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日本の野良犬の現状と殺処分数の推移|減少が続く中で残る深刻な課題

日本の野良犬の現状と殺処分数の推移

 

「野良犬」という言葉を聞いて、あなたはどんな光景を思い浮かべますか。

昭和の頃であれば、街角で野良犬を見かけることは珍しくありませんでした。 しかし今、都市部で野良犬に出会う機会はほとんどありません。

数字だけを見れば、日本の野良犬・殺処分問題は「改善している」と言えます。 しかし、現場の実情はそれほど単純ではありません。

 

この記事では、環境省の公式データをもとに、日本の野良犬の現状殺処分数の推移を正確に整理したうえで、いまなお残る構造的な課題を解説します。

感情論ではなく、事実と構造から問題を理解してほしい。 そのことを念頭に置きながら、丁寧に書きました。


日本の野良犬・殺処分の現状|最新データを読み解く

 

2024年度の最新データ(環境省発表)

環境省が公表した最新の統計データによると、2024年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)の数字は以下の通りです。

  • 保健所等への犬の引き取り数:19,352頭
  • 殺処分数:1,964頭
  • 殺処分率:約10%

つまり、引き取られた犬の10頭に1頭以上が、いまだに殺処分されているという現実があります。

一日平均に換算すると、毎日5頭以上の犬が命を奪われている計算になります。 数字が小さく見えても、その重みは軽くありません。

 

殺処分数の推移|20年で70分の1以下に

野良犬の殺処分数は、過去20年で劇的に減少しました。

  • 2004年度:約155,870頭
  • 2010年度:約60,000頭(推計)
  • 2015年度:約15,000頭(推計)
  • 2023年度:約2,118頭
  • 2024年度:1,964頭(最新)

2004年と2024年を比較すると、殺処分数は70分の1以下にまで縮小しています。 これは、行政・民間団体・個人ボランティアが長年にわたって積み重ねてきた成果です。

しかし、ここで立ち止まって考えなければいけないことがあります。

「減っている」ことと「問題が解決している」ことは、まったく別の話です。


野良犬が多い地域・少ない地域の格差

 

殺処分数の都道府県別格差

日本の野良犬問題と殺処分の現状において、特に深刻なのが地域格差です。

 

殺処分数が多い都道府県(令和4年度データ)

  • 徳島県:342頭
  • 香川県:273頭
  • 長崎県:297頭
  • 愛媛県:224頭

四国地方の香川・愛媛・徳島の3県だけで、全国の殺処分数の約26%以上を占めています。

これらの県に収容されている犬の多くは「野犬(のいぬ)」と呼ばれる、人に慣れていない犬たちです。

 

なぜ四国に野良犬が多いのか

四国に野犬が多い理由には、複数の要因が絡み合っています。

  • 温暖な気候で野犬が生存しやすい
  • 雑木林や河川敷など野犬の棲家となる場所が多い
  • 住宅街と野犬の棲家が近く、無責任な餌やりが絶えない
  • 野犬は攻撃性が高く、一般家庭への譲渡が難しい

広島県のような自治体は、以前は香川県と同規模の野犬捕獲数を誇りながら、組織的な取り組みによって殺処分ゼロを達成しています。 同じ条件下でも、行政の姿勢と民間連携の有無で結果がまったく異なることを、この事実は示しています。

 

殺処分ゼロを達成している地域

一方で、殺処分ゼロを長期間維持している自治体も存在します。

 

広島県は、2016年度以降、炭酸ガスによる殺処分を一切行っていません。 動物愛護団体や個人ボランティアとの緊密な連携により、収容犬のほぼ全頭を譲渡につなげています。

 

岡山市では、2017年から殺処分ゼロを達成。 保健所が独自に「ZOOねるパーク」という訓練施設を開設し、野犬を捕獲後に社会化訓練を施してから里親に渡す仕組みを構築しました。

 

神奈川県・静岡県・山梨県などは、自治体と動物愛護団体が積極的に保護・譲渡会を連携して行うことで、殺処分率を極めて低い水準に抑えています。

 

また、東京都に近い茨城県・千葉県でも年間1,000頭以上の野良犬を捕獲しているというデータがあり、野良犬問題は「地方だけの問題」ではないことが分かります。


野良犬・殺処分が生まれる構造的な理由

 

保健所に犬が持ち込まれる経路

保健所に犬が収容される経路は、大きく2つに分かれます。

 

① 飼い主からの引き渡し(全体の約10〜12%)

  • 飼い主の死亡・病気
  • 引越しや経済的理由
  • 飼育放棄・責任の放棄

② 所有者不明の犬(全体の約88〜90%)

  • 野犬・野良犬の捕獲
  • 迷子犬
  • 負傷した犬の保護

2024年度の引き取り数19,352頭のうち、約2,010頭が飼い主からの引き渡しです。 つまり、年間2,000頭もの飼い犬が、飼い主の判断で保健所に引き渡されているという事実があります。

「最後まで責任を持って飼う」という当たり前の誓いが、守られていないケースが後を絶ちません。

 

殺処分が行われる3つの分類(環境省の定義)

環境省は、殺処分に至るケースを次の3つに分類しています。

 

分類①:譲渡が適切でない犬 治癒の見込みがない病気、攻撃性が高い犬など。 野犬出身の犬や、闘犬として使われた犬、重篤な感染症を持つ犬などが該当します。

 

分類②:家庭で飼養できるが処分せざるを得ない犬 施設の収容限界、里親が見つからない高齢犬・大型犬、人に慣れていない犬など。 本来であれば助かるはずの命が、制度の限界によって失われています。

 

分類③:引き取り後の自然死 収容中に病気や衰弱、事故で亡くなった犬。 統計上は殺処分として計上されます。

 

最も問題とされるのは分類②です。 適切な里親さえ見つかれば、あるいは施設の収容能力さえあれば、助かったはずの命です。

 

野犬の増加サイクルという構造問題

野良犬・殺処分問題の根底には、野犬の増加サイクルという構造的な問題があります。

  1. 飼い主が犬を遺棄・放し飼いにする
  2. 野良犬が繁殖し野犬が増える
  3. 野犬は人に懐かず、譲渡が難しい
  4. 殺処分せざるを得ない状況が続く
  5. 無責任な餌やりがさらに野犬を引き寄せる

避妊・去勢手術をしていない飼い犬が迷子になること、遺棄されることが、この連鎖の出発点です。 飼い主一人ひとりの責任意識が、野良犬問題の根本に直結しています。


殺処分ゼロに向けた制度と取り組みの現状

 

動物愛護法の改正の歴史

日本では、野良犬の殺処分問題への対応として、段階的に法整備が進んできました。

 

1973年:動物愛護管理法の制定 動物を「命あるもの」として認識し、適正管理を定めた初めての法律。

1999年・2005年:改正 動物取扱業の登録制度の導入、規制の全国統一化など。

2012年:改正 保健所が「終生飼育の原則に反する」引き取りを拒否できるようになり、引き取り数・殺処分数の削減に貢献。

2019年:改正(最も大きな改正)

  • マイクロチップ装着の義務化(販売業者向け)
  • 従業員1人あたりの飼育頭数の上限規制
  • 動物虐待の罰則強化(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)
  • 遺棄への罰則も厳格化(1年以下の懲役追加)

2019年の改正は、日本の動物福祉史上もっとも重要な法改正のひとつと言えます。

 

民間団体・ボランティアの役割

制度の整備と並行して、民間の動物愛護団体とボランティアの存在が殺処分数の削減に大きく貢献してきました。

「ピースワンコ・ジャパン」は、全国9ヶ所のシェルターと譲渡センターを持ち、これまで4,000頭以上の犬を里親の元に送り出してきた団体です。 広島県の動物愛護センターから毎週のように殺処分対象の犬を引き出し、社会化訓練・医療ケアを行い、譲渡につなげています。

多くの自治体では、こうした民間団体なしに殺処分ゼロは達成できていません。 言い換えれば、公的制度の限界を、民間の熱意と資金が補っているという構造的な問題でもあります。

 

譲渡会・里親制度の広がり

近年、各地の動物愛護センターや民間団体が積極的に譲渡会を開催しています。

  • 自治体主催の定期譲渡会
  • SNSを活用した里親募集
  • 保護犬カフェの普及

こうした取り組みにより、人に慣れた犬の譲渡率は着実に上がっています。 ただし、野犬出身の犬、高齢犬、大型犬、障害のある犬については、依然として里親探しが困難なのが現実です。


殺処分ゼロが難しい理由|残された課題を直視する

 

「殺処分ゼロ」の数字が示さないもの

「殺処分ゼロ」を達成した自治体は確かに増えています。 しかし、その数字の裏側には、見落としてはならない現実があります。

 

民間団体への過度な依存

広島県のように殺処分ゼロを達成した地域でも、その多くは動物愛護団体が無理をして犬を引き取ることで成立しています。 団体の資金・人員・施設には限界があり、持続可能性という点で大きな課題を抱えています。

収容頭数が増えすぎれば、民間団体も限界を迎えます。 そうなれば、殺処分再開というリスクが常にちらついている。

 

野犬の根本的な減少につながっていない

「殺処分ゼロ」は、あくまでも収容された犬を殺さないという取り組みです。 野犬の繁殖そのものを抑制できなければ、問題の根本は解決しません。

広島県では、殺処分ゼロを維持しながらも、野良犬の捕獲数が一向に減らないという現実に直面し、2019年からようやく野良犬の生息数調査を開始しました。 これは、問題の根っこへのアプローチが遅れてきたことを如実に示しています。

 

ペットビジネスの構造問題

殺処分問題の背景には、ペットビジネスの歪みも無視できません。

  • 悪質なブリーダーによる大量繁殖
  • ペットショップでの衝動買いによる飼育放棄
  • 売れ残った犬の行き場のなさ

2019年の法改正でブリーダーへの飼育頭数制限が設けられましたが、抜け穴や違反事例の摘発が追いつかないのが現状です。

ペットショップで犬を「買う」という文化が変わらない限り、問題の一端は残り続けます。

 

殺処分の方法にも課題がある

見落とされがちですが、殺処分の方法にも倫理的な課題があります。

現在も多くの自治体では、「ドリームボックス」と呼ばれる炭酸ガスを使った窒息死の方法が採用されています。 環境省の指針では「できる限り苦痛を与えない方法」を求めていますが、コストや時間の制約から、炭酸ガス処分機を使わざるを得ない自治体が多いのが実情です。

動物福祉の観点から言えば、殺処分の数を減らすことと同時に、その方法の人道化も重要な課題です。


私たちにできること|行動の選択肢を考える

 

飼い主としての責任を果たす

野良犬問題の出発点の多くは、飼い主の無責任な行動にあります。 飼い主として、以下のことを徹底することが、問題の連鎖を断ち切る第一歩です。

  • 避妊・去勢手術を必ず行う
  • マイクロチップを装着し、迷子になっても身元が分かる状態にする
  • 終生飼育の覚悟を持って迎える
  • 飼えなくなった場合は、自分で責任を持って里親を探す

 

保護犬を迎えることを検討する

新しく犬を迎えることを考えているなら、ぜひ保護犬・譲渡犬という選択肢を検討してください。

保護犬は「問題のある犬」ではありません。 人間の都合で行き場を失っただけの、愛情を求めている命です。

→ お住まいの地域の動物愛護センターや、各地の保護団体の譲渡会情報を調べてみましょう。

 

支援・寄付・ボランティア

里親になることが難しい状況でも、できることはあります。

  • 動物愛護団体への寄付・ふるさと納税
  • 譲渡会などのボランティア参加
  • SNSでの情報拡散(里親募集・譲渡会情報)
  • 正しい知識の普及(周囲への啓発)

「行動できることが限られている」と感じる方も、まずは情報を知り、シェアすることから始められます。

 

政策・制度への働きかけ

動物愛護の問題は、個人の行動だけでは解決しません。 制度・政策の改善が不可欠です。

  • ペットショップでの展示販売規制強化
  • 野犬の生息調査と科学的な管理政策
  • 動物愛護センターへの予算拡充
  • 殺処分方法の人道化

こうしたテーマに関心を持ち、選挙や意見表明を通じて社会的な声を上げていくことも、動物福祉への貢献です。


まとめ

 

日本の野良犬の殺処分数は、2004年の約15万5,000頭から2024年度には約1,964頭へと、20年で70分の1以下にまで減少しました。

これは間違いなく大きな前進です。 行政・民間団体・個人ボランティアが積み重ねてきた努力の賜物です。

しかし、課題はまだ山積しています。

  • 毎日5頭以上が殺処分されているという現実
  • 四国・九州など地域格差の深刻さ
  • 民間団体への過度な依存による持続可能性の問題
  • 野犬の繁殖を根本から抑制できていない構造
  • ペットビジネスの歪みと飼い主のモラル

「殺処分ゼロ」という目標は、数字の上だけでなく、野良犬が生まれない社会を作ることと一体でなければなりません。

知ることが、変化の始まりです。

この記事を読んだあなたが、今日から一つでも行動を変えてくれたなら——それが、日本の動物福祉を前に進める確かな一歩になります。


参考資料・出典

  • 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」各年度版
  • 環境省「動物愛護管理行政事務提要」
  • 環境省「動物の殺処分方法に関する指針」
  • 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の概要」(2019年)
  • 広島県動物愛護センター「犬猫の保護・引取等の現状」
  • 山口県周南市「野犬に対する取組みについて」
  • ピースワンコ・ジャパン 各種公開資料

 

 

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この記事を書いた人

阪本 一郎

1985年兵庫県宝塚市生まれ。
新卒で広告代理店に入社し、文章で魅せるということの大事さを学ぶ。
その後、学習塾を運営しながらアフィリエイトなどインターネットビジネスで生計を立て、SNSの発信力を磨く。
ある日公園で捨てられていた猫を拾ってから、自分の能力を動物のために使いたいと思うようになり、猫カフェを開業。
ヴィーガン食品、平飼い卵を使った商品を開発。
今よりもっと動物が自由に生きられる世の中にしたいと思い、行動しています。

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