猫の大動脈血栓塞栓症とは|突然後ろ足が動かない時の緊急度

「さっきまで普通にしていたのに、急に後ろ足が動かなくなった」
そんな経験をしたことがある飼い主さんは、少なくないかもしれません。
猫の大動脈血栓塞栓症(ATE)は、突然発症し、数時間で致命的になりえる緊急疾患です。
しかし、この病気はまだ一般的な認知度が低く、「様子を見ていたら手遅れになった」という悲劇が今も繰り返されています。
この記事では、猫の大動脈血栓塞栓症の原因・症状・緊急度・治療・予防まで、飼い主さんが知っておくべきことをすべて解説します。
読み終わったとき、あなたは「もし起きたときに何をすべきか」を迷わず判断できるようになります。
猫の大動脈血栓塞栓症とは何か
猫の大動脈血栓塞栓症(Aortic Thromboembolism:ATE)とは、心臓内でできた血栓が血流に乗り、大動脈の分岐部(後ろ足へ血液を送る分岐点)に詰まる疾患です。
医学的には「サドル血栓(Saddle Thrombus)」とも呼ばれます。
血栓が詰まると、後ろ足への血液供給が突然遮断されます。
その結果、数分から数時間以内に後ろ足の麻痺・激しい疼痛・組織壊死が進行します。
この病気の特徴は、前触れなく突然発症することです。
ついさっきまで食事をしていた猫が、突然叫び声をあげて倒れる——という状況が実際に起きます。
なぜ猫は血栓ができやすいのか
猫の大動脈血栓塞栓症の背景には、ほぼ必ずといっていいほど心臓病があります。
猫心臓病との深い関係
最も多い原因は「肥大型心筋症(HCM:Hypertrophic Cardiomyopathy)」です。
肥大型心筋症とは、心筋が異常に厚くなる疾患で、猫の心臓病の中で最も発症率が高く、全猫の約15〜20%が罹患していると報告されています(米国獣医内科学会専門誌 JVIM のデータより)。
心筋が肥厚すると、心臓の内腔が狭まります。
内腔が狭まると血液の流れが乱れ、血液が澱みやすくなります。
血液が澱む場所(特に左心耳)で血栓が形成され、それが血流に乗ってしまうのです。
血栓ができやすい猫の特徴
- 中〜高齢の猫(6歳以上)
- 純血種(メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘアなど)
- 雄猫(雌より発症リスクが高いとされる)
- 肥満気味の猫
- 既往に心臓病の診断がある猫
特にメインクーンとラグドールは肥大型心筋症の遺伝的素因を持つことが知られており、定期的な心臓検査が推奨されています。
突然後ろ足が動かない——症状の全体像
猫の大動脈血栓塞栓症の症状は非常に特徴的です。
以下に代表的な症状を挙げます。
急性発症の主な症状
- 突然の後ろ足の麻痺・脱力(片側または両側)
- 激しい痛みによる鳴き声・うなり声
- ハアハアとした速い呼吸(疼痛性の頻呼吸)
- 後ろ足の肉球や皮膚の冷感・蒼白・チアノーゼ(紫色化)
- 後ろ足の脈拍が触れない(大腿動脈の拍動消失)
- パニック状態・極度のストレス反応
- 失禁・脱糞
これらの症状が同時に複数現れた場合、ほぼ間違いなく大動脈血栓塞栓症を疑う必要があります。
症状の進行スピードに注意
発症から数時間以内に後肢の組織壊死が始まります。
筋肉が壊死すると、壊死した組織から「カリウム」や「乳酸」が大量に血中に流れ込みます。
これが全身に及ぶと、心停止・多臓器不全を引き起こす可能性があります。
「痛みで鳴いている」「後ろ足がおかしい」——この二つが重なった瞬間が、病院へ向かうべきタイミングです。
猫の大動脈血栓塞栓症の緊急度はどれくらい高いのか
結論から言います。
これは数時間単位で命に関わる、最高レベルの緊急疾患です。
猫の大動脈血栓塞栓症の死亡率・安楽死率は、報告によって差がありますが、発症後急性期の死亡または安楽死の割合は40〜70%にのぼるとされています(Borgeat et al., Journal of Veterinary Cardiology, 2014)。
なぜこれほど致死率が高いのか
理由は複数あります。
まず、血栓が詰まることで後肢への血流が完全に途絶します。
血流が途絶えた組織は、時間の経過とともに不可逆的なダメージを受けます。
さらに、根本にある心臓病も同時に進行しているケースが多く、心臓への負担も同時に処置しなければなりません。
加えて、血栓が溶けて血流が再開する際(再灌流)に、壊死した組織から有害物質が一気に放出される「再灌流障害」という二次的なリスクも生じます。
これらが複合的に重なるため、救命が非常に難しい疾患です。
「夜中だから明日でいいか」は命取りになります。
深夜であっても、24時間対応の救急動物病院へすぐに連絡してください。
動物病院での診断の流れ
猫の大動脈血栓塞栓症が疑われた場合、動物病院では以下の検査が行われます。
身体検査
獣医師はまず、後ろ足の脈拍・皮膚温度・皮膚色を確認します。
大腿動脈(股の付け根)の脈拍が消失していることが、確認の第一歩です。
画像検査
- 心臓エコー(超音波検査):心臓内の血栓の有無・心臓病の種類と進行度を確認します
- レントゲン検査:肺水腫(心臓病の合併症)の有無を確認します
- ドップラー超音波:後肢の血流の有無を確認します
血液検査
- 腎機能・肝機能マーカー
- 電解質(特にカリウム値)
- 乳酸値
- 凝固能検査(血液の固まりやすさ)
これらの検査結果を総合して、治療方針と予後(回復見込み)が判断されます。
治療法と現実的な予後
猫の大動脈血栓塞栓症の治療は、大きく分けて「内科的治療」と「緩和ケア・安楽死の判断」に分かれます。
内科的治療の主な内容
- 疼痛管理:オピオイド系鎮痛薬などで激しい痛みをコントロールします
- 抗凝固療法:ヘパリン・クロピドグレル(抗血小板薬)などで血栓の拡大を防ぎます
- 点滴・電解質補正:脱水・電解質異常を補正します
- 体温管理:低体温を防ぐためのケアを行います
- 心臓病の管理:利尿薬・心臓薬を並行して使用します
外科的血栓摘出術(Embolectomy)について言えば、猫ではリスクが非常に高いため、積極的に行われるケースは多くありません。
生存した場合の後肢機能回復
生存した猫の後肢機能回復率は、発症から治療開始までの時間・血栓の部位・根本にある心臓病の重症度によって大きく異なります。
研究によれば、退院できた猫の約40〜50%が後肢の機能をある程度取り戻せるとされています。
ただし、完全回復は多くのケースで難しく、生涯にわたる心臓病管理が必要になります。
安楽死という選択肢
激しい苦痛・根本疾患の重症度・回復の見込みが低い場合、安楽死を選択することは「負け」ではありません。
動物福祉の観点から、苦痛を長引かせないための決断も、飼い主さんとしての愛情の形です。
獣医師と率直に話し合い、猫にとって何が最善かを一緒に考えてください。
再発リスクと長期管理
猫の大動脈血栓塞栓症は、残念ながら再発率が非常に高い疾患です。
根本にある心臓病が継続する限り、血栓が再形成されるリスクは消えません。
報告によれば、初回発症後6ヶ月以内の再発率は約30〜50%とされています。
長期管理の基本
生存した猫には以下の管理が推奨されます。
- クロピドグレル(抗血小板薬)の毎日投与:血栓再発を抑制する最も重要な薬です
- 心臓病の薬(アテノロール・フロセミド・エナラプリルなど)の継続
- 定期的な心臓エコー検査(3〜6ヶ月ごと)
- ストレスの少ない環境づくり
- 適切な体重管理と食事管理
特にクロピドグレルは、再発予防における有効性が複数の研究で示されており、生存猫に対してほぼ必須の薬と位置づけられています。
予防のためにできること——心臓病の早期発見が鍵
猫の大動脈血栓塞栓症を完全に予防することは難しいですが、心臓病を早期に発見し管理することがリスクを下げる最大の手段です。
定期健診の重要性
環境省の「動物の適正な飼養管理に関する指針」でも、ペットの定期的な健康診断の重要性が示されています。
特に中高齢猫(7歳以上)に対しては、年1〜2回の定期健診に加えて心臓の聴診・胸部レントゲン・心臓エコーを組み合わせた検査が推奨されます。
純血種の猫を飼っている場合、若いうちから(3〜4歳頃)心臓エコー検査を始めることを検討してください。
自宅でできる早期発見サイン
- 安静時呼吸数が1分間に30回以上(正常は20〜30回)
- 食欲の低下・体重減少
- 運動を嫌がる・疲れやすい
- 腹部が膨れている
これらのサインに気づいたら、すみやかに動物病院に相談することをおすすめします。
飼い主さんが今すぐすべき3つのこと
猫の大動脈血栓塞栓症について理解を深めた今、飼い主さんとして今日から実践できることを整理します。
① かかりつけ動物病院の緊急連絡先を確認する
深夜・休日でも対応できる24時間救急動物病院を、事前にリストアップしておきましょう。
緊急時に「どこに行けばいいか」を迷う時間は、猫の命を削ります。
② 中高齢の猫には心臓エコー検査を受けさせる
特に7歳以上の猫、純血種の猫は、心臓の定期検査を今年中に始めることを強くすすめます。
心臓病が見つかれば、血栓形成リスクに応じた予防薬の使用を検討できます。
③ 安静時呼吸数を週1回記録する習慣をつける
安静時(寝ているとき)の1分間の呼吸数を記録してください。
30回を超えるようであれば、異常のサインです。
スマートフォンのメモアプリに日付と数値を記録しておくだけで、受診時に非常に役立ちます。
まとめ
猫の大動脈血栓塞栓症は、突然発症し、数時間で命に関わる最高レベルの緊急疾患です。
後ろ足が動かない・激しく鳴いている・足が冷たい——この3つが重なった瞬間、迷わず夜間救急も含めて動物病院に連絡してください。
この病気の背景には、ほぼ必ず心臓病があります。
心臓病は早期発見・早期管理によって、血栓リスクを下げられる疾患です。
今のあなたの猫が元気であっても、定期的な心臓検査を受けさせることが、将来の緊急事態を防ぐ最善の行動です。
猫は痛みを隠す生き物です。
異変に気づけるのは、毎日一緒にいる飼い主さんだけです。
知識を持つことは、愛猫を守る最強の武器になります。
もし「うちの猫の呼吸が少し速い気がする」「心臓の検査を受けさせたことがない」と感じたなら、今すぐかかりつけ医に相談することをおすすめします。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個々の症状については、必ず獣医師にご相談ください。
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