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ネスレ アニマルウェルフェア:大企業の変革と私たち消費者が持つ力

ネスレ アニマルウェルフェア

 

 

はじめに:なぜ今、大企業がアニマルウェルフェアに注目するのか

 

近年、世界中の大企業がアニマルウェルフェア(動物福祉)に積極的に取り組むようになっています。ネスレをはじめとする食品業界の巨人たちが、なぜ今、動物の福祉に力を入れているのでしょうか。その答えはシンプルです。消費者のニーズに応えるためです。

 

アニマルウェルフェアとは、動物が心身ともに健康で、自然な行動ができ、苦痛やストレスから解放された状態を指します。畜産業界においては、動物たちが適切な飼育環境で育てられ、尊厳を持って扱われることを意味します。

 

この概念は、単なる理想論ではありません。今や世界的な潮流となり、企業戦略の中心に位置づけられるようになっています。特にネスレのような多国籍企業にとって、アニマルウェルフェアへの取り組みは、ブランド価値を守り、持続可能なビジネスを展開するために不可欠な要素となっているのです。

 

 

ネスレのアニマルウェルフェアへの取り組み

 

ネスレの基本方針

ネスレは、世界最大の食品・飲料会社として、サプライチェーン全体でアニマルウェルフェアの向上に取り組んでいます。同社は「ネスレ アニマルウェルフェア コミットメント」を掲げ、以下のような具体的な目標を設定しています。

  • 畜産動物の飼育環境の改善
  • ケージフリー卵の使用拡大
  • 動物の輸送時間の短縮
  • 適切な給餌と水の提供
  • 疾病予防と治療へのアクセス保証

 

具体的な施策と進捗

ネスレは、乳製品、食肉、卵、魚介類など、動物由来の原材料を使用する全ての製品において、アニマルウェルフェアの基準を設けています。サプライヤーに対しても厳格な要求を行い、定期的な監査を実施することで、基準の遵守を徹底しています。

 

特に注目すべきは、ケージフリー卵への移行です。多くの国で、従来のバタリーケージ(狭いケージ)で飼育された鶏の卵から、より広い空間で自由に動き回れる環境で飼育された鶏の卵へと切り替えを進めています。

 

また、酪農においても、牛が快適に過ごせる環境づくりを推進しています。適切な休息スペース、清潔な飼育環境、放牧の機会の提供などが含まれます。

 

 

転換点:キットカットとオランウータンの物語

 

グリーンピースの衝撃的な動画

ネスレのアニマルウェルフェアや環境保全への取り組みを語る上で、避けて通れない出来事があります。それが2010年のグリーンピースによるキャンペーンです。

 

グリーンピースは、ネスレの人気商品「キットカット」に使用されているパーム油の生産が、インドネシアの熱帯雨林破壊につながっており、その結果、オランウータンの生息地が奪われていると指摘しました。公開された動画では、キットカットを食べようとするとオランウータンの指が出てくるという衝撃的な映像が使われ、瞬く間に世界中に拡散されました。

 

この動画は、消費者に大きな衝撃を与えました。日常的に購入している製品が、遠く離れた場所で環境破壊や動物の生息地喪失につながっているという現実を、多くの人々が初めて認識したのです。

 

 

ネスレの対応と方針転換

当初、ネスレは動画の削除を試みましたが、それがかえって反発を招き、ソーシャルメディア上で批判が拡大しました。しかし、ネスレはこの危機を転換点として捉え、真摯に問題に向き合う姿勢を示しました。

 

同社は、グリーンピースや他のNGOとの対話を開始し、持続可能なパーム油調達に関する包括的な方針を策定しました。2010年5月、ネスレは「森林破壊ゼロ」を目指すことを宣言し、サプライチェーンから森林破壊につながるパーム油を排除することを約束したのです。

 

 

現在の環境保全への取り組み

あれから15年近くが経過した今、ネスレは環境問題に「ものすごく力を入れて」います。パーム油に関しては、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証を受けた持続可能なパーム油の使用を推進し、サプライチェーンの透明性を高めています。

 

さらに、ネスレは気候変動対策、水資源の保全、プラスチック廃棄物の削減など、環境保全の幅広い分野で野心的な目標を設定しています。2050年までにネットゼロエミッション(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成するという目標も掲げています。

 

この変化は、まさに消費者のニーズが企業の方針を変えた好例と言えるでしょう。

 

 

消費者の声が企業を動かす:変革のメカニズム

 

ニーズが届けば企業は変わる

ネスレの事例が示すように、消費者の声は企業の方針を変える力を持っています。企業は利益を追求する組織ですが、同時に消費者の信頼とサポートなしには存続できません。特に現代では、ソーシャルメディアの普及により、消費者の声が瞬時に世界中に広がる時代となっています。

 

企業が環境保全やアニマルウェルフェアに取り組む背景には、以下のような要因があります。

 

ブランドイメージの保護:環境や動物福祉を軽視する企業は、消費者から批判を受け、ブランド価値が低下するリスクがあります。

 

法規制への対応:欧州を中心に、動物福祉や環境保全に関する法規制が強化されており、企業はこれに対応する必要があります。

 

投資家の要求:ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が主流となり、投資家も企業に持続可能性を求めるようになっています。

 

従業員のモラル:特に若い世代の従業員は、社会的責任を果たす企業で働きたいという価値観を持っています。

そして最も重要なのが、消費者の購買行動の変化です。倫理的な消費を重視する消費者が増えており、企業は彼らのニーズに応えなければ市場での競争力を失うのです。

 

 

大手企業全体への波及効果

ネスレに限らず、他の大手企業も環境保全やアニマルウェルフェアに積極的に取り組み始めています。

 

ユニリーバは、2020年までに全てのケージ飼育卵を段階的に廃止すると発表しました。マクドナルドやスターバックスなどの外食チェーンも、ケージフリー卵への移行を進めています。

 

食肉業界では、タイソンフーズやカーギルなどの大手企業が、動物福祉の改善に向けた投資を拡大しています。また、植物由来の代替肉への投資も増えており、ビヨンドミートやインポッシブルフーズなどのスタートアップが急成長しています。

 

小売業界でも、ウォルマートやテスコなどが、サプライヤーにアニマルウェルフェア基準の遵守を求めるようになっています。

 

このように、一つの企業が取り組みを始めると、他の企業も真似をするという連鎖反応が起きています。これは、業界内での競争圧力と、消費者からの期待の高まりが相まって生じる現象です。

 

 

私たちの選択が未来を創る:倫理的消費のすすめ

 

意識的な消費の重要性

私はそういう企業にお金を使いたい。この思いを持つ消費者が増えることが、さらなる企業変革を促します。

 

私たちは日々の買い物を通じて、どのような世界を望むのかを表明しています。環境保全やアニマルウェルフェアに真摯に取り組む企業の製品を選ぶことは、単なる消費行動ではなく、より良い未来への投票なのです。

 

倫理的消費(エシカル消費)とは、自分の購買行動が社会や環境に与える影響を考慮し、責任ある選択をすることです。具体的には以下のような行動が含まれます。

  • 動物福祉に配慮した製品の選択(フリーレンジ卵、グラスフェッドビーフなど)
  • 環境負荷の低い製品の購入(持続可能な認証を受けた製品)
  • フェアトレード製品の支持
  • 地産地消の実践
  • 過剰包装の少ない製品の選択

 

情報を得て、声を上げる

倫理的消費を実践するためには、まず情報を得ることが重要です。企業のウェブサイトや持続可能性レポートを確認したり、第三者機関による評価を参照したりすることで、各企業の取り組みを知ることができます。

 

また、企業に直接声を届けることも有効です。SNSでの投稿、カスタマーサービスへの問い合わせ、株主総会での質問など、様々な方法で消費者の期待を伝えることができます。

 

特に日本では、まだアニマルウェルフェアへの認識が欧米ほど高くないと言われています。だからこそ、そういう考えの方が行動することの意義は大きいのです。

 

 

完璧を目指さず、できることから始める

倫理的消費を実践しようとすると、「完璧にできない」という理由で諦めてしまう人もいます。しかし、重要なのは完璧を目指すことではなく、できる範囲で意識的な選択をすることです。

 

すべての買い物で最も倫理的な選択をするのは難しいかもしれません。しかし、週に一度、あるいは特定の商品カテゴリーだけでも意識的に選ぶことから始められます。小さな一歩が、やがて大きな変化につながります。

 

 

ネスレの取り組みから学ぶ:企業変革の教訓

 

危機を機会に変える

ネスレのキットカット騒動は、企業にとって深刻な危機でした。しかし、ネスレはこれを単なる問題として片付けるのではなく、組織全体を見直す機会として捉えました。

 

この姿勢は、現代の企業経営において重要な教訓を提供しています。消費者からの批判を恐れるのではなく、それを建設的なフィードバックとして受け止め、改善につなげることができる企業こそが、長期的に成功するのです。

 

 

透明性とコミュニケーション

ネスレは現在、アニマルウェルフェアや環境保全に関する取り組みを積極的に公開しています。年次報告書や持続可能性レポートを通じて、目標の進捗状況や課題を透明に開示しています。

 

この透明性は、消費者との信頼関係を構築する上で不可欠です。完璧な企業は存在しませんが、誠実に努力し、その過程を共有する企業は、消費者から支持を得やすいのです。

 

 

サプライチェーン全体への影響

大企業であるネスレがアニマルウェルフェアや環境保全に取り組むことの影響は、同社だけにとどまりません。ネスレのサプライヤーや協力企業も、同様の基準を満たす必要があります。

 

これにより、業界全体の標準が底上げされ、より多くの動物たちがより良い環境で飼育されるようになります。また、環境負荷の低減も、サプライチェーン全体で実現されます。

 

 

日本におけるアニマルウェルフェアの現状と課題

 

世界と比較した日本の位置づけ

日本では、アニマルウェルフェアへの取り組みが欧米諸国と比べて遅れていると指摘されています。EU諸国では、動物福祉に関する厳格な法規制が整備されており、例えば妊娠豚用ストールの使用禁止やバタリーケージの段階的廃止などが義務付けられています。

 

一方、日本では法的な規制は限定的で、主に業界の自主的な取り組みに依存している状況です。しかし、近年は日本でも意識が高まりつつあり、大手小売業や外食チェーンが独自の基準を設けるケースも増えています。

 

 

日本企業の取り組み

ネスレ日本も、グローバルな方針に沿ってアニマルウェルフェアの向上に取り組んでいます。日本市場向けの製品においても、持続可能な原材料調達を推進しています。

 

その他の日本企業も、徐々に動き始めています。例えば、セブン&アイ・ホールディングスは2030年までに全ての鶏卵をケージフリーに切り替えると発表しました。イオンも同様の目標を掲げています。

 

 

消費者意識の向上が鍵

日本でアニマルウェルフェアをさらに推進するためには、消費者の意識向上が不可欠です。まだ多くの消費者が、自分の購買行動と動物福祉の関連性を十分に認識していません。

 

教育や情報提供を通じて、より多くの人々がアニマルウェルフェアについて理解し、意識的な選択をするようになることが期待されます。

 

 

アニマルウェルフェアがもたらす多面的なメリット

 

動物にとってのメリット

言うまでもなく、アニマルウェルフェアの最大の受益者は動物たちです。より広い空間、自然な行動の機会、ストレスの軽減など、生活の質が大幅に向上します。

 

適切な飼育環境は、動物の身体的健康だけでなく、精神的な健康にも寄与します。ストレスの少ない環境で育った動物は、攻撃的な行動が減り、より穏やかに過ごすことができます。

 

 

環境へのメリット

アニマルウェルフェアに配慮した畜産は、多くの場合、環境負荷も低い傾向にあります。放牧システムは、適切に管理されれば、土壌の健康を維持し、炭素を隔離する効果もあります。

 

また、動物福祉を重視する生産者は、持続可能性全般に対する意識も高いことが多く、水資源の保全や生物多様性の維持にも配慮します。

 

 

食品の質と安全性

ストレスの少ない環境で健康的に育った動物からは、質の高い畜産物が得られます。また、過密飼育を避けることで、疾病の蔓延リスクが低減し、抗生物質の使用量も減少する傾向にあります。

 

これは食品安全性の向上にもつながり、最終的には消費者にとってもメリットとなります。

 

 

社会的・経済的メリット

アニマルウェルフェアへの取り組みは、企業のブランド価値を高め、消費者の信頼を獲得することにつながります。これは長期的な経済的成功の基盤となります。

 

また、倫理的な企業活動は、従業員のモラルや満足度を高め、優秀な人材の確保にも寄与します。

 

 

未来への展望:持続可能な食料システムに向けて

 

技術革新の役割

アニマルウェルフェアの向上には、技術革新も重要な役割を果たします。精密畜産技術(プレシジョン・ライブストック・ファーミング)により、個々の動物の健康状態をモニタリングし、早期に問題を発見できるようになっています。

 

また、代替タンパク質の開発も進んでいます。植物由来の代替肉、培養肉、発酵技術を用いたタンパク質など、動物を飼育せずに栄養価の高い食品を生産する技術が急速に発展しています。

 

 

政策とガバナンスの重要性

企業の自主的な取り組みに加えて、政府による適切な規制とインセンティブも重要です。アニマルウェルフェア基準の法制化、補助金制度の整備、教育プログラムの実施などが求められます。

 

国際的な協調も必要です。貿易において、動物福祉基準が考慮されることで、グローバルな水準の向上が期待できます。

 

 

私たち一人一人の役割

最終的に、持続可能な食料システムの実現は、私たち一人一人の選択にかかっています。そういう考えの方が行動すると他の企業も真似をするという連鎖が、社会全体の変革を生み出します。

 

消費者として、投資家として、従業員として、市民として、私たちには様々な立場から影響を与える力があります。それぞれの立場で、できることから始めることが重要です。

 

 

まとめ:ネスレの変革から学ぶ、私たちの力

 

ネスレのアニマルウェルフェアへの取り組みは、企業が消費者の声に真摯に向き合い、変革を遂げることができることを示す好例です。かつてのキットカット騒動から学び、今では環境保全やアニマルウェルフェアのリーダーとして認識されるまでになったネスレの変化は、消費者の力の大きさを物語っています。

 

ニーズが届けば企業の方針が変わる。この単純な真理が、実際に世界を変えつつあります。ネスレに限らず、多くの大手企業が環境保全やアニマルウェルフェアに取り組み始めているのは、それが単なる善意からではなく、消費者や社会からの期待に応えるためです。

 

私はそういう企業にお金を使いたいという一人一人の思いが集まることで、市場全体が変化します。そして、そういう考えの方が行動すると他の企業も真似をするという波及効果により、業界全体、さらには社会全体の標準が引き上げられていくのです。

 

アニマルウェルフェアは、動物のためだけでなく、環境、私たちの健康、そして未来の世代のためにも重要です。日々の小さな選択が、大きな変化を生み出す力を持っています。

 

情報を得て、意識的に選択し、声を上げることで、私たちは望む未来を創ることができます。ネスレの変革は、その可能性を示す希望の物語なのです。

 

完璧を目指す必要はありません。できることから、一歩ずつ。その積み重ねが、動物にとっても、地球にとっても、私たちにとっても、より良い未来を築いていくのです。

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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