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【動物福祉】Ahold Delhaizeがケージ飼育廃止へ|畜産の未来と消費者ができること

Ahold Delhaizeがケージ飼育廃止

 


世界最大級の小売グループが、アメリカのサプライチェーンから鶏・豚のケージ飼育を廃止すると発表しました。この記事では、その背景にある消費者意識の変化、動物福祉の最新動向、そして私たちが食の選択を通じてどんな未来をつくれるかを、データと実例を交えて深く掘り下げます。


はじめに|「ケージフリー」が当たり前になる時代がやってきた

 

「スーパーで買う卵が、どんな環境で育った鶏から生まれたか、気にしたことはありますか?」

毎日の食卓に並ぶ卵、ハム、鶏肉——その多くは、過密なケージの中で一生を過ごす動物たちによって生産されています。日本でも海外でも、長らくそれが「当然」とされてきました。

しかし今、世界の常識が大きく動いています。

 

2024年、オランダに本社を置く世界的小売グループ Ahold Delhaize(アホールド・デルハイズ) が、アメリカのサプライチェーンにおいて 鶏や豚のケージ飼育を段階的に廃止する 方針を公表しました。同社は「Food Lion」「Stop & Shop」「Giant Food」など、アメリカ東海岸を中心に2,000店舗以上を展開する巨大流通企業です。

 

この決断が注目されるのは、単なる企業のCSR活動ではないからです。背景には 消費者意識の急速な変化 と、投資家・NGOからの強い圧力、そして何より「動物福祉を無視したビジネスは長続きしない」という現実的な認識があります。

 

この記事では、Ahold Delhaizeの事例を軸に、動物福祉とケージフリー飼育の現状・課題・未来を徹底的に解説します。食の選択が社会をどう変えるか、一緒に考えてみましょう。


Ahold Delhaizeとは?——世界を動かす小売の巨人

 

Ahold Delhaizeは、オランダのアムステルダムに本社を置く多国籍小売グループです。

  • 従業員数:約40万人(世界)
  • 店舗数:約7,500店舗(2024年時点)
  • 年間売上:約880億ユーロ(約14兆円)
  • 主要ブランド(米国):Stop & Shop、Giant Food、Food Lion、Hannaford など

アメリカ東部を中心に圧倒的なシェアを持ち、数百万人の消費者の食生活に影響を与えています。この規模の企業が「ケージフリーへの転換」を宣言することは、業界全体への強烈なシグナルです。

 

今回の発表の具体的内容

Ahold Delhaizeが発表した主な方針は以下の通りです。

  • 産卵鶏(レイヤー):アメリカ国内の自社ブランド卵をケージフリー卵に切り替え
  • 豚(母豚):妊娠ストール(個別拘束)の廃止をサプライヤーに要求
  • 移行期限:段階的に実施(2025〜2030年を目標とするロードマップを設定)
  • 対象:自社ブランド(PB)商品を優先し、メーカーブランドにも働きかけ

これはいわゆる「Corporate Commitment(企業コミットメント)」と呼ばれる取り組みで、Humane Society of the United States(HSUS)などのNGOが長年にわたって企業に働きかけてきた成果でもあります。


現状の問題——数字で見るケージ飼育の実態

 

H3|アメリカの産業規模と飼育環境

動物福祉の問題を語るには、まず現実のデータを直視する必要があります。

 

アメリカの産卵鶏の飼育実態(USDA 2023年データより)

 

飼育方式 割合
従来型バタリーケージ 約47%
エンリッチドケージ 約5%
ケージフリー(平飼い) 約38%
放牧・パスチャーレイズド 約10%

 

バタリーケージとは、1羽あたりの面積がA4用紙(約600㎠)以下という極めて狭い金属製ケージのことです。鶏は羽を広げることも、止まり木に止まることも、砂浴びをすることもできません。

 

豚(母豚)の妊娠ストールの実態

  • 妊娠ストールは、母豚1頭が入るぎりぎりのサイズの鉄製囲い
  • 幅約60cm・長さ約200cm——前後にも動けない
  • 妊娠期間中(約4ヶ月)をほぼこの中で過ごす
  • アメリカでは全国の養豚場の約80%が依然使用中(Farm Sanctuary 調査)

 

日本の動物福祉の現状

日本においても、動物福祉は決して無縁のテーマではありません。

農林水産省が策定した「アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針」(2022年改訂)では、5つの自由(Five Freedoms)を基準とした飼育環境の改善が求められています。しかし、国際基準(OIE)と比較すると、日本の法制化はまだ途上段階です。

日本の採卵鶏の飼育実態(農林水産省 令和4年畜産統計より)

  • 飼育羽数の約90%以上がケージ飼育
  • ケージフリー(平飼い・放牧)はわずか数%
  • EU(欧州連合)はすでに2012年にバタリーケージを法律で禁止済み

この数字を見ると、日本がいかに変革の初期段階にあるかがわかります。


よくある疑問にお答えします(Q&A)

 

動物福祉やケージフリーに関心を持ち始めると、さまざまな疑問が湧いてきます。代表的な疑問に、専門的な視点からお答えします。


Q1. ケージフリーって、本当に動物にとっていいの?

 

A. はい、科学的・行動学的な研究から、ケージフリー環境は鶏の福祉を大幅に改善することが確認されています。ケージフリーでは、鶏が本来持つ行動(羽ばたき、砂浴び、止まり木での休息、採食行動)が可能になります。European Food Safety Authority(EFSA)の報告書(2023年)でも、バタリーケージは動物福祉上の重大な問題があると明記されています。


Q2. ケージフリー卵は高くなるの?

 

A. 現状では、ケージフリー卵の生産コストは従来型より10〜30%ほど高い場合があります。ただし、Ahold Delhaizeのような大手が規模を拡大することで、コストは徐々に下がる見通しです。実際、アメリカではケージフリー卵の生産量が増加した2018年以降、価格差は縮小傾向にあります。


Q3. ケージフリーにすると食品の安全性は下がらないの?

 

A. これはよくある誤解です。複数の研究(Cornell University等)では、ケージフリー環境とバタリーケージ環境のサルモネラ菌汚染率に統計的有意差は見られないとされています。むしろ過密なケージ環境がストレスを生み、免疫低下につながるリスクを指摘する研究もあります。


Q4. 企業だけでなく、個人にできることはある?

 

A. あります。最も直接的な行動は「ケージフリー卵を選ぶ」「アニマルウェルフェアに取り組む企業の商品を選ぶ」ことです。また、動物福祉を重視する企業への支持を消費行動で示すことは、企業の方針転換に実際に影響を与えます(→詳しくは後述の「実践パート」をご覧ください)。


Q5. NGOや団体の活動はどんなもの?

 

A. Humane Society of the United States、World Animal Protection、Compassion in World Farming などの国際団体が、企業との交渉・消費者啓発・政策提言を行っています。日本では「アニマルライツセンター」「アニマルウェルフェアジャパン」などが活動を展開しています。


あなたにもできる「動物福祉」への実践的な行動

 

動物福祉は遠い話ではありません。日常の選択の積み重ねが、産業を変える力を持っています。

 

ステップ1|ラベルを読む習慣をつける

スーパーで卵や肉を選ぶとき、パッケージのラベルを確認しましょう。

 

注目すべき表示:

  • 「平飼い卵」「ケージフリー」「放牧卵」→ 動物福祉に配慮した選択肢
  • 「オーガニック」→ EU・米国基準ではケージフリーが前提(日本は要確認)
  • 「アニマルウェルフェア認証」→ 第三者機関による認証マーク

日本では「アニマルウェルフェア畜産協会(JAWS)」が認証制度を設けています。認証マークがついた商品を選ぶことが、信頼性の高い選択につながります。

 

ステップ2|企業に声を届ける

消費者の声は、企業の方針を動かす力を持っています。

  • 購入した商品メーカーや小売店のSNS・問い合わせ窓口に「ケージフリー対応を希望する」と伝える
  • アニマルウェルフェアに積極的な企業を口コミ・SNSでシェアする
  • 署名活動(Change.orgなど)に参加する

実際、Ahold Delhaizeが今回の方針転換を決断した背景にも、消費者からの継続的なフィードバックとNGOとの対話がありました。

 

ステップ3|食の選択の幅を広げる

動物性食品を減らすことも、動物福祉と環境負荷の両面で効果的です。

  • 週に1〜2回、植物性食品を中心にした食事を試みる「ミートフリーデー」の導入
  • 豆腐・大豆ミート・レグームなど、タンパク質の代替食品を取り入れる
  • 地元の農家や小規模牧場から直接購入する(生産現場を知ることも大切)

これは「完全菜食主義(ヴィーガン)になるべき」という話ではありません。できる範囲で、意識的な選択を増やしていくことが重要です。


ケージフリー移行のメリット・デメリットを正直に整理する

 

すべての変革には光と影があります。ここでは感情論を抜きにして、客観的に整理します。

 

メリット

 

動物にとって:

  • 本来の行動表現(砂浴び・止まり木・羽ばたき)が可能になる
  • 慢性的なストレスの軽減
  • 骨密度・筋肉量の改善(運動できるため)
  • 社会的行動(群れでの生活)の回復

消費者にとって:

  • 倫理的消費の実現による心理的満足
  • 動物福祉基準が高い食品は「品質・透明性」への信頼感につながる

社会・産業にとって:

  • 企業のESG評価向上・投資家からの信頼獲得
  • 国際的な規制強化(EU・カリフォルニア州 Prop 12など)への先手対応
  • 長期的な消費者離れリスクの回避

 

デメリット・課題

 

コスト面:

  • 設備投資・飼育密度の低下により、生産コストは上昇
  • 小規模農家への負担が大きい

管理上の課題:

  • ケージフリー環境では、疾病管理(感染症・寄生虫)が複雑になる
  • 鶏同士の攻撃行動(ピッキング)が発生しやすい

移行期間の問題:

  • 短期間での一斉転換はサプライチェーンに大きな負担をかける
  • 農家・農業従事者のスキルアップと支援体制が必要

これらの課題は現実のものです。しかし、課題があるからこそ、Ahold Delhaizeのような大企業が段階的なロードマップを示し、業界全体で移行を進める意義があるのです。


実体験から見えてきたこと——ある農家との対話

 

数年前、筆者は取材で千葉県内の平飼い養鶏農家を訪れました。

広々とした鶏舎の中で、鶏たちは砂を浴び、走り回り、時に大きな声で鳴いていました。農家の方はこう話してくれました。

「最初は手間がかかるし、病気のリスクも高くて怖かった。でも、鶏の行動をよく観察するようになって、異常を早く発見できるようになった。ケージより大変だけど、鶏が生き生きしているのがわかる」

一方、同じ取材で話を聞いた大規模ケージ養鶏の農家は正反対のことを言っていました。

「コスト競争で生き残るには、今の設備を変えられない。国が補助金を出さないと、うちみたいな農家は転換なんて無理だ」

どちらの農家も、嘘をついているわけではありません。動物福祉の問題は、農家個人の意識や努力だけで解決できるほど単純ではない。構造的な支援と、消費者・企業・政策の三位一体の取り組みが必要だと、改めて実感した取材でした。


注意点——「動物福祉」を謳う情報の見分け方

 

近年、「アニマルウェルフェア」「ヒューマン」「ナチュラル」といった表示を乱用したマーケティング(グリーンウォッシュ・ウェルフェアウォッシュ)が問題になっています。

信頼性の高い情報・商品を見分けるポイントは以下の通りです。

 

信頼できる認証マーク(日本・海外)

  • Certified Humane®(米国):飼育環境・飼料・医療ケアなど厳しい基準を設定
  • Animal Welfare Approved(米国):最も厳しい基準のひとつ
  • JAWS(アニマルウェルフェア畜産協会)認証(日本):国内唯一の認証団体
  • 有機JAS認証(日本):有機飼料使用・抗生物質不使用が前提だが、飼育空間の基準は別途確認を

注意すべき表示:

  • 「自然に育てた」「のびのび育ち」→ 法的基準なし、主観的表現
  • 「ホルモン不使用」→ 豚・鶏への成長ホルモン使用は日本・米国ともに禁止されており、当然のこと
  • 「放し飼い」→ 定義が曖昧。実際の飼育密度や屋外アクセスを確認

疑問を感じたら、企業のWebサイトで飼育環境の具体的な情報(写真・動画・第三者監査報告)を確認する習慣を持ちましょう。


動物福祉は「社会インフラ」になる——これからの10年を見据えて

 

Ahold Delhaizeの今回の決断は、孤立した事例ではありません。世界全体で、動物福祉を核とした食のシステム変革が加速しています。

 

世界の法規制の最前線

  • EU:2023年に「ファームトゥフォーク戦略」を推進。2027年までにケージ飼育の全面禁止を目指す法案を審議中
  • 米国カリフォルニア州:「Proposition 12」(2018年可決)により、州内販売の豚肉・卵・子牛肉に動物福祉基準を義務化(2024年完全施行)
  • 英国:産卵鶏のケージ飼育禁止を法制化(2012年)、さらなる強化が進行中
  • 日本:農林水産省がアニマルウェルフェアの普及啓発に動き出しているが、義務化には至っていない(2024年現在)

 

投資家も「動物福祉」を見ている

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の視点でも、動物福祉は無視できないテーマになってきました。

ファームアニマルリスク・リターン(FAIRR)イニシアチブは、世界の主要機関投資家(運用資産総額70兆ドル超)が参加するネットワークで、動物福祉を含む食のサステナビリティリスクを企業評価に組み込んでいます。

つまり、「動物福祉への対応が遅れた企業は、資金調達の面でも不利になる」という構図が生まれているのです。

 

テクノロジーが変える畜産の未来

動物福祉の観点からも注目されているのが、培養肉・植物性代替タンパク質の進化です。

  • 培養肉(クリーンミート):動物を殺さずに細胞培養で生産する技術(シンガポールでは一部商用化済み)
  • 精密発酵:微生物を用いてカゼイン・ホエイなどの乳成分を生産
  • 昆虫タンパク質:家畜の飼料転換による資源効率向上

これらの技術がコスト競争力を持つようになれば、従来型の工場式畜産の在り方そのものが問い直されることになるでしょう。


まとめ——選択が世界を変える

 

Ahold Delhaizeのケージフリー宣言は、ひとつの企業の倫理的決断に見えて、その実、消費者・投資家・NGO・政府という複数のアクターが何年もかけて積み上げてきた変化の結果です。

この記事でお伝えしたかったのは、動物福祉はもはや「動物が好きな人だけの問題」ではないということです。

  • 食のコストと品質に関心のある人にとっては、生産システムの透明性と信頼性の問題
  • 投資家・ビジネスパーソンにとっては、ESGリスクとビジネス機会の問題
  • 政策立案者にとっては、国際競争力と法制度整備の問題
  • そして、私たち消費者一人ひとりにとっては、毎日の食の選択が積み重なって社会をつくるという問題

日本はまだ変革の入り口にいます。でも、だからこそ今が最も重要な時期でもあります。

今日、スーパーで卵を手に取ったとき、少しだけラベルを見てみてください。 そのひとつの選択が、農場の鶏の暮らしを変え、産業の方針を変え、やがて世界の食のあり方を変えていく力を持っています。

動物福祉の未来は、あなたの選択の中にあります。


関連記事・参考情報

  • 農林水産省「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理」https://www.maff.go.jp
  • Humane Society of the United States – Corporate Commitments Tracker
  • FAIRR Initiative – Farm Animal Risk & Return
  • European Food Safety Authority (EFSA) – Animal Welfare Reports
  • アニマルウェルフェア畜産協会(JAWS)公式サイト

この記事は動物福祉・食農システムに関する公開情報をもとに、専門的な観点から構成しています。個別の商品・企業評価については、各公的機関や認証団体の最新情報をご確認ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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