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クマ対策の成功例「Bear Smart Community」とは?カナダに学ぶ人と野生動物の共存モデル

クマ対策の成功例「Bear Smart Community」とは

 


この記事でわかること

  • カナダBC州「Bear Smart Community」プログラムの全貌
  • なぜクマは人里に来るのか?その根本原因
  • 日本でも応用できる、地域ぐるみのクマ対策の具体的手順
  • 殺処分に頼らない動物福祉の最前線

はじめに──あなたは「クマ問題」を誰のせいだと思いますか?

 

「また出た」「危険だ」「駆除するしかない」

ニュースでクマの目撃情報が流れるたびに、こうした言葉が飛び交います。

しかし少し立ち止まって考えてみてください。

クマは本当に、ただ人里に迷い込んだ「危険な生き物」なのでしょうか?

 

カナダ・ブリティッシュコロンビア州(BC州)では、まったく異なる視点からこの問題に向き合い、驚くべき成果を上げています。

それが「Bear Smart Community(ベア・スマート・コミュニティ)」プログラムです。

このプログラムの核心は、シンプルかつ本質的な考え方に基づいています。

クマを遠ざけたければ、クマを引き寄せるものをなくせ。

 

本記事では、Bear Smart Communityプログラムの詳細から、日本のクマ問題への応用まで、専門的かつ実践的に解説します。

クマの命も、人の安全も、どちらも守りたい——そう願う方に、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。

 

日本とカナダのクマ問題──現状をデータで見る

 

日本におけるクマ被害の深刻化

まず、日本の現状を正確に把握しておきましょう。

環境省の発表によると、2023年度のツキノワグマによる人身被害件数は219件・233人(速報値)に上り、統計開始以来最多を記録しました。

  • 出没件数:全国で年間1万件超(環境省、2023年度)
  • 捕獲・駆除数:2023年度は約9,000頭以上に達した地域もあり、個体数管理への懸念が高まっています
  • 被害地域の拡大:従来の中山間地だけでなく、市街地での目撃も急増

「出没したら捕獲・駆除」という対症療法が繰り返されることで、クマの行動特性が変化し、人への警戒心が薄れていく——という悪循環も指摘されています。

この問題の根本には、「なぜクマが人里に来るのか」という問いへの答えがあります。

 

カナダBC州での問題の歴史と転換点

カナダBC州もかつては同様の課題を抱えていました。

ブラックベアやグリズリーベアが住宅地に頻出し、ゴミ荒らしや農作物被害が相次ぎました。

1990年代後半、BC州政府はこの問題を「クマの問題」ではなく「人間の管理の問題」として再定義します。

その結果として生まれたのが、1999年に本格始動した「Bear Smart Community Program」です。

 

Bear Smart Communityとは何か?──プログラムの全貌

 

プログラムの基本思想

Bear Smart Communityは、BC州野生生物局(British Columbia Ministry of Water, Land and Resource Stewardship)が主導する公認プログラムです。

その基本思想は以下の一点に集約されます。

「クマが人里に来るのは、そこに食べ物があるからだ。食べ物を取り除けば、クマは来なくなる。」

これは感情論ではなく、動物行動学に基づいた科学的アプローチです。

クマは「食料強化学習(food conditioning)」が非常に強い動物です。

一度でも人里で食料を得た経験があると、繰り返しその場所を訪れるようになります。

つまり、最初の「成功体験」を与えないことが、すべての出発点なのです。

 

Bear Smart Communityの認定基準

BC州でBear Smart Communityの認定を受けるには、以下の5つの条件を満たす必要があります。

  1. コミュニティによる公式の決議:自治体がプログラムへのコミットメントを議会レベルで採択する
  2. クマ誘引物の適切な管理:ゴミ、果実、ペットフードなど、クマを誘引するものの管理基準を整備する
  3. 教育・啓発活動の実施:住民全員に対する継続的な教育を行う
  4. 執行体制の整備:条例に基づく取り締まりを行う体制を構築する
  5. モニタリングと評価:プログラムの効果を継続的に測定・改善する

これらをすべて満たした自治体は「Bear Smart Community」として公式認定されます。

現在、BC州内の多くの自治体がこの認定を取得または取得に向けて取り組んでいます。


よくある疑問にお答えします(Q&A)

 

Q1. ゴミを管理するだけでクマは本当に来なくなるの?

 

A. はい、劇的に減少します。

BC州スクアミッシュ市(Squamish)の事例が代表的です。

Bear Smart認定後、市内でのクマの問題行動件数が認定前比で約60〜70%減少したと報告されています。

ゴミはクマにとって最も手軽で高カロリーな食料源です。

適切な管理を徹底するだけで、クマが「ここは食料がある場所」と学習する機会そのものを奪えます。


Q2. 一部の住民が協力しなければ意味がないのでは?

 

A. 「臨界点(Critical Mass)」の考え方が重要です。

完全な100%の参加は理想ですが、現実的ではありません。

Bear Smart Communityの実践では、コミュニティ全体の約70〜80%の世帯が適切な管理を実施すれば、クマの誘引効果は大幅に低下することがわかっています。

少数の不参加者への対応は、条例に基づく行政指導で補完します。


Q3. 日本にも同じアプローチは使える?

 

A. 十分に応用可能です。

日本でも、長野県や岩手県などの自治体が「クマを引き寄せない環境づくり」を推進し、成果を上げている事例があります。

環境省も「クマ類の出没対応マニュアル」(2023年改訂版)の中で、「誘引物の除去」を重要な予防策として位置づけています。

文化的・地理的な違いはありますが、「誘引物の管理がクマ問題の核心である」という原則は普遍的です。


Q4. クマを「殺さない」だけが動物福祉なの?

 

A. 動物福祉は「共存の設計」です。

殺さないことはゴールではなく、結果です。

Bear Smart Communityの本質は、「クマが問題行動をとる必要がない環境をつくること」にあります。

クマが人里に来なければ、衝突は起きません。衝突が起きなければ、殺処分は必要ありません。

これが動物福祉の文脈でこのプログラムが高く評価される理由です。


実践パート──あなたのコミュニティでできる具体的な手順

 

Bear Smart Communityの考え方を、今日から実践できる形に落とし込みました。

 

ステップ1:誘引物を「見える化」する

まず、あなたの自宅や地域にある「クマを引き寄せるもの」をリストアップします。

 

主なクマ誘引物一覧

カテゴリ 具体的な誘引物
ゴミ 生ゴミ、コンポスト、ゴミ置き場
食料 果樹(柿・栗・桑)の落下果実、農作物
ペット関連 ペットフード、鳥のえさ台
その他 バーベキューグリルの残り油、養蜂箱

 

これらが「屋外に放置された状態」になっていないか確認することが第一歩です。

 

ステップ2:ゴミの管理を徹底する

Bear Smart Communityで最も強調されるのが、ゴミの適切な管理です。

 

具体的な対策

  • ゴミ収集日のに出す(前日夜に出さない)
  • クマに耐性のある「ベア・プルーフ・コンテナ(Bear-resistant container)」を使用する
  • 集積所には鍵付きの囲いを設置する
  • 生ゴミはできる限り臭いが漏れない袋・容器で保管する

BC州では、このような「ベア・プルーフ」仕様のゴミ箱の普及が、出没件数減少の最大の要因とされています。

日本でも、農林水産省が補助金制度を通じた電気柵・防護柵設置支援を行っており、物理的対策と組み合わせることが効果的です。

 

ステップ3:果樹・農作物を管理する

クマが人里に来る理由の大きな割合を占めるのが、熟した果実や農作物です。

 

実践的な管理方法

  • 収穫しない果樹の実は早めに除去する(特に柿・栗は要注意)
  • 廃棄する果実は屋外に放置せず、密閉容器で処理する
  • 農地には電気柵を設置する(農林水産省の支援制度を活用)
  • 収穫時期が近づいたら地域の自治会・猟友会と情報共有する

 

ステップ4:コミュニティ全体で取り組む体制をつくる

個人の努力は重要ですが、クマ対策は「コミュニティ全体の取り組み」であってこそ効果を発揮します。

Bear Smart Communityが成功した最大の理由は、自治体・住民・農業者・学校・観光業者が同じ方向を向いたことにあります。

 

コミュニティ体制づくりのポイント

  • 自治会・町内会での定期的な勉強会の開催
  • 小学校・中学校での環境教育への組み込み
  • 地域の見守りネットワーク(目撃情報の迅速な共有)
  • 行政担当者と住民が参加する「クマ対策協議会」の設置

日本でも、長野県白馬村や北海道の一部自治体がこうした「地域連携型クマ対策」を推進し、成果を上げています。

 

ステップ5:継続的なモニタリングと改善

Bear Smart Communityが単なるキャンペーンに終わらない理由は、定期的な効果測定と改善サイクルにあります。

  • 年1回以上の目撃・被害件数のデータ整理
  • 取り組みの効果を住民に公開・フィードバック
  • 新たな誘引物の発生に対する迅速な対応

「やりっぱなし」にしないことが、長期的な成果につながります。

 

メリットとデメリット──正直に評価する

 

Bear Smart Communityアプローチのメリット

 

① クマの命を守れる クマが人里に来なければ、衝突も、殺処分も発生しません。個体数の維持は生態系の保全にもつながります。

 

② 人の安全が向上する 予防的アプローチは、被害が発生してから対応する「事後対策」より根本的に安全性を高めます。

 

③ 経済的メリットがある クマによる農作物被害、観光業への影響、行政の対応コストが削減されます。BC州の試算では、予防に投じる費用は事後対応コストの約1/5〜1/10とされています。

 

④ コミュニティの連帯感が生まれる 共通の課題に向き合うことで、住民同士のつながりが強化されます。

 

課題・デメリットも正直に

 

① 成果が出るまでに時間がかかる 誘引物を管理し始めても、すでに人里に慣れたクマがすぐに行動を変えるわけではありません。3〜5年単位の取り組みが必要です。

 

② 住民全員の理解と協力が必要 一部の不参加者がいるだけで効果が減少します。合意形成には丁寧な対話と時間が必要です。

 

③ インフラ整備にコストがかかる ベア・プルーフ・コンテナや電気柵の導入には初期投資が必要です。行政の補助制度の活用が不可欠です。

 

④ 人身事故が起きた際の「即時対応」との両立 予防プログラムと、緊急時の安全確保体制は別々に整備する必要があります。

 

ある自治体職員の話──現場からのリアルな声

 

ここで、クマ対策に関わる現場の声を紹介します。

長野県のある中山間地の自治体で、鳥獣対策を担当するAさん(仮名・40代)はこう語ります。

「以前は、クマが出るたびに猟友会に連絡して、捕獲・駆除という流れでした。でも、それをいくら繰り返しても、翌年にはまた別のクマが来る。根本的な解決になっていないと感じていました」

Aさんの自治体では2020年頃からBC州のBear Smart Communityの事例を研究し、地域独自の「誘引物管理プログラム」を試験的に導入しました。

「まず取り組んだのは、集落内の柿の実の管理です。収穫しない柿の木を所有者の許可を得てリストアップし、地域のボランティアと一緒に実を取り除きました。最初は面倒くさいという声もありましたが、翌年のクマの目撃件数が明らかに減ったんです」

「数字で示せると、住民の意識が変わりました。『クマが来ないようにするのは、自分たちの行動次第なんだ』と。この意識の変化が一番大きかった」

Aさんの言葉は、Bear Smart Communityの本質を端的に示しています。

クマ対策は、行政と専門家だけがするものではない。住民一人ひとりの行動が、クマと人間の関係性を変えるのです。

 

注意点──プログラムを誤解しないために

 

Bear Smart Communityのアプローチは非常に有効ですが、正確に理解することが重要です。

 

「クマと仲良くなる」プログラムではない

誘引物を管理する目的は、クマを「人里から遠ざけること」です。

クマに近づいたり、えさを与えたりすることとは正反対のアプローチです。

クマと人間の適切な距離感を保つこと——これがすべての前提です。

 

問題クマへの対応は別途必要

すでに人里に慣れ、食料強化学習が完成したクマ(問題グマ)に対しては、別途の対応が必要です。

BC州でも、問題行動を繰り返すクマに対しては、まず忌避措置(ゴム弾、爆竹など)による追い払いを行い、それでも改善しない場合は安楽死を選択することがあります。

 「殺処分ゼロ」を目指すことと、「危険なクマへの対処を怠る」ことは別問題です。

 

日本の生態・文化への適応が必要

Bear Smart Communityはカナダのプログラムです。

日本特有の住居形態、農業慣行、行政構造に合わせた「日本版Bear Smart」の設計が必要です。

参考事例として活用しながら、各地域の実情に合わせたカスタマイズが欠かせません。

 

社会的視点──動物福祉の「次のステージ」へ

 

世界的に広がる「共存」という考え方

欧米では、野生動物との「共存(coexistence)」は今や動物管理政策の主流となっています。

アメリカのYosemite国立公園でのベア・プルーフ・コンテナの義務化(1998年〜)、スウェーデンにおけるオオカミの個体数回復プログラムなど、予防と共存を軸にした政策が成果を上げています。

日本でも、環境省が2023年に「ニホンジカ及びイノシシの個体数管理」に関するガイドラインを改訂するなど、科学的な個体数管理への移行が進んでいます。

Bear Smart Communityの哲学は、この流れと完全に一致しています。

 

「殺処分依存」からの脱却

日本のクマ対策は長年、「出没したら捕殺」という対症療法に依存してきました。

しかしこのアプローチには、以下の問題があります。

  • 根本原因の解決にならない:翌年また別のクマが来る
  • 個体数の持続的管理が困難:乱獲による地域絶滅リスク(特にツキノワグマの一部地域)
  • 社会的コストが高い:猟友会の高齢化・担い手不足の深刻化
  • 動物福祉の観点からの批判:国際的な動物保護基準との乖離

Bear Smart Communityが示すのは、予防に投資することが、長期的に最も合理的かつ人道的な選択だということです。

 

子どもたちへの教育という視点

Bear Smart Communityプログラムの重要な柱のひとつが、学校教育との連携です。

BC州の小学校では、クマの生態、誘引物の危険性、適切な行動の取り方を教えるカリキュラムが整備されています。

子どもたちが家庭に帰って親に「柿の実を放置したらダメだよ」と伝える——このボトムアップの意識変革が、コミュニティ全体を動かす力になります。

日本でも、野生動物との共存を「環境教育」の文脈で小中学校に組み込む取り組みが始まっています。

この積み重ねが、10年後・20年後のクマ問題の解決につながっていきます。

 

まとめ──今日から、あなたにできること

 

Bear Smart Communityプログラムが私たちに示してくれたのは、次の真実です。

「クマ問題の多くは、人間側の行動を変えることで解決できる。」

クマは悪者ではありません。

食料を求めて行動する、ごく自然な野生動物です。

そのクマが人里に来てしまうのは、私たちが「来る理由」を作ってしまっているからです。


この記事のポイントを振り返ります

  • カナダBC州のBear Smart Communityは、誘引物の管理によってクマの出没を大幅に削減した
  • プログラムの核心は「食料強化学習を起こさせない」という動物行動学的アプローチ
  • 自治体・住民・教育機関が連携したコミュニティ全体の取り組みであることが成功の鍵
  • 日本でも、誘引物管理・電気柵・地域連携という形で応用が可能
  • 予防的アプローチは、コスト・安全性・動物福祉のすべての観点で「事後対応」より優れている

今日からできる一歩:あなたの家の周りに「クマを引き寄せるもの」がないか、今すぐ確認してみてください。

庭の柿の実、ゴミの出し方、ペットのえさ——小さな確認が、クマと人間、双方の命を守ることにつながります。

もしこの記事が役に立ったと感じたら、ぜひ地域の自治会や学校でシェアしてください。変化はいつも、一人の行動から始まります。


参考資料

  • BC Ministry of Water, Land and Resource Stewardship「Bear Smart Community Program」公式ガイドライン
  • 環境省「令和5年度 クマ類の出没状況について」(速報値)
  • 環境省「クマ類の出没対応マニュアル」(2023年改訂版)
  • 農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金」関連資料
  • 長野県「ツキノワグマ被害防止対策指針」

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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