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オーストラリアでペット放棄が急増——シェルター崩壊寸前の危機と、動物福祉が「経済問題」になった現実

オーストラリアでペット放棄が急増

 


「ペットを捨てる人は冷たい人間だ」

そう思っている方に、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。

今、オーストラリアでは年間20万頭を超える犬がシェルターに持ち込まれています。その多くは、飼い主が「冷たい」からではなく、住む場所がなくなったから食費すら切り詰めなければならなくなったから——経済的な苦境に追い込まれた末の、苦渋の決断です。

 

これは遠い国の他人事ではありません。

日本でも物価高・賃貸規制・住宅事情はペットを巡る問題と密接につながっています。オーストラリアで今起きていることは、動物福祉の未来を考える上で、私たちが真剣に向き合うべき「社会の鏡」です。

 

この記事では、オーストラリアのペット放棄急増の実態・原因・シェルターへの影響・制度的対策を、最新データとともに徹底解説します。


オーストラリアのペット放棄——数字が語る衝撃の現実

 

まずデータを見てください。数字は感情より、ずっと正直です。

 

オーストラリアのペット放棄・シェルター関連データ(最新)

 

項目 数値 出典
年間シェルターに持ち込まれる犬の数 約20万頭以上 RSPCA・各州データより
年間殺処分される犬の数 約4万頭 Hepper調査(2025年)
シェルターに持ち込まれる猫の殺処分率 約47% 同上
推計年間殺処分数(犬・猫合計) 約7万頭(健康・治療可能な個体) APWF(オーストラリアペット福祉財団)
ペットを飼う世帯の割合 約69% 全国調査
総ペット数 約3,000万匹 同上
オーナー放棄の原因のうち人的要因の割合 85%以上 RSPCA調査(2017年)
生活費高騰でペット関連費用を削減した人数 300万人以上 Finder調査(2024年)
ペットを手放した世帯数 約20万世帯 同上

 

この「85%以上が人的要因」というデータが示すのは、放棄の大半は動物の問題ではなく、飼い主の経済・住環境の問題だということです。

 

南オーストラリア州の深刻な事例

2024〜2025年度(会計年度ベース)、RSPCA南オーストラリア支部だけで5,125件の放棄報告を受理しています。そのうち579件は物件内に置き去りにされた動物——犬、猫、うさぎ、爬虫類、鳥、さらには魚まで含まれていました。

2024年9月には、アデレード市内で生後間もない子猫が、里親に引き渡されてからわずか12時間後に道路上のケージに置き去りにされるという事件も起きています。

これは単なる残酷な行為ではありません。背景には、どうにもならなくなった人間の事情があります。


なぜペットが捨てられるのか——住宅問題と物価高の二重苦

 

ペット可物件の圧倒的な不足

 

オーストラリアでペットを放棄する最大の理由のひとつが、「ペット可の賃貸物件が見つからない」 という住宅問題です。

動物福祉団体の推計によれば、全国のペット放棄件数のうち15〜30%が「新しい賃貸物件に引っ越す際にペットを連れていけないから」 という理由によるものです(The Conversation, 2025年9月)。

オーストラリアの全世帯の3分の1以上が賃貸暮らしであり、その割合は年々増加しています。そのうえ、アパートやタウンハウスといった集合住宅では長年にわたって「ペット全面禁止」の規定が一般的でした。

 

つまり:

  • 賃貸市場は逼迫 → 物件選択肢が少ない
  • ペット可物件はさらに少ない → 競争率が高く、家賃も割高
  • 引っ越しを余儀なくされた瞬間、ペットの居場所がなくなる

という構造的な罠が存在しているのです。

 

生活費の高騰がペットを直撃

住宅問題だけではありません。物価高がペットの飼育費用を圧迫しています。

オーストラリアでは2023年12月までの12ヶ月間で、消費者物価が約4〜7%上昇しました。食費・光熱費・家賃が軒並み値上がりする中、ペットの食費・医療費・トリミング代も大きな負担になっています。

 

実際のデータを見ると:

  • ペット関連の出費を削減した人:300万人以上
  • ペットのグルーミング(トリミング)を減らした割合:20%減
  • SCARシェルター(メルボルン)へのアウトリーチプログラム問い合わせ:5倍増
  • SCARへの寄付金:43%減少(シェルター自身も財政難に)

SCAR(Save-A-Dog Scheme)のCEO、マリサ・デバッティスタ氏はこう語っています。

「今まさにペットたちが苦しんでいます。譲渡の問い合わせが23%増加しており、特に成猫と成犬、大型犬への影響が深刻です。大型犬が新しい家を見つけるまでの平均滞在日数は、昨年同期比で71日も長くなっています」


シェルター崩壊寸前——現場スタッフが直面する限界

 

受け入れ停止・殺処分の増加という現実

シェルターが満員になると、どうなるのか。

多くのシェルターは定員に達しても新たな動物を断れません。しかし、スペースには物理的な限界があります。

結果として:

  • 引き取り待ちリストが数週間〜数ヶ月に及ぶ
  • スタッフの精神的・肉体的負担が限界を超える
  • やむを得ない殺処分が増加する

APWFの試算では、年間約7万頭の健康・治療可能な犬猫が殺処分されているとされています。一部のポンド(公設収容施設)では、収容犬の50%、猫に至っては100%が殺処分されるケースもあるといいます。

 

2024年:猫のサレンダーが特に深刻

オーストラリアの動物支援ネットワーク「Australia CAN」(シドニー犬猫ホーム・AWLQ・AWL SAなど5団体)のデータによれば、2024年2月までの段階でも、すでに加盟シェルターへの猫の持ち込みが急増していました。

Trish Ennis・Australia CAN代表はこう述べています。

「全国の加盟シェルターへの猫・子猫の引き渡しが急増しており、すでに限界に近いところへさらなる負荷がかかっています。多くのシェルターはすでに満員で、すべての動物を受け入れることができない状態です」

 

SCARシェルターのケース——35%の譲渡減少

SCARのデータは特に衝撃的です。2024年初頭から譲渡数が35%も減少しています。大型犬と成猫が最も影響を受けており、新しい家族を見つけるまでの時間が大幅に長くなっています。

シェルターへの寄付が43%も落ち込む一方で、支援を求める声は5倍に膨れ上がっている——この矛盾こそが、現場を追い詰めている根本的な構造です。


コロナ禍の「ペットブーム」が招いた歪み

 

コロナ禍で急増した新規飼育、その後の現実

2020〜2021年のコロナ禍、在宅時間が増えたオーストラリアでは空前のペットブームが起きました。孤独を埋め、心の支えを求めて、多くの人が犬や猫を迎え入れました。

 

しかし2023〜2024年になると、その反動が一気に表面化しました。

  • 外出規制解除 → 飼い主のライフスタイルが変化
  • 物価高・家賃高騰 → 飼育費用が重荷になる
  • 引っ越し増加 → ペット可物件が見つからない

「コロナ禍に迎え入れたペットを、数年後に手放さざるを得なくなった」という事態が、全国各地のシェルターに一斉に押し寄せているのが、2024〜2025年現在の状況です。

これはオーストラリアだけの現象ではありません。日本でも同様に、コロナ禍のペット需要急増と、その後の手放しが問題視されています。


制度は変わりつつある——各州の賃貸改革とその限界

 

「ペット禁止」は過去のものになりつつある

良いニュースもあります。オーストラリアでは、住宅・賃貸に関する法律改正が各州で進んでいます。

 

主な改正の流れ(2024〜2025年):

ニューサウスウェールズ(NSW)州

  • 2025年5月19日から新テナント法施行
  • 家主はペット申請に21日以内に書面で回答義務
  • 回答がなければ自動承認
  • 「一切ペット不可」の拒否は原則不可
  • 家賃・保証金の増額をペット許可の条件にすることを禁止

南オーストラリア(SA)州

  • 2024年7月1日から改正施行
  • 家主の回答期限:14日以内
  • 拒否できる理由を法定化・限定化
  • ペットボンド(ペット用追加保証金)を禁止

ビクトリア(VIC)州

  • ペットの飼育を不当に制限することを禁止する方向で改正済み

クイーンズランド(QLD)・ACT

  • アパートでのペット全面禁止(ストラータ規約)を無効化

タスマニア州

  • ペット飼育に関する規制改革の協議進行中

 

法改正だけでは解決しない問題

しかし、法律が変わっても課題は残ります。

オーストラリア国内でも州ごとに規制が異なり、賃貸から分譲、一般住宅からアパートへの引っ越しなど、住宅タイプが変わるとルールも変わるという複雑さがあります。

また、法律は変わっても、家主の「暗黙の拒否」(申請を出しにくい雰囲気を作る等)を防ぐことは難しく、現場での運用と実態の乖離も指摘されています。

さらにシェルター側の財政難、寄付の減少、スタッフの燃え尽き問題は、法改正だけでは解決しません。


動物福祉は「経済問題」——構造的に見えてくること

 

なぜこれは「個人の問題」ではないのか

ペット放棄を「飼い主のモラルの問題」として片付けることは簡単です。

しかし、数字を見れば明らかです。

放棄の原因の85%以上は、住宅・経済といった人的・社会的要因です。

これは個人の責任論ではなく、社会システムの設計の問題です。

  • 賃貸住宅にペットを持ち込めない → 住宅政策の問題
  • 動物医療費が払えない → 社会保障・ペット保険制度の問題
  • シェルターへの寄付が減る → 経済格差・福祉財源の問題

動物福祉と人間の経済的安定は、切り離せません。貧困が広がる社会では、ペットも犠牲になる——これがオーストラリアの現実が教えてくれることです。

 

「捨てる人」を責めることの危うさ

ペット放棄の報道に対して、SNSではしばしば激しい批判が飛び交います。

しかし、たとえば次のようなケースを考えてください。

シングルマザーが仕事を失い、実家に戻らざるを得なくなった。しかし実家はペット不可の賃貸。子どもとペットを選ぶ余裕はない。泣く泣くシェルターに預けたが、満員で断られた。結果として、ペットを路上に……。

 

これは架空の話ではありません。このような状況が、オーストラリア全土で現実に起きています。

個人を責めることに費やすエネルギーを、社会の仕組みを変えることへの議論に向けることが、動物福祉を本当に前進させる道ではないでしょうか。

 

日本でも共鳴する構造

日本においても、賃貸住宅でのペット飼育制限は依然として厳しく、ペット可物件は全体の数十%に過ぎないといわれています。物価高・家賃高騰が続く現在、日本でも同様の問題が顕在化しつつあることは、環境省の統計や各自治体の引き取り数の推移にも表れています。

オーストラリアの今は、日本の数年後かもしれません。


日本への示唆——私たちが今できること

 

個人レベルでできる行動

オーストラリアの危機から学びつつ、私たちが今すぐできることをまとめます。

 

飼い主として:

  • ペットを迎える前に、長期的な住環境・経済状況を真剣に検討する
  • 引っ越しの際は早めにペット可物件を探す(需要が高いため時間がかかる)
  • 経済的に苦しくなったとき、まずシェルターや支援団体に相談する(いきなり放棄しない)
  • ペット保険への加入を検討する

社会へのアクションとして:

  • 動物シェルターへの定期的な支援(寄付・ボランティア)
  • ペットの不妊・去勢手術の推進(国内でも低コスト手術の仕組みが整っている地域がある)
  • 地域のペット可賃貸物件情報の共有・拡充を求める声を上げる

シェルターを支える3つの方法

  1. 譲渡・引き取り:新しい家族を迎えるなら、ペットショップよりシェルターから。1頭を引き取ることで、次の1頭のスペースが生まれます。
  2. フォスタリング(一時預かり):長期のコミットが難しくても、一時預かりボランティアとしてシェルターを支えることができます。
  3. 寄付:シェルターの財政難は深刻です。少額でも継続的な支援が力になります。

 

去勢・不妊手術の普及こそ根本的な解決策

専門家が口をそろえて言うのは、「問題の根本は過剰繁殖にある」ということです。

APWF(オーストラリアペット福祉財団)をはじめ、多くの動物福祉団体が、去勢・不妊手術の普及こそが殺処分ゼロへの最も確実な道だと主張しています。

 

日本でも同様に、不妊手術の費用補助制度を設ける自治体が増えつつあります。お住まいの地域の制度を確認してみてください。


まとめ:ペットの命は、社会の設計次第で守られる

 

オーストラリアで起きていることを整理しましょう。

 

この記事のポイント

  • オーストラリアでは年間20万頭超の犬がシェルターに持ち込まれ、約4万頭が殺処分されている
  • 放棄の原因の85%以上が経済・住宅問題などの人的要因
  • 賃貸でペットを飼えないという住宅構造が放棄を加速させている
  • 生活費高騰により300万人以上がペット関連費を削減、約20万世帯が手放した
  • シェルターは満員・財政難・寄付減少の三重苦にさらされている
  • コロナ禍のペットブームの反動が2024〜2025年に一気に噴出
  • 各州での賃貸法改正が進むも、制度と現場の乖離はまだある
  • 動物福祉は感情論ではなく、社会経済構造と直結した問題

動物を大切にできる社会は、人間も大切にできる社会です。

逆に言えば、人間が経済的に追い詰められた社会では、ペットもまた追い詰められます。

オーストラリアの危機は、私たちに問いかけています。

「あなたの社会は、ペットが安心して生きられる設計になっていますか?」


この問いへの答えを考えるところから、動物福祉の未来は始まります。

まずは今日、お近くの動物シェルターをウェブで検索し、どんな支援ができるかを調べてみてください。小さな一歩が、確実に命をつなぎます。


参考資料・データ出典

  • RSPCA Australia(rspca.org.au)Annual Statistics 2023-2024
  • RSPCA South Australia 2024-2025年度報告データ
  • Hepper Pet Resources「Australian Animal Shelter Statistics 2025」
  • Hepper Pet Resources「Australian Animal Homelessness Statistics 2025」
  • APWF(Australian Pet Welfare Foundation)「Getting to Zero」
  • Animal Friendly Life「How pets in Australia are the latest victim of the cost-of-living crisis」(2024年4月)
  • The Conversation「Australia’s housing laws are changing, but do they go far enough to prevent pet abandonment?」(2025年9月)
  • Australia CAN Press Release(2024年4月)
  • NSW Government「Changes to rental laws」(2025年)
  • PETA Australia「Animal Homelessness: The Crisis and the Cure」
  • YourLifeChoices「Adelaide council worker discovers python in pillowcase」(2025年11月)

本記事は動物福祉に関する啓発を目的として作成しました。データは執筆時点(2025年)のものです。最新情報は各機関の公式サイトをご確認ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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