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「持続可能な狩猟」は存在するか?野生動物管理の倫理を徹底的に考える

「持続可能な狩猟」は存在するか

 


「鹿を撃って何が悪いの?自然のことは自然に任せればいい」

そんな声を聞いたことがあるかもしれません。

一方で、「狩猟は命を奪う行為だ。どう美化しても変わらない」という声も根強くあります。

どちらも感情的には理解できる意見です。
しかし、野生動物管理の現場では、この二項対立では語れない複雑な現実が広がっています。

 

この記事では、「持続可能な狩猟」という概念が本当に成立するのか、
環境省のデータや国際的な事例を交えながら、動物福祉の視点から丁寧に考えていきます。

単純な賛否ではなく、事実と倫理の両方から向き合う記事です。
ぜひ最後までお読みください。


そもそも「持続可能な狩猟」とは何か?

 

「持続可能な狩猟(Sustainable Hunting)」とは、
野生動物の個体数を長期的に維持しながら、生態系のバランスを崩さずに行われる狩猟のことを指します。

この概念は、主に以下の3つの要素を前提としています。

  • 科学的な個体数管理:個体数調査に基づき、捕獲上限を設定する
  • 選択的な捕獲:繁殖個体や幼獣を避け、成熟個体を対象にする
  • 地域生態系への配慮:食物連鎖や植生への影響を最小化する

この概念はもともと、欧米のトロフィーハンティング(戦利品狩猟)を正当化する文脈でも使われてきました。
しかし近年は、害獣駆除・鳥獣被害対策・生態系保全という文脈でも広く用いられるようになっています。

 

重要なのは、「持続可能な狩猟」が「動物に苦痛を与えない」ことと必ずしもイコールではない点です。
ここに、動物福祉の観点からの根本的な問いが生まれます。

「生態系的に持続可能」と「倫理的に許容できる」は、別の話ではないか?

この問いを念頭に置きながら、読み進めてください。


日本における野生動物管理の現状とデータ

 

深刻化する鳥獣被害

日本における野生動物との関係は、ここ数十年で大きく変化しています。

農林水産省の統計(2022年度)によると、野生鳥獣による農作物被害額は約156億円
主な被害をもたらす動物はニホンジカ・イノシシ・サルが上位を占めており、
中山間地域の農家にとっては死活問題となっています。

また、ニホンジカの個体数は1990年代以降に急増しており、
環境省の推計(2020年)では北海道を除く全国で約261万頭が生息していると報告されています。

 

狩猟者数の減少という現実

一方で、この問題に対応すべき狩猟者は激減しています。

 

年度 狩猟免許所持者数(概数)
1975年 約51万人
2000年 約28万人
2010年 約19万人
2022年 約12万人

出典:環境省「狩猟の現状」各年度版をもとに作成

 

狩猟者の高齢化も深刻で、60歳以上が全体の約60%を占めるとされています。
担い手不足の中で、いかに持続可能な野生動物管理を行うかは、
日本の地方行政にとって喫緊の課題です。

 

指定管理鳥獣捕獲等事業の拡大

こうした背景から、環境省は2015年に鳥獣保護管理法を改正し、
「指定管理鳥獣捕獲等事業」を創設しました。

この制度により、都道府県が認定した捕獲事業者が、
夜間銃猟などの特例措置を受けながらニホンジカやイノシシを捕獲できるようになっています。

現状は「持続可能な狩猟」に向けた制度整備の途上にあると言えるでしょう。


狩猟が「必要」とされる理由:生態系への影響

 

天敵不在という問題

日本では、かつてニホンオオカミがシカやイノシシの個体数を調整する役割を担っていました。
しかし、明治期に絶滅してしまい、現在は人間が生態系の調整役を担わざるを得ない状況です。

シカが増えすぎると何が起きるか。

 
以下のような連鎖的な影響が記録されています。

  • 植生の崩壊:シカによる樹皮剥ぎや草食によって林床植物が消滅
  • 土壌侵食の加速:植被が失われた斜面からの土砂流出
  • 生物多様性の低下:昆虫・小型哺乳類・鳥類の生息環境が破壊される
  • 農作物・人工林への被害:林業・農業への直接的な経済損失

奈良県・長野県・北海道などの報告では、
シカの過剰増加による森林の「下層植生壊滅」が広範囲に確認されています。

 

生態系管理としての捕獲の役割

この文脈において、捕獲(狩猟・有害駆除)は
生態系バランスの回復手段として機能し得ます。

ただし、ここで重要な前提があります。

  • 捕獲は「個体数の抑制」を目的とした計画的・継続的なものであること
  • 単発的・場当たり的な駆除は個体群に対して十分な効果を持たないこと
  • 「何頭捕ればいいか」には科学的根拠が必要であること

データに基づかない捕獲は、生態系にも動物にも不誠実です。
この点は、持続可能な野生動物管理を考える上で外せない視点です。


動物福祉の観点から見た狩猟の問題点

 

苦痛の問題:即死は保証されるか

動物福祉の基本原則の一つは、「不必要な苦痛を与えない」ことです。

しかし現実の狩猟では、一発で仕留められないケースが少なくありません。

  • 銃猟での負傷逃走(いわゆる「傷獣」)の問題
  • わなに長時間かかった動物の恐怖・疲弊・脱水
  • 回収されないまま死亡するケースの存在

ドイツやスウェーデンなどの欧州諸国では、
狩猟免許の取得条件として解剖・止め刺し技術の習得が義務化されています。
日本の現行制度では、この点が十分に整備されているとは言いがたい状況です。

 

錯誤捕獲の問題

わなによる捕獲では、対象外の動物が捕まる「錯誤捕獲」が問題になっています。

環境省の報告によれば、一部地域では捕獲個体の2〜3割が錯誤捕獲とされることもあります。
絶滅危惧種や希少種が誤って捕まるリスクは、生物多様性保全とのトレードオフになりえます。

 

「管理」の名のもとに何が正当化されるか

「個体数管理のため」という大義名分のもとに、
実態として残酷な方法が黙認されるケースがあることも見逃せません。

動物福祉の視点からは、目的が正当であっても、手段の倫理は問われ続けるべきです。
これは、持続可能な狩猟を「真に持続可能」にするための不可欠な視点です。


持続可能な野生動物管理の国際事例

 

スコットランド:ハイランドのシカ管理

スコットランドのハイランド地方では、長年にわたりアカシカの個体数管理が行われてきました。
「Deer Management Groups(DMG)」という地域ごとの協議体が、
科学的調査・捕獲目標設定・モニタリングを一体的に運営しています。

ポイントは、土地所有者・環境団体・行政・研究機関が同じテーブルに着いていること。
「誰が何のために何頭捕るか」が透明化された仕組みです。

 

ニュージーランド:公的機関による個体数管理

ニュージーランドでは、移入種(シカ・ポッサムなど)が在来生態系を脅かしており、
DOC(自然保護省)が中心となって空中散布・罠・専門ハンターを組み合わせた管理を実施しています。

動物福祉の観点から使用できる手法が制限されており、
毒エサ(1080)の使用については市民社会との対話が続けられています。

 

ナミビア:コミュニティベースの野生動物管理

アフリカのナミビアでは、地域住民が野生動物の管理と収益を共有する
「コミュナル・コンサーバンシー制度」が機能しています。

WWFなどの報告によれば、この制度の導入後、
一部地域でライオンやヒョウの個体数が回復傾向にあります。

「持続可能な狩猟」の成立条件は、制度設計と透明性にかかっている。
これが国際事例から見えてくる共通点です。


「持続可能な狩猟」が成立するための条件とは

 

ここまで見てきたデータと事例を踏まえると、
「持続可能な狩猟」が成立するための条件は以下のように整理できます。

 

条件① 科学的根拠に基づく個体数管理

  • 定期的な個体数モニタリングと公開
  • 捕獲上限(クォータ)の科学的設定
  • 実施後の効果検証と制度改善

 

条件② 動物福祉基準の明確化と実施義務

  • 苦痛を最小化する捕獲・止め刺し方法の規定
  • 錯誤捕獲ゼロに向けた取り組み
  • 狩猟者教育への動物福祉カリキュラムの導入

 

条件③ 透明性と市民参加

  • 捕獲データの公開
  • 地域住民・環境団体・行政の協議プロセス
  • 批判的検討を可能にする情報公開

 

条件④ 非致死的手段との組み合わせ

  • 不妊化・移送・植生保全などとの並用
  • 「狩猟のみに頼らない」管理体系の構築

これらの条件が揃ったとき、初めて「持続可能な狩猟」という言葉は
単なる言い訳ではなく、実態を持った概念になり得ます。

逆に言えば、これらが満たされていない狩猟を「持続可能」と呼ぶことには、
倫理的・科学的な意味で疑問符がつくでしょう。


非致死的な代替手段は機能するか?

 

不妊化・避妊処置の可能性と限界

シカやイノシシに対する不妊化処置は、
動物を殺さずに個体数を抑制するとして注目されています。

米国では一部地域で鹿への不妊化ワクチン(PZP)の研究・実施が進んでいますが、
以下のような課題も指摘されています。

  • コストが高い:大規模な個体群には経済的に対応しきれない
  • 効果が遅い:不妊化は繁殖を止めるが、現在いる個体は長生きする
  • 対象捕捉が困難:野生動物に確実に投与するのは技術的に難しい

ただし、小規模・孤立した個体群では有効なケースも報告されており、
すべての状況で「使えない」とも言い切れません。

 

忌避剤・フェンス・植生管理

農業被害対策としては、狩猟以外にも以下の手段が実用化されています。

  • 電気柵・防護ネット:農地への侵入を物理的に防ぐ
  • 忌避剤(化学・天然):一定の忌避効果があるが持続性に課題
  • 緩衝林帯の整備:山林と農地の間にバッファーゾーンを設ける

農林水産省の調査では、電気柵の導入による被害軽減効果が複数の地域で確認されています。

非致死的手段は「代替」ではなく「補完」として機能する。
現実的には、複数の手段の組み合わせが最も効果的です。


私たちに何ができるか:市民・消費者の立場から

 

「自分は狩猟をしないから関係ない」と思う方も多いかもしれません。
しかし、野生動物管理は社会全体の問題です。

以下のような関わり方が、市民の立場でも可能です。

 

知ることから始める

  • 地元自治体の鳥獣被害対策計画を読んでみる
  • ジビエ消費を通じて、捕獲された動物の「命の循環」に参加する
  • 環境省・農林水産省の公開データにアクセスする習慣を持つ

声を上げる

  • 動物福祉基準の強化を求める意見を、パブリックコメントや選挙で表明する
  • 研究者・NPO・行政の対話の場に市民として参加する
  • 「管理」の名のもとに行われる残酷な行為を、メディアや SNS で問題提起する

消費を通じた関与

  • 認証ジビエを購入することで、適切な衛生管理と倫理的捕獲を支援する
  • 動物福祉に配慮した農業・林業を支持する消費行動を取る

まとめ:「持続可能な狩猟」は存在するか?——答えと問い

 

この記事を通じて、以下のことが見えてきました。

「持続可能な狩猟」は、条件付きで存在し得る。

ただし、それは:

  • 科学的根拠に基づく個体数管理が行われていること
  • 動物福祉の基準が明確に設けられ、守られていること
  • 透明性があり、市民社会との対話が機能していること
  • 非致死的手段と組み合わされていること

これらが満たされた狩猟だけが、「持続可能」と呼ぶに値するでしょう。

日本の現状は、まだこの理想には遠いと言わざるを得ません。
狩猟者の減少、データ公開の不足、動物福祉教育の欠如——課題は山積みです。

しかし同時に、指定管理鳥獣制度の創設や認証ジビエの普及など、
少しずつ「まともな方向」への動きも生まれています。

 

野生動物と共存する未来をつくるのは、政策立案者だけではありません。
私たち一人ひとりの関心と行動が、制度を変える力になります。


まず一歩:環境省の「鳥獣保護管理基本指針」を読んでみてください。
そこには、あなたの地域の野生動物がどう扱われているかが書かれています。
知ることが、変えることの始まりです。


参考資料・データ出典

  • 環境省「鳥獣保護管理をめぐる現状」各年版
  • 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況」2022年度
  • 環境省「ニホンジカの個体数推定等について」2020年
  • 環境省「狩猟の現状」
  • WWF「Community-Based Natural Resource Management in Namibia」
  • 農林水産省「鳥獣害防止総合対策交付金実績報告」

この記事は動物福祉の観点から野生動物管理を考えるためのものです。狩猟の全面否定でも全面肯定でもなく、「より良い制度と実践」への議論のきっかけになれば幸いです。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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