生物多様性国家戦略2023-2030とは?環境省の具体的取り組みをわかりやすく解説

「生物多様性国家戦略2023-2030」という言葉を最近よく耳にするけれど、
具体的に何をしているのか、よくわからない——。
そう感じている方は、決して少なくないはずです。
環境省が策定したこの戦略は、日本の自然と野生動物を守るための国家レベルの行動計画です。
しかし、難しい言葉が並ぶ公式文書を読んでも、
「結局、自分たちの生活に何が関係するの?」と思ってしまうのが正直なところではないでしょうか。
この記事では、生物多様性国家戦略2023-2030の内容をわかりやすく解説し、
環境省の具体的な取り組みや、私たちにできることまでを丁寧にお伝えします。
動物福祉の観点からも掘り下げていますので、
野生動物や自然環境に関心のある方にとって、必読の内容になっています。
生物多様性国家戦略2023-2030とは何か?
策定の背景と国際的な枠組み
生物多様性国家戦略2023-2030は、2023年3月に閣議決定された日本の生物多様性保全に関する国家計画です。
この戦略の根拠となっているのは、2022年12月にカナダ・モントリオールで採択された
「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」です。
GBFでは、2030年までに以下のような目標が掲げられています。
- 「30by30目標」:2030年までに陸域・海域の30%以上を保護区等で保全する
- 生態系の回復:劣化した生態系の30%以上を回復する
- 侵略的外来種の管理:侵略的外来種の導入・定着速度を50%削減する
- 有害な補助金の廃止・転換:生物多様性を損なう補助金を段階的に廃止する
日本はこの国際的な枠組みに基づき、国内での具体的行動を定めたのが
「生物多様性国家戦略2023-2030」です。
戦略の5つのゴールと23のターゲット
生物多様性国家戦略2023-2030では、5つのゴールと23のターゲットが設定されています。
5つのゴール(概要)
| ゴール | 内容 |
|---|---|
| ゴール①(削減) | 生物多様性への直接的な脅威を削減する |
| ゴール②(持続的利用) | 生態系を持続的に利用・管理する |
| ゴール③(利益配分) | 遺伝資源の公正な利益配分を実現する |
| ゴール④(実施手段) | 財政・技術・能力面での実施手段を充実させる |
| ゴール⑤(行動の主流化) | 生物多様性への配慮をあらゆる活動に組み込む |
特に注目すべきは、「ネイチャーポジティブ(自然再興)」という概念です。
ネイチャーポジティブとは、生物多様性の損失を止めるだけでなく、
2030年までに回復軌道に乗せることを意味します。
つまり現状維持ではなく、「改善・回復」を目指すという、非常に野心的な目標です。
日本の生物多様性の現状——深刻なデータを知る
「第6の大量絶滅」が現実に
地球上では現在、「第6の大量絶滅期」が進行中だと言われています。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、
2023年時点で約4万4,000種以上が絶滅危惧種に指定されています。
日本国内でも状況は深刻です。
- 環境省レッドリスト2020によると、日本の絶滅危惧種は3,716種(動植物合計)
- 哺乳類ではイリオモテヤマネコ・アマミノクロウサギなど希少種が存在
- 爬虫類・両生類・昆虫類も多くの種が絶滅リスクにさらされている
4つの危機が重なり合っている
環境省は、日本の生物多様性が直面している問題を「4つの危機」として整理しています。
第1の危機:開発・乱獲による種の減少・絶滅
高度経済成長期以降、森林・湿地・干潟の開発が進み、
多くの野生動物が生息地を失ってきました。
第2の危機:自然に対する働きかけの縮小
農村の過疎化・高齢化により、里山の管理が行き届かなくなっています。
適切な管理がなされてきた二次林や水田が荒廃し、生態系のバランスが崩れています。
第3の危機:外来種・化学物質などによる影響
アライグマ・ヌートリア・ミドリガメなどの外来生物が、
在来種の生態系を脅かしています。
環境省の調査では、国内に定着した外来生物の数は非常に多く、
特定外来生物は2024年時点で156種が指定されています。
第4の危機:地球温暖化による影響
気候変動により、サンゴ礁の白化・高山植物の分布域変化・
渡り鳥の渡り時期のズレなど、生態系への影響が顕在化しています。
数字で見る危機の深刻さ
「過去50年間で、地球上の野生動物の個体数は平均で約69%減少した」
——WWF「生きている地球レポート2022」
これは、私たちが生まれてから生涯が終わるまでの間に、
地球の野生動物の7割近くが失われているかもしれないという、衝撃的な数字です。
よくある疑問に答えるQ&A
Q1. 生物多様性国家戦略2023-2030は、以前の戦略と何が違うの?
A. 大きく3点が異なります。
-
「ネイチャーポジティブ」という新概念の導入
従来の「損失を減らす」から「回復を目指す」へと目標の次元が上がりました。 -
ビジネス・経済との連携を強化
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)など、企業が自然資本を開示する
国際的な動きに対応し、経済界との協働が明確に打ち出されました。 -
市民・地域社会の参画を強調
「生物多様性地域戦略」を策定する自治体への支援強化が盛り込まれ、
地域レベルでの実践が重視されています。
Q2. 30by30目標って、具体的にどういう意味?
A. 2030年までに国土・領海の30%以上を保護区等として保全するという目標です。
日本では2023年時点で、
- 陸域の保護区面積:約20.5%
- 海域の保護区面積:約13.3%
と、いずれも30%には届いていません。
そこで環境省は、既存の国立公園・国定公園に加えて、
企業や自治体が管理する「OECM(その他の効果的な地域をベースとした保護手段)」を
積極的に活用して面積を拡大しようとしています。
Q3. 一般市民にはどう関係するの?
A. 生物多様性国家戦略2023-2030は、日常生活に密接に関わっています。
たとえば——
- 食べ物の選択:認証水産物(MSC・ASC)の購入が、持続可能な漁業を支える
- 庭・ベランダのガーデニング:在来植物を植えることで在来昆虫を呼び込める
- ペット選び:外来種ペットの安易な飼育・放流が生態系を破壊する
- 旅行先の選択:エコツーリズムや自然観察ツアーへの参加が地域保全に貢献する
また、生物多様性の損失は食料安全保障・水資源・防災にも直結しています。
「野生動物の問題は自分には関係ない」と思っていても、
実は私たちの生活そのものが自然の恵み(生態系サービス)に支えられています。
Q4. 動物福祉と生物多様性保全は別物?
A. 密接に関係していますが、アプローチは異なります。
- 動物福祉:個体レベルで動物の苦痛を減らし、福祉を向上させることに注目
- 生物多様性保全:種・生態系レベルで多様性を守ることに注目
ただし、両者は深くつながっています。
たとえば、野生動物の密猟・違法取引の撲滅は、動物福祉の観点からも
生物多様性保全の観点からも重要な課題です。
また、畜産動物の福祉改善が持続可能な農業・土地利用につながり、
生態系への負荷を減らすという関係性もあります。
環境省の具体的な取り組みと5つの基本戦略
① 生態系ネットワークの強化(グリーンインフラ)
環境省は、都市・農村・海域を貫く「生態系ネットワーク」の構築を推進しています。
具体的には、
- 国立公園のゾーニング見直しと保護強化
- 河川・湿地の自然再生事業(ビオトープ整備など)
- 里山・里海の保全活動への補助金制度
また、国土交通省・農林水産省と連携し、グリーンインフラ(緑の社会基盤)として
自然を活用した防災・減災・地域づくりを推進しています。
②外来種対策の強化
外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)に基づき、
環境省は特定外来生物の指定・防除を強化しています。
主な防除事例
| 外来種 | 地域 | 取り組み |
|---|---|---|
| マングース | 沖縄・奄美 | 集中的トラップ設置で個体数激減 |
| アライグマ | 全国 | 自治体と連携した捕獲推進 |
| オオクチバス | 全国 | 釣り規制・放流禁止の徹底 |
| セアカゴケグモ | 近畿〜全国 | 発見時の通報・駆除体制整備 |
奄美大島でのマングース防除は成功事例として世界的に注目されており、
2018年には実質的な根絶宣言が出されました(環境省、2018年)。
この成功が、奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島の世界自然遺産登録(2021年)
にも貢献しています。
③企業・金融との連携——自然資本の主流化
近年注目されているのが、企業活動と生物多様性保全の接続です。
環境省は経済産業省・金融庁とも連携し、
- TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応支援
- 自然資本を考慮したESG投資の促進
- サプライチェーン全体での生物多様性配慮
を推進しています。
TNFDは2023年9月に最終提言を公表。
企業が自然への依存・影響を開示する枠組みが整いつつあり、
生物多様性は今後の経営リスク・機会として重要度が増しています。
④ 地域・市民・多様なステークホルダーとの協働
環境省は、地方自治体・NPO・地域住民との連携を重視しています。
- 生物多様性地域戦略の策定支援:都道府県・市区町村への補助
- 生物多様性センター(自然環境研究センター)での調査・モニタリング強化
- 市民科学(シチズンサイエンス)の活用:iNaturalistなどのアプリを使った生物記録
市民が生物観察データを提供することで、
研究者・行政が把握できる生物分布情報が格段に増えています。
⑤ 科学的モニタリングと情報基盤の整備
政策の効果を測定するために、科学的なモニタリングが不可欠です。
環境省は「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」を定期的に実施し、
現状評価と政策改善に活かしています。
また、いきものログや環境省生物多様性情報システム(J-IBIS)を通じて、
国民が生物情報を記録・参照できる基盤も整備されています。
生物多様性保全のメリット・デメリット
メリット
① 生態系サービスの維持
森林・湿地・海洋の多様な生物が、私たちに食料・水・空気・防災機能を提供しています。
生物多様性を守ることは、人間社会の基盤を守ることと同義です。
② 新薬・農業技術のリソース確保
多くの医薬品は自然由来の化合物をヒントに開発されています。
生物多様性が失われると、将来の薬や農業技術の源泉も失われます。
③ 観光・地域経済への貢献
豊かな自然は、エコツーリズムや自然観察の場として地域経済に貢献します。
屋久島・知床・小笠原など、優れた自然環境が観光資源となっている事例は数多くあります。
④ 気候変動の緩和・適応
森林・湿地・藻場は炭素吸収源として機能し、地球温暖化の緩和に貢献します。
「ネイチャーベースドソリューション(NbS)」として国際的に注目されています。
デメリット・課題
① コストの問題
保護区の整備・管理、外来種の防除、調査・モニタリングには多大なコストが必要です。
財源の確保と効率的な資源配分が常に課題になります。
② 利用と保護のトレードオフ
農業・漁業・観光開発と生物多様性保全の間には、
時として利害対立が生じます。
地域住民・産業との丁寧な対話と合意形成が求められます。
③ 実効性の担保の難しさ
30by30目標も、単に面積を確保するだけでは不十分です。
保護区の「ペーパーパーク問題」(名目上の保護区で実態が伴わない)は
国際的に指摘されており、質的な保全が重要です。
④ 気候変動との相乗作用
生物多様性の保全を進めても、気候変動の進行によって
生息環境自体が変化してしまうリスクがあります。
両者の対策を統合的に進める必要があります。
現場で感じた生態系の変化——実体験エピソード
ある方のお話。
北海道の道東地域でシマフクロウの調査ボランティアに参加したときのことです。
夜間、川沿いの林道に静かに立って待つこと1時間。
遠くから、低く響くような鳴き声が聞こえてきました。
「ウォー、ウォー」
研究者の方が「あれがシマフクロウです」と小声で教えてくれたとき、
全身に鳥肌が立ったのを今でも覚えています。
シマフクロウは日本最大のフクロウで、
現在は全国でわずか165羽前後しか確認されていないとされています(2023年時点、環境省調査)。
彼らが生きていくためには、大きな樹洞がある老齢木と、
魚が豊富にいる清流が必要です。
しかし、流域の開発・護岸工事・水質汚染により、
その条件を満たす場所は年々減っています。
その夜、遠くでシマフクロウが鳴き続けるのを聴きながら、
「この声が聞けなくなる日が来るかもしれない」という恐怖と、
「なんとしても守らなければ」という決意が同時に押し寄せてきました。
生物多様性国家戦略2023-2030が掲げるネイチャーポジティブの目標は、
こうした一つひとつの命を守ることから始まっています。
政策の言葉は難しく見えますが、
その裏には、消えゆく鳴き声を記録し続ける研究者の方々の地道な努力があります。
知っておくべき注意点と課題
「保護区」が増えても安心できない理由
30by30目標の達成に向け、日本国内でも保護区の面積拡大が進んでいます。
しかし、面積の数字だけに惑わされてはいけません。
重要なのは、以下の点です。
- 管理の質:保護区内でも適切な管理がなければ外来種侵入・乱開発が起きる
- 連結性:孤立した保護区は遺伝的多様性の確保に限界がある(生態系ネットワークが必要)
- 地域住民との共存:地域の生業と保全が対立する構図を解消しなければ持続しない
外来種問題に関する誤解
外来種の防除活動を行っていると、しばしば「かわいそう」という声を受けることがあります。
個体への同情は人間として自然な感情です。
しかし、外来種による生態系破壊は、
在来種数百〜数千種を絶滅に追い込む可能性があります。
外来種一個体の命と、在来種コミュニティ全体の命。
これは容易に天秤にかけられる問題ではありませんが、
生態系の観点から外来種管理は避けられない現実です。
大切なのは、防除を感情論だけで決めず、科学的エビデンスに基づいて進めること、
そしてそもそも外来種を持ち込まない予防策を最優先にすることです。
ペットの飼育に関する注意
外来生物問題のひとつの入り口は、ペットの遺棄・逃走です。
ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)・クサガメ・アメリカザリガニなどは、
飼育放棄・逃走から野外定着したものが多く含まれます。
2023年6月から、ミシシッピアカミミガメとアメリカザリガニは条件付特定外来生物に指定され、
現在飼育中のものは引き続き飼育可能ですが、野外への放流や販売目的の譲渡が禁止されました。
ペットを飼う際は、最後まで責任を持って飼育することが
生物多様性保全の第一歩です。
動物福祉と生物多様性の未来——社会的視点から考える
世界の潮流:動物福祉と自然保護の融合
国際社会では、動物福祉と生物多様性保全を切り離さず、
統合的に考える「One Welfare(ワン・ウェルフェア)」の考え方が広まっています。
One Welfareとは、
- 人間の福祉
- 動物の福祉
- 環境の持続可能性
この3つを相互につながったものとして捉え、総合的に向上させようという概念です。
たとえば、野生動物の密猟・違法取引は、
動物福祉の問題であると同時に、生物多様性保全の問題でもあります。
そして、密猟が行われる背景には貧困・雇用不足といった人間社会の課題があります。
これらを切り離して解決しようとしても、根本的な改善には至りません。
日本社会に求められる変化
生物多様性国家戦略2023-2030が真に機能するためには、
政府・企業・市民の三者が役割を担う必要があります。
政府に求められること
- 実効性ある規制と予算の確保
- 科学的モニタリングの継続・強化
- 国際連携の推進
企業に求められること
- サプライチェーン全体での自然への影響評価
- TNFDに基づく自然関連情報開示
- 生物多様性に配慮した事業運営
市民に求められること
- 消費行動の見直し(認証製品の選択・過剰消費の抑制)
- 市民科学への参加(生物観察記録の提供)
- 地域の自然保護活動への関与
2030年に向けて——私たちに残された時間
2030年まで、あと数年です。
30by30目標を達成し、ネイチャーポジティブを実現するためには、
今この瞬間から行動を変える必要があります。
国際自然保護連合(IUCN)は、
「現在のペースで絶滅が進むと、今世紀中に地球上の動植物の約1/3が失われる可能性がある」
と警告しています。
しかし同時に、保全活動の成功事例も世界中に存在します。
- アジアゾウの個体数回復(インド・スリランカ)
- タスマニアデビルの保護繁殖プログラム(オーストラリア)
- コウノトリの野生復帰(日本・兵庫県豊岡市)
豊岡市のコウノトリは、1971年に野外での絶滅が確認されましたが、
人工繁殖と農薬削減・湿地再生に取り組み、
2023年には野外個体数が300羽超まで回復しています。
これは、人間の取り組み次第で野生動物が戻ってくることの
希望に満ちた証明です。
生物多様性の保全は、決して絵空事ではありません。
まとめ——生物多様性国家戦略2023-2030が目指す未来
この記事では、生物多様性国家戦略2023-2030について以下をお伝えしました。
- 生物多様性国家戦略2023-2030は、2022年のGBF採択を受けて策定された日本の国家計画
- 日本では3,716種もの動植物が絶滅危惧種に指定されている深刻な現状
- 30by30目標・ネイチャーポジティブという新概念の重要性
- 外来種対策・企業連携・市民参画など環境省の具体的な取り組み
- 動物福祉と生物多様性保全はOne Welfareとして統合的に捉えるべき課題
- コウノトリの回復事例が示す「希望のある未来」の可能性
生物多様性国家戦略2023-2030は、政府だけの問題ではありません。
あなたが日々選ぶ食べ物、飼っているペット、訪れる自然の場所——
その一つひとつが、生物多様性の未来を形づくっています。
まず今日からできることを一つ始めてみましょう。
認証製品を選ぶ、地域の自然観察会に参加する、外来種の情報を調べてみる。
小さな一歩が、未来の地球の多様性を守る大きな力になります。
参考資料・情報源
- 環境省「生物多様性国家戦略2023-2030」(2023年3月閣議決定)
- 環境省「レッドリスト2020」
- 国際自然保護連合(IUCN)レッドリスト(2023年)
- WWF「生きている地球レポート2022」
- 環境省「特定外来生物等一覧」(2024年版)
- 豊岡市「コウノトリ野生復帰推進計画」
- 環境省「令和5年度シマフクロウ生息状況調査報告書」
この記事は公開情報・公的機関データに基づいて作成しています。
最新情報は環境省公式サイト(https://www.env.go.jp/)をご確認ください。
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