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軍用ソナーがクジラ・イルカを死に追いやる——海洋哺乳類保護と安全保障の深刻な衝突

軍用ソナーがクジラ・イルカを死に追いやる

 


海の底で、今も見えない「音の暴力」が繰り返されています。

軍用ソナー(音波探知機)が発する強烈な音波が、クジラやイルカの方向感覚を奪い、集団座礁を引き起こしているとする科学的証拠が積み重なっています。

 

一方で、軍事演習は「国家安全保障」の名のもとに続けられてきました。

この問題は単なる環境トピックではありません。海洋哺乳類の命と国家防衛が真っ向からぶつかる、現代社会の最も難しい問いのひとつです。

 

この記事では、科学的データ・国際的な規制の動き・具体的な事例をもとに、軍用ソナーと海洋哺乳類保護の現状を徹底的に解説します。


そもそも軍用ソナーとは何か?

 

ソナー(SONAR)とは、”Sound Navigation And Ranging”の略称です。

水中を伝わる音波を発し、その反響から物体の位置・距離を探知する装置で、潜水艦の探知を主な目的として使用されます。

軍が使用するのは主に以下の2種類です。

  • 中周波アクティブソナー(MFAS:Mid-Frequency Active Sonar)

    • 周波数帯:約1〜10キロヘルツ
    • 潜水艦探知に広く使用される主力ソナー
    • 1950〜60年代に開発・普及が進んだ
  • 低周波アクティブソナー(LFAS:Low-Frequency Active Sonar)

    • 周波数帯:100〜1000ヘルツ以下
    • より広域をカバーし、遠距離の探知に使用

これらのソナーが発する音は、水中で空気中よりも約5倍速く伝わり、遠方まで減衰せずに届くという性質を持っています。

その音圧レベルは最大で230デシベル以上に達することもあります。

ちなみに、人間が「痛みを感じる」とされる音圧は約130デシベルです。


クジラ・イルカへの具体的な被害メカニズム

 

なぜクジラは音に特別に弱いのか

クジラやイルカはエコーロケーション(反響定位)と呼ばれる能力を持ちます。

自ら音を発し、その反響によって餌の位置・仲間の場所・地形を把握する、いわば「音による視覚」です。

日本経済新聞の報道によると、「クジラは恐らく地球上で最も聴覚が敏感な動物」とも言われています。

この特性ゆえに、軍用ソナーの音波はクジラたちにとって壊滅的な攻撃になりえるのです。

 

ソナーがクジラを傷つける3つの経路

 

① 方向感覚の喪失

ソナーの音波を浴びたクジラはパニックに陥り、音源から必死に逃げようとします。

その結果、通常の潜水パターンが乱れ、深海から急浮上してしまうことがあります。

これがきっかけで、次に述べる「減圧症」が引き起こされます。

 

② 減圧症(潜水病)の発症

2019年に学術誌『英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)』に掲載された研究論文は、ソナーによってクジラが「減圧症(decompression sickness)」を発症するメカニズムを解明しました。

人間のスキューバダイバーが深海から急浮上すると起こる潜水病と同じ現象です。

急浮上すると体内に窒素が気泡となって蓄積し、血管や臓器に深刻なダメージを与えます。

解剖結果では、脳内出血・内臓損傷・脊髄や中枢神経系への損傷が確認されており、外見上は健康そうに見えても体内では致命的な状態になっていることがわかりました。

 

③ 採餌・コミュニケーション行動の混乱

英国の防衛科学技術研究機関の調査では、軍事演習中にアカボウクジラの音声記録が200件超から50件未満へと激減したと報告されています。

音波にさらされたクジラたちは、発声・採餌・回遊をやめてしまうのです。

潜水できなければ餌を得られず、餌から水分も補給するクジラにとって、これは飢えと脱水という緩やかな死への始まりになりえます。


データが語る衝撃の実態

 

科学的知見として、以下の数字を押さえておく必要があります。

指標 データ
軍用ソナーが関連する集団座礁(1960〜2004年) 121件中少なくとも40件
マリアナ諸島でMFAS導入後の座礁事例 8件(うち半数がテストから6日以内)
全集団座礁に占めるMFAS関連の割合(先行研究推計) 約9%(実態はより多い可能性)
米海軍自身の試算(2014〜2019年の演習計画) クジラ・イルカの死亡:東海岸沖186頭・ハワイ等155頭
同試算の重症個体 約11,267頭
同試算の異常行動個体 約2,000万頭

 

出典:英国王立協会紀要(2019年)、カラパイア・米海軍環境影響研究報告

 

2,000万頭という数字は決して誇張ではありません。

これは米海軍自身が発表した試算です。

また、研究者の多くは「座礁する個体は氷山の一角であり、沖合で死亡した個体はカウントされていない」と指摘しています。


世界の具体的な事例:バハマ・カナリア諸島・マリアナ諸島

 

バハマ沖の集団座礁(2000年)

2000年3月、バハマ諸島沿岸で17頭の鯨類が集団座礁し、多くが死亡しました。

内訳はアカボウクジラを中心とした複数種で、事件の36時間前、米海軍駆逐艦が同海域で高強度ソナー訓練を実施していたことが後に明らかになります。

 

ナショナル ジオグラフィック日本版も報じたように、「グランドバハマ海底谷に3000万年前から生息するクジラたちが、方向感覚を失い、浅瀬に逃げ込んで死んだ」事件として、世界に衝撃を与えました。

解剖の結果、聴覚器官・脳・肝臓への出血が確認されました。

米海軍はその後、バハマ沖での複数艦艇によるアクティブソナー演習を制限しています。

 

カナリア諸島の集団座礁(2002・2004年)と「ソナー禁止後ゼロ件」の奇跡

スペイン領カナリア諸島は、1985年以来、NATOの演習と関連づけられるアカボウクジラの座礁が繰り返された地域です。

決定的な事件は2002年9月に起きました。

10カ国が参加したNATO合同演習「Neo Tapon」が実施された直後、フエルテベントゥラ島とランサロテ島に14頭のアカボウクジラが座礁

うち7頭が死亡しました。

 

解剖では、重篤な出血・脂肪塞栓・気泡が複数臓器で確認され、ソナーによる減圧症と一致する所見でした。

研究を率いたミシェル・アンドレ博士は「1985年以来、NATOの演習とアカボウクジラの座礁が一致したのは、これで7度目だ」と述べています。

 

この事件を受け、欧州議会は高強度軍用ソナーのモラトリアムを採択。スペイン国防省は2004年、カナリア諸島海域での全アクティブソナー訓練を禁止しました。

その結果は明確でした。

学術誌『ネイチャー(Nature)』に2013年に掲載された論文によれば、2004年の禁止以降、カナリア諸島での集団座礁は一件も発生していないと報告されています。

これは「規制が機能した、世界最も説得力ある事例」として今も引用されています。

 

マリアナ諸島(グアム・サイパン)の事例(2007〜2019年)

学術誌『Proceedings of the Royal Society B』(2020年)に掲載された研究は、さらに衝撃的なデータを示しました。

マリアナ諸島では、1962〜2006年の44年間、クジラの座礁が一件も報告されていませんでした。

しかし、MFASが導入された2006年以降から2019年1月の間に、グアムとサイパンで8件(計10〜11頭)の座礁が報告されました。

さらに、8件中4件がMFASテストから6日以内に発生していたことも明らかになっています。

 

特に敏感とされるアカボウクジラ科(23種が属する)は、習慣に慣れているはずの海軍基地周辺の個体でさえ、MFASが作動すると行動パターンが変化することが確認されています。


国際的な規制・ガイドラインの動き

 

米海軍の内部対応

米海軍は2012年、海軍作戦部長名で1,100ページにも及ぶ「海棲哺乳類保護のためのソナー使用ガイドライン」を策定しています。

このガイドラインは、近くに海洋哺乳類が確認された場合に演習継続か中止かを段階的に判断する手順を定め、影響が大きいと判断された場合は作戦中止を求める内容です。

また、米海軍はすでに日本近海での低周波ソナーの使用を制限しており、環境影響への配慮の実績があります。

 

IWC(国際捕鯨委員会)の見解

国際捕鯨委員会の科学委員会は2004年7月、軍用高強度ソナーと集団座礁の関連について「overwhelming evidence(圧倒的な証拠)」があるとの見解を示しています。

これは科学的コンセンサスの形成という意味で、きわめて重要な公式表明です。

 

NRDC(天然資源保護協議会)とNATOへの要求

米国の環境法律団体・天然資源保護協議会(NRDC)は、NATOに対して以下の措置を求める書簡を送付しました。

  • 海洋哺乳類、特にアカボウクジラの生息域での演習回避
  • ソナー強度の低減
  • 演習後の死傷動物のモニタリング調査の義務化

重要なのは、「戦時や脅威高まる状況ではソナー使用を制限しない」という現実的な提案である点です。

動物保護と安全保障の両立を模索した、現実的なアプローチといえます。

 

EUと欧州議会の動き

欧州議会は2004年、高強度軍用ソナーのモラトリアム(一時停止)を採択しました。

その後も、地中海を中心に座礁事例が続いており、規制のさらなる強化を求める声が複数の加盟国から上がっています。

カナリア諸島での「禁止後ゼロ件」という結果が規制強化の強力な根拠となっており、現在も国際的な議論が続いています。


「安全保障」と「動物福祉」の衝突

 

この問題の本質的な難しさは、どちらの側も「正当な理由」を持っていることです。

 

軍の立場から見れば:

  • 潜水艦探知は国家防衛の根幹に関わる能力
  • ソナー訓練なしには実戦能力を維持できない
  • 現代の安全保障環境(北朝鮮・中国・ロシアの潜水艦活動)は訓練の必要性を高めている

海洋動物保護の立場から見れば:

  • 知性の高い海洋哺乳類に与える苦痛は動物福祉上許容できない
  • 特にアカボウクジラは絶滅危惧の懸念がある種も含まれる
  • 「カナリア諸島方式」で禁止後ゼロ件という成功事例が存在する
  • 技術的代替手段(パッシブソナー、AI活用の探知技術)の研究が進んでいる

米国の司法は「防衛が環境保護に優先する」との判断を示しましたが、同時に米海軍が自ら海洋哺乳類保護ガイドラインを策定したという事実が示すように、「対立」ではなく「共存」への模索が各国で始まっています。

重要なのは、ソナー使用を全廃するのではなく、時期・場所・強度を調整することで被害を大幅に減らせるという科学的知見が蓄積されていることです。

カナリア諸島の事例がその証明です。


日本の現状と課題

 

水産庁の鯨類座礁対処マニュアル

水産庁は「鯨類座礁対処マニュアル(令和4年度改訂版)」を策定しており、座礁鯨を発見した際は当該地方自治体や地域住民と協力して海に戻すことを基本方針としています。

ただし、このマニュアルは「発見後の対処」が中心であり、軍用ソナーを原因として特定した上での予防的規制措置には踏み込んでいません。

 

日本近海での状況

米海軍はすでに日本近海での低周波ソナーの使用を自主的に制限していますが、日本の自衛隊・在日米軍が保有するソナーが海洋哺乳類に与える影響についての公開された調査・評価データは極めて限られています

日本は国連海洋法条約(UNCLOS)の締約国であり、同条約第65条は「いずれの国も、海産哺乳動物の保存のために協力するものとし、特に、鯨類については、その保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」と規定しています。

この観点からも、海洋哺乳類への影響に関するより透明性の高い情報開示が求められます。

 

日本周辺海域に生息する脆弱な種

日本の太平洋側から沖縄にかけての海域には、アカボウクジラ科の複数種をはじめ、ソナーへの感受性が高いとされる種が多く生息しています。

日本鯨類研究所(ICR)は座礁記録の収集を続けており、国内における科学的知見の蓄積に取り組んでいますが、軍用ソナーとの因果関係を公式に評価する仕組みはまだ整っていません。


私たちにできること・未来への展望

 

技術的解決策の可能性

問題解決において、技術の進化は大きな希望です。

  • パッシブソナー技術の進化:音を「出す」のではなく「聴く」ことで潜水艦を探知するパッシブソナーは、海洋哺乳類への影響が少ない。性能向上が進めばアクティブソナーへの依存を減らせる可能性があります。
  • AI・機械学習を活用した哺乳類探知:演習前に海域内の鯨類を探知・確認するシステムの開発が進んでいます。
  • 「演習前モニタリング」の義務化:研究者グループは「海軍演習の前後やその最中、海や海岸沿いで目視監視を強化すること」を強く推奨しています。

 

国際的な連携の必要性

海洋は国境を超えます。

一国の規制だけでは不十分で、NATO・UNCLOS・IWCといった国際的な枠組みを通じた協調が必要です。

「カナリア諸島モデル」を他の海域にも広げることが、現実的かつ効果的なアプローチといえます。

 

市民ができること

  • 座礁した海洋動物を発見したら、速やかに水産庁・各都道府県の水産担当窓口・海上保安庁に通報する
  • 海洋哺乳類の保護活動を行うNGO(例:日本鯨類研究所、WWFジャパン等)の活動を支援する
  • 軍用ソナー規制を求める国際署名・キャンペーンへ参加する
  • この問題を身近な人と共有し、社会的関心を高める

また、本サイトの関連記事「[海洋音響汚染とは?船舶騒音・地震探査がもたらす海洋生態系への影響]」「[アカボウクジラの謎——世界で最も深く潜るクジラが直面する危機]」もあわせてご参照ください。


まとめ

 

この記事では、軍用ソナーとクジラ・イルカの集団座礁の関係について整理しました。

 

要点をまとめると:

  • 中周波アクティブソナー(MFAS)は1960年代の普及以降、クジラの大量座礁との相関が世界各地で確認されている
  • 主なメカニズムは「ソナー音によるパニック→潜水パターンの乱れ→減圧症(体内への窒素気泡蓄積)→内臓・脳への損傷」
  • 1960〜2004年の121件の集団座礁のうち少なくとも40件が軍の演習と関連している
  • 米海軍自身の試算でも年間数千万頭が何らかの影響を受けると見積もられている
  • スペイン・カナリア諸島での2004年のソナー禁止後、集団座礁がゼロになったという強力な成功事例がある
  • 国際的には規制・ガイドラインの見直しが進む一方、安全保障との兼ね合いで課題も多い
  • 日本でも透明性ある情報開示と予防的モニタリングの仕組みづくりが急務

 

最も重要なことは、「禁止するか」「続けるか」という二択ではなく、場所・時期・強度を調整することで命を救える、という事実が証明されていることです。

カナリア諸島はその答えをすでに示しています。

海の中の音は、私たちには聞こえません。

しかしクジラたちにとって、それは生死に直結する世界です。


あなたにできる最初の一歩は、この問題を知ること、そして伝えることです。 この記事をSNSでシェアし、海の中で起きていることを多くの人に届けてください。 海洋哺乳類の声なき訴えを、私たちの声で届けましょう。


参考・引用資料

  • 英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B), 2019年・2020年
  • Nature誌「No mass strandings since sonar ban」, 2013年
  • 米・天然資源保護協議会(NRDC)プレスリリース
  • ナショナル ジオグラフィック日本版「海軍ソナーからクジラを守る地上の戦い」
  • 米海軍「Marine Mammal Strandings Associated with U.S. Navy Sonar Activities」, 2017年
  • 水産庁「鯨類座礁対処マニュアル(令和4年度改訂版)」
  • 日本経済新聞「なぜクジラは座礁する?」
  • 国連海洋法条約(UNCLOS)第65条
  • Woods Hole Oceanographic Institution「The Sound of Sonar and the Fury about Whale Strandings」

この記事は動物福祉・海洋環境保護に関する公開情報・査読済み論文をもとに作成しています。軍事上の機密情報は含みません。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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