのスイスでは、まったく異なる考え方が根づいています。

「先に買い手が決まってから、はじめて出産してもらう」

これが、スイスの多くのブリーダーが採用している「予約注文出産(Reservation-based breeding)」システムです。

命を”在庫”として扱わない。売れ残りをつくらない。そのシンプルな哲学が、動物福祉先進国スイスの文化を根底から支えています。

 

この記事では、スイスのブリーダーシステムの仕組みと背景、日本の現状との比較、そして日本にこのシステムが導入される可能性について、データと具体例をもとに徹底的に解説します。

 

「動物福祉」「ブリーダー 予約出産」「スイス ペット 動物愛護」などで検索してこの記事にたどり着いた方に、読み終えたとき「知ってよかった」と思っていただける内容をお届けします。

 

現状の問題――日本のブリーダー・ペット流通の実態

 

日本では年間何万頭が”生まれすぎている”のか

 

環境省の統計によると、2022年度に全国の動物愛護センターや保護施設に収容された犬・猫の合計は約8万頭以上にのぼります(環境省「動物愛護管理行政事務提要」2022年度版)。

 

そのうち、引き取り手が見つからず殺処分された頭数は、犬・猫あわせて約1万4,000頭以上(同資料)。

近年は数字が改善傾向にあるとはいえ、これは「社会的に需要のない命が、毎年大量に生産されている」という現実を示しています。

 

その一因として指摘されるのが、需要を無視した過剰繁殖です。

 

ペット産業の構造的問題

 

日本のペット流通は、主に次のような流れで成り立っています。

  • ブリーダーが繁殖 → ペットオークション(市場)へ出品 → ペットショップが仕入れ → 消費者へ販売

この流れの中で、「売れ残り」は珍しくありません。

売れ残った子犬・子猫は、値引きされ、さらに売れなければブリーダーに返却されたり、劣悪な繁殖施設(いわゆる「パピーミル」)へ渡ることもあります。

 

日本獣医師会の報告によれば、全国には約3,000軒以上の届出ブリーダーが存在しますが、劣悪な環境での繁殖が社会問題化したことで、2022年には動物愛護管理法が改正。ブリーダーへの規制が強化されました。

しかし根本的な「需要と供給のミスマッチ」は、法改正だけでは解決しきれていないのが現状です。

 

スイスの「予約注文出産」システムとは何か

 

スイスが世界トップレベルの動物福祉国家である理由

 

スイスは、2022年の「動物保護指数(Animal Protection Index)」でも上位にランクインする動物福祉先進国です。

その背景には、1978年に制定され、その後も繰り返し改正されてきた連邦動物保護法(Tierschutzgesetz / TSchG)の存在があります。

 

同法は単に「虐待禁止」を定めるにとどまらず、動物の「尊厳(Würde)」という概念を法律に明記した世界でも類を見ない法体系です。動物には、痛みや苦しみを感じない権利だけでなく、「その種らしく生きる権利」があると定めています。

 

予約注文出産の仕組み

 

スイスの責任あるブリーダー(主にSKG=スイスケンネルクラブ認定ブリーダー)の多くが採用しているのが、以下のシステムです。

 

【予約注文出産の基本フロー】

  1. 購入希望者がブリーダーに問い合わせる → 犬種・性格・生活環境などをヒアリング
  2. ブリーダーが購入希望者を審査する → 飼育環境・ライフスタイル・経済力などを確認
  3. 双方が合意した場合のみ、繁殖スケジュールに入る → 予約金を支払い、出産を予約
  4. 交配・妊娠・出産が行われる → 生まれた子の中から、最適な一頭を購入者に届ける
  5. 購入者は生後8週間以上経過後に引き取る → 社会化が十分に進んだ状態での譲渡

 

このシステムの最大の特徴は、「引き渡し先が決まっていない子犬・子猫は生まれない」という原則にあります。

需要の見えないところで命を生産しない。これが動物福祉の観点から見たとき、いかに合理的かつ倫理的であるかは、改めて説明するまでもないでしょう。

 

なぜスイスでこれが機能するのか

 

スイスでこのシステムが成立している背景には、いくつかの社会的条件があります。

  • ペットショップでの犬・猫の販売が厳しく制限されている(一部地域では実質禁止)
  • ブリーダーへの認定・登録制度が厳格
  • 消費者の動物福祉リテラシーが高く、”待てる文化”が根づいている
  • 衝動買いを防ぐ社会的コンセンサス

特に注目すべきは「消費者の意識」です。スイスでは、犬を迎えるまでに6ヶ月〜1年以上待つことが当たり前とされており、その待ち時間もブリーダーとの信頼関係を構築する期間として位置づけられています。

 

よくある疑問に答えるQ&A

 

Q1. 予約してから何ヶ月待つの?

 

A. ブリーダーや犬種によって異なりますが、一般的には3ヶ月〜1年程度待つことが多いです。人気犬種や希少犬種では1年以上かかることもあります。これは「欠品中」ではなく、「あなたのために生まれてくる命を待っている」という時間です。

 

Q2. キャンセルしたらどうなる?

 

A. 多くのブリーダーは予約金(デポジット)制を採用しており、キャンセルの場合は一定額が没収されます。それ以上に重要なのは、「生まれてきた命の行き先を責任を持って考える」という文化的前提があることです。

 

Q3. 日本でも同じことができる?

 

A. 現在でも一部の真剣なブリーダーは予約制を導入しています。ただし、後述するように法整備・文化・流通構造の面でまだ多くの障壁があります。

 

Q4. ペットショップで買うより高くなる?

 

A. 初期費用は同等か場合によっては高くなることもありますが、健康管理が徹底されているためトータルの医療費が抑えられることが多く、長期的なコストは下がるという報告もあります。

 

日本でこのシステムを実現するには――具体的なステップ

 

現在でも実践できることから始める

 

すべてが法律で決まるわけではありません。消費者・ブリーダー・自治体それぞれが動けば、予約注文出産の文化は少しずつ広がっていきます。

 

【消費者としてできること】

  • ペットショップでの衝動購入をやめ、信頼できるブリーダーを探す
  • 「すぐに手に入る子」より「じっくり迎える子」を選ぶ意識を持つ
  • 保護犬・保護猫の里親制度を検討する
  • ブリーダーに環境や繁殖方針を積極的に質問する

【ブリーダーとしてできること】

  • 出産前に全頭の引き渡し先を確保する運営方針に転換する
  • 予約制・面談制を導入し、飼育適性の確認を徹底する
  • JKCやブリーダー団体のガイドラインに沿った認定取得を目指す

【行政・自治体ができること】

  • ペットショップへの生体展示規制の強化
  • ブリーダー認定制度の透明化・厳格化
  • 動物福祉教育の学校・地域への普及推進

環境省は2022年の動物愛護法改正に伴い、ブリーダー・ペットショップへの飼養管理基準を見直しました。今後は「命の流通」そのものを問い直す方向への政策転換が期待されます。

 

メリットとデメリットを整理する

 

予約注文出産システムのメリット

  • 過剰繁殖・殺処分の削減:需要に見合った繁殖のみを行うため、余剰生産がゼロに近づく
  • 健康な個体が育ちやすい:ブリーダーが一頭一頭に時間をかけられる
  • 飼い主との相性が高まる:事前審査・マッチングにより適切な飼育環境が整う
  • 社会化が十分な状態で引き渡せる:生後8週間以上を確保しやすい
  • ブリーダーの信頼性向上:責任ある繁殖の証明になる

予約注文出産システムのデメリット・課題

  • 消費者の即時欲求に応えられない:「今すぐ欲しい」という文化との摩擦が生じる
  • 収入が不安定になるリスク:予約キャンセルが発生した場合の経営リスク
  • 審査が厳しいと感じる人もいる:飼育適性確認を「拒絶」と受け取るケースも
  • ペットショップ文化との共存が難しい:日本の流通構造との衝突
  • 普及まで時間がかかる:社会全体の意識変革が前提となる

 

実体験エピソード――「待った6ヶ月が、最高の出会いになった」

 

東京都在住の会社員・Aさん(35歳)は、4年前にボーダーコリーを迎えました。

最初はペットショップで「すぐに買える子」を探していましたが、友人から「予約制のブリーダーに相談してみて」と勧められたことで考えが変わりました。

 

「最初は正直、6ヶ月も待つなんて…と思っていました。でもブリーダーさんと何度もメールやビデオ通話でやりとりするうちに、生まれてくる子のことをどんどん考えるようになって。引き渡しのときは、もう家族を迎える感覚でした」

 

Aさんの愛犬は現在4歳。遺伝性疾患の検査もしっかり済んでおり、健康そのもの。「衝動で買っていたら、こんなに深い絆にはなれなかったかもしれない」と語ります。

 

このような体験は、スイスでは”当たり前”のことです。しかし日本ではまだ、こうした丁寧な出会いは少数派にとどまっています。(※本エピソードはプライバシーに配慮した構成です)

 

注意点――「予約制ブリーダー」を名乗る悪質業者に注意

 

予約制を導入しているからといって、すべてのブリーダーが信頼できるわけではありません。

 

【信頼できるブリーダーを見分けるチェックポイント】

  • 第一種動物取扱業の登録証を確認できるか
  • 犬舎・飼育環境を実際に見学できるか(オンライン見学も可)
  • 両親犬の健康状態・遺伝子検査の結果を開示しているか
  • 生後何週間で引き渡すか明確に説明があるか(8週齢規制の遵守)
  • 購入後のアフターサポートがあるか
  • 契約書・保証書を書面で交わせるか

「SNSのDMだけで取引を完結しようとする業者」「見学を断る業者」「過剰に安い価格を提示する業者」は要注意です。

また、環境省が公開している「ペット業者の不正事例」や各自治体のペット業者登録データベースを活用することで、業者の信頼性を事前確認することも可能です。

 

今後の社会的視点――動物福祉は「文化レベル」の問題である

 

世界の潮流と日本のギャップ

 

EU(欧州連合)では、2021年に「動物福祉に関するEU行動計画(EU Animal Welfare Strategy 2023-2027)」を策定。ペット流通の透明化・オンライン販売規制・ブリーダー認証制度の強化が各国で進んでいます。

 

英国では2020年から「ルシーの法律(Lucy’s Law)」が施行され、ペットショップとパピーブローカーを通じた子犬・子猫の販売が全面禁止になりました。

 

ドイツ・オランダ・スウェーデンなども同様の方向性を打ち出しており、「生体展示・即日販売」モデルは欧州では急速に過去のものとなりつつあります。

 

一方、日本は2022年の動物愛護法改正で一定の前進を見せたものの、生体展示販売そのものは依然として合法であり、欧州との差は歴然としています。

 

日本に予約注文出産が根づく条件とは

 

日本でスイス型の予約注文出産システムが普及するためには、法制度だけでなく、以下の条件が整う必要があります。

  • 「命をすぐに手に入れる」文化からの脱却 → 動物を「商品」ではなく「家族になる命」として捉える社会的認識の醸成
  • ブリーダー倫理教育の強化 → 動物取扱業の登録要件にカリキュラム的教育を組み込む
  • 消費者教育・学校教育への組み込み → 命の大切さをペットとの関係で学ぶ機会の創出
  • ペットショップ業界のビジネスモデル転換支援 → 既存産業との衝突を最小化しながら移行を促す政策設計

 

これは一朝一夕に実現するものではありません。しかしスイスも、現在の動物福祉文化に至るまでには数十年の社会的議論と法改正の積み重ねがありました。

 

日本でも、確実に変化の芽は育ちはじめています。保護犬・保護猫の里親制度が認知され、「ペットショップではなくブリーダーや保護団体から迎える」という選択をする人が増えています。SNSを通じて動物福祉の情報が拡散し、若い世代を中心に「命に責任を持つ飼い方」への関心が高まっています。

 

動物福祉は、感情論ではありません。経済合理性・社会保障・公衆衛生とも密接に絡む、非常に現実的な政策課題です。スイスが示すシステムは、その一つの理想形として、日本社会に多くの示唆を与えてくれます。

 

まとめ――命の重さを、制度が守れる社会へ

 

スイスのブリーダーが実践する「予約注文出産」システムは、命を在庫として扱わない、動物福祉の本質を体現した仕組みです。

この記事で見てきたように、

  • 日本では年間数万頭の犬・猫が殺処分されている現実がある
  • その背景には需要を無視した過剰繁殖という構造的問題がある
  • スイスでは法律・文化・消費者意識が三位一体となって「予約出産」を支えている
  • 日本でも消費者・ブリーダー・行政それぞれが動けば変化は起こせる
  • 世界の潮流は明確に「命に責任を持つペット文化」へと向かっている

動物福祉を「かわいそうだから」という感情だけで語るのではなく、「どんな社会を作りたいのか」という視点で考えることが、今日本に求められています。

 

あなたが次に動物を迎えるとき、あるいは誰かに勧めるとき、「待つことのできる選択」を思い出してください。その小さな選択が、命の流通を変える第一歩になります。

 

この記事が参考になった方は、ぜひSNSでシェアして、動物福祉の輪を広げてください。あなたの一投稿が、一頭の命を救うことにつながるかもしれません。


参考資料

  • 環境省「動物愛護管理行政事務提要」令和4年度版
  • スイス連邦動物保護法(Tierschutzgesetz / TSchG)
  • EU Animal Welfare Strategy 2023–2027(欧州委員会)
  • 日本獣医師会「ペット動物をめぐる現状報告」
  • Animal Protection Index 2022(World Animal Protection)

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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