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オーストラリア・ビクトリア州の動物保護法改革が棚上げ——「感情ある存在」を認める新法案、なぜ10年越しの夢は先送りされたのか

オーストラリア・ビクトリア州の動物保護法改革

 


動物が「感情ある存在(センティエント・ビーイング)」であることを法律で正式に認める。

この一歩が、またも先送りになりました。

オーストラリア・ビクトリア州政府は2026年3月、長年にわたって議論されてきた動物保護法の全面改正——「動物ケア・保護法案(Animal Care and Protection Bill)」——を今期議会に提出しない方針を、保護団体への通知という形で事実上明らかにしました。

改革の約束は2017年。それから約10年。

その間、法の下で何百万頭もの動物が保護されないまま苦しみ続けてきました。

 

この記事では、オーストラリアの動物保護法改革がなぜ止まり続けているのか、その背景・問題点・世界の潮流・私たちにできることを、データと公的情報をもとに徹底解説します。


 今回の問題——オーストラリア・ビクトリア州で何が起きたのか

 

2026年3月25日、動物福祉の世界に衝撃が走りました。

オーストラリアの動物福祉連合「Australian Alliance for Animals(オーストラリア・アライアンス・フォー・アニマルズ)」が、ビクトリア州のジャシンタ・アラン首相(Premier Jacinta Allan)に対し、公開書簡を送付。

その内容は、「動物ケア・保護法案を2026年の議会に必ず提出せよ」という強い要求でした。

 

なぜこの書簡が送られたのか

理由は一つです。

州政府から保護団体側に、「議会の日程が過密であること、そして11月の選挙に向けて議会の会期日数が例年より少ないため、今期(2026年)は法案提出が難しいかもしれない」という通知がなされたからです。

つまり実質的な棚上げ(シェルビング)です。

 

この連合に名を連ねる6つの団体には、Humane World for Animals(旧・ヒューメイン・ソサエティ・インターナショナル)、FOUR PAWS Australia、World Animal Protection Australia & New Zealandなどが含まれています。

 

Humane World for Animals オーストラリアのキャンペーン・ディレクターであるニコラ・ベイノン氏は、次のように述べています。

「2026年もまた法案が提出されなければ、この州の動物たちは時代遅れの法律のもとで保護されないままとなる。」

 

World Animal Protection Australia & New Zealandのベン・ピアソン氏も、

「動物福祉の改革は何年も前から議題に上っているのに、動物たちはいまだに待ち続けている。遅延が続けば、意味ある変化への信頼はどんどん失われていく」

と語っています。


そもそもPOCTAとは?現行法の限界

 

ビクトリア州で現在、動物を守る根拠法となっているのは「Prevention of Cruelty to Animals Act 1986」(動物虐待防止法、通称POCTA)です。

その名前が示す通り、この法律が作られたのは1986年——今から40年前のこと。

当時と現代では、動物科学の知見も、社会の価値観も、産業の構造も、大きく様変わりしています。

 

POCTAが抱える主な問題点

  • 動物の「感情」に関する法的認定がない
    動物が痛みや喜びを感じる「感情的存在(センティエント・ビーイング)」であるという科学的知見が法律に反映されていない

  • 農業・畜産分野が事実上の適用除外
    食用目的の家畜、エンターテインメント目的の動物(競走馬・グレイハウンドなど)には法の保護が及びにくい構造になっている

  • 罰則の弱さ
    虐待が発覚しても、加害者が実刑を逃れるケースが相次いでいる

  • 実行可能な行動基準(コード・オブ・プラクティス)の欠如
    現行の慣行基準(コード)には法的拘束力がなく、違反しても罰せられない

 

農業畜産業界を代表するビクトリア州農業者連盟(VFF)も、「動物はセンティエントである」という点は認めつつも、新法案には農業者の権利保護を求める立場から慎重な姿勢をとっており、それが改革の速度を落とす一因となっています。


新法案「動物ケア・保護法案」の内容と意義

 

では、今回棚上げになった新法案(Animal Care and Protection Bill)は、具体的に何を変えようとしていたのでしょうか。

 

法案の主な改革ポイント

  • 動物センティエンス(感情能力)の法的認定
    ペット・家畜・動物園の動物すべてを、「痛みや快楽を感じる存在」として法律上明記する

  • 最低ケア基準の設定
    飼育環境・食事・水・医療ケアに関する最低基準を明文化し、違反に法的効力をもたせる

  • 独立した動物福祉機関の設立
    農業省からの利益相反を排除し、動物の利益を第一に判断できる独立機関(Independent Animal Welfare Authority)を新設

  • 慣行基準の「規則(レギュレーション)」への格上げ
    法的拘束力のない「コード」を、執行可能な「規則」に変換する

  • 虐待罰則の強化
    繰り返し虐待した者への飼育禁止命令など、より実効性のある制裁手段

 

ビクトリア州政府機関「Agriculture Victoria」が実施したパブリックコメントには、50以上の団体と無数の市民から意見が寄せられ、2024年3月まで締め切りが延長されるほど関心が高まっていました。


動物の「感情ある存在」認定——世界の最前線

 

「動物をセンティエント・ビーイング(感情ある存在)として法的に認める」という動き。

これは、現代の動物福祉改革においてグローバルな潮流になっています。

 

世界の先行事例

 

ニュージーランド(2015年)
2015年の動物福祉法改正で、脊椎動物を「感情ある存在」として正式に認定。農業大国でありながら、この一歩を踏み出しました。

 

イギリス(2022年)
「Animal Welfare (Sentience) Act 2022」が成立。脊椎動物に加え、タコ・イカなどの頭足類、エビ・カニなどの十脚類も感情ある存在として法的保護の対象に。英国政府の諮問委員会(Animal Sentience Committee)は現在も対象動物の拡大を検討中です。

 

スイス
動物は「モノ(物)」ではないと憲法に明記。世界でも最も先進的な動物法制度を持つ国の一つです。

 

フランス(2015年)
民法典の改正により、動物を「感情のある生き物(être vivant doué de sensibilité)」として法的に再定義しました。

 

オーストラリア・ビクトリア州は?

約10年の議論を経ても、この認定を法制化できていない状態です。

同じオーストラリアのニューサウスウェールズ州(NSW)では2021年の「動物虐待防止法」改正で罰則を大幅に強化。虐待者への「生涯飼育禁止命令」制度をオーストラリアで初めて導入しました。

ビクトリア州は動物保護でリードする州として期待されてきただけに、今回の棚上げは国際的にも後退と見られています。


延期の理由と保護団体の反応

 

州政府が示した延期の理由は、以下のように説明されています。

「法案の規模と複雑さ、および他の法律との交差部分に対応するため、議会での十分な審議時間が必要。2026年の議会は11月の州選挙のため会期日数が例年より少ない。」

 

この説明に対し、保護団体側は強く反発しています。

Animal Justice Party(動物正義党)のジョージー・パーセル議員は、この一連のプロセスをオーストラリアの有名な風刺コメディ「ユートピア」になぞらえ、「まるでユートピアの一場面だ」と皮肉っています。

 

改革の遅れの本当の背景

実際には、政治的な優先順位の問題も指摘されています。

  • 農業・畜産業界からのロビー活動の影響
  • 新法による農業実践への影響を懸念する農村部の支持層との摩擦
  • 複数省庁にまたがる調整の難しさ(農業・法務・環境など)
  • 11月の州選挙を前に、「論争を生みやすい」法案を避けたい政治的計算

これは、日本における動物愛護法改正をめぐる課題と構造的に非常に似ています。


現場で起きている現実——法の網をくぐる虐待

 

改革が先送りされる間、現実の動物たちはどうなっているのか。

2026年3月、ガーディアン紙の動物福祉記事が報告した事例を見ると、ビクトリア州で起きている動物虐待の実態がわかります。

  • バルコニーに閉じ込められたブルドッグ:自分の排泄物の中で生活を強いられていた
  • 不衛生な環境に放置されたコーギー:地域社会の怒りを受けてようやく飼い主が手放す
  • 金属パイプで殴られたマルチーズ・シーズー:攻撃した人物は実刑を免れた

これらは極端な例のように見えますが、現行のPOCTAでは最低ケア基準の定義が曖昧なために、実際の起訴・有罪判決に至るまでのハードルが非常に高いのです。

 

ビクトリア州の野生動物への影響

問題はコンパニオン・アニマル(ペット)だけにとどまりません。

Humane World for Animals Australiaが発表した「Licence to Kill Report(殺戮許可レポート)」によれば、2024年だけで17万6,000頭以上の在来動物がATCW(Authorities to Control Wildlife、野生動物駆除許可)のもとで殺処分を許可されています。

 

その内訳は:

  • ハダカハナグマ(ウォンバット):2,692頭(2023年比30%増)
  • ヒガシハイイロカンガルー:110,663頭
  • ニジイロオウム(レインボー・ローリキート):1,365羽

1975年に制定された野生動物法(Wildlife Act)も、POCTAと同様に「時代遅れで不透明、保護に実効性がない」と批判されており、改革が求められています。


オーストラリアの動物保護法——州ごとの比較

 

オーストラリアの動物福祉法制は連邦法ではなく州ごとに異なります

そのため、同じ行為が州によって合法・違法が変わるという複雑な状況が生まれています。 

 

各州の動向(2025〜2026年時点)

主な法律 特徴・最近の動向
ニューサウスウェールズ州(NSW) Prevention of Cruelty to Animals Act 1979(改正2021) 生涯飼育禁止命令を初導入、罰則は他州の2倍以上
ビクトリア州(VIC) POCTA 1986(1986年制定) 改正法案が棚上げ状態。40年前の法律が現役
クイーンズランド州(QLD) Animal Care and Protection Act 2001 相対的に新しいが、センティエンス認定はなし
南オーストラリア州(SA) Animal Welfare Act 1985 改革議論は進んでいるが、未着手
西オーストラリア州(WA) Animal Welfare Act 2002 2020年代に入り改正の動きあり

 

RSPCAオーストラリアが公開している「RSPCA Knowledgebase」には、各州の法律情報・執行実態に関するデータが集積されており、州間比較の一次資料として参照できます。


日本の動物愛護法と比較してわかること

 

海外の話題として片付けられないのが、この問題の本質でもあります。

日本でも2019年に動物愛護管理法が改正され、生後8週齢未満の犬猫販売禁止・罰則強化・数値規制の段階的導入が行われました。

そして改正時の規定により、2025年以降の次期改正に向けた検討が始まっています。

 

日本とビクトリア州の共通課題

  • 農畜産業の適用除外問題:畜産動物への保護が手薄な構造は、日本でも同様です
  • アニマルポリス(緊急一時保護制度)の未整備:虐待現場への行政介入の法的根拠が曖昧
  • センティエンス認定の不在:日本の動物愛護法には、動物を「感情ある存在」として明記する条項がありません
  • 省庁間連携の複雑さ:環境省・農林水産省・警察庁・厚生労働省にまたがる調整が改革のボトルネックになっている点は、オーストラリアと酷似しています

動物福祉の改革を前進させるために何ができるか

 

「政治が動かないなら、何もできない」——そう感じる方も多いかもしれません。

でも、改革は市民の声なくして動きません。

オーストラリア・ビクトリア州の今回の改革も、保護団体が長年にわたってパブリックコメントへの参加呼びかけ・ロビー活動・世論喚起を続けてきたからこそ、法案ドラフトまでたどり着きました。

 

今すぐできるアクション

 

① 動物福祉団体を支援する

日本国内にも、動物福祉の法改正を目指して活動している団体があります。

  • NPO法人「どうぶつ弁護団」
  • 「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」への声かけ
  • 各地のシェルター・保護団体へのボランティア・寄付

 

② 選挙で候補者の動物福祉政策を確認する

動物保護法の改正は政治課題です。候補者の公約・政党の方針をチェックし、動物福祉に積極的な候補者に投票することも重要なアクションです。

 

③ パブリックコメントに参加する

法改正の議論が始まったとき、意見公募(パブリックコメント)に声を届けることは、市民一人ひとりができる最も直接的な法的関与です。

 

④ 情報を広める・共有する

オーストラリアで何が起きているかを知り、日本の議論につなげることで、動物福祉の国際的な潮流を「自分ごと」にする。

この記事をシェアすることも、その一歩です。


まとめ

 

オーストラリア・ビクトリア州の動物保護法改革(動物ケア・保護法案)が、またしても先送りになりました。

改革の約束は2017年。草案の公開は2023年。そして2026年の今も、1986年制定のPOCTAが現行法として動物たちの命と痛みを扱っています。

 

この問題を整理すると、以下のことが見えてきます。

  • 現行法(POCTA)は40年前の法律であり、動物の感情能力(センティエンス)を認定しておらず、農業利用の動物が事実上の適用除外になっている
  • 新法案(動物ケア・保護法案)はセンティエンス認定・最低ケア基準の明文化・独立監視機関の設置など重要な改革を含んでいた
  • 延期の背景には、農業産業のロビー活動・政治的な選挙対策・複雑な省庁間調整がある
  • 世界の潮流は、イギリス・ニュージーランド・フランスなどが動物をセンティエント・ビーイングとして法的に認定する方向で進んでいる
  • 日本の動物愛護法改正も、同じ構造的課題に直面しており、ビクトリア州の事例は対岸の火事ではない

動物たちは法改正を待つことができません。

今年こそ、ビクトリア州の動物ケア・保護法案が議会に提出されることを世界中の動物福祉に関わる人々が注目しています。

そして日本でも、2025年以降の次期動物愛護法改正に向けた議論が始まっています。

 

「感情ある存在」として動物を認め、その苦しみを社会全体で減らす法制度へ——その歩みを止めないために、私たちが知り、声を上げ続けることが必要です。


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参考情報・出典

  • Humane World for Animals Australia プレスリリース(2026年3月25日)
  • Mirage News「Vic Premier Criticized Over Delayed Animal Cruelty Reform」(2026年3月26日)
  • Animals Australia「Speak up against legalised cruelty in Victoria」
  • Agriculture Victoria「Consultation on animal welfare laws extended」(2024年)
  • Animal Justice Party Victoria「Reforming Victoria’s Animal Care and Protection Laws」
  • RSPCA Australia Knowledgebase
  • Humane World for Animals Australia「Licence to Kill Report」(2025年)
  • UK Government「Animal Welfare (Sentience) Act 2022」
  • AWGs(どうぶつ支援機構)「動物虐待を防ぐための法律改正とは」(2025年)

本記事の情報は2026年3月時点のものです。法改正の状況は随時更新される場合があります。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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