猫の血液検査でわかること|腎臓・肝臓・炎症の数値をやさしく解説

「血液検査の結果を見せてもらったけど、数値の意味がよくわからなかった」
そんな経験をされた飼い主さんは、決して少なくありません。
獣医師から「BUNが少し高めです」「ALTの数値が気になります」と言われても、その言葉が頭に残るだけで、家に帰るとどこか不安が拭えない。
猫は言葉で体の不調を伝えることができません。だからこそ、血液検査は「猫が語れない体の声」を読み取るための、最も信頼性の高いツールのひとつです。
この記事では、猫の血液検査でわかることを、腎臓・肝臓・炎症の数値を中心にやさしく解説します。専門用語もひとつひとつ丁寧にほどきながら、あなたが「この数値が何を意味するのか」を自分の言葉で理解できるようにお伝えします。
猫の血液検査でわかることの全体像
血液検査は、猫の体の内側で何が起きているかを数値として可視化する検査です。
大きく分けると、以下の2種類があります。
- CBC(全血球計算):赤血球・白血球・血小板など血液の細胞成分を調べる
- 血液生化学検査:肝臓・腎臓・血糖・電解質など臓器の機能や栄養状態を調べる
多くの動物病院では、年1〜2回の健康診断にこの2種類を組み合わせたパネル検査を推奨しています。
環境省が公表している「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針」においても、飼い主には適切な獣医療を受けさせる責任があることが明記されています。定期的な血液検査は、その責任を果たすための現実的な手段のひとつです。
猫は犬と比べて症状を外に出しにくく、「なんとなく元気がない」と感じた頃にはすでに病気が進行していることがあります。特に腎臓病・肝臓病・炎症性疾患は、初期段階では目に見えるサインが乏しいため、定期的な血液検査による早期発見が命を左右すると言っても過言ではありません。
腎臓に関わる血液検査の数値
BUN(尿素窒素)とは何か
BUN(Blood Urea Nitrogen)は、タンパク質が体内で代謝されたときに生じる老廃物です。通常は腎臓でろ過されて尿として排出されますが、腎機能が低下するとBUNが血液中に蓄積し、数値が上昇します。
猫のBUN基準値:おおよそ16〜36 mg/dL(動物病院や検査機関によって若干異なります)
BUNが高い場合、考えられる主な原因は以下のとおりです。
- 慢性腎臓病(CKD)
- 急性腎不全
- 脱水症状
- 高タンパク食の摂取
重要なのは、BUN単体で腎臓病と断定することはできないという点です。脱水状態や食事内容によっても数値が上がるため、後述するクレアチニンやSDMAと組み合わせて総合的に判断します。
クレアチニン(Cre)でわかる腎機能の実態
クレアチニンは筋肉運動のエネルギー代謝で生まれる老廃物で、BUNと同様に腎臓でろ過されます。
猫のクレアチニン基準値:おおよそ0.8〜1.8 mg/dL
クレアチニンはBUNに比べて食事や脱水の影響を受けにくいため、腎機能の指標としてより信頼性が高いとされています。ただし、筋肉量が少ない高齢猫や体の小さな猫では、腎機能が低下していても数値が低めに出ることがあり、過信は禁物です。
SDMAが変えた腎臓病の早期発見
2015年以降、SDMA(対称性ジメチルアルギニン)という新しいバイオマーカーが普及しました。
SDMAは従来のクレアチニンよりも早期に腎機能低下を検出できるとされており、腎臓の機能が約40%失われた段階で検出できるクレアチニンに対して、SDMAは約25%の機能低下段階で上昇し始めるとの研究データがあります。
この進歩により、猫の腎臓病の早期発見・早期治療が現実的なものになりました。かかりつけの獣医師からSDMAの話が出た場合、それは腎臓の状態をより精密に診ようとしているサインです。
猫の慢性腎臓病(CKD)と数値の読み方
国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)は、猫のCKDをステージ1〜4に分類しており、クレアチニンとSDMAの数値を組み合わせてステージを判断します。
- ステージ1:クレアチニン 1.6 mg/dL未満。症状ほぼなし
- ステージ2:クレアチニン 1.6〜2.8 mg/dL。軽度の症状
- ステージ3:クレアチニン 2.9〜5.0 mg/dL。中等度の症状
- ステージ4:クレアチニン 5.0 mg/dL超。重篤
日本では猫の死因として腎臓病が非常に多く、動物病院での臨床データでも中高齢の猫の3頭に1頭以上が何らかの腎機能低下を抱えているとも言われています。「うちの子はまだ若いから」と思っていても、7歳を超えたら定期的な腎機能チェックを習慣にすることを強くお勧めします。
肝臓に関わる血液検査の数値
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の意味
ALTは肝細胞に多く含まれる酵素で、肝細胞が傷つくと血液中に漏れ出して数値が上昇します。猫の肝臓ダメージを示す最も代表的な指標のひとつです。
猫のALT基準値:おおよそ10〜100 U/L
ALTが高い場合に考えられる原因は以下のとおりです。
- 肝炎(感染性・非感染性)
- 脂肪肝(肝リピドーシス)
- 胆管肝炎
- 薬剤性肝障害
- リンパ腫などの腫瘍
特に猫の肝リピドーシス(脂肪肝)は、数日の絶食だけでも発症することがあり、猫特有の危険な疾患です。食欲が落ちている猫を「しばらく様子見」にしてしまうことが、肝臓病を悪化させるリスクになることを覚えておいてください。
AST・ALP・GGTが示す肝臓と胆道の状態
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は肝臓だけでなく筋肉にも含まれるため、ALTと合わせて判断します。ALTは正常でAST単独で高い場合、筋肉疾患の可能性も考えられます。
ALP(アルカリホスファターゼ)は胆道系のダメージを反映する指標です。猫ではALPが低値を示すことが多く、わずかな上昇でも見逃せないサインとされています。
GGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)は胆管炎・胆道閉塞・肝硬変で上昇します。猫の肝臓・胆道系の評価には、これらを組み合わせて読むことが重要です。
総ビリルビンと黄疸のリスク
ビリルビンは赤血球が分解されるときに生じる色素で、肝臓で処理されて胆汁として排出されます。処理が追いつかなくなると血液中に蓄積し、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」が現れます。
猫の総ビリルビン基準値:おおよそ0〜0.4 mg/dL
黄疸は肉眼でも確認できる場合があります。猫の耳の内側や目の白目部分が黄みがかって見えたら、すぐに動物病院への受診を検討してください。黄疸が現れている段階では、肝臓または胆道系に相応の問題が生じている可能性が高いです。
炎症・免疫に関わる血液検査の数値
白血球数(WBC)が示す体の防衛反応
白血球は体を感染や炎症から守る免疫細胞の総称です。CBC検査で測定され、その数と種類の比率(白血球分画)から体内の異変を推測します。
猫の白血球基準値:おおよそ5,500〜19,500 /μL
白血球数が増加している場合の主な原因は以下のとおりです。
- 細菌感染症
- ウイルス感染症
- 炎症性疾患
- 白血病などの腫瘍性疾患
- ストレス(好中球の一時的増加)
逆に白血球数が低下している場合は、骨髄の異常・重篤なウイルス感染・薬剤の影響などが考えられます。猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染があると、白血球数に大きな変動が生じることがあります。
好中球・リンパ球・好酸球の分画で読む炎症の性質
白血球の種類別の割合(分画)を見ることで、炎症の性質や原因をより具体的に絞り込めます。
- 好中球が増加:細菌感染・急性炎症・ストレス反応
- リンパ球が増加:ウイルス感染・リンパ腫の疑い
- 好酸球が増加:アレルギー・寄生虫感染・好酸球性肉芽腫症候群
猫の好酸球性肉芽腫症候群は、皮膚・口腔内・消化管などに病変が現れる炎症性疾患で、アレルギーや免疫反応との関連が深いとされています。血液検査と皮膚の状態を合わせて診断が進められます。
CRP(C反応性タンパク)と炎症マーカー
人間の検査では一般的なCRPですが、猫では炎症の感度がやや低く、ルーティン検査に含まれていない動物病院も多いです。代わりに、SAA(血清アミロイドA)が猫の急性炎症マーカーとして注目されています。
炎症の原因を探るためには、血液検査だけでなくレントゲン・超音波検査・尿検査を組み合わせることが一般的です。血液検査は「異常がある」というアラームを鳴らす役割を担い、そこから原因を特定していく流れになります。
血液検査の数値を正しく読むために知っておきたいこと
基準値はあくまで「目安」である
検査結果に記載される基準値は、統計的に健康とされる集団の数値の範囲を示したものです。個体差や年齢・品種・体格によって最適な値は異なります。
たとえば、マッチョなメインクーンとひょろりとしたアビシニアンでは、筋肉量の差からクレアチニンの正常域が異なることもあります。「基準値内だから安心」ではなく、過去の数値との比較(トレンド)を大切にする視点が重要です。
かかりつけの獣医師に「今回の数値は前回と比べてどう変化していますか」と聞くことが、より深い理解への第一歩になります。
検査のタイミングと条件も数値に影響する
猫の血液検査は、できれば絶食状態(最低4〜6時間)で受けることが推奨されています。食後に採血すると、血糖値や中性脂肪・一部の肝酵素が影響を受けることがあります。
また、動物病院での緊張やストレスにより、白血球数(特に好中球)が一時的に増加することもあります。これを「ストレス白血球像」と呼び、病的な炎症と区別する必要があります。
何歳から始めるべきか?検査の頻度の目安
環境省のガイドラインや獣医師の推奨を参考にすると、以下のような頻度が一般的です。
- 1〜6歳(成猫期):年1回の健康診断に血液検査を組み込む
- 7〜10歳(シニア期):年2回を推奨。腎臓・肝臓の経過観察が重要
- 11歳以上(高齢期):3〜6か月ごとの定期検査。SDMAや尿検査との併用を検討
「まだ症状が出ていないから」という理由で検査を先延ばしにすることが、最もリスクの高い選択になり得ます。早期発見・早期治療が、猫のQOL(生活の質)と寿命に直結することは、多くの臨床データが示しています。
血液検査の結果を受け取ったあとにすべきこと
検査結果を受け取ったとき、数値が基準値を外れていても、すぐに悲観する必要はありません。大切なのは、獣医師と一緒に「次のステップ」を決めることです。
具体的には以下の行動が有効です。
- 今回の数値と過去の数値を比較してもらう
- 必要に応じて追加検査(尿検査・超音波・X線)を依頼する
- 食事管理(腎臓サポート食など)の相談をする
- 次回の検査スケジュールを確認する
また、自宅での観察も重要な補完情報になります。飲水量の変化・排尿の量と頻度・食欲・体重の増減は、血液検査の数値と照らし合わせて有用な手がかりになります。気になる変化があればスマホでメモや動画に残しておくと、診察時に伝えやすくなります。
まとめ|猫の血液検査は「体の声を聴く」行為です
猫の血液検査でわかることは、腎臓・肝臓・炎症の状態をはじめ、貧血・感染・免疫の異常など非常に広範囲にわたります。
この記事で解説した主なポイントを振り返ります。
- BUN・クレアチニン・SDMAで腎機能の状態を多角的に把握できる
- ALT・AST・ALP・GGTで肝臓と胆道系の健康状態がわかる
- 白血球数と分画で炎症の有無や性質を推測できる
- 基準値はあくまで目安。過去との比較(トレンド)を大切にする
- 7歳以上のシニア猫は年2回以上の検査を検討する
猫は不調を隠す生き物です。だからこそ、私たち飼い主が「異変に気づく目」を持つことが、最大の愛情表現のひとつになります。
今日この記事を読んだことを、かかりつけの動物病院への電話のきっかけにしてみてください。
定期的な血液検査という小さな習慣が、あなたの大切な猫との時間をずっと豊かにしてくれるはずです。
この記事の内容は一般的な情報提供を目的としています。個々の検査結果の解釈や治療方針については、必ずかかりつけの獣医師にご相談ください。
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