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熊の駆除は炎上するのに鹿の駆除はなぜ問題にならない?山が死ぬ日本の現実

熊と鹿の駆除問題

 

 

 

はじめに――あなたが感じた「違和感」は正しい

 

「熊が出た、駆除された」というニュースが流れるたびに、SNSは怒りの声で溢れます。

「かわいそう」「なぜ殺すのか」「共存できないのか」――。
コメント欄は荒れ、駆除を行った自治体や猟師への批判が殺到します。

 

しかし、同じ時期に「鹿を2万頭駆除」というニュースが出ても、ほとんど話題になりません。
炎上もなく、批判も少なく、静かに処理されていきます。

この非対称な反応は、なぜ生まれるのでしょうか?

 

そして、もっと重要な問いがあります。
「感情的に守りたい」という気持ちと、「生態系を守る」という現実は、どう折り合いをつけるべきなのか。

この記事では、熊と鹿の駆除をめぐる社会的反応の違いを整理しながら、

 
「数を減らさないと山が死ぬ」という現実を、データと専門知識をもとに丁寧に解説します。

動物福祉の観点からも、感情論だけで終わらせない視点からも、
この問題と正面から向き合っていきましょう。

 

現状の問題――データが語る、日本の野生動物の爆発的増加

 

鹿の個体数は30年で約3倍に膨らんだ

 

環境省の「鳥獣の保護及び管理をめぐる現状」によると、
ニホンジカの推定生息数は1990年代初頭には約150万頭程度でしたが、
2014年には約305万頭(北海道含む)にまで増加したとされています。

その後、官民挙げての捕獲強化により一定の抑制効果は出ているものの、
依然として農林業や自然植生への深刻な被害が続いています。

 

農林水産省のデータ(2022年度)によれば、

  • 野生鳥獣による農作物被害総額:約156億円
  • そのうち鹿による被害:約54億円(約35%)
  • 熊による被害:約7億円(約4%)

金額だけ見ても、鹿が与えるダメージがいかに大きいかがわかります。

 

熊の生息数と出没件数

 

一方、ツキノワグマの全国推定生息数は約1万5,000頭〜2万頭とされており(環境省・2022年推計)、
鹿と比べれば絶対数ははるかに少ない動物です。

しかし2023年、熊の出没件数・人身被害件数は記録的な水準に達しました。
環境省の発表では、2023年度の人身被害は219件・240人(死者6人)と、
統計開始以来最多となりました。

社会的関心が高まるのは当然ですが、だからこそ「感情」と「科学的管理」を切り分けることが重要です。

 

植生崩壊――「山が死ぬ」は比喩ではない

 

鹿の過剰増加が引き起こす問題で、最も深刻かつ知られていないのが植生崩壊です。

鹿は樹木の樹皮を食べる「樹皮剥ぎ」や、
低木・下草を根こそぎ食べる「下層植生の消失」を引き起こします。

 

その結果として、

  • 表土の流出・土砂崩れリスクの増大
  • 水源涵養機能(保水力)の低下
  • 在来植物の絶滅・生物多様性の喪失
  • 森林の若木が育たず、森が更新されなくなる

という連鎖が起きます。

 

奈良県の吉野山、長野県の一部地域、北海道の知床半島など、
全国各地で「鹿が入った山」は明確に植生が変わっています。

 

林野庁の調査では、全国のスギ・ヒノキ人工林において
鹿による樹皮剥ぎ被害が確認された割合は調査地の約40%以上にのぼるとも報告されています。

 

「山が死ぬ」とは、比喩でも誇張でもありません。
植生が失われた山は、保水力を失い、土砂を流し、川を濁らせ、
最終的には人間の生活圏にも影響を及ぼします。

 

よくある疑問とその回答(Q&A)

 

Q1. なぜ熊の駆除は炎上して、鹿の駆除は話題にならないの?

 

A. 人間の「共感バイアス」と「知名度」が大きく影響しています。

心理学では、見た目が愛らしく、表情が読み取りやすい動物ほど共感を得やすいという
「かわいさバイアス(Cute Response Bias)」が存在することが知られています。

熊は、大きな目、丸い耳、ぬいぐるみのような体型を持つことから、
テレビやSNSを通じてポジティブなイメージが根付いています。

 

一方、鹿も決してかわいくない動物ではありませんが、
「農家を困らせる害獣」「山を荒らす存在」としてのイメージが先行しており、
メディアでの報じられ方が感情を呼びにくい構造になっています。

また、熊の被害は「人が襲われた」という直接的なニュースと結びつくため、
「駆除への怒り」と「被害への恐怖」が混在した複雑な感情が生まれやすいのです。

 

Q2. 駆除しなくても、自然に個体数は調整されないの?

 

A. 現代の日本では、自然調整機能はほぼ失われています。

本来、野生動物の個体数は天敵・食料・縄張りの三要素によって自然調整されます。

しかし日本では、

  • オオカミが絶滅(明治38年頃に最後の記録)し、大型哺乳類の天敵がいない
  • 農業技術の向上で、山麓部に食料が豊富になった
  • 温暖化による積雪減少で、冬期の自然死亡率が下がった
  • 狩猟者の高齢化・減少で、人による調整機能が低下した

という複合的な要因により、個体数の自然な上限が機能しにくい状態になっています。

人間が環境を変えた結果、人間が管理責任を持たざるを得ない。
これが現代の野生動物管理の根本的な構造です。

 

Q3. 共存という選択肢はないの?

 

A. 共存は理想ですが、「共存できる個体数」というものが存在します。

動物福祉の観点からも、共存は大切な目標です。
しかしそれは「数を増やし続けて共存する」ことではありません。

 

適正な個体数の中で、動物も人も持続可能な形で暮らす――
これが科学的な意味での「共存」です。

適正数を超えた個体数は、むしろ動物同士の食料争いや、
栄養不足による個体の衰弱・苦痛を増やします。

「駆除しない=動物に優しい」は、必ずしも正しくありません。

 

具体的な野生動物管理の手順と方法

 

ステップ1:生息数調査と目標個体数の設定

 

都道府県が主体となり、環境省のガイドラインに基づいて生息数調査を実施します。
「第二種特定鳥獣管理計画」に基づき、目標個体数(管理目標)が設定されます。

例えば北海道では、エゾシカ管理計画において
「農業・生態系被害を許容レベルに抑えるための目標密度」を設定し、計画的に捕獲を実施しています。

 

ステップ2:捕獲方法の選択

 

捕獲方法は主に以下の3つです。

  • 銃猟(ライフル・散弾銃):即死性が高く、苦痛が少ないとされる
  • わな猟(くくりわな・箱わな):捕獲後の処理が必要
  • 囲いわな(大型):一度に多数を捕獲可能、管理が楽

動物福祉の観点では、できる限り苦痛を与えない方法を選択することが求められており、
農林水産省・環境省の指針でもこの点が明記されています。

 

ステップ3:捕獲後の利活用(ジビエ)

 

駆除された鹿や猪の肉を食肉として利用するジビエ活用が全国的に広がっています。

農林水産省の「ジビエ利用拡大に向けた取組」によれば、
2021年度の国産ジビエ利用量は過去最高の2,144トンを記録しました。

「殺すだけ」でなく「命を資源として活かす」という考え方は、
動物福祉の観点からも重要な視点です。

 

ステップ4:防護柵・生息域管理との組み合わせ

 

駆除だけでなく、

  • 農地への電気柵・金属柵の設置
  • 山と里の緩衝地帯(バッファーゾーン)の整備
  • 耕作放棄地の管理(鹿の隠れ場所を減らす)

といったハード面での対策との組み合わせが、長期的な管理には不可欠です。

 

駆除政策のメリットとデメリット

 

メリット

  • 農作物・林業被害の軽減:直接的な経済損失を抑えられる
  • 植生の回復:過剰採食が減ることで、下層植生が復活しはじめる
  • 生物多様性の維持:在来植物が守られることで、昆虫・鳥類も戻ってくる
  • 人身被害リスクの低下:特に熊では、市街地出没・人身事故を減らす効果がある
  • ジビエ産業の振興:地域経済への貢献

デメリット・課題

  • 感情的反発・社会的批判:特に熊では、SNS炎上・自治体へのクレームが多発
  • 狩猟者不足:全国の狩猟者登録数は2000年代以降減少傾向(環境省データ)。若手育成が急務
  • 捕獲コストの増大:予算・人手の確保が困難な自治体が多い
  • 個体数把握の難しさ:山岳地帯での正確な生息数調査は技術的・コスト的に困難
  • 動物福祉上の課題:わな猟での長時間拘束、不適切な止め刺しなど、改善が必要な現場も存在する

 

エピソード――ある猟師の言葉

 

長野県の山間部で30年以上ジビエ猟を続けてきた猟師・田中さん(仮名・62歳)は、
こんなことを話してくれました。

「若い頃は鹿が出ると嬉しかった。今は、山に入るたびに悲しくなる。
昔は膝丈まであった笹薮が、今はほとんどない。鹿が全部食べちまったんだ。
俺たちが撃つのは、山を守るためだよ。鹿が憎いんじゃない。
ただ、このままじゃ山が本当に死んでしまう」

田中さんが指差した斜面には、たしかに下草がなかった。
むき出しの土が、大雨のたびに少しずつ流れていくのが見えました。

 

「かわいそう」という感情を否定はしません。
しかし、その感情だけで政策を語るとき、私たちは見えていないものがあります。
山の中で起きていることを、もっと多くの人に知ってほしい――
そう田中さんは言っていました。

 

注意点――「駆除すれば解決」でもない

 

ここまで読んで、「じゃあどんどん駆除すればいい」と思った方、少し立ち止まってください。

駆除は「管理手段のひとつ」であり、万能薬ではありません。

注意すべき点を整理します。

 

過剰駆除による個体群崩壊リスク

 

特に熊のように繁殖率が低い動物は、
個体数が急激に減少すると回復に長い時間がかかります。

環境省のツキノワグマ保護管理指針でも、
「地域個体群の存続を脅かさない範囲での管理」が大前提とされています。

「害獣だから全滅させよう」という発想は、生態系のバランスを別の形で崩します。

 

動物福祉基準の担保

 

捕獲・処理の過程で、動物に不必要な苦痛を与えないことは、
国際的な動物福祉基準(OIE・世界動物保健機関 基準)でも求められています。

日本でも「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」により、
適切な方法での捕獲・処理が義務付けられています。

「管理のための駆除」と「不必要な虐待」は、明確に区別されなければなりません。

 

生息地保全との両輪で考える

 

駆除だけ進めても、生息地が適切に管理されていなければ根本解決にはなりません。

森林整備、緩衝帯の維持、耕作放棄地対策、
そして人間側の行動変容(残飯・生ゴミの管理など)も同時に必要です。

 

今後の社会的視点――動物福祉と生態系管理の新しい関係

 

「駆除か保護か」という二項対立を超えて

 

日本社会では長らく、
「動物を守る派(保護派)」vs「管理・駆除派(利用派)」という対立構造がありました。

しかし世界の潮流は、この二項対立を超えつつあります。

「アニマルウェルフェア(動物福祉)を確保しながら、科学的根拠に基づく個体数管理を行う」
これが国際スタンダードになりつつあります。

 

EUでは、野生動物の個体数管理において動物福祉アセスメントを義務付ける議論が進んでおり、
スウェーデン・ノルウェーなどの北欧諸国では、「ウェルフェア・ハンティング(福祉的猟)」の概念が広まっています。

 

日本での取り組みの最前線

 

国内でも、変化の兆しはあります。

  • 環境省「シカ・イノシシ対策強化プロジェクト」:科学的管理の推進
  • ジビエ認証制度の整備:命を無駄にしない文化の醸成
  • 狩猟者育成プログラム:若い世代の参入促進
  • ICT・ドローンを活用した個体数モニタリング:精度の高い管理を目指す

また、一部の大学や研究機関では、
「野生動物管理学」という専門分野が確立され、
感情論と科学論を統合する人材育成が始まっています。

 

SNS時代の「動物報道」リテラシー

 

熊の駆除炎上問題を考えるとき、避けられないのがメディアリテラシーの問題です。

インパクトのある一枚の写真、短い動画クリップ。
それだけで感情は動きます。しかし、その背景にある生態系の現実は、
140文字では伝わりません。

私たちひとりひとりが、野生動物に関するニュースを見るとき、
「この動物の個体数は?」「地域の生態系にどんな影響がある?」
「どんな管理計画のもとで行われた駆除なのか?」

そういった問いを持てるようになることが、
動物福祉と生態系管理を両立させる社会への第一歩だと思います。

 

まとめ――感情と科学の両方で、山を守る

 

この記事で伝えたかったことを、最後に整理します。

熊の駆除が炎上し、鹿の駆除が話題にならない理由は、
私たちの「共感バイアス」と、情報の非対称性にあります。

 

鹿の過剰増加が山を死なせているのは、データが証明する現実です。
植生崩壊、土砂流出、生物多様性の喪失――
これは遠い話ではなく、今この瞬間も進行中の問題です。

 

そして、「駆除か保護か」という問いの立て方自体が、古いのかもしれません。
動物福祉を守りながら、科学的根拠に基づいて個体数を管理する。
その両立を目指すことが、現代の野生動物管理に求められていることです。

感情は大切です。「かわいそう」という気持ちは、動物への敬意の表れでもあります。
しかし、その感情を行動に変えるとき、私たちには正確な情報と構造的な理解が必要です。


まずは一歩――あなたの地域の野生動物管理計画を調べてみてください。
都道府県の環境部局のウェブサイトで公開されているはずです。
そこに書かれている数字の意味を理解することが、山と動物と人間が共存できる未来への、確かな入り口になります。


参考資料

  • 環境省「鳥獣の保護及び管理をめぐる現状」
  • 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況調査」(2022年度)
  • 農林水産省「国産ジビエ認証制度・利用量調査」
  • 環境省「ツキノワグマの保護管理に関する基本方針」
  • 林野庁「森林・林業白書」
  • 環境省「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン」

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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