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犬の僧帽弁閉鎖不全症|ステージ別の治療法と余命を獣医師監修で徹底解説

犬の僧帽弁閉鎖不全症

 

この記事でわかること

  • 僧帽弁閉鎖不全症の各ステージ(A〜D)の特徴と症状
  • ステージ別の治療法・使用薬・費用の目安
  • 余命に影響する因子と飼い主ができること
  • 最新の診療ガイドラインに基づいた知識

愛犬が「心臓が悪い」と診断された瞬間、頭が真っ白になった経験がある飼い主さんは少なくありません。

「あとどのくらい一緒にいられるの?」 「治療すれば治るの?」

その不安は、正確な知識を持つことで少しずつほぐれていきます。

 

この記事では、犬の僧帽弁閉鎖不全症についてステージごとの状態・治療法・余命の目安を、現在の国際ガイドライン(ACVIM 2019コンセンサスガイドライン)をもとに詳しく解説します。


犬の僧帽弁閉鎖不全症とは何か

 

僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Valve Disease / MVD)は、心臓の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が正常に閉じなくなる病気です。

弁がうまく閉じないことで、血液が逆流し、心臓に余分な負担がかかり続けます。

犬において最も多い心臓病であり、特に小型犬に多く見られます。

 

どの犬種・年齢が多い?

犬種別・年齢別で見ると、以下の特徴があります。

  • 好発犬種:キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、チワワ、マルチーズ、ポメラニアン、ミニチュア・ダックスフンドなど
  • 発症年齢:中高齢犬(5歳以上)に多く、10歳以上では約50〜75%が罹患しているとも言われています
  • 性別:オスの方がやや多い傾向がある

キャバリアに至っては、5歳で約50%、10歳ではほぼ全頭が何らかの僧帽弁異常を持つとされており、ブリーダー段階での健康管理が動物福祉の観点から強く求められています。

日本国内においても、農林水産省の統計によると犬の飼育頭数は約710万頭(2022年度推計)にのぼり、そのうち心臓病を抱えるシニア犬の割合は増加傾向にあります。

 

なぜ発症するのか

僧帽弁閉鎖不全症の主な原因は「弁の変性(粘液腫様変性)」です。

加齢とともに弁のコラーゲン構造が変化し、弁がぶよぶよした状態になり正常に閉じられなくなります。

遺伝的な要因も大きく、特定の犬種では若齢から発症するケースも確認されています。


ACVIM 2019ガイドラインによるステージ分類

 

現在、犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断・治療には ACVIM(米国獣医内科学会)の2019年コンセンサスガイドライン が国際標準として広く使われています。

 

このガイドラインでは、病態の進行度をステージA〜Dに分類しており、各ステージによって治療方針が大きく変わります。

ステージ 状態の概要 心臓の変化 症状
A リスクはあるが病気なし なし なし
B1 弁異常あり・心臓変化なし なし〜軽微 なし
B2 弁異常あり・心臓拡大あり 左心房・左心室拡大 なし
C 心不全状態(治療で安定) 著明な拡大 あり
D 難治性心不全 高度な拡大 重度

ステージA:まだ病気ではないが「リスクあり」

 

ステージAは、僧帽弁閉鎖不全症を発症しやすい犬種・素因を持つ犬のカテゴリです。

現時点では心臓の異常はありませんが、将来的なリスクがある段階です。

 

このステージでできること

  • 定期的な心臓検診(年1〜2回の聴診・エコー検査)
  • 適切な体重管理
  • ストレスの少ない生活環境の整備
  • ブリーディング犬の場合は遺伝的スクリーニング

薬物治療は不要ですが、「備えること」が将来の余命に関わります。

キャバリアなどの高リスク犬種の飼い主さんは、かかりつけ医との定期的なコミュニケーションが何より重要です。


ステージB:無症状だが心臓に変化が始まる時期

 

ステージBは、心臓の雑音(心雑音)は確認されるが、まだ症状がない段階です。

BはさらにB1とB2に分けられます。

 

ステージB1:心拡大なし

  • 心雑音:あり(グレード1〜3程度)
  • 心臓の大きさ:正常範囲内
  • 症状:なし

治療:原則として薬物治療不要

ただし、3〜6ヶ月ごとに定期検診を行い、B2への移行を注意深く観察します。

 

ステージB2:心拡大が始まる

  • 心雑音:あり(グレード3以上が多い)
  • 心臓の大きさ:左心房・左心室の拡大(正常の110%以上)
  • 症状:なし(ただし進行は続いている)

治療:ピモベンダンの投与開始が推奨される

 

2019年のACVIMガイドライン改訂の大きなポイントが、ステージB2からのピモベンダン早期開始です。

これは「EPIC試験」という大規模臨床試験の結果に基づくもので、ピモベンダンを早期から使用することで、心不全(ステージC)への進行を平均15ヶ月遅らせる効果が確認されました。

 

ピモベンダンについて(基本情報)

  • 作用:心筋の収縮力を高め、血管を広げる(陽性変力・血管拡張)
  • 投与量:体重1kgあたり0.25〜0.3mg、1日2回
  • 副作用:食欲不振、嘔吐、下痢など(比較的少ない)
  • 薬価の目安:月5,000〜15,000円程度(動物病院・体重により異なる)

この段階でかかりつけの動物病院と密に連携することが、その後の余命に直結すると言っても過言ではありません。


ステージC:心不全の発症・治療で安定する段階

 

ステージCは、心不全の症状が初めて現れる段階です。

肺に水が溜まる「肺水腫」や運動不耐性、咳などが見られ始めます。

 

主な症状

  • 咳が増える(特に夜間・安静時)
  • 息が荒い・速い(安静時呼吸数が1分間に30回以上)
  • 運動を嫌がる・すぐ疲れる
  • 食欲低下・元気消失
  • お腹が膨らむ(腹水が溜まる場合)
  • 青白い歯茎(低酸素状態のサイン)

安静時の呼吸数は、自宅でも計測できる重要な指標です。

1分間に30回を超えたら即日動物病院へ連絡してください。これは肺水腫の可能性があるサインです。

 

ステージCの治療法

ステージCでは複数の薬を組み合わせた多剤併用療法が基本となります。

 

急性期(入院・緊急治療)

急性肺水腫の場合は入院管理が必要です。

  • 酸素吸入
  • フロセミド(利尿剤)の静脈内投与
  • 安静・ストレス管理

安定後の維持療法

  • ピモベンダン:継続(またはB2から既に開始している場合はそのまま)
  • フロセミド(ラシックス):余分な水分を排出する利尿剤
  • スピロノラクトン:カリウム保持性利尿剤・心臓保護効果も
  • ACE阻害薬(エナラプリル・ベナゼプリルなど):心臓への負担を減らす

これらの組み合わせにより、多くの症例で症状をコントロールしながら生活の質(QOL)を維持できます

 

ステージCでの費用の目安

月々の治療費は、使用薬・体重・受診頻度によって大きく異なりますが、おおよその目安は以下の通りです。

  • 薬代:月10,000〜30,000円
  • 定期検診(2〜3ヶ月ごと):5,000〜15,000円/回
  • 緊急入院時:50,000〜200,000円以上

ペット保険への加入が未加入の場合、経済的な負担が増すことも現実です。

愛犬の健康だけでなく、飼い主自身の経済的準備も動物福祉の一部として考えてほしい視点です。


ステージD:難治性心不全・最終ステージ

 

ステージDは、標準的な治療を行っても症状がコントロールできなくなった難治性心不全の段階です。

 

状態の特徴

  • 最大量の利尿剤を使っても肺水腫や腹水が改善しない
  • 極度の息切れ・呼吸困難
  • ほとんど動けない・食事もとれない
  • 体重の著明な減少(心臓悪液質)

治療の方針

この段階では、「治す」よりも「苦しみを和らげる」ことが中心になります。

  • 利尿剤の増量・種類の追加(トルセミドへの変更など)
  • シルデナフィルの追加(肺高血圧を合併している場合)
  • 腹腔穿刺(腹水を針で抜く処置)
  • 栄養補給サポート

ステージDに達した犬の中には、数週間から数ヶ月で命を落とすケースが多くなります。

 

外科的治療(弁形成術)の選択肢

近年、日本でも実施可能な施設が増えてきた僧帽弁形成術(弁の外科的修復)は、根治的な治療として注目されています。

ただし以下の点を理解する必要があります。

  • 適応はステージB2〜C(ステージDは体力的に難しい場合が多い)
  • 体重4kg以上が条件とされることが多い
  • 費用は50〜100万円以上が一般的
  • 実施施設が限られる(国内で数十施設程度)
  • 成功した場合の予後は薬物治療を大きく上回る可能性がある

「手術を選ぶかどうか」は飼い主と獣医師が十分に話し合い、動物の状態・年齢・体力・家族の状況を総合的に判断する必要があります。


僧帽弁閉鎖不全症の余命はどのくらいか

 

多くの飼い主さんが最も気になるのが、「あとどのくらい生きられるのか」 という問いでしょう。

ただし、余命は「ステージ」「治療の開始時期」「個体差」「飼育環境」によって大きく異なります。

あくまで参考値として、以下の目安を示します。

 

ステージ別・おおよその余命の目安

 

ステージB1〜B2(無症状期)

  • B1:心不全移行まで数年単位の時間がある場合が多い
  • B2:ピモベンダン開始により、無症状期を1〜2年以上延長できることが示されている(EPIC試験データ)

ステージC(症状あり・コントロール可能)

  • 適切な治療下では中央値1〜2年程度(ただし個体差が非常に大きい)
  • 治療に良く反応し、3〜5年生存する例も珍しくない

ステージD(難治性)

  • 数週間〜数ヶ月が目安になることが多い
  • QOLを維持しながらの緩和ケアが中心になる

余命を左右する要因

余命は「病気の重さ」だけで決まりません。

  • 早期発見・早期治療開始:B2でのピモベンダン開始が特に重要
  • 定期的なモニタリング:自宅での呼吸数チェック、定期検診
  • 適切な体重管理:肥満は心臓への負担を増やす
  • 塩分制限食の活用:心臓病専用フードの活用
  • ストレスの少ない生活:過度な運動・興奮・極端な気温変化を避ける
  • 飼い主の観察力:変化に早く気づき、動物病院に連絡できるか

「余命○年」という数字に縛られるより、今日の1日を最高にすることが動物福祉の本質です。


自宅でできる日常管理とモニタリング

 

病気を抱えた犬との生活において、飼い主が果たす役割は非常に大きいです。

動物病院での治療と同じくらい、日常のケアと観察が予後を左右します。

 

安静時呼吸数のチェック

最も重要な自宅モニタリングが安静時(眠っているときの)呼吸数の計測です。

  • 測り方:胸の動きを30秒間数えて2倍にする(1分間の呼吸数を算出)
  • 正常値:1分間に20〜30回以下
  • 要注意:1分間に30回以上が連日続く場合は動物病院へ

専用のアプリ(PetPaceなど)を使うと記録が楽になります。

毎日同じ時間に計測し、手帳やスマホのメモに記録する習慣をつけましょう。

 

食事管理

  • 心臓病専用フードを選ぶ(ロイヤルカナン ハート、ヒルズ h/d など)
  • 塩分制限:ナトリウムを抑えることで水分貯留を防ぐ
  • カロリー管理:肥満は厳禁、一方で痩せすぎ(心臓悪液質)にも注意
  • おやつに注意:塩分の多い人間の食べ物は絶対に与えない

運動・生活環境の工夫

  • 激しい運動は避ける:散歩は短時間・ゆっくりのペースで
  • 階段・高い場所への飛び乗りを制限
  • 夏の暑さ・冬の寒さを避ける(温度変化は心臓に負荷をかける)
  • 精神的ストレスを減らす:家族のけんか、引越し、新しいペットの導入などのタイミングに注意

動物福祉の視点から考える「終末期のケア」

 

僧帽弁閉鎖不全症が進行したとき、飼い主は非常に難しい判断を迫られることがあります。

「どこまで治療を続けるか」 「苦しそうなのに何もできない」 「安楽死という選択肢を考えてもいいのか」

これらは感情論だけでは答えが出ない問いです。

 

動物の「QOL(生活の質)」を評価する

動物の終末期のQOL評価には、以下のような指標が使われます。

  • HHHHHMM尺度(Hurt / Hunger / Hydration / Hygiene / Happiness / Mobility / More good days than bad)

この評価を獣医師と一緒に行い、「今日の愛犬にとって何がベストか」を継続的に考えることが大切です。

 

安楽死という選択について

日本では動物の安楽死に対する認識が欧米に比べてまだ低い面がありますが、「これ以上の苦痛を与えない」という判断も愛情の形のひとつです。

日本獣医師会も「適切な時期に行われる安楽死は、動物への人道的配慮」と位置づけています。

この選択を迫られたとき、答えを急がず、家族で話し合い、かかりつけの獣医師に正直な気持ちを伝えてください。

あなたが迷い、苦しんでいること自体が、すでに愛情の証です。


治療費と保険について知っておくべきこと

 

僧帽弁閉鎖不全症の治療は、長期にわたることが多く、経済的な計画も重要です。

 

診断・検査費用

  • 聴診・問診:3,000〜5,000円
  • 胸部X線検査:8,000〜15,000円
  • 心臓超音波(エコー)検査:10,000〜20,000円
  • 血液検査(NT-proBNPなど):5,000〜10,000円

月々の維持費の目安(ステージC)

  • 薬代合計:15,000〜35,000円/月
  • 定期検診(2〜3ヶ月ごと):10,000〜20,000円/回

ペット保険の活用

既に発症している場合、既往症として保険適用外になるケースがほとんどです。

若いうちから保険に加入しておくことが経済的リスクを大幅に下げます。

保険選びのポイントとしては、以下を確認してください。

  • 慢性疾患・継続投薬をカバーしているか
  • 更新時に保険料が上がりすぎないか
  • 通院・入院・手術の上限額はどのくらいか

まとめ:今日からできることを一歩ずつ

 

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、早期発見・早期治療によって確実に予後が改善できる病気です。

この記事でお伝えしたいことを改めて整理します。

  • 小型犬・高齢犬は定期的な心臓検診を受ける
  • ステージB2ではピモベンダンの早期開始が余命を延ばす
  • ステージCでは多剤併用療法でQOLを維持できる
  • 自宅での安静時呼吸数チェックが早期悪化発見につながる
  • 終末期には「苦しみを和らげること」を中心に考える
  • 経済的な準備(保険加入)も動物福祉のひとつ

「あと何年?」という問いへの答えは、今この瞬間からの行動の中にあります。

愛犬とともに過ごす一日一日を、できるだけ豊かなものにするために。

この記事が少しでも飼い主さんの「次の一歩」の助けになれば幸いです。


今すぐできることから始めましょう。 まず、愛犬が眠っているときの呼吸数を1分間測ってみてください。 そして、次の受診時にかかりつけ医に「心臓のエコーを診てほしい」と伝えてみてください。 それが、愛犬の余命を延ばす第一歩になるかもしれません。


参考情報・関連リンク先

  • ACVIM 2019 Consensus Guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs
  • 農林水産省「動物愛護に関する統計」
  • 日本獣医循環器学会(JVCS)
  • 環境省「飼い主のためのペットフード安全ガイドライン」

※この記事は動物福祉の観点から情報提供を目的としています。治療の判断は必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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