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犬の心臓病「僧帽弁閉鎖不全症」の症状・進行ステージ・自宅管理まで徹底解説

犬の心臓病「僧帽弁閉鎖不全症」

 


愛犬が咳をするようになった。
散歩の途中で立ち止まることが増えた。
夜中に「ハァハァ」と苦しそうに息をしている。

そんな変化に気づいたとき、多くの飼い主さんが真っ先に思い浮かべるのが「心臓病」という言葉ではないでしょうか。

 

犬の心臓病のなかでも特に多い僧帽弁閉鎖不全症(MVD:Mitral Valve Disease)は、小型犬を中心に非常に高い罹患率を持つ病気です。しかし「診断された=終わり」ではありません。

正しい知識と適切な管理があれば、愛犬は心臓病と共存しながら、穏やかで質の高い毎日を送ることができます。

 

この記事では、僧帽弁閉鎖不全症の基礎知識から症状・進行ステージ・治療法・自宅でできる管理まで、この記事だけで完結できるレベルの情報を丁寧にお届けします。


犬の心臓病「僧帽弁閉鎖不全症」とは何か

 

僧帽弁の役割と、なぜ壊れるのか

心臓は4つの部屋(右心房・右心室・左心房・左心室)で構成されており、血液を全身に送り出すポンプとして機能しています。

 

僧帽弁とは、左心房と左心室の間にある弁(逆流防止装置)のこと。正常な状態では、心臓が収縮するたびにこの弁がしっかり閉じ、血液が左心房へ逆流しないように機能しています。

ところが加齢やさまざまな要因によって僧帽弁が変性・肥厚すると、弁の「閉まり」が不完全になります。これが僧帽弁閉鎖不全症です。

逆流した血液が左心房にたまり続けることで心臓への負担が増大し、やがて心臓全体が肥大・機能低下していきます。

 

罹患率と好発犬種のデータ

日本国内の調査や複数の研究データから、以下のことが明らかになっています。

  • 10歳以上の小型犬では、約30〜40%が何らかの心疾患を抱えているとされる
  • 犬の後天性心疾患の中で、僧帽弁閉鎖不全症が最も多く、全体の約75〜80%を占める
  • 農林水産省の「動物診療に関する統計」においても、犬の循環器疾患は診察件数上位に位置している

特に罹患しやすい犬種としては次のものが挙げられます。

  • キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(遺伝的素因が非常に強い)
  • チワワ
  • マルチーズ
  • ポメラニアン
  • トイ・プードル
  • シー・ズー

これらの犬種を飼育している方は、とりわけ若いうちから定期健診に取り組むことが重要です。


僧帽弁閉鎖不全症の症状を見逃さないために

 

初期症状:「ちょっと変かな」と感じるサイン

僧帽弁閉鎖不全症はゆっくりと進行する病気です。初期は自覚症状(愛犬側)も乏しく、飼い主が気づきにくい段階が続きます。

 

初期に見られやすいサインとして、以下が挙げられます。

  • 寝ているときや安静時に咳をする(特に早朝・深夜に多い)
  • 散歩の途中で立ち止まることが増えた
  • 以前より疲れやすくなった
  • 食欲がやや落ちた
  • 呼吸が少し速い気がする

これらの症状は、老化による「単なる体力低下」と混同されやすいため注意が必要です。

特に「安静時の呼吸数」は重要な指標です。健康な犬の安静時呼吸数は1分間に約15〜30回。これが継続的に30回を超えるようであれば、早急に受診を検討してください。

 

中期〜重篤な症状:見逃してはいけない危険サイン

病気が進行するにつれ、症状は明確になってきます。

  • 咳の頻度・激しさが増す(食後や運動後に悪化しやすい)
  • 呼吸が明らかに速く、浅くなる
  • 口を開けて呼吸している(犬は通常、鼻呼吸)
  • お腹が膨らんでいる(腹水の可能性)
  • 立つことができない、失神する
  • 歯茎・舌の色が青白い、紫がかっている(チアノーゼ)

チアノーゼ・失神・口呼吸はいずれも救急サインです。
これらが見られた場合は、深夜でも救急動物病院に連れて行くことを迷わないでください。


進行ステージと治療のタイミング:ACVIMガイドラインを基に

 

なぜステージ分類が重要なのか

犬の僧帽弁閉鎖不全症の管理において、現在世界的な標準となっているのがACVIM(米国獣医内科学会)が2019年に改訂したコンセンサスガイドラインです。

このガイドラインではMVDをステージA〜Dに分類しており、各ステージに応じた治療方針が明示されています。日本の多くの動物病院もこのガイドラインに準拠して診療を行っています。

 

ステージA:ハイリスク犬種だが、まだ異常なし

キャバリアやチワワなど好発犬種に分類されるが、現時点では心臓に異常が見られない状態です。

この段階での介入は不要とされていますが、定期的な聴診・エコー検査を継続することが推奨されます。

 

ステージB:心雑音はあるが、症状はまだ出ていない

ステージBはさらにB1とB2に細分化されます。

 

B1(心臓の肥大なし)
心雑音は聴取されるが、心拡大は認められない。投薬は不要。

 

B2(心臓の肥大あり)
心雑音があり、レントゲン・エコーで心拡大が確認される。

 

2019年の改訂ACVIMガイドラインでは、B2段階からピモベンダン(ベトメディン)の投与開始が推奨されるようになりました。これにより心不全への移行を遅らせる効果が複数の臨床試験で示されています(EPIC試験・QUEST試験など)。

 

ステージC:心不全の症状が出ている状態

肺に液体がたまる(肺水腫)などのうっ血性心不全の症状が現れている状態です。

この段階では複数の薬剤(利尿剤・ACE阻害薬・ピモベンダンなど)を組み合わせた積極的な治療が必要になります。入院が必要になるケースもあります。

 

ステージD:内科的治療が困難になってきた末期状態

標準的な投薬量では症状のコントロールが難しくなってきた段階です。

薬の種類・用量の調整、QOL(生活の質)を優先したケア、場合によっては緩和ケアへの移行も含めた、飼い主・獣医師間の丁寧な対話が必要な時期です。


診断の流れ:動物病院でどんな検査をするのか

 

聴診から始まる診断プロセス 

心雑音の発見は、多くの場合、定期健診での聴診がきっかけです。犬の心雑音はグレード1〜6に分類されており、グレードが高いほど血液の逆流量が多い傾向があります。ただし、グレードと症状の重さが必ずしも比例するわけではありません。

 

主な検査の種類と目的

 

胸部X線(レントゲン)
心臓のサイズ・肺の状態(水分貯留の有無)を確認します。心胸比(VHS)という指標が診断の参考になります。

 

心臓超音波検査(エコー)
弁の状態・逆流の程度・心臓の動き・左心房の拡大度などを可視化できます。最も詳細な情報が得られる検査です。

 

心電図(ECG)
不整脈の有無を確認します。

 

血液検査・尿検査
腎臓機能・電解質バランスなど、治療薬の選択・用量調整に必要な情報を把握します。

これらを組み合わせることで、現在のステージと治療の優先度が判断されます。


投薬管理と自宅ケア:愛犬を支えるために飼い主ができること

 

薬の正しい飲ませ方と注意点

心臓病の治療は基本的に「一生涯の投薬管理」です。薬を途中でやめたり、飲み忘れが続いたりすることは病気の急激な悪化につながります。

 

飲ませ方の工夫として以下が有効です。

  • フードに混ぜる(ただし食欲低下時は別の方法を)
  • ピルポケット・チーズ・ウェットフードなどでくるむ
  • 投薬用のシリンジで水と一緒に飲ませる
  • 投薬時間をルーティン化し、忘れ防止のアラームをセットする

「今日は機嫌が悪そうだからいいか」という判断は避けてください。
どうしても飲ませられないときは、翌日にまとめて与えるのではなく、獣医師に相談してください。

 

自宅での呼吸チェック:最も重要な日課

心臓病の管理において、安静時呼吸数の記録は非常に有効なモニタリング手段です。

やり方はシンプルです。

  1. 愛犬が熟睡しているタイミングを選ぶ
  2. 胸やお腹の上下を目で数える
  3. 30秒間の呼吸数×2=1分間の呼吸数
  4. 毎日同じ時間帯に記録する

30回/分を超える日が2日以上続いた場合は、すみやかに受診を。
これだけで肺水腫の早期発見につながるケースが多くあります。専用のスマートフォンアプリ(例:「Cardalis」など)を活用する方法もあります。

 

食事・環境・運動管理のポイント

 

食事について

  • 塩分を控えた療法食(心臓サポート食)の活用を検討する
  • ただしステージによって必要性は異なるため、獣医師に相談のうえ判断する
  • 肥満は心臓への負担を増やすため、適正体重の維持が重要

生活環境について

  • 夏の高温・冬の寒さ(急激な温度変化)は症状を悪化させやすい
  • エアコンを適切に使い、室温を一定に保つ
  • ストレスを最小限にする(来客が多い日・騒がしい環境などに注意)

運動について

  • ステージによって運動量の目安が変わる
  • B1〜B2段階では無理のない範囲での散歩は推奨されることが多い
  • C・D段階では運動制限が必要になるケースが多い
  • 愛犬が「歩きたくない」というサインを出したら無理に進めない

心臓病の犬との「暮らし方」:QOLを守るという視点

 

治療の目標は「治すこと」よりも「よく生きること」

MVDは現時点では完治が難しい病気です。しかし、治療の目標を「完治」ではなく「快適な生活の維持」に置いたとき、飼い主と愛犬にとっての選択肢は広がります。

動物福祉(アニマルウェルフェア)の考え方では、動物が「5つの自由」を保持できているかどうかが重要な指標とされています。

 

5つの自由(Five Freedoms)

  • 飢えと乾きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・傷・病気からの自由
  • 正常な行動を表現する自由
  • 恐怖と苦痛からの自由

この基準は、農林水産省や環境省が動物の適切な飼養管理を考えるうえでも参照されており、日本における動物愛護管理行政の基本的な考え方にも影響を与えています。

心臓病を抱える愛犬が「今日も穏やかに過ごせた」と感じられる毎日を積み重ねることが、最善のケアの姿といえるでしょう。

 

セカンドオピニオンを活用する

「かかりつけの先生の言葉だけでは不安」と感じることは、決して失礼ではありません。

心臓病の管理は長期にわたる判断の連続であり、循環器専門の獣医師によるセカンドオピニオンが診断精度・治療方針の最適化に役立つことがあります。

大学付属動物病院や、日本獣医循環器学会(JVCC)の認定医がいるクリニックを探してみることも選択肢の一つです。


遺伝と繁殖:次世代への配慮も動物福祉の一環

 

キャバリアの遺伝性MVDと繁殖プロトコル

キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルにおいては、MVDの遺伝性が非常に強いことが国際的な研究で示されています。

欧米では「MVD繁殖プロトコル(Mitral Valve Disease Breeding Protocol)」と呼ばれる取り組みが行われており、繁殖に使用する親犬の心臓検査(特定月齢以上で心雑音なし)を義務付けることで、遺伝リスクを下げる努力が続いています。

日本においても、一部のブリーダーや犬種クラブがこのプロトコルを採用し始めていますが、普及はまだ途上にあります。

これからキャバリアを迎えたいと考えている方は、ブリーダー選びの際に心臓検査の実施状況を確認することが、愛犬と長く暮らすための重要なステップです。


よくある質問(Q&A)

 

Q. 心雑音があると言われたが、薬はまだ必要ないと言われた。放置して大丈夫?

 

A. ACVIMガイドラインに基づけば、心拡大がなければ(B1段階)投薬は不要です。しかし「放置してよい」ということではありません。半年〜1年に1度のエコー・レントゲン検査を続け、B2への移行を見逃さないことが重要です。

 

Q. ピモベンダンはどんな薬?副作用はある?

 

A. ピモベンダン(商品名:ベトメディン)は心筋の収縮力を高め、末梢血管を拡張する薬です。B2段階からの使用が推奨されており、心不全への進行を遅らせる効果が複数の臨床試験で示されています。副作用としては消化器症状(嘔吐・食欲低下)が報告されることがありますが、重篤なものは少なく、多くの犬が長期間服用しています。

 

Q. 手術(外科的治療)は可能?

 

A. 僧帽弁修復手術(僧帽弁形成術)が一部の大学病院・専門施設で実施されています。日本では東京大学や岐阜大学などが先進的な取り組みを行っており、適切な症例では劇的な改善が期待できます。ただし費用・リスク・適応条件などの条件があるため、専門医との相談が必須です。

 

Q. 心臓病の犬でも保険は使える?

 

A. ペット保険はすでに発症した病気を「既往症」として保険適用外とする商品が多いです。ただし、加入後に発症した場合は多くの保険で補償対象となります。心臓病のリスクが高い犬種は、若く健康なうちに保険加入を検討することをおすすめします。


まとめ

 

犬の僧帽弁閉鎖不全症(心臓病)は、早期発見・適切なステージ管理・継続的な投薬と自宅ケアによって、愛犬のQOLを長く守ることができる病気です。

この記事で紹介した主なポイントをまとめます。

  • 小型犬に多く、10歳以上では30〜40%が心疾患を持つとされている
  • 症状は咳・息切れ・疲れやすさから始まり、進行すると肺水腫・チアノーゼに至る
  • ACVIMガイドラインに基づくステージ分類(A〜D)が治療判断の基準
  • B2段階からのピモベンダン投与が心不全の発症を遅らせると示されている
  • 安静時呼吸数の毎日のチェックが早期悪化発見に有効
  • 動物福祉の視点で「よく生きること」を目標に置くことが重要

「診断された日」ではなく、「その日から何をするか」で、愛犬との時間の質は大きく変わります。


今日からできることを、一つだけ始めてみてください。
まずは安静時の呼吸数を測ること。それだけで、あなたは愛犬の「異変に気づける飼い主」になれます。

かかりつけの獣医師との信頼関係を大切にしながら、愛犬と穏やかな時間を積み重ねていきましょう。


参考情報:ACVIM Consensus Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Myxomatous Mitral Valve Disease in Dogs(2019)、農林水産省 動物の診療に関する統計、環境省 動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。愛犬の症状や治療については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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